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追い詰められた獣、砂の巨神



「まさか、本当にゴーレムドラゴンを倒してしまうなんて……ディアさんとジャンさんがあれを倒しに行くって言った時は、内心無理だろうって思ってました。僕ら、めっちゃ足引っ張ってたんですね……」



 俺とディアはハルポンとミュシャを回収し、砂船に乗ってエドナの街へと移動している。砂船を操舵しているのはハルポンだが、こいつが船の取り扱い、上手いんだなぁ。


砂船で漁をしてた漁師たちよりも上手い、ようにみえる……砂船を操るのが本業でないはずのハルポンがどうしてこんなスキルを持っているのか疑問だが、とにかく彼の運転は早く精確で、繊細だ。揺れが少なくて、乗り心地が良い。



「いやぁ、正直負けるところだったんだけど。色々あってなんとか勝てたんだ。どれもこれもディアの……ディアとジーネ? だったけ、のおかげ……ってあれ? ジーネはどこ行ったんだ? いつの間にか居なくなってたけど……」


「ジーネがどこに行ったかは知らないけど、あの子はあの子でやることがあるんだよ。いつも忙しくしてる子だから、今はもう次の仕事をしてるんじゃないかな」



 ディアとジーネは元を辿れば伊豆宮ミヤコという一人の少女で、同一人物から分化した存在らしいけど……見た目も性格も結構違う気がする。


なんというか、こう……ジーネの性格は例えるなら委員長とか、学年代表って感じの、しっかり者の、優等生オーラがある。


 ディアの方はなんだろう……結構しっかりした子だと思ってたけど、ジーネとのやり取りや過去の話を聞くに、ディアは元々は結構我儘っぽいんだよな。それを抑えて、我慢してた。


その一方でミュシャを気遣う優しさや、人懐っこさがある……でも、伊豆宮ミヤコは人嫌いで友達もいなかったっぽいんだよな。そこはディアと乖離がある……でもジーネはディアがオリジナルである伊豆宮ミヤコに一番近いと言っていた。


何をもってミヤコに一番近いのか、それはわからないが……なぜだか、性格や見た目の異なるディアとジーネが元は同一の存在であるということに納得できてしまう自分がいる。


上手く言語化ができないけれど、なんとなく感じる人が持つ根本的な雰囲気? 気質? のようなものが同一な感じがする。もしかすると、俺が感じるそれこそが、人の魂ってことなのかもな。



 ──こんな感じで、俺が考え事をしたり、これからの行動指針についてハルポン達に説明していると、俺達は砂船の目的地である、砂魔石の集積場に辿り着いた。



「なっ、ば、馬鹿な……どうしてお前達がここに、どこから情報が漏れた、情報統制は命じたはずだぞ!! まさか、マダルガ王が裏切ったか?」



 これがエドナイルの裏で暗躍していた魔法使い、ローガン・ヘルドルム。青年というか、ほぼ少年の見た目だな。一般的なよくあるローブを纏っていて、これじゃあ誰もこいつがヤバい魔法使いだなんて気づかないだろうな。



「お前がここに居ることを俺達が知っているのは、マダルガ王のせいじゃないぜ、ヘルドルム」


「なっ、ワタクシの名前まで……っ」


「お前がエドナイルから素直に手を引き、二度とこの地に関わらないのなら、俺達はお前と戦わない。俺達に敵わないことは、もう分かってるはずだ」



 俺達は王の神殿の秘密の部屋、王の間で現王マダルガの魔法板を見ていた。その魔法板にはリアルタイムでマダルガ王の行動、そして心情が書き記されていた。


だから分かった。この敵の魔法使いの名がローガン・ヘルドルムである事、そしてヘルドルムがこの砂魔石集積場にて、大量の砂魔石と人々を生贄に強大な魔術、あるいは魔法を使おうとしていることを知った。


だから俺達はゴーレムドラゴンへと挑み、それを倒し、ここまでやってきた。この男の企みを阻止する為だ。


が……その企みが何なのか、肝心のそこが分からない。不安要素はあるけど、他に手かがりもないし、ここに来るしかなかった。直接ヘルドルムを叩けばどうにかなるだろうという単純思考だ。



「は、ははは! 素直に手を引けば戦わない? 嘘だ、ありえませんね! そう言って、騙し討をするつもりなんでしょう? だって、あれだけの圧倒的な力を持つあなた達が、ワタクシに譲歩する理由など何一つ存在しないのだからねェッ! 魔法使いを殺せば、魔法使いの体内で育った魔力結晶が手に入る。それを使えば、あなたは新たな魔法使いになれる。そんなチャンスを逃す者などいるはずがないッ!」



 魔法使いを殺すと、新たな魔法使いとなる資格を得る。そんな伝説を俺も聞いたことがある。そうか……魔法使いの体内には魔力結晶が……魔力結晶を取り込んで魔法使いに……


「なるほど、魔法使いになれるチャンスを逃す者がいるはずない……ね。それってつまり、お前はそうやって魔法使いになったってことか。けど、俺は魔法使いには興味ないね。そりゃあ魔法が使えたら便利かもしれない。でも、お前を殺してまでなりたいとは思わないな」


