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鍵の存在



「悪いなディア、囮なんて頼んで。テルミヌスの方は呼べるのか?」


「テルミヌスは、召喚自体はできるけど……使えないかな。モイナガオンを囲む嵐が召喚を妨害するから、それをムリに突破しようとすれば、わたし達周辺以外が破壊されちゃう。きっと跡形も残らないはずだから」


「そうか……やっぱりモイナガオンを造ったナイモの民は、イモートを否定する者と自称するだけはある。対イモートの技術を発展させて来たから、ディアにダメージを与えられる攻撃が可能だった。もしかすると、まだ隠し玉があるかもだ、嫌な予感がしたら囮はやめてすぐに撤退してくれ」



 俺は操られた人々で溢れかえったモイナガオンの街を調べる為、ディアに囮を頼んだ。ディアを危険な目にあわせてしまう可能性を考えると、正直心苦しいというか、兄としてどうなんだ? という考えが過る。


だが、俺はそれでもやらねばならないと思った。確かにディアは操られた人々の攻撃を受けることはできない。けれど避けることはできる。


今までの旅の中で見てきたディアの性能ならば、回避と逃走に集中すれば危なげなど一切ない、というのが俺の予測だ。少なくとも操られたただの人間では、ナイモの聖霊によって強化されていたとしても、ディアとは圧倒的な差がある。


 イモート種族は、この世界の神々と互角、いやそれ以上の力を持っていると見て間違いない。世界を破壊しない為の気遣いが、今もこの世界を生かしている。そんな気さえする。



「さっき言った通り、俺とディアで北と南に分かれ、時計回りに移動する。俺が北でディアが南、エリア移動のスピードはいつもの俺の軽い探索レベルで構わない。あまりスピードを落とすとディアに負担が掛かりすぎるしな。ナイモの聖霊はディアの事を最優先に考えている。あれは本能的なモノだと思う。ナイモの聖霊は高度な存在なはずなのに……操られた奴らから知性を感じられなかったしな。おそらくディアが囮をしていれば、ナイモの聖霊が俺を見ることはできないはずだ」


「お兄ちゃん、お兄ちゃんには何が見えているの? エルを助ける為なんだよね? どうして……わたしに黙ってエルと話してたの?」


「お前がいると、エルの対イモートの機能が強く反応する可能性があると考えたんだ。エルはどう考えても、ナイモの聖霊と関連する存在だったからな。エルはおそらく本能や使命に抗っているんだろうが……それは辛いことなはずだ。自己否定をしているようなものだからな。だけど、そんなエルでも自分の正体を──“ディアがいる前では”話せなかった。ディアがいなかった時、エルは自身がホムンクルスであることを認めた」


「エルちゃんが……ホムンクルス? そう言えば、最初にあった時、エルちゃんは自分の正体を言うことができないって……あれって……わたしがいたから、情報の公開に制限が掛かったんだ。敵に情報を渡さないために……でも、だとしたらエルちゃんがわたしを攻撃しないのはどうしてなの?」


「単純に戦闘に関する機能を持たないんだろう。あるいは……彼女にはエラー、バグのようなものが発生しているのかもしれない。そもそも使命や反応に抗おうとしている時点で、作成者の想定を超えた存在だ。最大限抗って、あの結果、ディアに対する情報のロックが発動したとすれば……まぁ結局の所、ただの推測に過ぎないからな。実際調べてみないと分からないな。ディア、始めるぞ」


「わかったお兄ちゃん。エルにとって、わたしは存在するだけで毒なのかな……」



 ナイモの霊塔の外での別れ際、ディアの寂しそうな顔が目に入る。エルと仲良くできる、出来たらいいと、ディアは思っていたんだろう。


実際、エローラと一緒に、エルと話すディアの姿は、年頃の女の子が楽しそうにはしゃぐような、日常の幸せがあった。


しかし、あの幸福の中で、エルは苦しみを押し殺し、耐えていたのだとすれば……ディアからすれば、それがどんなに寂しい事か。


仲良くしたいと願う者を、傷つけてしまう。それが生まれながらの宿命によるもので、当人達の心が望まぬ事だとしても。



「ディアはもう見えない……か。俺に会うために、神様のマネごとをしてきたあの子に、きっと……普通の女の子の日常は存在しなかったはずだ。だからきっと、欲しかったんだよなお前は……っは、俺達は休暇に来たんだ。休暇を悲しい気持ちで終わらせるつもりはない。特に妹にそんな顔をさせたまま休みを終えちまったら、俺はお兄ちゃん失格だ」



 俺の独り言は誰にも聞こえない。ディアと反対の方向にやってきた俺の周辺には、人っ子一人いない。作戦の想定通り、操られたモイナガオンの人々はディアに引き寄せられたみたいだ。


