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諦めない男



「青の審判は大魔術で、青き炎は聖霊が生み出した魔法。俺の思った通りだったわけか……青の審判の発動に使う大魔術に干渉するのか、それとも青の炎自体をどうにかするのか……青き炎による大破壊を止めるにはどうするのがいいんだろ」



 あれからエルに青の審判について詳しく聞いたが、俺にはよく分からなかった。エローラには意味が分かったらしいが、魔術や魔法の話は専門性が高くなってくると、俺には理解が厳しくなってくる。


辛うじて理解できたのは、青の審判は巨大魔法陣の連携によって発動するものの、それは青の審判の威力を上げる為に連携が必要なだけで、一つの魔法陣があれば発動できるという事だった。


多分、都市に施した大魔法陣の仕掛けを必ずしも維持し続けられる訳ではないだろうと、古代のナイモ人も思ったんだろうな。どこかの都市の魔法陣が使えなくなっても、残った魔法陣だけで機能するようにしたんだ。



「魔法陣を破壊すれば青の審判の威力は低下する。魔法陣の全てを破壊できれば、理論上は青の審判は発動できない。でも、そんなの現実的じゃないわ。複数の小世界に点在する都市レベルの巨大な魔法陣全てを破壊なんて無理だわ。瞬間移動する魔法でも使えたら話は違うけど……そんなことができる魔法使いがいるかどうか分からない。いたとしても、協力してくれるとは限らないし、そもそも嵐のせいで移動も、魔力通信もできない現状じゃ……」



 エローラも頭を抱えている。そうなんだよな……俺達は今、嵐で閉じ込めれてるから、そもそも行動の選択肢は限られる……ディアの力を使えば打開は可能だろうけど……それはできない。嵐を無視して強引にテルミヌスを召喚すれば、モイナガオンは破壊され、ナイモ人達の殆どは死ぬことになる。


そんな大虐殺はありえない。俺達はそもそも、モイナガオンのこの一連の問題をできるだけ平和的に解決したい一心で協力関係にあるんだ。倫理、道徳的にも心情的にも、そんな裏切りはできない。


 認めたくはないが……状況的には殆ど詰んでいる様に思える……最も被害が少なく済む方法は……



「ナイモの聖霊を消滅させる……それが最も被害を抑えられる。現実的に考えたら、それしかないわ」


「エローラ……そんなのダメだ。だって、ナイモの聖霊の中には……死したナイモ人達の魂がある……ナイモの聖霊の消滅は、その魂を消滅を意味するんだぞ?」


「だとしても、死んだ者の魂より、生きてる人間の方が大事よ! じゃああんた、どうにかする方法があるっていうの!? 方法を思いつけもしない癖に、文句ばかり言うの?」


『……致し方ないことだろう。確かにナイモの聖霊の中には死したナイモ人達の魂の一部がある。けれどそれは魂の一部だ……魂の他の部分はすでに循環して、生まれ変わっているか、その準備をしていると思う。皆、苦しいが納得してくれるさ……自分達の子供が、自分達の生み出した兵器で死ぬなんて、自分が消滅するよりも辛い……』


『エルもマスターと同じ意見なのです。エルも聖霊も、古き時代の、悪しき妄執……未来ある人々の邪魔をするぐらいなら、ここで滅びを受け入れるのが妥当なのです』



 俺はニモとエルの言葉を皆に伝えることができなかった。認めたくない……二人が受け入れる滅びの覚悟を……



「お、お兄ちゃん……ニモさんとエルちゃんは……わたし……わたしもお兄ちゃんと同じ気持ちだよ。でも……できる事をやらなきゃ、もっと後悔しちゃうから……お兄ちゃん一人を悪者なんかにしない、わたしも一緒だから……ね?」



 ディアは俺の表情を見て、ニモとエルが何を言ったのかを察したらしい。俺の罪悪感を和らげようと気遣うディアの優しさが……俺の心を感傷的にする。


罪を背負う? ディアが……? 悲しい結末を受け入れろって? 俺の心に寄り添う為に、ディアが……?


そんなのダメだ。どうしてこの子がそんな思いをしなくちゃいけない……友達が死んで、また会えたと思ったら……今度は自分達の手で消す、また殺すっていうのか……? そんなの認めるわけにはいかない!



