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夢の衝撃



「う、うぅ~~!! はぁ、ディアさんの料理、美味しいのです~」


「あはは、不思議な表情だねエルちゃん」



 エローラをナイモの霊塔に縛り付けてその翌日、エルはまだ機嫌が戻っていないらしく、怒っているのだが、この状態でディアの料理を食べると、怒りと喜びが入り混じった複雑な表情をする。


しかし、ディアのエルに対する態度がどこかよそよそしくなってるように感じる。物理的な距離も少し離れるようになった。多分俺がエルがナイモ人の造ったホムンクルスで、ディアがエルに近づくと、エルの抱える本能によって彼女の負担となる可能性があると言ったからだろう。



「わかんないのです。前までは、なんだかんだ優しい人だと思ってたのに……エローラさんは……夢の為なら、あそこまで変わってしまうものなのですか?」


「なんだ気になるのか? じゃあ今日のエローラの餌やりはエルも一緒に行くか?」


「えっ!? で、でも……」



 縛り付け状態となったエローラには俺がご飯を食べさせている。不思議なのがエローラはトイレに行こうとしない事だ。ディアもトイレに行く必要がないが、エローラも似たような感じなんだろうか?



「今はきっとエローラも反省してるだろうし、何かあっても俺がエルを守れるだろ? エルの感じるもやもやは、実際に話してみないと解決しないものだよ」


「……コクリ、わかったのですジャンさん!」



 ということで俺とエル、そしてディアでエローラの餌やりをすることになった。



「ちょ……なんで、そんなゾロゾロと……」


「ようエローラ、調子はどうだ? 体痛くなったりしてないか?」


「別に痛くなったりはしないわ。そもそも木のエルフや人間達とは肉体の仕組みが違うもの……本当は食べる必要もないしね」



 展望室の柱に縛り付け状態のエローラ、少し元気がないが、彼女の言葉通りなら、これは精神的なものだ。エローラは気まずい為か、エルと目を合わせられない。



「エローラ、仕組みが違うってどういうことなの?」



 ディアが俺の感じた疑問をエローラに問う。



「硝子のエルフは元々、精神魔法生命体に近いのよ。硝子のエルフにとって肉体とは、魂の創造する妄想のようなものなのよ。肉体の構成からして、魂が先で、肉体が魔法によって維持されてる。だからこの仮初の肉体には生も死もなく、常に生まれ、常に死んでいるの、それが連続して繋がっているように見えるの」



 じゃあエローラの肉体は魂が魔法で生み出すホログラムのようなモノってことか。一瞬一瞬、常にエローラの肉体は消失と出現を繰り返していて、消えては現れる肉体に繋がりはない。


同じ見た目、同じ性能の別の肉体が入れ替わっていく……だからダメージを受けても、次の瞬間には肉体が入れ替わり、その影響を次の肉体に引き継がない。


だから仮に硝子のエルフに人と同じ消化機能が備わっていたとしても、摂取した食べ物が消化されきる前に肉体が入れ替わり、食べていない状態に戻ってしまう。だからトイレに行く必要がなかったんだな。



「なるほどなぁ~じゃあエローラにとって食事とは精神的な作用がメイン、心の栄養となるわけか。肉体のダメージ、蓄積が発生しないってことは、硝子のエルフの成長っていうのは精神的な成長が肉体に影響する感じか?」


「まぁそうね。アタシはここ数百年まるで成長がない不出来な硝子のエルフよ」


「……エローラさん、どうして……あそこまで……エローラさんをあれほど豹変させる夢ってなんなのですか? 夢ってそんなに大事なのですか? エルにはわからないのです」


「ホントごめんなさい……違うの……夢のせいじゃないの。ただ、数百年ぶりに手がかりらしいものが見えたから、それを逃したくないって思って……逃したらどうしようって怖くて、やっと見つけたって嬉しくて……冷静でいられなかった。結局、自分をコントロールできない、心の弱さが表に現れたのよ」