 俺はディアに伝えたいつもの軽い探索のスピード、大体1、2分程度でエリアを移動していく。


人の居ない状態となっている街はとても無防備だ。操られた人々に防犯の意識はない。少なくとも、人間が必要とするモノを守ろうという概念はないらしい。


窓も扉も開けっ放しで、建物の中がすぐに確認できる。人もいないから移動もスムーズで想定よりも早く街を見て回ることができた。



「これで3区画ぐらいは移動したか? あれー? 中々見つからないな。俺の想定なら、見つかるはずなんだがな……」


「あ! ああああ! あの時のご恩人! あなたも正気なんですか!? み、みんなおかしくなっちゃって、僕はどうしたものかと思っていた所で……」



 いた、俺が探していただろう人物が。



「なるほど、純血再現のエルシャリオンは強いストレスに晒されて、異常行動を起こす……それで理性を失っていたわけか。だとすれば……強いストレスによって、物理的に脳にダメージを受けていたんだ。だから物理的な傷なら大抵のモノを完治させる高級ポーションによって正気に戻せた」



 俺が探していたのは純血再現のエルシャリオン人。エルシエルは言っていた。ナイモ叡智所蔵室を正規の手段で入ることができるのは純血のエルシャリオンと、名誉エルシャリオンの子孫だけであると。


エルは俺に非正規の手段で所蔵室に入ることを遠回しに勧めていたが、俺は正規の手段であの部屋に入りたいと考えた。


何故なら、あの所蔵室に入れたとしても、特に大事な資料、情報にアクセスできない可能性があるからだ。


大事な情報を取り扱う場合、それには情報レベルに応じてアクセスの制限を行うことはよくあること。特に、エルシャリオン帝国は純血エルシャリオン、名誉エルシャリオン、エルナの順に実質的な階級社会を構築していたことからも、そういった可能性が高かった。



「肉体的に言えば名誉エルシャリオンの子孫は、一般的なエルナ人、ナイモ人と大差ない。となれば彼らは普通のモイナガオン人と同じく正気を失い、操られている可能性が高い。しかし、ナイモ人に最適化されたナイモの聖霊のシステムであるなら、そのシステムの外にある純血再現のエルシャリオンは正気を保つ可能性がある。ナイモの聖霊はエルシャリオンを神聖化している。だからこそ、神聖視する対象を操らない可能性が出てくる」



 ディアとエローラに出会ってすぐ求婚を行ったこの男は、この状況を変える鍵となるかもしれない。



「あ、あの……? 一体なんの話をして……」


「あんた名前は? 俺はジャンダルーム・アルピウス。上級冒険者で自称考古学者だ。君に協力してもらいたいことがある。この街の人々を正気に戻すんだ」


「え? みんなを正気に戻せるんですか?」


「可能性があるって話だ。できるかどうかはやってみないとな」


「なら協力させてください! 僕も、この街のために何かしたいんです! あ、そうだ。僕の名前はモードン・ナイモスと言います。よろしくお願いします! ジャンダルームさん!」


「ああ、よろしく頼む! そうだ、もう探索する必要もないし、合図の救援灯を使ってナイモの霊塔に戻るか」



 俺はディアに見えるように空に向けて合図の救援灯の魔導器を使う。赤色の魔力の光が空を昇り、弾けると、それはしばらく滞空して光り続けた。それを確認して俺はナイモの霊塔へと移動を開始する。


その道すがらモードンに簡単な状況説明と、モードンが純血再現のエルシャリオンであることを伝えた。伝えられた本人はあまり実感がなかったようだが、本人もなんだか生きづらいと思っていたらしい。



「あ~そういうことだったんだ。みんな聖霊様の導きがあるって言うんだけど、僕にはそれを感じられなくて……聖霊様の声の代わりに時々酷い耳鳴りがしたりはあったんですけどね……なんというか、みんなはみんなと繋がっているのに、僕だけその輪に入れないような違和感が、ずっとあったんです。みんな優しくしてくれるんだけど、でもなんだか、逆にそんな特別扱いが、僕は違うんだって言われてるみたいで……」


「そうか、それは大変だったな。多分その耳鳴りは、モードンが純血再現のエルシャリオンだったから聖霊の声が、雑音に、耳鳴りに変換されたんだ。ナイモの聖霊の導きは一般的なナイモ人に最適化されてるだろうからな。お、話してたらもうナイモの霊塔だな」



 ナイモの霊塔に到着した俺達をエルが出迎える。その顔には驚きの表情が張り付いていていた。


どうやらエルにはすぐ分かったらしい。モードンが純血再現のエルシャリオンであることが。


期待できる。これならば、もしかすると俺達では聞き出せなかった情報をエルから得られるかもしれない。





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