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謎の少女



「いやぁ、隠蔽魔法様々だな。叫ぶほどじゃなければ、会話も音を立てるのも問題ないとは」


「あまり過信はしないで、オードスなら隠蔽魔法対策だって可能なはずだし……」



 深夜、予定通り俺とディア、エローラは冒険者ギルドへの侵入作戦を開始する。エローラの隠蔽魔法は高性能で、特に何の問題もなく、冒険者ギルドの内部、資料室へと入れた。


冒険者ギルドの警備の数は昼間と変わらないが、元々警備の人数が多い訳でもない。活動する冒険者達が半分警備員のようなものだからか、冒険者ギルドは常駐警備が少ない。


冒険者達が居なくなる深夜は、警備用の使い魔を使うことで、低下した警備力を補っている。先程から警備用の使い魔を見かけるが、これはどうもオードス製のものじゃないらしく、性能が中程度、悪くはないレベルのものだった。


ネズミの形をしていて、小さく素早いため、侵入者が使い魔を見逃しやすいという利点はあるが、探知能力と戦闘能力は低い。コスパ重視だな。



「わたしの力を使っちゃうと使い魔が使い物にならなくなっちゃうから、ホント助かったよエローラ」


「褒めてくれるのはありがたいけど、さっさと消えた冒険者達の情報を集めるわよ」


「そうだな。じゃあ中級以下の冒険者の情報を探そう。自分たちでも知ってるような知名度のある奴らは避けて」




◆◆◆




「よし、大体写し終わったな。冒険者ギルドの職員の纏め方が良くて助かったな。予測していた通りだが、モイナガオン周辺での引退者と死亡者扱いの者が、他の地域より少し多い。特に引退者扱いの者が多い……理由はモイナガオンを気に入って市井に生きることを望んだから」


「ちょ、あんたのそれ……凄いけどキモ……それ魔導器よね?」


「ああ、自動メモって言うんだ。あんま悪口言うなよ? こいつらだって嫌な気持ちにはなるんだ。人のイメージのままに書き記す能力があるということは、ある程度、感情や意思を理解するはずだからな。こいつらに嫌われて、嫌がらせされても知らないぞ?」


「ひ、ひぃい……! ご、ごめんね~アタシ、あんた達に慣れてなくて、ちょっと口が悪くなったけど、悪気はないのよ~」



 嫌がらせと聞いて何を想像したか知らないけど、エローラは顔を青褪めさせ自動メモに謝罪する。



「よし、脱出だ! 資料は後で詳しく確認するとしよう」



 俺達は冒険者ギルドから出ていく、行きと同じく、帰りも何の問題もなく、あっさり帰れる──そう思っていたのだが、どうも違うらしい。



「──侵入者、敵対種を確認、排除する」


「んなっ!? さっきまで俺達が見えてなかったはずだろ!?」


「ちょっと、どういうこと!? この人ただのギルドの受付じゃないの!?」



 ギルドの受付が魔力ナイフでディアに斬りかかる。ディアはそれを腕の装甲で受ける。



 ──パキッ!



「──っ!? ダメージ、貫通した? どういうこと? ただの受付が、わたしにダメージを通すほどの攻撃……?」


「敵対種へのダメージを確認、包囲陣形を構築、火力の集中、制御──」


「おいおい、あの受付だけじゃないぞ! どんどん集まってきてる! しかし、バラエティ豊かだな。冒険者から兵隊、カフェの店員、服飾店のヤツまで……はは、街のほぼ全員が──“何者か”の兵隊になっちまったようだ」



 気づけば俺達は囲まれていた。ディアに傷を負わせた受付と同じ雰囲気を纏った人々、モイナガオンの住民達に。


彼らは自分の意思を手放している。操られている。それは機械的、あるいは真社会性昆虫、アリやハチのような、統率による威圧があった。


人として見れば虚ろだが、その動きは空っぽなそれではない、機敏にして精確、そして何より……特殊な魔力を纏っている。真っ青なその魔力は、人工的で不自然な美しさで、彼らの顔を不気味に照らしている。



 彼らの攻撃は続く、狙いはディアに集中しており、俺とエローラは殆ど狙われていない。いくら彼らが何者かに強化されていると言っても、その身体能力には限界がある。一般人をいくら強化したところで、ディアの相手になるレベルではない。ディアは彼らの攻撃を全て避けている。攻撃を受けられないのなら、避ければいい。



「建物の上に逃げようかと思ったが、それは相手も予測するよな。屋根上は、人だらけ……なんとも不気味な光景だ。だけど、俺達への害意が、操られたせいだと言うのなら、傷つけるわけにはいかない……ど、どうすれば……」



 この街は、モイナガオンは間違いなく平和で、穏やかだったはずだ……それがどうして、こうも豹変する……? あの平和が偽物で、この機械的な殺意の群体が真実だとでも? 分からない……判断をできない……俺は、この街を知らなすぎる……



