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水の壁、小さな違和感




「あんた達は休暇が目的でモイナガオンに来たって言ってたけど、やっぱアレ? カフェが目的? それとも気候が基本的に穏やかで平和だから?」


「え? ああ、実はディアがここに来たいって言うから来たんだ。ちょっと怒らせちゃって、そのご機嫌取りだ」



 俺とディアはモイナガオンの入口で出会ったエローラと共に昼食を取っている。彼女はエルフっぽいのだが、どうも普通のエルフとは違う気がする。


エルフは旅をしていると時々見かけるが、特別珍しい種族というわけではない。人間や獣人、魔族と比較すれば数は少ないが、人系種族が10人いれば一人はいるぐらいの規模だ。


 エローラもエルフも耳が長く、耳以外の見た目も似ているが……エローラはよく見ると、肌がほんの少し、淡く光っている。なんと表現すればいいのか、俺の感覚では擦りガラスの内側から光を当てたような感じだ。



「お兄ちゃん! そういうのは言っちゃダメでしょ? あーあ、わたしまたご機嫌ナナメになっちゃうな~これは休暇日もう一日追加で」


「はは、しょうがないな。悪かったよ。まぁ目当てはエローラの言った通りだよ。モイナガオンてなんかコーヒー栽培と料理、魔導建築で有名らしいじゃん? 平和でキレイで飯も美味くて、ゆったり穏やかに過ごせる。実際休暇目的に貴族や王族、冒険者がよく来るらしいな」


「お兄ちゃん、さっきから、らしいらしいって、あんまりモイナガオンについて自信なさげだね? あんまし興味なかった?」


「まぁ、ここはあんま遺跡とかもないし、争いも殆どなくて、歴史の動きも全然ないっぽいんだよな。だから歴史的な面から言うと、あまり興味は惹かれない。ただ、実際街を見てみると、少し興味が出てきたな」


「歴史? あんた歴史に興味があるの? 上級冒険者は迷宮や遺跡の調査もしっかりするってことかしら?」


「歴史は好きだけど、それはただの個人的な趣味だよ。俺は自称考古学者の上級冒険者で、一般的な冒険者的活動にはあまり興味がない。ただそんな俺でも、この街は楽しめそうだ。ほら、見てくれ」



 俺はレストランの壁を軽く叩く。するとレストランの白い壁が魔力反応し、赤く変色し、しばらくすると元の白い状態へと戻った。



「え? なにこれ……壁の色が変わった? 仕組みはともかく、なんでこんなことを」


「モイナガオンは魔導建築で有名、という話だったろ? このレストランに限らないが、この街の建築に使われている建材、これは一般的な建材とは全く異なるものだ。土や木のようなモノではない」


「ちょっとまって? どうしてその事に気がついたの? あんたもアタシと一緒で、この街に来たばかりでしょ?」



 俺を訝しんだエローラが困惑の表情を見せる。



「まぁ移動中に壁を叩いてたからすぐわかったよ?」


「いやなんで!? なんでそんなことしてんの!?」


「なんでって、そりゃぁ建材の素材が何かを調べるのに手っ取り早いだろ? 問題はなんでこの素材が使われているのか? この素材によって起こるこの反応はどんな意味があるのかだ」



 俺ってそんな変なことしてるかな? ディアの方を見るとディアも苦笑いしている。



「軽く叩いた感触から、俺が思うに、これは水と特殊な魔力を混ぜたものだ」


「え? 水と魔力? いやいやおかしいでしょ。だって水ならこんな壁みたいに形を保てない。氷ならまだ分かるけど冷たくもないし」


「じゃあ君も壁を軽く叩いてみたらいい。そしたら分かる」



 俺がそう言うとエローラとディアがレストランの壁を軽く叩いた。二人共壁を叩いた瞬間、表情を変える。してるしてる、困惑してる。だよなぁ、水の入った水袋を叩いたような、妙な感触なんだよな。



「確かに水っぽい感触だけど、だからと言って水とは限らないんじゃないの?」


「まぁそれはそうだけど、水っぽいなにか、なのは確かだろ? 街中の建築の素材がこれだと考えると、これを作るのに素材は大量に必要になるはず。変わった希少な素材であるなら、街中はムリだと思うんだ。だから俺はこれの原料の一つが水であると考えたんだ」