「俺は、お前のお兄ちゃんなんだぞ、ディア。お前が悲しい思いをする未来なんて、受け入れるわけにはいかないんだよ。俺は諦めるつもりはない、必ず方法を見つける。最期まで抗い続ける」


「あんた……もっと現実の見えてるヤツだと思ってたのに……妹の心を守りたいから、そんな理由で世界を危険にさらすっていうの!? イカれてる!! あんたは偽善者どころか悪だわ!」



 エローラの言葉が突き刺さる。痛すぎる……俺は、ダメなヤツなのかもしれない。だけど、だけど……こんなの悲しすぎる……


ディアもエルも、死したナイモ人の魂も、みんな……ずっと長い間頑張って来たんだろ……? その果てにある結末が、こんなもんでいいのか?


誰の顔も暗く、物悲しい終わりでいいのか? 俺は嫌だよ。



「みんなはみんなで青の審判を止める為に動いてくれ。俺は俺で……やることがある」


「ちょっとジャンダルーム!? 何勝手な事言ってるの!? いい加減に──」


「──心を忘れたその先で、希望を忘れたその先で、望む未来は訪れない! 奇跡が必要なら、それを起こすしかないんだ! エローラが何を言おうと、ディアが、エルが、何を言おうとも、俺は諦めないし譲らない! だって! こんなの悲しすぎるだろうが!!」


「あ、あんた……泣いて……ご、ごめん……」



 俺の顔を見たエローラが俺から目を逸らす。心が落ち着かない……感情ばかりが先行して、頭が回らない……偉そうなことを言うだけで、方法を思いつけない、無能な自分に吐き気がする。


悔しい……馬鹿なことばかり思ってしまう。もっと俺の頭が良かったら、もっと魔術や魔法について学んでおけば……そんな無駄な考えが俺の心と思考を支配しようとする。


 気づけば俺は一人、皆の前から立ち去っていた。いや……一人じゃなかったな。



『ジャンさん、心を落ち着けましょう。こういう時こそコーヒーなのです! エルがジャンさんに憑依して、コーヒーの淹れ方を伝授するのです! だから、元気出してなのです』


『そうだよジャンくん、僕は嬉しかったよ。君が僕達の事をここまで思ってくれる事が、嬉しい』


「う、うぅ……情けない……って、え? 憑依? そんなのでき──」



 ──ちょ、え!? 体が勝手に動いて……調理室に、こここ、コーヒーを焙煎しだしたんですけど!?



「エルのスペシャルブレンドはこうやって淹れるのですよ~! 憶えてくださいなのです。ジャンさん、そうしたらエルも、寂しくないのです」


『エルのスペシャルブレンドはこうやって淹れるのですよ~! 憶えてくださいなのです。ジャンさん、そうしたらエルも、寂しくないのです』



 俺の口が勝手に動いて、エルの思いを口にした。黙々と、コーヒーを淹れていく俺とエル。その静寂と所作が、俺の心を落ち着けていった。


大丈夫だと、心を抱きしめられたような心地で、次第に心が晴れていく。そうか……コーヒーを手間かけて淹れるのなんて面倒だろって思ってたけど……


この手間が、集中が、自分の心を落ち着かせてくれるんだ。心を整理してくれる。



「でき……た……」



 俺は注がれたコーヒーの入ったカップを持ち、眺める。コーヒーと、その香りが広がっていく空間を俯瞰するかのように、視野が広がっていく。


そして一口、その黒い液体を飲んでみた。



「はぁ~……はは、はははは! 落ち着くなぁ~……本当に落ち着いてしまった。一息ついてしまった。やっぱり人間は単純だ、人間元気じゃないと、上手くいかない。心の活力、気合が大事だ。やれる気がしてきた」



 気持ちの整理がついた。俺の頭の中はさっきまで雑念の淀みの中にあったが、今では馬鹿みたいに、清々しい程に、クリアだ。



「青の審判は止められない。青き炎は全世界を焼こうとする。なら世界を焼こうとする青き炎の対象を全て、引き受けてやればいい。俺達が世界を焼く青き炎を止めに行けないのなら、あっちから俺達の方に来てもらえばいい。全部、受け止めてやるよ」




 最近ジャンが泣いてばっかりな気がする。こんな泣かせるつもりじゃなかったんだけどなぁ……


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