「──こっち! こっちに逃げてほしいのです!」



 え? 女の子が俺達に向かって叫んでいる。水色の髪をした、10か12歳ぐらいの女の子、俺達に自分の姿が見えるようにか、ぴょんぴょんよ跳ねて、腕を振っている。



「あの子は正気なのか……? わからん……」


「罠かもしれないわ。だっておかしいでしょ? どうしてあの子だけ正気なのよ?」


「それを俺達が言うのか? エローラは、俺達がなぜ正気を保てているのか、その理由が分かるのか? できるのは、不確定な予測だけだ」


「お兄ちゃん、今はあの子を信じてみよう。どのみちこのままじゃ、埒が明かない」



 俺達は頷き、走る。水色の髪をした女の子の元へ、女の子は俺達が向かっているのを確認すると、彼女もまた走りだした。


自分に着いてきて欲しい、そんな意図が分かるような走り方、後方の俺達のことを気にしながら、走っている。



「俺とエローラはちょっかいが少ないから楽なもんだが、ディアは大変そうだな」


「ちょっとジャンダルーム! どういうことなの? これって完全にディアが狙いじゃない? あの子、普通じゃないとは思ってたけど、一体なんなの?」


「俺の妹だ。ただ生まれがちょっと特殊で、背負ったモノが大きすぎるんだ」


「はぁ……? そんな説明でアタシが納得すると思ってるわけ?」


「俺だってあいつの全部を知ってるわけじゃないんだ。そうだな、例えるなら、ディアは異界の神のようなもんだ」


「ちょ、えぇ!? もっと意味分かんなくなったんですけど!? 異界の神が妹だって言うなら、あんたは何なのよ!? あんたも異界の神──」



 エローラは完全にパニックだな。落ち着いてからじゃないと、きちんと話をできそうにない。そこからエローラの追求をのらりくらりとしながら走って、俺達は辿り着いた。



「塔……? これって確か、モイナガオンの中心にあるっていう……ナイモの霊塔?」



 モイナガオンの観光案内の立て看板、それに記されていた、モイナガオンの観光地の一つ、ナイモの霊塔。モイナガオンで信仰されるナイモ教、先祖信仰の為の塔だ。


一般人は内部へ入れないはずだが……塔の入口は開いている。俺達がナイモの霊塔に入ると、入口は一人でに閉まった。



「この霊塔に入る前、この周辺に差し当たったぐらいで、モイナガオンの人々は俺達を追わなくなった。ここは、彼らが入ってこられない仕組みがあるってことか」



「──よかったのです。皆さん無事で……嵐になると、みんな、この街の人々はおかしくなってしまうのです」



 例の水色の髪の少女が俺達の前にいる。塔のエントランスホール、その中心に立つ彼女は、なぜだか様になっていた。ただの少女ではないのだろう。そんな予感がした。



「君は……? 俺はジャンダルーム・アルピウス、上級冒険者、そして自称考古学者だ」


「エルはエルシエルなのです。この霊塔の図書館の司書をしているのです!」


「え? この霊塔って図書館があるのか?」


「そうなのです。でも一般人用の図書館じゃないから、知らない人が多いのです。ここは、ナイモ教の聖霊が守る、聖霊の言の葉を纏める場所。ナイモの霊が、知識を集め、未来に備える為の場所」



 この子はきっと、図書館の司書なんかじゃない。だが、そのことを隠す気もないらしい。分からない、何故この子は俺達を救おうとした? それとも今、罠にかけようとしているのか?



「分かった、霊塔の司書さん。ここは聖霊の守る場所、モイナガオンで一番安全な場所なんだな。一番大事な場所で、誰も荒らすことができない聖域、そういうことでしょう?」


「はい、ジャンさん! ここでは誰も暴れることができません! 聖霊様が守ってくれますからね! シュッシュ! シュシュシュ!」



 エルシエルがシャドーボクシングをしてアピールしている。それを見て俺は警戒心が失せた。この子が何者にせよ、この子は俺達の為に動こうとしている。それが伝わってきた。


悪意をまるで感じない。人であるなら、誰もが少しは持っている。それを彼女は持っていない。


悪意のない聖人も、広い世界であれば、いるにはいるのだろうが……彼女の場合は、少し違うように見える。



「霊塔の司書さん、ここでしばらくお世話になっても? 俺達にとって、今、この塔の外は危ないみたいだから」


「もちろんなのです! 元々そのつもりで招待したのです! ここはいつも静かすぎて、退屈なのです。エルも話し相手が欲しいなぁって、思っていたから、丁度よかったのです」



 ということで、俺達はこのナイモの霊塔でお世話になることになった。少なくとも嵐が過ぎ去るまでは、ここを拠点とすることになる。


ディアとエローラの顔を見る。二人共、困惑している、エルのことを警戒しているようだ。しょうがないな……



「ねぇ司書さん、ここって食事ができる場所とかってあるかな? ちょっとお腹空いちゃって、朝ご飯にはちょっと早すぎるけど、夜に起きてたから」


「それなら上に食堂と調理室があるのです! 食材もあるので、自由に使ってもらって構わないのですよ~! エルは料理はできないですが、コーヒーを入れるのだけは得意ですから、それは任せてくださいなのです! さささ! 皆様、行きましょう! エルの至高のコーヒーで、皆様を天国に導いてさしあげましょう!」


「ちょ、天国って、それアタシ達を殺すってこと……?」


「ななな! まさかそんな解釈をされるとは、エル心外なのです……」


「ご、ごめんて……泣かなくてもいいでしょう? 頂くわ、あなたの至高のコーヒーを。アタシはエローラ・クロト、冒険者よ。そこのジャンダルームとディーアームとはこの街で会っただけで、パーティーを組んでるわけじゃないの」


「エローラ! そういう寂しい言い方良くないと思うなぁ~? ただの知り合いとは言わせないよ? 秘密を共有する仲なんだし~」



 エローラとディアもエルと話す気になったらしい、健気で、一生懸命なエルに、罪悪感を抱いたんだろう。


そうやって罪悪感を抱かせ、人を信用させていく、全ては計算だ。そんな本性がエルにあったとして、俺はそれを見抜けるだろうか? きっと、見抜けないだろうな。


 エルを、彼女を信用することにした。俺はそう決めたはずだが、今もこうして、彼女の持つ悪しき可能性を心に留めている。眠る疑う心、それは彼女が疑わしい行動をした時に目覚めるようになっている。


彼女の全てをそのまま見よう。それが、きっと真実だから。





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