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硝子のエルフ

新登場のキャラクター視点です。



「お、おおお、おれと付き合ってくれぇーー! エローラ!!」


「キモイ、ムリ、死ね」



 やれやれ、またこれか。同じパーティーで活動する男がアタシに告白してきた。いつも通り二秒で断る。



「あ、あおぉん! 分かってた。分かってたし……なんて酷い断り方だ……だけどそれもいい。なんでだろう……なぜだかオトクな気分だ」



 理解不能、としか言いようがないわ。できるだけ恋愛感情を持たれないように、言葉を選び、嫌われるように徹底して生きてきたのに、新たなパーティーに入ると、しばらくしてこうなってしまう。


また次のパーティーを探さなければいけない。慣れてはいるけど、面倒なのよね。そう思いつつも、アタシはそのままギルドへと向かった。



「おいエローラのヤツ、また男を振ったらしいぞ? あいつ、恋愛をしたことがないって噂、本当なのかな? アレに挑む男共も無謀だが、まぁ……気持ちは分からなくもねぇ」


「ふん、なによ! ちょっと見た目がいいからって調子乗りすぎよあの女! 硝子のエルフだかなんだか知らないけど、あいつはきっと女が好きなのよ。だって男には酷い対応だけど、女には普通の話し方、もしかして……あたし、狙われてるっ!?」



 アタシが聞いているとも知らず、勝手な話で盛り上がる低俗な冒険者達、いつも通りの日常だけど、アタシにも看過できない事がある。



「誰が、誰を狙ってるっていうの?」


「え、エローラ!?」



 はぁ? 何この女? さっきまでアタシの悪口を言っていた癖に、なんだか期待するような目で、アタシを見ている。頬は紅潮していて、心音が聞こえてくる。


こんな音、聞きたくもない。今はエルフのよく聴こえる耳が恨めしい。



「アタシは男にも女にも興味がない。特に、こんな下世話で低俗な愚か者には興味を抱くのは不可能よ。どれだけ自惚れることができれば、アタシがあんたを好きになると思えるのか……仮にアタシが女もいける口だとして、あんたみたいな見た目も性格もブスな女、選ぶわけがない。理解したら二度と、アタシの事を口にするな。殺すわよ?」



「え、あ……!? ちょ、えぇ……? そんな、そこまで言うことないじゃないぃ!」



 冒険者の女が泣いた。泣けば許されるとでも思っているのかしら? 許し、なんて違うか……女の周りを見れば分かる。女の周囲の男達は女に同情の目線を向けている。


ふふふ、これは悪くない。男共に嫌われるために態々嫌味を言う必要がなくなった。



◆◆◆




「エローラ、悪いがゴラントルの街を出ていってくれ。お前は優秀だし、根は悪いやつじゃないと分かってる。だが、もうお前を庇いきれん……どうして、お前は……あれほどまでに、男に辛く当たる。まぁ振られた男達はお前を庇っていはいるが……お前がいるとギルドの雰囲気が最悪になってしまう……過剰な緊張感というか、ピリつきというかな」



 今活動拠点にしているゴラントルの街、その冒険者ギルドの支部長に追放を言い渡された。


そんな……嘘……え? アタシ追放されるの? これまで何百年と冒険者をやってきたけれど、追放されるのなんて初めてなんだけど……


あれ? そういえばアタシ……いつも自分から居心地が悪くなったら拠点を自分で変えてたから……こんなに一箇所の拠点に留まることがなかったんだ……



「え……? そんな、出ていかないとダメなの……? 出て行きたくないんだけれど……だってここ住みやすいし、自然も適度にあって、音楽祭もいっぱいあって、あと300年ぐらいは居たかったんだけど……」


「エローラお前なぁ? お前だけやりたい放題やって、お咎めなしってわけにはいかねぇよ。お前が態度を改めるというのなら、猶予を設け様子見してもいいが……というか、ワシの質問にちゃんと答えろ? エローラ、お前の行動にはなんの意味がある? 何か理由があるんだろう?」


「……アタシは、硝子のエルフだから……恋愛はできない。だから男を遠ざける為に、ああいった行動を取っているのよ。アタシには夢があるから、恋愛はできない」


「……硝子のエルフだから、か……種族の特性故と言われれば深くは追求することもできんな。だが夢、夢はいいだろう? 最後に教えてくれないか?」



 最後、最後って言った? ああ、終わった……もう支部長の中でアタシの追放は決定事項になったみたいね……



「わかった、最後に教えてあげるわ。アタシの夢はね、魔法を使うこと」


「魔法を使うこと? いやいや、何言ってるんだエローラ、お前は硝子のエルフで、魔法も使えるはずだろう? というか実際、討伐依頼でも魔法を使っているだろう?」


「あんな魔法、偽物よ。アタシのだけじゃない、世界にある殆ど全ての魔法は偽物。アタシはね、本物の、最高の魔法を使えるようになりたいの。ううん、使えなくてもいい、もう一度見てみたいの。だからずっとアタシは旅をしてきた、ずっと探してきた。じゃあね支部長、今まで世話になったわ」



 こうしてアタシはゴラントルの街を追放された。アタシが今まで住んできた中で最高の居心地だった街、10年住んでいた、愛着のある街。


また新しい、いい街を探せばいい、そう自分にいくら言い聞かせても、気がつくと涙が溢れた。どうやらアタシは相当あの街を気に入っていたらしい。


 はぁ……もうダメだわ。こんな精神状態ではまともに冒険なんてできるわけもない。ちょっと精神療養でもしようかな……そういえば、そういうのでいい街があるって聞いたな。確か──



