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嵐の檻



「いやー見学許可ありがとうございます~! グモンさん! ん? あれ!? 土が動いてる? そもそも土じゃない、なんだあれ?」


「ああ、モイナガオンの水耕栽培は培地に家畜化したアース・スライムを使ってんのよお。保水性に優れ、溶液の過剰な栄養を吸収、さらには勝手に増えるから量産性も良いと、スライムはモイナガオンのコーヒー栽培では最高の相棒なのさ」



 モイナガオンに辿り着いてその翌日、俺達は約束通り三人、俺とディア、エローラでコーヒー農園の見学に来た。


今回コーヒー農園を見学させてくれることになったのはグモンさん。コーヒー栽培一筋40年のベテランのおじさんだ。


 しかしあれだな。こう言ってはなんだかグモンさんなんかおしゃれな服装してるな。農家って感じの服装じゃなくて、動きやすそうな商人服を着ている。モイナガオンは観光地だから、外から来る王族や貴族達の心象を良くするためにやってるんだろうか?



「そういえばグモンさん、あっさりと見学許可を出してくれましたけど。見学させてくれっていう観光客って多いんですか? 凄い技術を使ってるから、普通の国だったら技術を独占するために秘密にしそうなもんだけど」


「ああ見学は多いよ。単に観光客ってだけじゃなく、モイナガオンの水耕栽培システムを参考にしたいって農家も訪ねてくる。モイナガオンのマナパイプ・プレート建築を利用したシステムまでは真似できなくとも、アース・スライムの家畜化、利用は真似できるからなぁ。こんな水耕栽培システムが必要になる土地ってのは大抵枯れたような水資源に恵まれない土地でさぁ、そんな土地が豊かになるのなら、技術は盗まれたって構わないってのがワシらモイナガオン人の共通認識なんだ」


「お、おおお! なんて立派な考え! モイナガオンも恵まれた土地じゃないのに、他者に施そうという心を持てる。これは素晴らしいことだ!」



 モイナガオン人、技術力だけじゃなく人格まで優れてるのか? そういえば、街の人々も物静かだが誠実な人間が多かったように思える。最初に出会ったディアやエローラに求婚してきた変な男は何らかの理由で頭がおかしくなっていただけだし、アレはノーカン。



「あー……別にそういうのじゃないんだ。確かにモイナガオンの土地自体は恵まれていないのかもしれない。だけど、ワシらは恵まれているんだよ。ワシらが信仰するナイモ教、あれが先祖の霊を信仰するものなのはしっとるか? ワシらモイナガオン人は、ナイモ教の信仰によって先祖霊の聖霊化に成功したんだよ。モイナガオン人が死ぬと、その霊魂の一部はナイモの聖霊に取り込まれ、聖霊はモイナガオンの人々に力を与えてくれる」



 先祖霊の聖霊化……? そんなことが可能なのか? じゃあ、モイナガオンの不可思議な特性は先祖霊の聖霊によるモノなのか? う~ん、でも先祖霊だとすると、じゃあモイナガオンの人々は元々コーヒーが好きな集団だったとか? たまたまそういう趣向の人がめちゃ多かった? ちょっとなぁ、原因としては腑に落ちないなぁ。



「へぇー聖霊ねぇ。力を与えてくれるっていうけれど、具体的にはどんな力をあんた達に与えてるわけ?」



 エローラに話しかけられると思っていなかったのか、グモンさんは狼狽えている。顔も少し赤くなっている。どうやらグモンさんもエローラの見た目に惹かれているらしい。そう言えばグモンさんだけでなく、街行く人々もエローラに見とれて赤くなっていた気がする。エローラは確かに美人だけど、そこまでになるか? というのが正直な感想だ。


だって美人度合いで言うならディアだって負けてない! だけどディアの方にはなぜかそういった反応がない。あるにはあるが、エローラと比較すると少ない。エローラには何かあるのか? 呪いとか種族の特性とか。



「う、うおっ……ごほん! ナイモの聖霊は病気への耐性、そして導きの力をくれる。導きの力とは、説明が難しいんじゃが……そうだな、ある種のお告げのようなモノで、聖霊の言葉に従うとモイナガオンの人々は幸福へと導かれる。例えば朝、目が覚めた時、まだ農園に行くには早い時間でも、なんとなく行かなければいけない感じがした時、実際に農園に行ってみると、スライムが鳥の魔物に襲われていたり、悪質な盗人がいたりとか。逆にいい商売の話が舞い込んだりする」


「ふ~ん? 聖霊が運命の見定め、いい感じに調整してくれるってことかしら? 確かにそれは恵まれているかもね。つまりは、例えばアタシ達が関わるべきでない存在なら、アタシ達とあんたは自動的に出会わないように調整されるし、逆に良い出会いなら会うことになるというわけでしょう?」



 じゃあこれはある種の運命操作の力、魔法ってことか? ただの人間の先祖霊では魔法を使うことなど不可能なはずだが、聖霊化し力を向上させたなら魔法を使うことだって不可能じゃないはずだ。


 なんにしても、モイナガオンは独特な土地だ。聞きたいことは山程あるが、まずは彼らが最も大事にしているモノ、コーヒーについてよく知っていく必要があるか。



「そうそう、しばらくしたら嵐……あれ? え……あー何でもない。気にしないでくれ、何の話をしていたっけ? そうだコーヒー栽培について説明しなきゃだな! 説明するからついてきてくれ」



 なんだ……? 嵐? しばらくしたら嵐が起こるのか? グモンさんの様子がちょっと変だ。


でも嵐が来るとしたら早めにモイナガオンを出ていかないとな。ディアは滞在期間を伸ばすと言っていたが、予定を切り上げる必要が出てきたかも。何にせよディアお目当てのカフェを満喫してからじゃないとだな。


流石にカフェ行くぐらいの猶予はあるでしょ。流石にね。



◆◆◆



 ──ゴゴゴゴゴゴ!


 結論から言うとダメだった。俺とディアは予定通り、コーヒー農園の見学の後、エローラと共にカフェに来ていたのだが、その最中に嵐がやってきた。


それも、普通の嵐じゃない。



「なにこの嵐……バカでかい竜巻が、街を囲んでる? それなのに街の中での生活は普通に行えるなんて……まるで、あの嵐が中の人々を閉じ込めてるみたい。ちょ! ねぇ! どうすんのよ! これ嵐いつ終わんの!? あんた達に付き合ってたら、出られなくなっちゃたじゃない!」


「おいおい、俺達のせいにするなよ。エローラは休養に来てたんだろ? だったら元々しばらく滞在する予定だったんじゃないのか? まぁそれは俺達もだけど……困ったなぁ。これいつまで続くんだろ? 街の人達はなんか異常に落ち着いてるし、割とよくあることなのか?」


「確かに落ち着きすぎだね。じゃあお兄ちゃん! 街の人達に聞いて見ようよ。この嵐がどれぐらいで終わるか。慣れてるなら、分かるかも!」



 ディアの言う通りだな。俺達はカフェで出されたコーヒーとケーキをしっかりと堪能した後、カフェの店員さんに話しかける。



「この嵐っていつ頃終わるかってわかります?」


「……そうですね。まぁ1ヶ月ぐらいですかね? よくあることですから気にしないでください」


「い、一ヶ月!? 休養に来たエローラはともかく、俺達は流石にそこまで長居するつもりなかったのに……」



 俺達はどうやらこのモイナガオンに閉じ込められたらしい。


竜巻が街を覆っているのにも関わらず、太陽の光は降り注いでいる。


不可思議な嵐が、俺達に不穏な予感を抱かせた。





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