創世神話
モイナガオンの人々が洗脳、もしくは記憶操作されている説、これを検証するため、俺達は今、街の人々を観察している。
「やっぱり旅人の多くが消えてるな。冒険者でも下級冒険者と中級冒険者の一部が消えている。上級はそもそもモイナガオンにはいなかったが、この感じだと上級はこの街に取り込まないんだろうな」
「あー、中級冒険者でも取り込まれなかった人達は、パーティーを組んでいてかつ、実力も知名度もある人達だったものね。街の住民にする場合、取り込む対象の知名度がありすぎると、誤魔化すのも面倒、きっとそういうことよね?」
「有名冒険者だったら顔を知ってる人が世界中にいるだろうし、観光地として有名なモイナガオンに知り合いが来る可能性も十分にありえるよね~。その点、知名度や実力の低い下級冒険者や中級冒険者なら、危険な依頼やダンジョンに挑んで失敗、死亡したって事にするのも簡単。冒険者ギルド職員を洗脳しておけばね」
それにしても……俺とディア、エローラはなんで洗脳されないんだ? 俺達は知名度もそこそこあるだろうから、住民として取り込まれないにしても、記憶操作はしたいはずだ……
やりたいけどできないとか? ディアがそういったモノを無効化するのは分かる。エローラは硝子のエルフで魔法耐性を持つから? じゃあ俺は……あ!
「そうか、俺……エドナイルで魔人化したから。呪いとか精神系の魔法や魔術に耐性があるんだったか。ということは、ここにいる三人全員が、街の影響を受けない?」
「は? 魔人? ジャンダルーム、あんた魔人なの? じゃあ神の眷属なの? それなのに小世界を自由に移動できるの? それって、勇者なんじゃ……」
「え? 魔人が基本的には神の眷属だってこと、エローラは知ってるのか? それと俺は特殊なケースでな、特定の神の眷属じゃないし、勇者でもないぞ。世界を自由に移動できる魔人が勇者っていうのは初めて聞いた。興味深いな」
「硝子のエルフに伝わる口伝で言われてることなのよ。神の力を分け与えられた魔人は大きな力を持つけど、神と強く結びついてしまうから、主の神のいる小世界から動けなくなる。世界を自由に動き回れる魔人、それはつまり──全ての世界の神の眷属、勇者ってことなのよ」
「あーそういうこと? 魔人は本来自由に動けないから、逆を言えば自由に動けるなら、全ての世界に影響を与えている強大な神がいるだろうっていう。けど、そんな全世界に影響を与えるような強大な神なんて聞いたことないぞ。だって、創世神は死んでしまったはずだ。希望と絶望の神の戦いに巻き込まれて滅んだって神話には……」
俺の知る最も力の強い神は創世神だ。この世界を創生し、法則と神々を生み出した。創世神は戦う為の力を得ようとすれば自由に得られたが、自分が戦いの力を得ることで、世界の戦いの概念が強化され、戦いがさらに激化することを嫌った。
創世神は世界が荒れるぐらいならと、自分が滅ぶことを選んだ。だけど滅んだ創世神の体は雲となり、雨となって世界の人々に浸透した。これによって人々は創生の力を得た。
創世神が滅んだ今も人々が新たな技術や知恵を生み出すことができるのは、創世神の雨、つまり創世神の残滓の力によるもので、人々は結局それを争いに使っている。そんな皮肉な現実が古代から現代まで続いている。
創世神の慈愛の心で、世界の争いの激化は止められなかった。しかし、戦いの激化のスピードが遅くなったのは間違いない。この世界に住む全ての存在は、創世神から滅びの猶予をもらった。今の創世神話学ではそう解釈されている。
「いや……創世神は滅んだけど。その力と意思は受け継がれているのかもな。創世神の雨によって人々が創生の力を持つのなら、人々の思いが集まれば……勇者は生まれるのかも。例えば世界的な脅威があった時、人々が誰かに助けて欲しいと願えば、思いは集い、勇者を生み出すかもしれない」
「へぇ~勇者ってそういう仕組みで生まれてるのね~。アタシの知る口伝では、何故そうなるのかとか、仕組み的な事は全然言われてないのよね。けど、あんたの理屈なら、やっぱりあんたが勇者っていうのもありえるんじゃないの? まぁ、確かに、勇者にしては力が弱すぎる気がするけど」
「ないないないない、俺が勇者とかないから。魔人化したらしいけど、あんまし強くなってないし、エドナイルの民とレーラルーム神の思いの力だけで、勇者を生み出すだけの力が集まるとも思えない。俺を魔人化したレーラルーム神が言うには、俺は神が再誕する時に生じた強大で純粋なエネルギーによって魔人化したらしい。つまり、ある意味でなんの目的、意思もない力によって俺は魔人化した。だから勇者はありえないと思う」
「わたしもそう思うなぁ~勇者と似たような部分はあるのかもだけど、お兄ちゃんは勇者じゃないと思う。お兄ちゃんは人助けとかも好きだけど、世界を救う為に動く感じの人じゃないもん。ヨ=ワイヌに抵抗したのだって、世界の為じゃなく、わたし、妹の為だったから」
「え? 何? ヨワ……なにそれ?」
そりゃ別世界の話されても困るよなエローラ。俺はエローラに気にしなくて良いと伝えると、俺達は人目のない路地まで移動した。作戦を練る、会議をするためだ。
「エローラ、隠蔽魔法は使えるか?」
「使えるけど……」
「じゃあ隠蔽魔法を使って冒険者ギルドに侵入して、消えた冒険者達の資料を回収するぞ。決行は深夜、9時間後とする。今のうちに宿に戻って寝るように、集合場所はこの路地裏だ」
「ちょ! ちょっとまって! 勝手に決めないでよ! そんなことしてバレたら、冒険者続けられなくなっちゃうでしょ?」
「大丈夫だ。俺は冒険者ギルドのマスター、オードスと仲が良いし、今回のことは冒険者ギルドの為に行うことでもある。説明すれば分かってくれるさ。オードスの居場所が分からないから事後報告になるのは仕方ない……どうやら嵐によって、魔力通信もできないみたいだからな」
エローラにオードスと仲が良いから大丈夫だと言って説得したが……オードス、仕事をする時はしっかりやるタイプだから、仲が良かろうがあんま関係ないんだよな。
説明すれば分かってくれるだろうというのは、実際その通りになると思う。このモイナガオンでの事は、今まで発覚せず、ずっと起きていた事なんだと思う。
そして今が、その事実を明らかにし、歪みを正す時なんだ。このまま放置すれば、冒険者ギルドは不当な形で、仲間達を失い続ける。これはオードスの許すことではない。冒険者の立場を守るため、世界中の国々と交渉し、渡り合ってきたオードスならば、これを許すことはありえない。
「わかったわ。確かにこのまま放置して、冒険者達が減るのは良くない。冒険者ギルドにはずっとずっと、お世話になってきたしね。ここらで恩返しするのも悪くないわ」
こうして、俺とディア、そしてエローラは冒険者ギルドの為、冒険者ギルドに侵入することを決めた。
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