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絶望と隣合わせは



 ──バゴォオオン!!



『──法則を乱す傲慢なる者、滅びを受け入れよ』


「えっ!? 何、何、何!?」



 バカでかい何かが壊れる音、そして不気味なよく響く声で、俺は飛び起きた。



『大変なのです! ジャンさん! ジャンさん!』


「え……? ん……? エルなのか? でもちょっと姿が違うっていうか、透けて……」


『エル! エルなのか! 本当だ……まさか、この目で見ることが叶うなんて!』


『マスター!? マスター・ニモなのです!? どうしてマスターが』



 どういうことだ……? 睡眠不足と寝起きで頭が回らない……えーっと? なんでエルにニモが見えてるんだ? ニモにもエルが見えてる? でエルもニモも透けてて……



「え……もしかして……エル、死んだのか? 死んで幽霊になったってこと!?」


『そうなのです! さっき死んで魂だけになったのです! そうしたら元気になったのです! 今なら自由に何でもできる気がするのです! 気がするだけですが!!』


「いや、そうなのです! じゃないんだよ……死んで、まぁ確かに元気そうか? 死んだ本人がこうも悲壮感がないと、こっちもどういう態度をしたらいいのか……」


『エル……君は本当に心を手に入れたんだね。良かった、けど死んだっていうのは? 一体何があったんだ?』



 そうだよ、何がどうなってエルは死んだんだ?



『エルは元から死ぬつもりだったのです。ナイモの聖霊の持つイモートに対する復讐心と本能をエルが取り込んで、その状態のエルをジャンさんとディアさんに倒してもらう予定だったのです』


「おい! お前、俺とディアに自分を殺させるつもりだったって!? ふざけるなよ! そんなこと俺ができるわけないだろ! もう友達になっちゃったんだから!! 俺はお前を助けようと思って色々考えてたのに……もう! なんで死んだんだよ!」


『ごめんなさいなのです。でもイモート種族との敵対を回避し、ナイモの聖霊から恨みと戦いの意思を消し去るにはそれしかなかったのです。エルはともかく、ナイモの聖霊が失われれば、聖霊に頼って生きてきたナイモ人は困ってしまうのです。急に大きな支えがなくなってしまえば、滅ぶことさえあり得るのです』


「それは分かるよ。でもなんで今死んだんだ? 一ヶ月は持たせるって約束したじゃないか。それが一週間も立たずに……」


『皆さんと仲良くなり過ぎてしまって……エルは死にたくないって思ってしまったのです。エローラさんの魔法でエルの魂が精霊化した時、とても怖い思いをしました。このままではエルは死んでしまうと思ったのです。その時、エルは死にたくないと強く願ったのです。もっと、もっと沢山、皆さんと楽しい思い出を作りたいと、思ってしまったのです。そうしたら……エルの心はグチャグチャになって、どうしたらいいのか分からなくなったのです。エルの心は、感情は暴走して……エルの肉体を破壊するに至ったのです』


「え? じゃあエローラのせいで死んじゃったってこと?」



 なんてこった……あの事件にそこまで深刻な影響があったなんて……この事実を知ったらエローラは鬱病になるかもな。



『きっかけとしてはそうなのですが……時間の問題だったと思うのです。皆さんと過ごす特別な日常は、今まで一人で過ごしていたエルにとって、少々刺激が強かったようです。引きこもりが調子に乗ってお出かけしたら反動で死んでしまったような感じなのです』



 その例えはどっから引っ張ってきたんだ? とエルに問いたくなったが、俺はそれをぐっと堪えた。


まぁなんでも急に動くと、それは無理になるものかもな。特にエルの心、魂は本来であれば存在しないモノ。まるで奇跡のようなそれは、不安定でヒトのものとは構造が違うとエローラも言っていた。


元々綱渡りのようなギリギリのバランスの上で成り立っていたエルの肉体と心の関係は、心の大きな動きと同調するように揺れて、綱から落ちてしまった。



「引きこもり……あれ? でもエルは初めて俺達に会った時、ナイモの霊塔の外に出てきてたよな? それならエルは霊塔の外に出て、人と触れ合うこともできたんじゃ……」


『それは無理なのです。ナイモの聖霊の支配下にある人々は……特別な権限を持たぬ限り、エルの前では正気を、普段の状態を保てないのです。エルは霊塔とナイモの聖霊を維持する為の存在でしたから、そんなエルに何かあれば困るのです。だから、モイナガオンの人々はエルの近くに来ると、自動的に聖霊に操られ、エルを守る兵隊になってしまいます』