◆◆◆



「そんな馬鹿なッ!? こんなにも美しい女性が存在するのですか!? 是非とも僕と結婚を前提にお付き合い頂きたいッ!!」


「キモイ、ムリ、死ね。出会って数秒でその言葉が出るような、脊髄反射の下等生物はミミズとでも結婚しているがいいわ。きっとミミズもお前の見苦しい巻き髪を同族と認識してくれるでしょうよ」


「ゴハアアアアアアアアアアア!!? オウエエエエエッ!?」



 精神療養にやってきた街に入ってすぐ、キモイ男に求婚される。アタシも精神状態がよろしくないとはいえ、当たるような言い方になってしまった。良くないわ、ホント……キモ男とはいえ、まさか吐くほどダメージを受けるとは思ってなかった……



「ヌ!? ぬぬぬぬッ!? ぬわああ!? そんな馬鹿なッ!? 世界最高の美女に振られたと思ったら……それに並ぶ美しい女性が現れるなんて!? こんなの夢だ! そこの白髪のお嬢さん!! 僕と結婚して頂きたい!! あ、そうか! これが夢ならば、ふへ、ふへへへ! 夢だから絶対結婚だね!! よーし、僕のお家に行こうネ~!!」



 キモ男が急に復活した。美女が現れた? アタシも流石に状況が気になって振り返ってみる。



「ごめんなさい! わたし、心に決めた人がいるのでムリです! ちなみに、それ以上近づいたら暴力で抵抗するので、そこの所、ご了承くださいね~?」


「いやディア、お前の暴力で抵抗したらシャレにならないって……俺が代わりにやっておくから、お前が動くなよ?」



 ──ドス。



 キモ男が少し日に焼けた優男に腹を殴られて気絶した。どうやらこの優男はキモ男の言っていた美女の連れらしい。


 それにしても……この美女、というか美少女? 本当に可愛い、綺麗だわ! でもなんだか、違和感があるわね。確かに美しいのだけれど、人間味を感じないというか……



「よし、回復薬使っとくか。ヤバイ奴だったけど、二連続で振られて、そのうえ殴られて気絶だなんてちょっと可哀想だ」



 え? こいつ、マジ? あんなキモイのに同情して、高級ポーションまで使うなんて……


「お兄ちゃん! そんなのに高級ポーション使ったらダメだよ! それ高いんだよ!?」


「だってさ、もしかたしたら、こいつがおかしかったのも、本当に頭がおかしかったのかもしれないだろ? 高級ポーションならば、それを治すことができるかもしれない!!」



 なんという論理展開、この優男、ただの優男じゃないわ。変人の優男……服装を見るに冒険者……って、え? あの腕輪って、上級冒険者の証!? え!? こいつ、上級冒険者なの!? こんな若いのに!?



「う、う~ん。あれ僕はいったい……」


「お、目が覚めたみたいだ。どうだ、正気に戻ったか? 美女を見ると求婚してしまうのは治ったか?」


「美女を見ると求婚……ってああああああ!? ぼ、ぼぼぼ、僕はなんてことを! 先程は失礼いたしました!! ん、あれ? 待って、美女を見ても、脳がグワーーっとならないぞ? まさか、治った? うわああああああ!! なんで!?」


「──ブゥゥーーーーッ!?」



 嘘でしょ!? あのキモ男、優男の推測通り、高級ポーションで正気に戻ったんですけどッ!? 驚き過ぎて、思わず吹き出してしまったわ……



「うわ、汚な……エルフもこんな汚いことするんだな。貴重な体験だメモしておこう」


「メモするな馬鹿ぁーーーッ!!」


「ダメだった? 分かったやめるよ。俺はジャンダルーム・アルピウス。こっちは妹のディア、ディーアームだ。あんたは? 見た所俺達と同じ冒険者のようだけど」



 え……? この流れでさらっと自己紹介の流れにされている? この優男、マイペース過ぎない?



「アタシはエローラ・クロト、中級冒険者よ。ここには、モイナガオンには休養で来たんだけど、ここら辺の地理は詳しくないのよね。あんた達は詳しかったりする?」


「あーあんたも、休みにここへ来てたのか。俺達は休暇の為にここに来てね、来るのは初めてだよ。だから俺達も全然モイナガオンに詳しくないんだ。役に立てなくてすまんね……まぁでもこれも何かの縁だ、一緒に食事でもどうだ? これからディアと一緒に食事する予定だったんだ」


「え? まぁいいけど。アタシに色目は使わないことね」


「は? エルフってみんな君にみたいに自意識過剰なのか?」


「はぁ!? アタシは自意識過剰じゃないですけどッ! 実際、男どもがすぐにアタシに惚れちゃうだけだし!!」



 あ、アタシ、なんてこと言ってんの? は、恥ずかしくなってきた。



「なるほど、そりゃ大変だな。じゃあもし俺が、あんたのことを好きになったとしても、気に病む必要はない。思いっきり振ってくれ。どうだ? これで安心して一緒に食事ができるだろ? なー、さっさと行こうぜ? もう俺、腹減ってしょうがないんだよ……」



 第一印象は変な優男だった。話してみても、やっぱり変な奴だった。アタシはいつの間にか、流れのままに、この冒険者二人組と一緒に食事をしていた。


いつもなら、食事に誘われた時点で断っていたし、仮に食事をするとしても、警戒を解くことはない。


けれど、不思議な事に、アタシはこの男への警戒心を失っていた。アタシはその事に後で気がついた。


宿で一人、眠ろうとした時に、気がついた。


アタシは驚いて、ベッドから転げ落ちた。





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