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スパイフレンド




「ディア、行くぞ」


「うん、お兄ちゃん。でもエローラ良かったの? 危険だよ? モードンさんと一緒にナイモの霊塔の結界の中にいても……」


「あんた達が命を懸けて戦うって言うのに、アタシが守られるだけって、それは違うと思ったのよ。エルがあんた達と共に戦うのなら、アタシはそれを見守って支える義務がある」


「じゃあ、この戦いが終わったら、エルとエローラさんは仲直りなのです。だから一緒に頑張るのです! 皆さん──嵐が、晴れます」



 青いカラスの精霊となったエルはナイモの霊塔にアクセスすることができた。しかも、生前では肉体に組み込まれた機能制限によってアクセスできなかった領域にまでアクセスすることができた。


ナイモの霊塔の起こす特殊な嵐は、霊塔と聖霊の影響力の維持に必要な人材を確保する為のものであり、生前のエルには嵐を止める権限がなかった。何故ならそれはシステムの維持を目的とするエルシエルとしての存在を否定する行為で、明確な反逆、それも敵対的な行為だからだ。


 だが、死して精霊へと昇華したエルには自由がある。元からエルの能力的には、嵐を止める干渉は可能だったという。ただ権限がない、禁じられていただけ。


故に──嵐は晴れる。


己の願う、心のままに、自由に羽ばたける。エルはモイナガオンの人々を救う為に本当に必要だったことを、遂にやれるのだ。



 ──ゴォオオオ、オ……ォォ……──



 モイナガオンを囲む風が消えた。砂埃によって見えなかった視界が一気に晴れた。



「──無限より来たれり太極の陽炎、光輝の糸を紡ぎ境界とす、其は境界の制定者、絶望を隔て、希望を繋ぐ者、神彩しんさいの調停者──


      ──来たれ、境界の抱神ほうしん、テルミヌス・アルプス──!!」



 ──ラァァァアアアアアアアア!



 ディアの詠唱と共に、周囲が光に包まれ、光に包まれた空間の全存在が振動し、歌い始める。



「え!? え? 何? 何が起こってるの!? 全部が……歌ってる?」


「綺麗な歌声だよな。エローラ、大丈夫だから安心してくれ。ディアの力がやって来るだけだ」


 テルミヌス召喚に付随する現象にパニックとなったエローラはあたふたと慌てている。俺もエローラの気持ちは理解できる。テルミヌスの召喚は神秘的というか、神への畏れのような感覚を伴う。単純な恐怖とは全然違う、圧倒的な存在、スケールの大きな存在を見ると、人は畏れを抱く。自分の常識の外にある光景が、己の矮小さを知らしめる。


テルミヌス・アルプスの力は温かく、愛を感じさせるような感じだが、それも圧倒的なスケールで体感すると、畏れを抱く他ないのだ。



 そして──一際強い光が輝き、テルミヌス・アルプスは顕現した。俺達はテルミヌス・アルプスのお腹へと吸い込まれていった。



『──敵対種の敵対行動を確認、青の審判の発動を短縮、破壊を実行する』


「えっ!? アタシにもナイモの聖霊の声が聞こえるんだけど!?」


「テルミヌスの中なら、俺の感覚を共有できるからな。ヤツの姿も見えるし、聞こえる」



 テルミヌスの中から見たナイモの聖霊は小さく見えた。テルミヌスと比較すれば小さく見えるが、それでも10mぐらいはある。



「ナイモの聖霊のあの言い方、どうも俺達を狙って青の審判を使うみたいだな。予定ではディアの力を極端に引き上げて攻撃を集中させるつもりだったが……」


「そりゃ、こんなデカくて、どう見てもヤバそうなモノみたらナイモの聖霊だって危機感抱くわよ……!! さっさと潰さなきゃってビビるのは当然よ」


「とにかく移動だ。街から離れないと住民が余波でやられる!」



 俺はテルミヌスの操縦桿を握り込み、テルミヌス──俺を走らせる。少し走ると、不思議な感覚があり──


【お兄ちゃん、ショートジャンプを使って】


 ディアから思念が送られてきた。それはテルミヌスの基本機能の一つ、ショートジャンプの概念と使い方だった。それは自分の視界内ならどこでも自由に瞬間移動できるというもので、恐ろしい性能をしている。


ショートと名が付いているものの、テルミヌスの視界は通常の視界とは異なり、滅茶苦茶広くて鮮明なので、数十キロ先にも一瞬で移動できる。だからはっきり言って全然ショートじゃない……テルミヌスの探知用レーダーで光が通れば数百km先、何千km先でも瞬間移動できてしまう……結局宇宙規模、超次元移動規模では“ショート”ということなんだろう。



 ──パシュン。



「ヤバいなこれ……俺がテルミヌスに慣れないまま使ったら絶対酔ってたな……」


「ちょ!? ヤバっ!? どうなってんの!? こんなバカでかいのが、こんな速く動けるなんてズルでしょ!?」



 ショートジャンプを使用して、俺もエローラもそれぞれ別の意味でのヤバいの感想が出た。どうやらジャンプ酔いは操縦者にしか発生しないみたいだな。


それにしても高性能過ぎる……このショートジャンプは驚くべきことにエネルギー消費が殆どない。ただし連続使用にはちょっとした制限がある。ショートジャンプはテルミヌスの内部で生成したジャンプの為に必要なエネルギーセルを消費することで行っているようで、このジャンプセルの生成には一個につき10秒ぐらい掛かるようだ。つまりジャンプセルが尽きるまでは連続でショートジャンプを使えるが、尽きてしまった場合は10秒待たなければならない。


