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吸収



「アタシが手伝うからには、空足を踏むのはありえない。それであんた、調査でアタシに何を任せるつもりなの?」


「ああ、どうもエローラは俺達よりも視野が広いみたいだから、周辺の状態、状況を注意深く観察してほしいんだ。やっぱり硝子のエルフも、普通のエルフと同じくそういった感覚が鋭いのか?」



 俺は半ば強引にエローラを調査に加えたが、これは単に人手が欲しかったという理由だけではない。ディアも俺も魔法を使えない、魔法的な観点から物事を見るなら、エルフであり魔法を使える者の力を借りたいというのがある。


そしてもう一つ理由がある。彼女は休養でモイナガオンに来ている。慣れ親しんだ活動拠点の街を追放されて心を痛めている。例えそれが自分の撒いた種だとしても、心が弱っているのに違いはない。こうしたアクシデント──嵐で街に閉じ込められる、が発生しては、さらに心理的追い打ちを掛けられたようなもので……不安定な状態の彼女を放って置くのは、危ない気がした。


 エローラからすればお節介、余計なお世話かもだけど、関わりが出来たならこれも縁だというのが俺の考えだ。危ないかもと思って見過ごして、何かあれば俺は後悔するだろう。



「確かに感覚は他の人種族より鋭いけど、あんたの言うエルフって木のエルフのことでしょ? アタシ達硝子のエルフをまるで、木のエルフの亜流みたいに言うのはやめてくれる? 本来のエルフ、エルフの始祖は硝子エルフ族なんだから」


「え!? そうなのか? 俺は硝子のエルフはエルフ族から派生したもんだと……というかそれが一般的な認識だ。硝子のエルフの話って全然聞かないんだよ。どういった種族で、どういった事をしてきたのか、全然情報がない」


「まぁそうでしょうね。硝子のエルフは元々数が少ないし、もうすぐ絶滅するのは免れない程、落ちぶれているから。他の種族からすれば、少し見た目の変わったエルフでしかない。だから本当は硝子のエルフがやった事でも、それは木のエルフや他のエルフ族がやって事として語り継がれるのが殆どよ。あなたの知るだろういくつかのエルフの伝説や、物語は硝子のエルフの事を言っているはずよ」


「あ、そういうこと? 種族としての力が弱まり、知名度がなくなったせいで、硝子のエルフの逸話の全てが、エルフ族の逸話として……た、例えば、どういった逸話だ? 本当は硝子のエルフの話っていうのは」


「う……そ、それは……なんで、わざわざアタシが言わないといけないの!?」



 なんか怒ってる……いや何かを誤魔化そうとしてるのか? エローラは。



「おいおい、エローラの話が本当なら言えるはずだろ?」


「っ!! アタシが嘘をついているとでも言いたいわけ? 分かったわ、そこまで言うなら教えてあげるわよ。有名な話で言えば、サレス王子とエルフのカセリアの話。そして木こりのマイクと水辺のエルフの話ね。有名な話だからあんたでも知ってるでしょう?」


「サレス王子と木こりのマイクか……確かどちらも報われなかった恋、悲恋の伝説だ。サレス王子はエルフの娘、カセリアと恋仲だったが、王妃が決めた姫君との結婚を強制され、絶望したカセリアが魔法の力で自害し、煙のように消えてしまう……みたいな話。木こりのマイクの方も確か水辺のエルフと付き合ってたマイクが浮気しちゃって、それを見た水辺のエルフが相手の女を道連れにして自害する話だ。こっちは燃えて一瞬にして灰になったらしいが」


「……ねぇお兄ちゃん。これって……」


「うん……なんか、あんま良くない話だな。不吉というか……嫉妬心から破滅するというのは別に人間でもよくある話だけど、硝子のエルフって嫉妬で狂ってしまう種族なのか?」


「ぬぐっ……ち、違うわよ! あんた達人間と違って、硝子のエルフの愛は、そんな軽々しいものじゃないのよ! 人間では遊びで関係を持つ者がいるとか、ホント信じられないわ。穢らわしいったらありゃしない。心に決めたただ一人を命懸けで愛する、それこそが愛というものでしょうが」