 人は感情で動くが、おそらく精神魔法生命体に近いと言う硝子のエルフは、感情の影響を強く受けるんだろうな。


普段エローラは男に対して辛く当たるよう、意図的にそれを行っているみたいだが、本心ではその行いを肯定していない。エローラは俺に対して強く当たった時、硝子エルフの言葉で後悔、反省していた。


これを見るに、精神魔法生命体に近いと言っても、硝子のエルフは嘘をつくことができる。強い感情の影響があっても、それを制御するだけの精神力や仕組みがあるということだ。もしそういった力、仕組みがないのなら、エローラは嘘をつくことができず、本心を話してしまうはずだからな。



「そんな事聞いてないのです! もういいのです、エローラさんが反省してるのは……エルだってもう分かってるのです。エルが聞きたいのは……エローラさんの夢のことなのです。エローラさんを豹変させる程の夢がどんなものなのか、夢とどうやって出会ったのかを、エルは知りたいのです」



 夢と出会う、か……もしかしてエルには夢がないってことか? 夢がないから、それを自分も持ってみたいとか? 単に理解したいだけだろうか?



「アタシの夢は、希望の魔法、奇跡の魔法を探すこと、できることならそれを自分でも使えるようになること。世にある魔法の殆どは絶望の魔法と、希望とも絶望とも違う魔法で、アタシからすれば、それは偽物の魔法に感じてしまう。何故なら、アタシは希望の魔法、奇跡を見てしまったからよ。アタシは本物の魔法に憧れてしまった。心動かされた、心奪われてしまったのよ」


「エローラさんが見た、本物の魔法はどんな魔法だったのですか?」


「昔、戦争があったのよ。今から1200年前ぐらい、ナスラム帝国とジーネドレ帝国の戦争よ。二つの超大国の衝突によって、大戦争が起きるはずだった。多くの人が死んで、多くの文化が失われるはずだった。当時のアタシは家出して人間の世界にやってきて数十年て所でね、ナスラム帝国の方を拠点にしてたの。ナスラムには愛着があったし、アタシもナスラムの兵士として戦うことにした。そんな帝国同士の戦争が、ついに本格化、大衝突が起こる段階になった時だった」



 1200年前のナスラムとジーネドレの戦い……おそらく第三次中央世界帝国戦争……両帝国が大世界の中央の小世界を支配しようとして起こった戦争だ。


確か巨大な嵐が発生して、大きな被害を受けた両国の皇帝が急遽停戦協定を結ぶことで戦争が集結した。違和感のある展開ではある……急進的な両帝国が、嵐が起きたから、それだけで戦争をやめるだろうか? もちろんその嵐が俺の想像を絶するようなとんでもないものな可能性もあるけれど……



「アタシは大衝突が起こると言われたジャーデア平原の戦地にいた。と言っても、魔法部隊だったから本当の最前線ではないけど……平原が見渡せるジャーデアの丘、緩やか傾斜の丘の上から戦場を見ていたのよ。だから、よく見えた。ジャーデア平原で両国の兵士が正面衝突する瞬間がね。兵士達が衝突する、その間に立つ、変なヤツがいたのよ。褐色で、布で顔と体を覆った細身の男。そいつがいつから戦場にいたのかわからない。気がつけば、そいつはそこにいた」



 褐色の変な男……? なんだそれ、そんな話聞いたこともないぞ? ジャーデアで大衝突という事は、第三次中央世界帝国戦争で間違いないはずだが……



「男が手に持った鉄の錫杖を大地に突き立てた。すると、男を中心に嵐が発生した。嵐は兵士達を巻き上げ、空で彼らを運んだ。嵐はやがて、丘にいるアタシ達の方までやってきて、アタシを空へと浮かべた。それはとても優しくて、心地よい風で、包まれるだけで、戦う気が失せた。そして、アタシ達は気がつくと、ナスラム帝国の帝都にいた。球境を通った感覚はなかったのに、いつの間にか小世界を越えて自国に戻っていたの。誰一人欠けることなく、誰一人傷つくことなく」


