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新たな英雄



「ふぁ~あ……って、うわッ!」


「ふふ、びっくりした? 今日もきっかり8時間睡眠だね、お兄ちゃん」



 目が覚めて、眼の前に目、ほんと数センチぐらいのスペースしかない。俺はびっくりして飛び起きる。



「まったく、ディア……びっくりするだろ」


「はははは、短期間で二回も死にかける兄には可愛い薬だと、オレは思うけどなぁ? ねぇディーアームくん? 宣言通り、オレの介入なしでどうにかしたね。よくやった」


「お、オードス!? お前までここに……っ! あ!? ちょ! あぁ!?」



 オードスに俺の目覚めの一部始終を見られた……は、恥ずかしい……



「あんな大事になったんだから、ちょっとは助けてくれてもいいと思うんだけどなぁ」


「おいおい、オレが介入したら全部茶番になってしまうだろ? それに、オレが介入するよりも、良い結果になった。オレじゃあ、エドナイルを本当の意味で救うことは無理だったね。それにしても……ジャンダルームくん、君もとうとう英雄の仲間入りだね」


「は? 英雄? 俺が? ないないないない、何言ってんだよ。凄いのは全部ディアだし、俺はハルポンをレーラ神、レーラルーム神の所へ導いただけだ」


「あはは! お兄ちゃんは寝てたから全然知らないんだね! 聞こえない? 今は街中お祭り騒ぎだよ? ハルポンさん、謙虚だから、今回エドナイルが助かったのはお兄ちゃんのおかげだーって、レーラルーム神もそれに同調して、だから英雄だよ?」



 耳を澄ましてみる。


確かになんだか外が騒がしいな。ていうかこの部屋、今気づいたけど、冒険者ギルドの職員宿舎か。俺は窓を開けて様子を見てみる。



「おおおおお! 英雄殿が目を覚ましたぞ!!」


「おおお!! ジャンさーん! あんた凄いヤツだったんだなー!」



 俺が窓から顔を出して騒ぎは大きくなる。ってあれ? あそこにいるのは、セピアか……? 砂魔石取りの若者、そのリーダーだ。よく見れば、セピアの周りには漁師のおっちゃん達、ゴストンとその仲間たちがいる。



「なんだか、みんな元気そうだな。あれだけのことがあったわけだし、これからどうなることやらって、俺は思ったんだけど」


「ああ、それなら意外となんとかなりそうですよ。ジャンさん」


「ジャンのおにーちゃんおはよー!」


「ハルポン! ミュシャ! あれ……? なんか、お前ら、身なりが……」



 いつの間にかハルポンとミュシャが部屋に入ってきていた。それにしても……ハルポンもミュシャも、めっちゃ上等な服を着てて、なんだか違和感がある。


そうか……こいつらは、みんなから認められたってことか、この国の王と巫女として。けど、そんな簡単に受け入れられるものなのか? レーラルーム神の後押しがあれば、いけるか?



「実は僕は、普通の王はやらないことにしたんです。ほら、僕は治世のやり方なんて分かんないし、できる気もしない。だから王の実務の方は、引き続きマダルガ王……マダルガさんに任せることにしたんです」


「え? 待ってくれ、お前達がみんなに認められたってことは、マダルガ王が、偽物の王だったってことはバレてるんだろ? よくそれで認められたな」


「勿論反対する人はいますよ。でも、僕達がヘルドルムと戦ってた時、人々の祈りと願いが僕達を助けて、レーラルーム神の力を復活させたでしょう? あの時、エドナの街でマダルガさんが、みんなをまとめてくれたみたいで。きっと、彼がいなければ、状況は今より悪かったはずで。だから……僕が彼に引き続き政治の代表をやってもらいたいって、提案したんです」


「なるほど、そうだったのか。まぁ実際、エドナイルはこれから大変だろうし、事をスムーズに運ぶなら、現状の政治体制を全部壊すってのは愚策だよな」



 今のエドナイルの状況は不安定だ。砂の巨神となったヘルドルムによってエドナイルの建物の多くが被害を受けている。


砂の大地が急に引っ剥がされた影響で、一部で地盤沈下が発生したんだ。単純に大質量の砂が衝突してっていうのもあるだろう。


 政治の面でも、マダルガ王が偽の王家であること、ダガーラン家がジーネドレ帝国の手先であったことが明らかとなり、確か……砂魔石の集積場で、生贄にされてた官僚だとかもいたはず……集積場はヘルドルムの魔柱が突っ込んで、全滅だよな。


レーラルーム神の魔法板に書かれていた情報では、あの生贄に使われた人々は、自分のことしか考えない人間とあったが……それってつまりは、今までジーネドレ側と癒着していた悪徳官僚だとか、そういう奴らだよな。


となると、もしかしてジーネドレ帝国からの影響は、もう殆どないのか?



「ハルポンおにーちゃんがお祈りの王様で、マダルガ様がせーじ? のだいひょーをやるんだって~」


「お祈りの王様? ああ、そうか、信仰を司る宗教王ってことか。政治はマダルガ、信仰はハルポンと、力を分けて管理するのか。そこからさらに、巫女とレーラルーム神というお目付け役がいる。人と神、それを繋ぐ王ってところか。確かにこれなら、なんとかなりそうか。レーラルーム神も魔法使いの魔力結晶を取り込んでパワーアップしたわけだし」



 ──なでなで。



「うん?」



 なんか俺、撫でられてる? 後ろを振り返って見ると──



「あ、はは。どうも」



 そこにはレーラルーム神がいた。窓の縁には砂が少し落ちていて、彼女が窓から入ってきたことが分かる。


俺がぎこちない笑顔を見せても、彼女は俺の頭を撫でるのを一向にやめようとしない。



『よしよし、よしよし。ありがとうジャンダルーム、あなたには感謝してもしきれません』


「いやそれはこちらこそ。あなたがヘルドルムが俺へ掛けた呪いをどうにかしてくれたんでしょう?」


『ええ、あれは死の呪いでした。普通に防ぐのは無理だったので、あなたの体質を変化させました』


「え? 体質の変化ってどういう?」


『私は神として再誕したわけですが、それは同時に強大なエネルギーを生み出しました。それを使って、あなたを魔人にしました』


「え? ええええええええええ!?」


「ブッふゥゥゥゥッ!? れれ、レーラ様!? 魔人って、そんな大丈夫なんですか!?」



 ま、魔人? 俺が……? ランプの精かな? 確かにエドナイルも砂漠だけども……ていうか、この世界の魔人って、何? 魔人の資料とか殆どないから、全然知らないぞ?