「うんうん、分かるよエローラ。わたしもそう思う。心に決めた一人をずっとずっと、永遠に愛し、愛され続ける、それが理想だよね~」



 え……? なんかディアがエローラに同調してる……



「え? ディア、分かってくれるの? よかった~、あんたは話の分かる子ね」


「そうそう、お兄ちゃんはもっとわたしを愛し、構い、甘やかすべき」



 ──ジロリ、とディアが俺を流し目で見て、ぬるりと近づいてきた。



「は、ははは……しょうがないな~よしよし」



 なんか要求されているような気がしたのでディアの頭を撫でる。するとディアは俺に抱きついてきた。



「ちょ!? ちょ……え!? ああああ、あんた達何やってんの!? 破廉恥でしょうが……! と、というか、あんた達兄妹じゃないの?」


「まぁ肉体的には、生物学的には兄妹じゃないからセーフですよエローラさん。魂の絆で結ばれたわたし達ですが、そこにある愛が、兄妹のモノだけとは限らない、わたしはそう考えますが……」



 なんだこのディアの喋り方……それにしても、いつものディアだったら、人前で頭を撫でられたら恥ずかしそうにするのに、エローラの前では恥ずかしそうにしてないな。


ディアにとってエローラは特別な何かがあるのだろうか? よく分からないが、エローラを警戒しているように見える? 俺とエローラの間に入り、俺を守るような立ち位置……ま、まさか……ディアから見てエローラは危ないヤツなのか……?



「はい、もう終わりな。そろそろ調査に移りたい、まずはコーヒー農園に行こう。前に行ったグモンさんの所だ」




◆◆◆




「ん……? あれ、グモンさん、その人は新しく農園で雇った人ですか?」


「ああ、これは息子だよ。最近帰ってきたんだ」


「あー、どうも。グモンの息子のシモンです。皆さんは旅人ですか?」



 グモンさんの農園に来てみると、昨日は見かけなかった人物がいた。グモンの息子のシモン、らしいが……なんだろう。違和感がある……


グモンにシモン、名前には一定の法則が見られて、血縁を証明するかのような響き、けれどもそのグモンとシモンは似ていない。名前が似ているのに、顔も体格も似ていない。



「ちょっとジャンダルーム、こっちに来てくれる? 話があるわ」



 エローラに呼ばれるまま、俺とディアは農園から少し離れた荒れ地に移動する。



「どうしたエローラ? 何か気付いたのか?」


「ええ、あれはグモンの息子なんかじゃないわよ」


「え? そうなの? どうして分かったんだ? 確かに見た目は似てないけど」


「あのシモンという男、モイナガオンの冒険者ギルドにいたわ。アタシがモイナガオンに着いた初日、あんた達と食事をした後、冒険者ギルドに顔を出した。その時、あの男がいた。旅人が持つような大荷物を抱えていて、明らかにモイナガオンを拠点とする者ではなかったわ」


「でもエローラ、シモンさんは最近帰ってきたってグモンさん言ってたから。シモンさんが冒険者として活動してて、帰郷にモイナガオンに帰ってきたのだとしたら、何もおかしくないんじゃ?」


「あの男には仲間がいたわ。そして仲間はあの男を──“クラウス”と呼んでいた。渾名っぽい呼称でもないし、明らかにシモンの短縮、変形じゃないでしょ?」


「……それが本当なら、確かに変だな。どういうことだ? 見た感じ、シモンはコーヒー農園の作業をスムーズに熟している。冒険者をやっていた、コーヒー農園の息子でない彼が、農作業を完璧に熟している。まるで淀みのない、テキパキとした動き……」


「お、お兄ちゃん!! あ、あれ!! シモンさんとグモンさんの動き、全く一緒。まるで、精密に動く、ロボットみたいに……」



 グモンとシモンが、家畜化したアース・スライムの培地をヘラのような器具で寄せている。広がりすぎたスライムを中央に寄せ、水耕栽培のパイプをスライムに繋いでいる。


その動きが、シンクロしている。グモンとシモンの動きが……確かに慣れていれば、熟練していれば、そんなことも可能かもしれない。だけど……



「洗脳……? 記憶や能力の調整? 旅人をこの街の住民にしたってことなのか……?」


「確かにそのように見えるけど……何のために? アタシにはこんなことをする理由が分からないわ」


「だけどお兄ちゃん。これってつまりは、この不可思議な現象を起こしている誰か、黒幕がいるってことだよね?」


「そうだな。もしかすると、この異常な嵐の発生も、その黒幕と関わりのある事かもしれない」



 モイナガオンを囲う不可思議な嵐の中で、俺達は人の意思や記憶の歪みを見た。相変わらず穏やかな日常が広がるモイナガオンの裏側には、その歪みの根源があるはずだ。


もし──人の記憶が上書きされる街だとしたら、この街に真実の歴史など、あるのだろうか? あるとするなら、俺は……知りたくて知りたくて、仕方がない。



「興味が湧いてきた、完璧にな! モイナガオン」





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