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編纂、エドナイルの書



「本当に! ありがとう! この御恩は一生忘れない!!」


「ちょ、そんな頭下げなくても、あんたは不幸に巻き込まれただけだ」


「それでも言わずには居られない。ジャンダルームさん、あんたのおかげで、俺は息子と妻にまた会うことができたんだ!」



 エドナの図書館で調べ物をしに向かっていた所で、俺は例の憲兵隊長に出会った。そう、俺の暗殺未遂の犯人として、濡れ衣を着せられた人だ。


さっきからずっと、憲兵隊長は俺に頭を下げっぱなしで、どうしたもんかなと……



「本当にありがとうございます! この事はずっと、語り継いでいきます。私達の息子、そのまた子供達に」



 憲兵隊長の奥さんもまだ生まれたばかりの赤ん坊を抱きながら、俺に頭を下げる。



「そっか、じゃあそうだな。俺への感謝は、これからのエドナイルを支えることになるハルポンとミュシャ、そしてマダルガさん、あいつらを支えることで示してくれ。俺はもうすぐエドナイルから旅立つ、球境を超える、どっち方面に行くかはまだ決めてないが」


「分かりました! 全力でこの国の未来を支えていくことを誓います! あなたと、レーラルーム神に!」



 俺達とヘルドルムの対決からすでに2週間が経とうとしていた。俺はその間、ほとんどエドナの図書館とエドナイル各地の古代遺跡に住んでいたようなものだ。


その甲斐あって、俺はエドナイルの歴史を大雑把に纏めた本を書くことができた。まぁ、出来としてはあまり立派とは言えないが……エドナイルの真の歴史、その大筋を纏められたことは満足だ。


 歴史の真実を公開してもいい、というのがエドナイル新政府の方針で、俺はありのままを書くことを許されたのだ。


俺が書いたこの本の歴史、これを軸にエドナイルの歴史学者達が、詳細な情報を書き足していくことになるらしい。この俺が書いた本は、客観的な歴史的事実のみを纏めたもので、読み物としては味気ないものだ。できるだけ感傷的な文、憶測は排除してある。だから抜けた情報も多い。


 俺はそれにもやっとしたので、それとは別に自分が排除した部分を濃縮して一冊の本を書いた。主人公のモデルをマダルガとダガーランとしたフィクション、小説だ。モデルの一人であるマダルガは存命であったし、彼は俺のインタビューに協力的だったので、いろんな事を知ることができた。


俺は、ダガーランを評価している。彼は確かにジーネドレと、ヘルドルムと繋がっていた。けれども彼のやってきたことを見てみると、彼が、裏切り者として活動する中、ギリギリまで抗っていたこと、ジーネドレへの反撃の準備のため、牙を砥いでいたことが分かった。


例えば、俺達がヘルドルムと対決していた時、ヘルドルムの使う魔柱に干渉することで、ヘルドルムの狙いを妨げようとしたことが挙げられる。他には、ジーネドレへ送る砂魔石の供給量を減らしたり、ジーネドレと距離の近い、反政府勢力の情報を密かに纏めていたりといったことだ。


 後に判明したことだが、砂魔石集積場でヘルドルムの魔術の生贄となっていた者達は、この反政府勢力の情報を纏めたリストからピックアップされており、実質的にダガーランが選んだ者達だった。リストには彼らが行ってきた悪行と、その詳細を纏めた資料の保管場所等が記されていた。


このリストによってエドナイル新政府は、生贄となった者達以外の、腐敗に加担していた者たちを一掃することに成功した。一掃と言っても死刑とかになったわけじゃない。商売の自由と、身分を剥奪されたに留まっている。


エドナイルは復興のために多くの人材を必要としてる。その為、リストにあった者で罪状の軽い者、人格が比較的まともな者を、労働力として活用することを選んだ。


 とまぁ、ダガーランは死後も活躍し続けている。だが、彼がいくら本心ではエドナイルの為に行動していたとしても、彼がマダルガの代わりに、その罪、泥を被った事実は変わらない。


だから表立って、彼の功績を称賛することはできない。彼はジーネドレにとっても、エドナイルにとっても、裏切り者なのだ。


だけど、それでは寂しい。俺はそう思ったから、マダルガとダガーランの小説を書いた。いつか、俺の本を読んで、ダガーランのことを思い出した者が、彼の正当な評価をしてくれたらという願いを込めて。いつかの未来、ダガーランへの憎しみが、この国から消えた時、それはきっと叶うだろう。




「もう、行っちゃうんですね。ジャンダルームさん……寂しいです。ありがとう、あなたがいなければきっと、レーラルーム神は、僕達の元へ帰ってきてはくれなかったと思う。もしも、他の解決策があったとして、もしも他の英雄がいたとしても、あなたの齎した結果には届かない。国が滅ぶか、人々の多くが死ぬか、神が消えてしまうか、きっと僕達は失うはずだった」