「──嘘だ嘘だ嘘だ!! そんなのありえないッ! 圧倒的な力を求めぬ人間などいないィッ!! やっぱりダメだ! もうやるしかない!! ははははは! ああ、ゴーレムドラゴンがやられた時に覚悟を決めておいてよかった! もう悩まなくて済む! もう準備は終わっているッ!! ワタクシの300年の計画が! 今日、成就するッ!!」


「──なっ!? ちょ、話聞けよ!! クソッ、なんだかマズい気がする、あいつを止めな──」



 この魔法使いを止めないといけない。俺の直感がそう告げていた。けれど──




──それはもう発動していたらしい。




 ヘルドルムの足元から黄金の魔力がラインとなって、集積場に“予め構築されていた魔法陣”を浮き上がらせた。


 ディアがヘルドルムを稲妻で消し飛ばし、その生命を絶ったが、それよりもこの魔法陣の発動が早かった。



『ククク、ハハハハハ!! 成功だ! 第一段階、精神体の構築を成功! 肉体を失い、魂と魔力結晶だけとなったこの段階で、次の段階へと移行可能! 肉体を失った純粋な魔力結晶は魔石との親和性を強め、魔力結晶の拡張、成長を可能とするッ!』



 声が聞こえる。気づけば、ディアが消し飛ばしたヘルドルムのあった場所に、クリスタルが浮いていた。これが、このクリスタルがヘルドルムの言っていた魔力結晶か。どうも声はこの魔力結晶から響いているらしい。


魔力結晶から黄金の魔力が流れ出て、それが生贄の人々と集積された砂魔石へと伸びる。



「そんな……魔力結晶が、大きくなっていって……生贄と砂魔石の魔力を取り込んでるのか……ど、どうすれば……」


「とりあえず攻撃してみる」



 ディアが再び白い稲妻を魔力結晶に向かって放つ、しかし……魔力結晶には傷一つ付かない、効いていない。



「そんな……肉体を破壊した時に、同時に破壊出来てなかった時点で、そうじゃないかと思ったけど……今のは、魂ごと破壊できる攻撃だったのに……魔力結晶? なんなのこれ……?」


『ハハハハ! 第二段階成功ッ!! ああ魔神王様!! あなた様の加護が! 守ってくださるのですね! あぁ、今までワタクシは何を恐れていたのか、バカバカしい、さぁ第三段階だッ!!』



 魔神王の……加護? ヘルドルムはそんなものを持ってるのか? いやそれより第三段階って何だ!? 一体何段階目まであるんだよッ!!


ヤバイヤバイヤバイッ……!! これからどうなるのか全く想像がつかないけれど、すでにこの第三段階の時点で、とんでもない魔力のプレッシャーを感じる。気を抜けば、意識が飛びそうなほどの魔力……ミュシャとハルポンを集積場からちょっと離れた場所に待機させておいて正解だったな。



 ──ゴゴゴゴ!



「なっ、今度は地震か? いやちが……なんだよこれ、うわああああああ! ディア! 逃げるぞおおおおおおお!!」



 俺とディアはダッシュで砂魔石の集積場から逃げ出した。なぜなら、集積場に向かってバカでかい石柱がミサイルのように降ってきたからだ。



「なんだよこれ、あの石柱まるで、オベリスクのような形をしていたけど。あれは、なんだっけ? どっかで見たことある気が……」


「お、お兄ちゃん! あれ王の神殿へ向かう道中とか、漁師さん達の砂船で砂海返しに狙われた時に見た石柱だよ!!」


「あっ! あれかぁ! エドナイルでちょいちょい見かけたアレ、バカでかい謎の石柱……ヘルドルムの計画のために用意された魔術触媒だったのか。あんなバカでかい石柱が9本……嘘だろ……魔石と結合して巨大化した魔力結晶と……砂で繋がってる……」



 石柱はでかい、一つ200m近くある。まさかこんなバカでかいものが、魔術触媒だとは思わなかったぞ……てっきり国の権威の象徴的なものとか、駅とかにある銅像的なもんかと……



「ハルポン! ミュシャ! ヤバそうだ! ここから離れる! 砂船を出してくれ!!」


「はいはい! 言われなくても、逃げるつもりだったんで! 早くいきましょう!!」



 結局俺達は砂魔石の集積場にやってきて直ぐに、そこから立ち去ることになった。と言っても、最早そこに集積場などない。オベリスクのような石柱が降ってくる衝撃で、完全に破壊されてしまったからだ。



「それにしてもヤバイな。あれは何段階目なんだ? 石柱が並んで人型のパーツを構築している。まさかテルミヌスが可愛く見えてくるようなデカブツが立ち塞がるなんて、想像もしなかった」



 石柱と巨大化した魔力結晶はそれぞれ頭や胴、腰、手足となるように、配置され、それぞれの隙間を大量の砂が埋めていった。


そうして出来上がったのは、軽く数キロはあろうかという──



──砂の巨人だった。





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