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決断と始まり



 ──パキィイイイン!



「あ、ああ……!! 危ない、ところ……だった」



 エドナイル、エドナの砂魔石の集積場。そこに魔法使い──ローガルム・ヘルドルムはいた。ヘルドルムの顔と背中は脂汗が滲んでいて、怯えるように床に倒れ込んでいた。



「やはりヤツに認識されていた。ゴーレムドラゴンとの接続を絶たなければ……きっとワタクシも……あのような、ち、塵に……あれは、なんだ! なんなのだ!!」



 ヘルドルムがゴーレムドラゴンを操るのに使用していた水晶玉は、完全に分解され、ヘルドルムの眼の前で塵となった。



「これで、足りるのか……? こんな程度の生贄で……む、無理だ。我々の知る神を超えた存在……あれを倒す……? 無理だ……なら逃げる?」



 ヘルドルムは集積場を見渡し、魔術の生贄として用意された人々の数を確認する。生贄となった人々は腕を鎖で繋がれ、足の腱を切り焼かれている。


鎖は特殊な形状と仕組みをしていて──



「うぎゃあああああああああ!!!?」



 人々の悲鳴が響く。誰かが逃げようと動けば、全ての生贄の体に鎖が食い込み、体内の魔力を暴走させる。暴走する魔力は人々に強烈な不快感と痛みを与え、それによって生じる魔力を鎖から魔力吸収機構へと送る。



誰か一人が勝手な動きをすれば、それは痛みと苦痛として全ての者へと返る。生贄の人々は一人逃げようとする者へ憎しみの感情を抱き、最早ヘルドルムではなく自分以外の生贄の方を憎むようになっていた。


彼らは絶対的な力の差を持つヘルドルムを、憎しみの対象として見ることができなかった。ヘルドルムはこの場の支配者であり、恐怖の対象だったから。


冷静に考えれば絶対的な悪はヘルドルムなのだが、この状況を冷静に考えられる人間は稀有なケースであり、そもそもこの生贄達は、自己中心的な人間が集められている為、勝手が好きだった。


 勝手に動く“自分以外”を憎む一方で、勝手に動く“自分”のことは許している。それによりこの生贄達の関係性は憎しみだけで構成される。自動的に憎しみが循環するこのシステムは、効率的に、ヘルドルムの為に魔力を集めた。



「逃げるのは……ダメだ……ゴーレムドラゴンとの接続を断つ前……ワタクシは、ヤツに見られた気がする。水晶の向こう側のワタクシを、認識していた……っ!! 殺される、殺されるっ!! 間違いない……ワタクシという存在を、記憶されてしまったなら……もう、逃げられないかも……それにここでエドナイルを手放したら、今までのワタクシの積み重ねが全て無駄になってしまう! 黄金王オルダンの時代より進めてきた偉大なワタクシの計画を、ここで終わらせるわけにはいかない……!!」



 ヘルドルムはディーアームの操るサイキックの概念を理解できない。それ故に、体感した圧倒的な力の衝撃から、ディーアームは自分を確実に仕留める方法を持っているだろう──と、そう思い込んでしまった。


魔法や魔術には、認識した存在の居場所を特定するモノもあり、そういった力を、ディーアームも当然持つだろうと考えた。


さらに言えば、ヘルドルムは自分が相手の立場ならどうか? それを思考した。ヘルドルムは自分ならば、圧倒的な力を持つ自分なら、決して相手を許さない。確実に消す、そんな考えしか持てないから、ヘルドルムは戦うしかないと考え、自ら退路を断ってしまった。



「アレの完成度は9割程度、不完全な状態だとしても……やるしかない。ここにある砂魔石の全てを核とすれば、魔柱を起動できる。ふふ、ははは、貴様らが悪いんだ。ワタクシを追い詰めるから、全部全部、この国の全部は今から終わることになったんだ」



 ヘルドルムは笑う。正気を失ったその眼差しで、勝利の展望を描いていた。




◆◆◆




 ──ザック、ザック。



 一人、エドナイルの砂漠を歩く者がいる。その者──少女はご機嫌で、足取りは軽やかだ。



「弱った状態でテルミヌスの力を使って自壊してしまうのなら、自壊しない工夫をすればいい。兄様と繋がり、共に存在することで精神を安定化、強化することで、テルミヌスを稼働可能とする。ははは、ディアの奴め、あまりにも単純、まるで馬鹿だな。ふふ、ふふふふ」



 ディーアームを貶すようなことを言いつつも、少女の──ジーネの表情は明るく、嬉しそうで。ついには高そうなドレス着のまま、砂漠に寝転んでしまった。空を見上げ、思いふけっている。



「兄様と繋がった後も、ディアは完全に、兄様を兄様として認識できていた。オリジナルに最も近いディアが、完全に兄様として認識するということは、それは純度100%の兄様なんだ。ありえない、そんな奇跡は起こり得ないと思ってた。だって、だって、生まれ変わったら別人のはず。それがどんなに似ていても、どこかは違う存在。なのに、兄様の魂の在り方は何も変わっていなかった」



 しばらくしてジーネは立ち上がる。そして彼女は自身の側頭部にある一対の角のような装飾品を押し込んだ。


押し込まれた角は赤く発光し、レーザーを上空に向かって照射し始めた。



「──聞け、イズミヤの妹達よ! 時は来た! 我らの悲願を達成する時が来た! 集結せよ! 行動を開始せよ!! 我らの愛する兄はここにいる! 永遠は、ここに在り!」



 それは通信だった。


この世界、そして世界の外に待機するイズミヤ超次元艦隊で兄を待つ、妹達への通信だった。



 妹達は行動を開始する。だた一人を思い、それぞれの行動を開始する。





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