「大戦争が……一人の魔法によって……それも誰も死なずに済んだのですか? それって……」


「そう、それがアタシが見た奇跡、希望の魔法よ。聞いた話だと、風は戦場の兵士達だけじゃなく、両帝国の人々の全てと皇帝も包んだらしいわ。あの優しい風は、全ての人の争いの心を鎮めてしまった。戦争をしようとしていた帝国は、嵐によって自分の本心に気がついた。本当は戦いたくないのに、このままではあの帝国に滅ぼされるからと、恐怖心から望まぬ戦争を始めてしまった事に。今でもジャーデア平原ではあの穏やかな風が吹く、きっと、あの風が吹き続ける限り、中央世界で戦争が起こることはないでしょうね」


「た、確かに……歴史書では、嵐が人々に己の愚かさを教え、戦争は終わったとあるが……愚かさを教えるって、そんな直接的な意味だったのかよ……魔法による精神干渉を受けた……歴史書に書ける訳もないか、一人の魔法使いに負けたようなものだしな。それにしてもその魔法使いは何者なんだ?」


「分かんないわよ! 分かんないからそいつをずっと探してるんでしょ!? あと、あれは多分魔法使いじゃないわ。変な話だけど、あの魔法からは魔力を感じなかったし、あの男からも強い魔力を感じられなかった。力を隠せる魔法使いでも、力を使うその瞬間は強大な魔力を隠せない。あいつにはせいぜい魔術師程度の魔力しかなかったの」



 またか……エルシャリオンを滅ぼしたのは黒き魔法使いではなく魔術師、まぁジーネの事だったわけだが、ジャーデア平原で嵐を起こしたのも魔法使いではなく、魔術師……


もしかすると、男の存在が隠されたのは、魔法使いではなく魔術師だったからなのか? どうもこの世界では魔法使いを高く評価する一方で魔術師が低く見られる傾向があるように思う。


魔術師は一般人の延長線上にある存在で、特別感がない存在ではある。歴史を変えるような大きな存在は、人を超えた存在でなければならない。そんな固定観念のようなものがあるのかもしれない。例えば神や英雄、そして魔法使い、彼ら人を超えし存在がすることなら、凡百の人々は納得するしかない……そんな価値観……



「なるほどなのです。結局話を聞いてもよく分かんなかったのです。その優しい風を受けたら、エルもエローラさんと同じ夢を持てたんでしょうか?」


「そうね、夢になるかどうか分かんないけど、人生を変える程の衝撃があれにはあったわ。エル、あんたには夢はないの?」


「エルは……夢を自分でも知らないうちに叶えていたのです。夢の中で夢を見ることはできないのかもしれないのです」



 夢の中で夢……? 今ここにエルがいることが夢のようなモノ、そう言いたいのか? それとも……



「──あ、ここに居たんですねジャンさん! 探しましたよ! 所蔵室のロック、解除できました! 早く行きましょうよ!」



 純血再現エルシャリオンのモードン、彼にはナイモの霊塔についてすぐ、ナイモ叡智所蔵室の場所を教え、明日から本格調査を手伝ってくれと伝えたのだが……どうも彼は、明日まで待つつもりはなかったらしい。



「モードン! よし! じゃあ早速行こう! あれ、ていうかモードン食事は? もしかして夜からずっと所蔵室にいたのか?」


「え? そうですよ。僕はナイモの霊塔なら、頭痛くならないし、体のダルさもないみたいなんで、今までの人生で今が一番元気ですよ!! いやぁ~ずるいなぁ、みんなこんな元気な体を持ってたなんてなぁ~」



 え、えええええ!? こいつ見かけないなと思ったら、飯も食わずに徹夜してたの? しかも全然疲れてないし……一般人にしては相当タフだな。


それともあれだろうか、モードンは今までデバフを受けた状態で一般的なモイナガオン人の生活に合わせていた。それだけの体力を持っていた……けどデバフが解消された今、デバフ分だけ、普通の人間より体力があるのか?


ともかく、これでナイモ叡智所蔵室が見られる!





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