「えぐ、ぐす……ジャンおにーちゃんもういっちゃうの?」



 エドナイルを旅立つ、その日がやってきた。俺達は誰に何を伝えるでもなく、静かにこの場所を去ろうと考えていたけれど、それは無理だった。


俺は、この国の奴らと仲良くなり過ぎた。俺がどんなヤツで、どうするかなんて、バレバレだったらしい。ハルポンとミュシャ、それだけじゃない。今までエドナイルで関わったすべての人が、エドナイルを旅立つ俺達を、送り出そうとやってきた。



「おう、あんまり長居し過ぎると、旅立ちが難しくなるからな。ここは居心地がいい、だから俺が冒険者でなくなってしまう前に、ここを旅立つのさ。それはそうとハルポン、お前、どうして砂船の操舵と、漁が上手かったんだ?」


「あーそれはですね! ナイルドッポ家の男は15になるまでの間、ひたすらにそれらの修練をするんです。船と漁、それと農業、これができなきゃナイルドッポの男としては認められない。理由はよく分かんなかったんですが、今となってはなんとなく分かります。そうだ、ジャンさん達はこれからどこへ旅立つ予定なんです?」


「ふっふ~、実はモイナガオンに行くんですよ!」



 ディアが嬉しそうに、ニコニコ笑顔でハルポンに答える。そう、この旅先を決めたのはディアなのだ。


俺は無茶をして、その償いのためにディアと約束をした。事が終わったら、わたしの言うことを聞いてもらう。そんな約束で、俺とディアはモイナガオンに行くことになった。


モイナガオンはコーヒーで有名なリゾート地で、そこには世界でも有数なおしゃれカフェが沢山あるらしい。ディアはそこでのデート、がご所望らしいのだ。つまり、次の目的地は俺の歴史探求が目的ではない。ディアとの約束を果たすため、そして休暇の為だ。



「モイナガオンへ? あーなるほど、だからこちらの球境へ来たんですね。こっちからなら、2つ球境を超えればモイナガオンですからね」



 球境、それはこの世界にある独特の理、世界の仕組みだ。この世界はいくつもの球が繋がってできている。球で地球儀を作るかの様に。


球が集まって出来た球、この一つの大きな球を構成する、小さな球、この小さな球の一つ一つに異なる世界がある。この小さな球の内部に広がる世界は、球によってマチマチだが、だいたい小国が3つぐらいの広さだ。


 小さな球を小世界、大きな球、つまりは世界全体を大世界と呼ぶ。そしてこの小世界を移動する時、この世界の特異性を垣間見ることができる。小世界は小さな球体である。その為、その境界も球面となる。小世界の最果てはこの球面と繋がっており、この球面に触れると、触れた存在は球面を滑るように落ちていき、穴のような通路に落ちる。


この穴の通路の行先は特定の小世界に固定されており、球境と呼ばれる。球境は小世界にいくつか存在し、大抵は別々の小世界へと繋がってるが、どちらにせよ、それぞれが繋がる場所は固定されている。


 俺が元いた前世の世界は船や飛行機である程度自由に国々を行き来できたが、この世界はそうはいかないってことだ。国から国へ、特定のルートでしか移動できない。だからこの世界は、まるで迷路のように複雑で、様々な文化、特異性が保持される。


このような世界では戦争による侵略、文化の破壊には限界がある。ルートが固定されていては、防衛も容易く、防衛側が有利となるし、移動の自由度も低い為、戦線拡大のスピードも緩やかだ。



「よし! じゃあみんな! またいつか! エドナイルは最高だった! でもきっと、これからの未来が、本当の最高だって俺には分かる。頑張れよ!」



 俺はそう言って、ディアと手を繋ぎ、エドナからほど近い球境へと飛び込んだ。飛び込んですぐ、エドナイルのみんなの顔は見えなくなった。透明な空間に虹色の光がプカプカと浮かぶ空間、そこをまるでウォータースライダーかのように滑っていく。


不思議な浮遊感を感じて、少し経つと、俺達は完全に浮いた。球境の終わりがやってきたんだ。ご丁寧な事に、球境はその道が終わる時、地面とぶつからないように通過した者を浮かせるのだ。浮いている間に足を地面につけたなら、そこはもう、新しい世界だ。



「え~っと? 今度は東方面か、東が北と繋がったり、ややこしい世界だよほんと」



 俺達はすぐに移動を始める。目的地であるモイナガオンへと続く球境を目指す為に。





今回でエドナイル編は完結! 次の舞台はモイナガオンとなります。



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