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心を表現するモノ




 エルがモイナガオンとナイモ教のルーツを語った翌日、俺はエルが一人のタイミングを見計らって話しかける。



「エル、地下にあるナイモ叡智所蔵室に俺を入れてくれないか?」


「ジャンさん……? まさか、古代エルシャリオン語が読めるのですか?」


「ああ、読める。モイナガオンの状況をもっと把握する為にも、古代エルシャリオン人やエルナ人の残した資料を見たい。勿論個人的興味もあるんだが」


「ジャンさんをエルがあの部屋に入れることはできないのです。正規の手段であの部屋に入ることができる人間は純血エルシャリオン人か名誉エルシャリオンであったエルナ人の子孫だけなのです」



 この言い方だと、エルの許可を得なくとも他に入ることは可能だってことか。そして、それをわざわざ口にしたのは……遠回しに俺に非正規手段で部屋に入れと言ってるんだろう。



「純血エルシャリオン人は絶滅したんだろ? それに名誉エルシャリオンの子孫て言っても、それはどうやって判別するんだ? 血統判別の魔法でもあるのか? 帝国クラスの国なら、それが使える魔法使いもいるだろうが……」


「名誉エルシャリオンであるエルナ人は、名誉エルシャとなる時、その肉体と魂に烙印を刻むのです。このエルシャの烙印にはエルシャリオン皇帝の命令への絶対服従の効果があり、それは刻印所有者からその子孫へと受け継がれるのです」


「そんな……その方法が魔術にせよ魔法にせよ……古代に使用された魔力効果が二万年たった今でも残ってるっていうのか……? 名誉エルシャリオンになる代償は……己と己の子孫の在り方を、自由を捧げること……魔力効果の遺伝……人為的な魔力汚染が……」



 どうやら俺が思っていたよりも、古代エルシャリオンというのはずっと進んだ文明だったらしい。人間を構成する、魂や魔力体、肉体への干渉操作技術を確立していた……言ってしまえば俺の前世の世界にあった遺伝子操作技術、それをより高度に行うような事……


だとすると……エルシャリオンに対抗する者達もまた、似たような技術で自分達を強化した可能性がある。もしそうなら……この世界の人間は全て……すでに自分達の魔法によって、継承因子を汚染された後なのかもしれない。


 俺の常識では恐ろしい事だと感じるが……それでも今、この世界は、大世界オトマキアは回っている。人間の人工的な汚染など、神による直接干渉と比較すれば、大したことではないのかもしれない。


最も、それは世界や神の視点で考えた時だ。人が人として生きる時、その汚染は因縁となり、その者の人生に少なからず干渉するだろう。自分でも気が付けない、本能という名の誘導が行われる。人工的に付け足した、歪な本能によって。



「そういうことか。人工的な継承因子の操作は、名誉エルシャリオンだけでなく、純血のエルシャリオンも同じだったってことか。だとするなら……エルシャリオンの純血を証明する因子もまた、永遠に継承される魔力効果だ。確かに純血エルシャリオン人は一度絶滅した。だが……エルナというエルシャリオンの混血が寄り添い、国を造ったのなら、エルナの男と女が営みを続ければ、一定数生まれるはずなんだ。純血エルシャリオンの再現が」


「はい、全くの同じというわけではないのですが、かなり純血エルシャリオンに近い存在は、このモイナガオンで生まれています。魂の相性があるので、自然発生的に生まれることは稀ですが、彼らは確かに存在するのです。ただ、皮肉なことに今となっては、エルナの血の方が多数派で、純血再現からすれば生きづらい環境となっているのです」


「あー……そうだよな。モイナガオン社会で最も力を持つ存在がエルナ人であるなら、その環境もエルナ人に、ナイモの民に合わせたものに変わっていく」


「ですが昔と違って純血かどうかで差別されることはないのです。ただ……純血再現の方はどうやら常に強いストレスに晒されているようで、異常行動をすることが多々あるのです。彼らを救う方法があればいいのですが……エルには新しい何かを生み出す力がないのが、悔しいのです」



 強いストレスのせいで異常行動……? それってなんか見かけたような気が……なんだっけ……最近色々衝撃的なことが多過ぎて、思い出せないや。


それにしても……エルには、エルシエルには“新しい何かを生み出す力がない”か……俺がエローラに話した創世神に関する神話の一節、それがエルが何者であるかの、ヒントとなる。