「なっ……じゃあ、本当に遠目に見るっていうか、見守るぐらいしかできなかったんだな」



 そりゃ嬉しいか。自分とまともに話せる人間なんて、今まで全然いなかったわけだから。



『っと、それどころじゃないのです! エルが死んだ影響で、ナイモの聖霊のイモート抹殺計画が発動してしまったのです!! それにディアさんは、今頃辛い思いをしているかもですから! 助けに行くのです!! ジャンさん! ディアさんは地下の制御室の近くにいるはずなのです!』



 全く、この子は……生きてようが、死んでようが、忙しくて、健気で、優しい子だ。



「よし、分かった! じゃあディアの所へ行こう! と、その前に調子に乗って徹夜して爆睡状態のモードンくんを起こさないとな。ほらモードン! 起きろ! このままだとヤバいぜ~、なんか爆発音とかも聞こえるし」



 今この時も、ボカバカ、爆発音だとか、モノが壊れる音が下からしているが、モードンはいびきを掻きながら爆睡している。



「俺も眠いなぁ。寝不足なんてホント久しぶりだ……あれ? もしかして俺、ディアと旅を始めてからは、一回も寝不足になってなかった? 一人で旅してた時は、よくやってたんだけどな。俺の睡眠は、あいつが守ってくれてたんだな」



 俺はモードンに展望室に縛り付けられているエローラの解放を頼み、ディアがいる霊塔の地下へと向かう。道中エルから詳しい事情を聞きながら、昇降機の梯子を滑るように落ちていく。適度に梯子に触れ、落下スピードを調整する。結構楽しい、危ないけど。



『ジャンさんその降り方上手いのです! どこで習得したのです?』


「え~? あー、魔族領の森林地帯じゃ、木の上にある集落とかがあって、そこでちょっと生活してたからか? っと……もうついたな。ディアーーー!!」


「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! エルがっ! エルちゃんが……う、うぅ、し──」



 今にも泣きそうなディアがボロボロの状態で、何かを抱えて立っていた。瓦礫だらけの通路は、ここであった戦いの激しさを俺に教えた。



「エルは死んだ。そうだろう?」


「え……? なんでお兄ちゃん知って、というかなんでそんなに冷静なの!? エルちゃんが死んじゃったんだよ!?」


「お、落ち着けって、エルならここにいる」


「お兄ちゃん!? 何言ってるの!?」


「だからエルなら幽霊になって、今俺達の側にいる。元気に幽霊やってるぞ」


「お兄ちゃん何言ってるの!? そんなわけないじゃん!! 死んだら元気なわけないでしょ!! それに、急に霊能力者にでもなったって言うの!?」



 ディアは完全にパニック状態だ。俺は全部本当の事しか言ってないのに……でもしょうがないじゃん、死んだエル本人が元気だって言うんだもん……



「はぁ、エルから聞いた。エルは嬉しかったって。最期に死ぬ瞬間、お前が抱きしめてくれたおかげで寂しくなかった、温かくて、怖くなかったって。今だってエルはさ『エルは元気だから泣かないで欲しいのです。ディアさん!』そう言ってる」



 俺はエルが口にした言葉を重ねるように復唱した。



「う、そ……わたし……お兄ちゃんに言ってないのに……どうして……エルちゃん、本当にそこにいるの? 元気なの……?」



 うん? あれ……? ディアが抱えてるのってよく見たら……



「って、うわあああああああああああああ!! それ、もしかして、ディアが抱えてるのって」


『ぎゃああああああああああ!! エルの死体なのですーーーッ!!!! お化けが出ちゃうのです! 怖いのです!! って、エルは今幽霊だったのです! テヘっ』


「そんな芸人みたいなことされたら、俺も冷静になっちゃうよ……エル。それにしても……ナイモの聖霊、こんな形だったなんてな」


「お兄ちゃん、ナイモの聖霊が、見えるの? わたしは見えないから困ってたのに……」



 ディアには見えないらしいナイモの聖霊が、俺には見えた。


それは大きな翼を二対、腕と足に生やしていて、頭上に光輪を浮かべたのっぺらぼうだった。


ナイモ人が想像した超常の天使は青白く光る剣をディアへと向け、エルを見ていた。魂だけの存在、幽霊となったエルを。



「不思議だな、目ん玉なんてないのに、どこを見てるかが分かる。今の俺が、エルと繋がってるから見えるのか? あれが……」



『裏切り者、貴様の妨害により裁きが7000年遅れた、よって貴様は罪人である。その魂を消し去ることで贖うがよい』


「させるかよ馬鹿、エルはお前が滅びなくて済むように頑張ってたんだぞ? エルほどお前のことを思っていたヤツはいない。そいつを殺す? 恩知らずの天使様こそ、傲慢なる者じゃないのかい?」


『……』



 ナイモの聖霊は俺の言葉には何も返さない。どうやら俺に興味がないらしいな。取るに足らない存在、無視できる存在としか思ってないようだ。


そうかよ、そっちがその気なら、無視できないぐらい、お前の邪魔をしてやるよ!!





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