というかハルポンにもレーラルーム神の言葉が分かるのか。確かにただの共通語でレーラルーム神は喋っている……魔力結晶を取り込んで、普通の人間にも言葉を伝える手段を得たってことか。まぁ言葉と言っても、心に直接響くような感じだから、不思議な感じだが。



『申し訳ありません。ですがあの時、あなたの命を救うにはそれしか方法がなかったのです。魔人は呪いと精神魔法への強い耐性を持つ、半魔法生命体です。本来は神の分け身を得ることで、人は魔人へと至るのですが、今回は少し事情が特殊です』


「事情が特殊と言うと?」


『はい、本来は神の分け身を与えるのだから、そこには強い結びつきが生まれ、その神の眷属として従属関係が生まれます。ですが、あなたは違います。あなたは私の再誕によって生じた誰のものでもない、純粋な神のエネルギーで魔人となった。言うなれば、名もなき神の魔人、自由の魔人です。旅人であるあなたに相応しい形です。あなたをこの地に縛り付けないで済んでよかった。私個人としては、ずっと残ってほしくもあるのですが、それはあなたの望みではないでしょう?』



 名もなき神の魔人……なんか、カッコイイぞ? え? 俺が? へへへ、いやーマジか。エドナイルを救った英雄にして、名もなき神の魔人! でも魔人になったデメリットとかってないのかな?



「はい! これが最上かと!! そのレーラルーム様、俺は魔人となったわけですが、それによって何か気をつける、注意点とかはあったりするでしょうか?」


『特ににはありませんよ? ほら歴史上の英雄達の多くは魔人でしょう? 神の分け身を与えられて、力を発揮しているのですから。あーそうですね、そう考えると、気をつけなければならないことがありますね。魔人化すると、その者を構成する属性が強化されます。これは魔法的な事だけでなく、性格や癖だとかも含みます。例えばジャンダルーム、あなたはギャンブルが好きですが下手ですよね? それがもっと極端になるでしょうね』



 え……? まって……さらっと英雄の多くは魔人だって言ってるけどそうなの? これとんでもない事実では? 英雄が神の力を借りて~とかそういう話は多いけど、まさか肉体レベルで神に従属する存在になってたなんて……


 それに……今までも俺はギャンブルが下手だったのに、これからはもっと勝てなくなるってこと……? でも、ギャンブル好きの特性が強化されたってことは……今までよりもギャンブルしたくなっちゃうってこと……? お、終わりじゃねーか!!



「ディア!! これからは金は全部お前が受け取ってくれよ? 俺に金を渡したら終わりだ!! いいか? 絶対だからな!?」


「ははは、まぁジャンさんは連敗の魔術師ですもんね~? そうすべきでしょうね」



 クソッ! ハルポンのヤツ他人事だと思って笑いすぎだろ!!



「大丈夫だよお兄ちゃん。例え一文無しになって借金を抱えても、わたしはお兄ちゃんを見捨てないからね?」


「やれやれ、これ以上に雑魚になるのは見ていられないからね。オレがジャンダルームくんにギャンブルのコツを仕込んでやるとしよう。そうと決まれば今夜は賭場だ!」


「いや俺金ないよオードス! 前に負けすぎたせいで文無しだ」


「なーに、連敗の英雄様がギャンブルをしたいって言えば、みんな寄付してくれるさ。特に賭場の関係者はね?」



 オードスがニヤリと笑う。そりゃあ、寄付してくれるだろうな……賭場の奴らは。店主も酒場のネーチャンも博徒も、俺に寄付した分はすぐに自分へ返ってくると決めつけて、俺に寄付することだろう。


まぁいいか、何も絶対に俺が負けると決まっているわけじゃない。むしろ、俺のことを舐めてくれる分、勝ちやすくなるってもんだ。


しかし、この流れでノータイムでギャンブルに誘うオードス……こいつ……悪魔だろ。



 そう思いつつ、俺は夜の賭場へと向かった。オードスの言った通り、俺への寄付はすぐに、それも大量に集まった。オードスがまくし立てるのが上手いってのもあるだろう。


そして──当然のように俺は負けた。



 だけど、賭場の奴らは優しかった。



「英雄様の手が寂しいんじゃ、カッコがつかねぇ、な! もってけよ!」



 俺は負けたが、賭場の奴らは俺から得た金──元は自分たちの金で、俺に色々お土産を持たせてくれた。蜜サボテンから酒、服、そしてモータルカードのデッキ。


俺の心は複雑怪奇だった。自分のあまりの弱さに呆れ、哀れみに傷つき、思い遣る心には穏やさを……


いつの間にか、俺は泣いていた。



「一回ぐらい勝ちたかったなぁ……」


「ギャハハハハハ!!! 泣くことないじゃんか!! ククク、アハハハハ!」



 オードスの下品な笑い声がエドナイルの夜に響いた。馬鹿みたいに俺の背中を叩くオードスに殺意を抱いたのは、言うまでもない。





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