「なるほどね、でもモイナガオンの人はどうして水で建物を作ろうと思ったのかしら?」


「多分だけど、この小世界は水が多いとは言えない。この小世界の簡単な地図を見たが、川や湖は殆どない。なのに、ここはコーヒー豆の一大産地だ。コーヒー豆の栽培には大量の水を必要とするはずだが、モイナガオンは水に困っている印象がない。おかしな話だ」


「え? でもお兄ちゃん、水不足だというのなら建築の素材に水を使ったらもっと水不足になるんじゃ?」


「それはきっと逆なのさ、使える水を増やす為に、水を壁のように使っているんだよ。モイナガオンの建築は魔力によって水の通り道を作った。これらは全てコーヒーを栽培する為の水耕栽培のパイプだ。壁は叩かなくとも、触れれば色を赤く変える、これは俺達の持つ水分を吸って反応してるんだと思う。試しにこの水を壁にかけてみよう」


「お、お兄ちゃんちょっと!? ここレストランだよ!? ちょ、あぁ!?」



 あ、やべ……ディアが止める頃には、俺はコップの水を壁にかけてしまっていた。ディアの顔がぷく~っと膨れていく。



「あははは、あんた馬鹿じゃないの~?」



 エローラが俺を嘲笑う。



「ほら、見てくれ。俺達が壁を触った時よりも反応が強い、赤色が濃くなって、殆ど黒だ。かけられた水はその全てが、一滴も残らず壁に吸収された。やっぱりそうなんだ。少ない水をこうして集めているんだ。人々の生活の中で発生する水分のロスを極限まで無くしているんだ」


「そう言われると確かに、モイナガオンの空気はちょっと乾燥している気がするわ。空気の水分もこの壁が結構吸ってるのね。まぁでも体調が壊れるような極端な乾燥でもないし、むしろ快適な湿度かも」


「へぇ~じゃあ、この建材はきっと濾過装置の役割も持っているんだね。人から出る余分な水分、その全てってなると、汗だとか、アレとかソレも吸っちゃうわけで、それをそのままコーヒー栽培に使うとは思えないもん」


「ああ、ディアの言う通りだろうな。けどあれだな……もしこれが本当にコーヒー栽培の為にやっているとしたら、凄く極端な街だな。水に困っているなら、そもそもここはコーヒー栽培どころか農業には向かないはず。それなのに強引に実現してしまっている。どうしてそこまでの熱意があるのか、不思議だな。独特の思想、文化があるに違いない」



 ……本当に変な街だ。一見すると良い観光地なのだが、どうも不自然な感じがする。だがその不自然さを生み出す原因が見当たらない。


こういった地域特有の不自然さ、外れた環境には、大抵神々や、魔物が関わるものだが、モイナガオンではそういった話は聞かない。宗教も殆ど無宗教に近くて、ナイモ教というのが緩く信仰されている程度だ。


ナイモ教はこの世界では珍しく、神ではなく英霊、先祖霊を信仰する宗教らしい。人々の生活を中心に捉えた世俗的な傾向のある宗教……ただの先祖霊が、この街の変わった特性を生み出す程の原因となり得るだろうか?



「よし! ディア! 明日はコーヒー農園を見に行こうぜ!!」


「お兄ちゃん、自分が調べたいだけでしょ~? お仕事をしないから休暇なんだよ?」


「金にならないから、趣味みたいなもの、仕事じゃないよ! あー、自分で言ってて悲しくなってきた……だ、ダメ?」


「いいよ。あ、そうだエローラさんも一緒にコーヒー農園見に行かない? お兄ちゃんはこうなっちゃうと、わたしの相手なんて二の次だし、話し相手が欲しいなぁーって」


「え……? いいの? アタシ、そんな面白い話とかできないよ? 拠点にしてた街を追放されるような奴だけど、いいの?」



 ん? 拠点にしてた街を追い出された? そうなの? エローラってもしかして、結構問題児だったのか? 確かに癖はありそうだけど、悪い人には見えないぞ?



「そんなの気にしないよ。今だって普通に話せてるでしょ? もしわたしがエローラさんのことが嫌になったら、その時に離れればいい。それだけでしょ?」



 ディアは人懐っこいのかドライなのか、よく分からないな。俺以外への割り切り方が凄い……まるで二重人格だ。さっきまで笑顔でニコニコしていた人が一瞬にして殺人鬼に変貌する、そんなホラーサスペンス的なエッセンスを感じる……



 ともあれ、俺達三人は翌日、コーヒー農園を見学することになった。許可が降りるかどうか不明だが、そこは旅で培った交渉力の出番だな。





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