 “創世神の雨によって人々が創生の力を持つ”


 この人の指す対象は人間だけではない。魔族やエルフ、その他亜人種から、人型でない高度知性体、例えばドラゴンなんかも含まれる。


古代の定義では、神ではない言葉を話す存在が人だった。


 つまり、この世界に生きる高度な知性体の殆どは、古代の定義からすれば人であり、創世神の雨を受けた存在。創生の力によって、新しい何かを生み出す力を持っている。


エルの言う“新しい何かを生み出す力がない”というのは、おそらく……人が持つ創生の力がない、ということを言っているのだ。



「エル、お前はそれでずっと悩んできたんだな。お前の心は、人であるのに、現実はお前に追いついていない。エル……お前は人だ。だって、俺がそう感じたんだからな。この先どうなるとしても、俺はお前を忘れない。このモイナガオンで出会った友人を、忘れない」



 人型の高度知性が創生の力を持たないのはありえないことだ。これを満たす唯一の存在、それは人工的に生み出された高度な知性体。


人型魔法生命──ホムンクルス。作成者の命令を遂行する為に生まれた、人ならざる者。それはかつて心持たぬヒト型と呼ばれ、人の代わりの労働力として生み出された。


 魂がなく、創生の力も持たないホムンクルスは人とは絶対的に異なるモノだ。だけど……この子は……



「……う、ぐす……ジャンさん、おかしいのです。エルはまだ友人と言えるほど、ジャンさんと親しくないのですよ?」



 エルは泣いている。心があるように見える。少なくとも俺はそう思った。俺を騙す為、計算でやっている可能性がある。俺の理性がそう言っても、俺は納得できない。



「奇跡の魔法……エローラの探す魔法は、すでにこのモイナガオンで発動していたのかもな……ホムンクルスが人の心を持つような魔法が」


「ジャンさんはホムンクルスが心を持っても、いいと思いますか?」


「エルが人でもホムンクルスでも、そこに心は在って、こうして俺達と心を通わせている。良いも悪いもないさ、俺達やナイモの民をどうにかしたい、救いたいと考える女の子、それがエルで──俺はエルを良い子だと思ってる。だから俺もどうにかしてやりたいって思うんだぜ?」


「ジャンさん……う、うぅ……あああああ!」



 エルシエルが大泣きして、俺に抱きついてきた。俺は手癖のように、よしよしと撫でる。



「う、うわああああああああああ!!! ろろろ、ロリコンがエルを泣かせたぁーっ! そんな抱きつかせて、手もいやらしいわっ! 破廉恥! 破廉恥!」



 そんな時、馬鹿がやってきた。男女の触れ合いに過剰反応してしまうエローラからすると、きっと俺は犯罪者に見えたことだろう。



「誰がロリコンだ馬鹿エルフ! 大体これで破廉恥に感じるなら、本当に破廉恥なのはお前の方だぞエローラ」


「はぁ? そんな訳ないでしょ! アタシはそういう破廉恥を遠ざけて、関わらないように生きてきたんだから破廉恥な訳ないでしょ!?」


「え? エルは破廉恥を遠ざける事と、破廉恥であることは両立すると思うのですが……」


「え!? エルっ!? そ、そんな訳ないでしょ!? アタシは一生、永遠に純潔であることを誓っているんだから」


「いやそれも、破廉恥である事と矛盾しないのです。破廉恥でも理性でそれを制御できれば、それを肉体表現することはないのです。つまりエローラはむっつりスケベなのです」


「む……っつり? 違うから! 違うから! 絶対違うんだもぉーーん!!」



 それにしても肉体表現ね……エルは面白い言い方するね。そういうノリで言うなら、破廉恥出力と言い換えることもできるか。



「よし、俺ちょっと外出てくるわ。エローラ、ディアが今どこにいるか知ってる?」


「え? あんた正気? 外に出たら危ないでしょ? ディアなら塔の展望室にいるわよ。嵐の観察とかどうとか……」


「そっか、ありがと。んじゃ展望室行ってくるかぁ」




いやこの距離の詰め方は割とロリコンでは?



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