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世界を救う為には仕方のない事




「──お兄ちゃん」


「えっ!?」



 耳元で囁かれた。え!? ディアなのか? 俺はテルミヌスと一体化する意識を俺本体へと戻し、声の方を振り向く。



「ちょちょちょ! あんた達近いわよ! こんな時に何やってんの!? 破廉恥!」



 エローラがパニックになるぐらい、確かに俺とディアの距離は近い、抱きつかれて、顔と顔がすぐに触れそうな程だ。テルミヌスの中にいる時ディアはいつもコックピット? にはいなかった。ディアはテルミヌスと文字通り一体化して、テルミヌスを動かすシステムとなっていたからだ。


だけど、これはどういうことだ? ディアが目の前にいる……



「驚いたお兄ちゃん? これは投影で、わたしの本体じゃない。でも、こうやって感触は伝わる」



 ディアはそう言って、俺の体を強く抱きしめる。そうか……投影、今もディアはテルミヌスと一体化したままで、投影……分身のようなものをここに出現させたのか。


けどなんでだ? 今は戦闘中だし、ジャンプセルが切れた緊急時──



「──むっ!?」


「ぎゃああああああああああ!!!! なななな、何してんのよ!!」



 エローラの絶叫が響く。ディア……? え? もしかして、俺……ディアに……キスされた? それに、なんだ……違和感がある。一体何が、一体何が起きてるんだ。



「お兄ちゃんへの想いが、わたしの力の源、無限の力になる。はぁ……はぁ……お兄ちゃん、だから仕方ないよね? 世界を救う為だもん。ね? お兄ちゃん」



 まさか、ディアは俺への想いを高める為に……無限の力を引き出す為に俺に……理解はできる。理解はできるが……いいのか? なんだかダメなことをしているような。


で、でも……世界を救う為には仕方のないことなのか? そんなことを思い、巡らせているうちに──



 ──チュ。



 またディアに口づけされる。俺を強く抱きしめ、まるで逃がすまいとするかのようだった。



「ほ、本体じゃないから……大丈夫だよね? え、えへへお兄ちゃん」



 ディアは今どういう感情なんだ。分からない……分からない? あれ? どうしてディアの感情が分からないんだ? テルミヌスに乗ると、俺とディアの感覚は共有されるはずだ。俺もディアも、互いの感情が分かるはずなんだ。



「ごめんね……お兄ちゃん。わたし、恥ずかしくて……」



 い、意図的に隠してるのか。ディアは自分の感情が俺に共有されないようにしてるんだ。そういうことか……俺の感じた違和感はこれか。


ディアの心は俺に伝わってこない。前にテルミヌスに乗った時のような一体感はない。だけど、テルミヌスの機能に頼らなくとも、心は通じ合うし、寄り添うことはできる。


 俺はディアの顔を見つめる。向き合って、ディアがどんな気持ちなのかを見る。感じてみる。


ディアの顔には不安、そして興奮が見えた。暴走状態って感じだ。



「ディア」


「お、お兄ちゃん……」



 俺はディアの肩を掴んで、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。



「ディア、やっぱり俺は、お前を妹だと思ってる。だから、お前の望みを叶えてやれないかもしれない。だけど、不安なんてないよ。俺はお前を大事に思ってる。俺はお前と一緒だ。離れたりしない、俺も一緒にいたいから」



 俺の方からディアを抱きしめる。ディアは……俺を単なる兄だとは思っていない。なんとなく分かっていたことだ。


だけど、見えないフリをしてきた。その事実に向き合うことが怖かったからだ。


事実に気がついた時、俺達の関係性が壊れて、気持ちが離れたらどうしようか、そんな不安があったからだと思う


 でも、そんな不安は杞憂だった。よくよく冷静に考えてみれば、ディアが俺を兄としてだけでなく、一人の男として見ていても、彼女は俺にとって大事な人なんだ。


この世界で出会ってからの記憶だけじゃない。俺の知らない遠い昔の、魂の記憶が、彼女をひと目見た時、歓喜した。



 イカれた話かもしれない。知らない記憶の感覚に従うなんて。


だけど──


一緒にいたい。心の底からそう思ってしまう。



 俺はそんな気持ちを込めて、ディアを抱きしめた。お前が何者であろうと、何を思おうと、俺はお前を想う。そうせずにはいられないからだ。


理由なんていらない。ただ、そうしたいだけだ。



「お、お兄ちゃん……お兄ちゃん……だ、ダメ……そんな事されたら、わたし……抑えられ……っ!?」



 ──お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ、お兄ちゃんダイスキ……────────



「──!?」



 ディアの感情の洪水が、俺へと共有された。いや、ディアからするとされてしまったって感じか。


ははは、そりゃそうか。確かに隠そうとするよ。あやうく、意識の洪水に流されて気を失う所だった。


 これが無限の力の正体、頼もしいよ。なんせ、負ける気がしない。



──ゴゴゴゴゴゴゴゴ! バシュウウウウウウウウウウウ!!