 と言っても……召喚された瞬間からジャンプセルのチャージが始まって、テルミヌスの稼働中は生成され続けるみたいだから、戦いが長引くとテルミヌスの隙はどんどんなくなってくる。


でも正直あまり使いたくない。俺がもっとテルミヌスに慣れて、最適化した後じゃないとジャンプ酔いが厳しい……連発したら絶対吐く……



【気持ち悪くなったら全然吐いても大丈夫だからね!】



 ディア、そういう問題じゃ……



「──っ、力を感じる。来るぞ! 青の審判! 青き炎が!!」



 俺の頭上、空高くから青い炎が落ちてくるのを感じた。視覚で捉えたのではなく、先に感じた。



 ──ゴオオオオオオオオオオ!! バシャアアアア!!



 降ってきた青き炎を避ける。青き炎が荒れた大地を焼き、破壊した。炎のスピードは早いが、まだ普通に避けられるぐらいだ。



「まだショートジャンプを使うほどじゃないな。頑張って走れば避けられる……というかこれ、想定してたよりも威力が低い……? まさか──」



 俺が上を見ると、大量の青き炎が、時間差を作って落ちてきていた。


俺は炎を避けていく、避けていく度、俺のいた場所は爆発して音が響き渡る。



 ──パシュン。



「──っく、ショートジャンプを使わされた! ナイモの聖霊は青き炎の一発の威力を下げて、弾数を増やすことを選択したのか……俺の回避先を限定する為、青き炎を連携させているんだ。効果的な方法だ……こんなにも早く対応してくるモノなのか!?」



 ──パシュン、パシュン、パシュン。



 どんどんショートジャンプを使わされてしまう。ジャンプセルの生成がもう追いつかなくなる……っ! ジャンプ酔いで頭も痛くなって来た……


何故だ、胸騒ぎがする。何か違和感が……俺は違和感の正体を確かめる為に、テルミヌスのサイキックセンサーを起動し、意識を集中させる。


超能力によるエネルギー探知の知覚を可能とするサイキックセンサーならば、何か分かるかもしれない……──なっ!?



「……そうか、盲点だったな。エルとニモの魂は俺に付いて来ているが、同時にナイモの聖霊の内部にも存在したのか……俺と繋がる二人は、聖霊にも繋がっている。二人から情報を吸い上げてるんだ。だからこっちの情報は筒抜けだったんだ」



 俺がサイキックセンサーで見たビジョンは、エルとニモの魂から出るエネルギーラインがナイモの聖霊と繋がっており、さらにナイモの聖霊の内部にはエルとニモと同一の魂を確認することができた。


エルとニモの魂は認識できても、他の魂は俺にはよく見えなかった。おぼろげながらに存在が分かるだけで詳細は分からない。やはりエルとニモは俺と繋がっているから、俺でも聖霊の内部の二人を認識出来たんだな。



「ナイモの聖霊が青の審判の対象を俺達に絞ったのも……俺と繋がったエルとニモから情報を得て、ディアが異界の力を増幅させて強制的に青き炎の攻撃地点を誘導できるのが分かったからか。絶対に狙ってしまうならと、その上で戦う方法を考えてきた」



『そんなっ、じゃあ僕達は無意識的にスパイになってたようなものじゃないか。すまない、なんてことだ……』


「ジャンさん、ごめんなさいなのです。エル達はジャンさんから離れた方が──」


「それはダメだ! 二人が離れたら、俺は多分ナイモの聖霊が認識できなくなる。サイキックセンサーなら聖霊を捉えられるかもしれないけど、俺がこれを使うのに慣れてない……使いながら戦いに集中し続けるのは無理だ……」


【でもお兄ちゃん、情報が筒抜けだとこっちが立てた作戦が通用しなくなっちゃうかもしれないよ?】


「それは許容するしかない。とにかく青の審判を凌ぐことができればそれでいい。それに……俺に付いてる二人が今戻るのは危険な気がする。聖霊の内部に同時に存在する二人に、ナイモの聖霊は手を出せないみたいだが、きっと……こっちの二人は違う」


「リアルタイムで情報を渡し続ける人質を抱えて戦うなんて、酷い状況ね……だとしたら、作戦を考えるのはアタシとディアがやるべきね」


【わたしじゃダメだと思う。わたしの感覚もお兄ちゃんと共有されてるから】


「えっ、そうなの!? アタシだけで作戦立てないといけないの!?」



 貧乏くじをエローラに引かせる形になってしまったが、正直助かる。エローラが付いてきてくれてよかった。



 ──パシュン。



「……っく、ジャンプセルが──切れた」



 避け続ける限界が、やってきた。ジャンプ酔いで頭が痛い……気分も悪い。どうしたものか……





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