 再びテルミヌスと一体化した俺の視界には、強く眩い光が歓喜に歌い、踊っていた。あの光の粒の一つ一つが、俺を大好きと、思ってくれている。


俺達──テルミヌスから無限に放出される感情の力は、止め処無い、青の審判の青き炎が、何千年、何万年を掛けて力を溜めたとしても、追いつけやしない。



 ──バギィイイイイイン!!



 降り注ぐ青き炎が、テルミヌスから溢れる光に触れて、消えていく。この世界、オトマキアの外へとディアの力を弾き飛ばしている。いくら弾き飛ばそうが無駄だ、先に力が尽きるのがどちらかは明白だ。


 少し前まで驚異的に見えた青き炎は、今やなんの恐怖も俺達に与えない。青き炎は俺達に到達するどころか、近づくことすらできていない。



『バ、バカな……あり得ない。世の理に反した、不条理……何故だ。我らが何故、このような力に、馬鹿げた力に屈さなければならないっ!!』



 青き炎が降ってこない。どうやら打ち止めらしいな。ナイモの聖霊は絶望し、俺達を見上げている。



『ナイモの聖霊よ。戦いは終わりにしよう。俺達は互いの破滅を望んでいない。戦う以外の道を模索することはできないか? 異なる存在が戦うことだけが、世の理ではないはずだ。共に歩む未来があるって、俺は信じてる。信じたいんだ!』



 俺はテルミヌスの声を響かせて、ナイモの聖霊に語りかける。



『ありえぬ。確かにお前達となら、共生の道を探すことはできたかもしれぬ。だが貴様達はイモートのイレギュラーであり、他のイモートは我々を許すことはない。特に黒き魔術師、永遠の神ジーネットリブは我々を許すことはない。よって共生はありえない。求めるならば、ジーネットリブを抹殺することだ』


「なっ……ジーネを抹殺? 殺せって言うのか? そんなことできるわけない……」



 ジーネ……確かにジーネはモイナガオンに住むエルナ人達の源流である、古代エルシャリオン、エルシャリオン人達を“絶滅”させた……それが歴史的事実……


一つの人種を絶滅させる覚悟を持って、ジーネはそれを実行したのだ。理由があったとして、許されるような行為じゃない……


 確かにジーネは、エルシャリオンの血を継ぐこのモイナガオンを、ナイモ人を許さないかも知れない……けど、何故だ? どうしてモイナガオンが存在していた?


ジーネがナイモ教とナイモ人を許さないのだとしたら……モイナガオンがここまで発展するのを放置する訳が無い……


一つの血族を根絶やしにする覚悟を持ったジーネが、ナイモ人の再興を許すなどありえないはず。なんだ……? この違和感は……──っ!?



【──お兄ちゃん!! 離れて!! 攻撃が!】



 強大な力が、落ちてくるのを感じた。このモイナガオンのある小世界へと落ちてくるのを感じた。


それはオトマキア世界から放たれたモノではない。外側の世界からやってくる超常の力、ディアと同じ、次元を超える、圧倒的な力。


 俺とディアには分かる。この力はきっと、モイナガオンを、小世界ごと消滅させるだろう。



【ジーネ、どうして! お兄ちゃんは、そんなの望んでないのにっ……!!】



 あまりに大きな力は、因果を歪ませる。未来で起こる事象が、未来にとって過去である現在へと、力の波を見せてしまう。


まだ到達していない攻撃の余波が、時を超えて始まっている。



 赤色の波打つ光が、ナイモの聖霊を捕らえた。



「……ディアのサイキックの感覚で分かるのか? これ……ナイモの聖霊は、未来で、すでに……消滅したってことなのか?」


【うん……おそらくジーネの本体が、超次元艦隊の武装を使用したんだと思う。ジーネが動いたなら……きっと……】



 ディアはまた自身の思考を俺に隠した。ジーネが動くと何があるって言うんだ? どうしてそれを俺に言えない。



「どうしようもないって言うのか? 滅ぶのは、ナイモの聖霊だけじゃない、その中にある人々の魂、モイナガオンの街の住人全てを巻き込んで、終わってしまう!! そんなの認められない!」


【このテルミヌスだけは、超次元艦の機銃掃射にも耐えられる。ジーネはそれも計算の内……だから、わたし達がテルミヌスに乗ってるタイミングで……】



 未来で聖霊が、モイナガオンが滅ぶ、おそらく少し先の未来で。すでに決定されてしまった未来の因果を、今更覆すことなんて、できないのだろうか? 今ある俺達では止められないっていうのか?





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