召喚──機械神、恐怖を乗り越える方法
過去を話したディアですが、センシティブな話題に関しては濁してお兄ちゃんに伝えています。
「56億7000万年……凄いな。想像もできないぐらいだ……俺にまた会うために頑張ったんだな。ありがとう、また俺に会いに来てくれて」
ディアから聞いた過去、それは俺の想像を遥かに超えるスケールで、まるで神話の話だった。けれど、俺は話を聞いて納得できた。
なぜディアが死にかけているのか、俺が死ぬのが、俺をまた失うのが怖いというのが、感覚的に理解できた。
ディアは、かつてミヤコだった彼女達は、人でなくなったその瞬間から、ずっと限界だったんだ。
俺に再会するという目的があったから、目的を達成するまではなんとか頑張ることができていただけで、ずっと、ずっと……苦しくて、限界だったんだ。
俺はディア達の頭を撫でた。
「に、兄様……な、なんで私まで……」
「だってお前も、俺の妹なんだろ? お前達が何人いるのか想像もつかないけど、全員に会って、全員に今まで頑張ったんだなって言ってやらないとな」
「兄様はもっと人を疑うべきだ。私達のベースであるミヤコは嘘つきだ、だから……そんな簡単に私達の言葉を信じるべきじゃない……」
「嘘か本当かなんて、そんなのどっちだっていいんだ。俺にとっての真実は、お前達が俺のことを想い、そのために行動していたということ。記憶はないけど、魂で理解できる。俺はお前達と一緒に、幸せに生きたかったんだって」
「お兄ちゃん……そんなこといっちゃダメ……わたし、また我儘な、ダメな妹に、戻っちゃう……」
「なぁディア、俺はどこにいる?」
俺はディアを抱き寄せる。
「聞こえるか? 俺の心音が。俺は今、生きている。いつかの日の過去でなく、いつか死せる未来でもなく、俺は今、お前の目の前にいる。お前と一緒に冒険をして、世界を楽しんで、楽しみ尽くすのを待っている」
「お兄ちゃ──」
「──ディア、怖がっている暇なんてないぜ。俺が、俺達が一緒に、これから生きて、経験する全てを、全力で体感して、全力で生き抜く。俺の全てを、お前に記憶してもらいたい。その為にはお前も俺と一緒に、世界を全力で楽しまないと、だって勿体ないだろ? 怖い怖いでやることは、楽しさ半減だ」
「……お兄ちゃん。お兄ちゃんも我儘だね。わたしはもう限界で、もう無理だって言ってるのに。そっか、一緒、お兄ちゃんと一緒なんだよね。傍に居たのに、わたしは、わたしの心は、お兄ちゃんの隣にはいなかったんだね。いつか死に連れて行かれる、未来のお兄ちゃんのことばかり見てた。そうだね、わたしはなんて勿体ないことをしてたんだろう」
ディアが立ち上がる。気づけばディアの傷は一つもなくなっていた。俺がディアを抱き寄せた時は傷だらけだったのに、一瞬の内に、ディアはいつもの状態に戻っていた。
「──無より来たれり太極の陽炎、光輝の糸を紡ぎ境界とす、其は境界の制定者──」
「──なっ、ディア!? 馬鹿な、死にかけのお前がアレを使えば、本当に消えてしまうぞ。やめろ! 何をやっているッ!!」
ディアが何かを詠唱している。それを見たジーネが慌てている。ディアがそれを続ければ消える、そう言っているが。俺にはそう思えなかった。
今のディアの表情は前向きで、俺のことを真っ直ぐに見ているからだ。
ディアが腕を上空に掲げる。空に印を切るように指先を振るう。
するとディアの指先で描いた軌跡から、眩い白い光りが溢れ出した。
「──絶望を隔て、希望を紡ぐ者、絶対の執行者──
──来たれ、境界の神、テルミヌス── 」
──ラァァアアア──
どこからか女性の歌声が聞こえる。辺りを見渡しても歌っている者は見当たらない。ディアもジーネも歌ってなどいない。
しかし、聞こえる。歌声が、俺の体に、魂にまで響き渡るかのように。
『──な、なんだこの歌は……貴様、一体何をしている!! 一体どこから音が、ま、まさか……そんな、嘘だ……全てが、この空間の全てが、物質が、魔力が、空間が、振動しているというのかッ……!? ならこの音が聞こえているということは、ワタクシは……あ、ああああ!!』
敵の魔法使いの声がゴーレムドラゴン越しに聞こえる。どうやら相当、狼狽えているらしい。
魔法使いが言うにはこの空間全てが振動し、それが歌のように聞こえるらしい。
そして歌は──振動はゴーレムドラゴンのブレスを打ち消し、霧散させた。
その瞬間、一際強い光が煌めいて、それはやってきた。
──ブオォォォンン、ジ、ジジジ。
輝きの中から、巨大なそれは顕現した。地面スレスレを浮く、巨体、女神のような姿の巨大ロボット。これが、ディアの詠唱の中に出てきた“テルミヌス”なのだろう。
テルミヌスは長い銀の髪を靡かせていて、その周囲にはディアと同じく白い稲妻をバチバチと発生させている。イズミア遺跡のイズミアゴーレムと雰囲気がよく似ている。
それにしても、本当に大きい……100mぐらいはあるんじゃないか?
「ディア!! 今のお前がそれの力を引き出せば壊れてしまう、お前だってそれは分かってるはずだ!!」
「ジーネ、大丈夫だよ。だってわたし、無敵だから」
「は……?」
「“お兄ちゃんと一緒”なら、わたしはなんでもできる。お兄ちゃんと一緒だもん、無敵になるぐらい、当たり前でしょ?」
──ラァァアアアア。
また歌声が響く、けど、なんだ……声が二種類? 女性の歌声と、男性の歌声?
──っ、眩しっ、テルミヌスが再び光り輝き──その構造を変化させていくのが見える。
女神の姿をしていたテルミヌスが、男性的な形へと変化していく。
最終的にそれは、細身の男のような形となった。基本的なデザインは変わらないものの、はっきりと違いが分かるぐらいには変化していて、20mぐらい大きくなった。
「──お兄ちゃん、一緒にやろう? このテルミヌス・アルプスなら、わたしはお兄ちゃんと一緒に戦える」
ディアが俺に手を伸ばす、俺はその手をノータイムで取ると、俺はディアと共に、テルミヌス・アルプスのお腹へと吸い込まれていった。
「おいおい、お兄ちゃん巨大ロボットの操縦なんてしたことないよ? どうしたらいいのこれ……」
「お兄ちゃんのイメージ通りに動くし、細かい調整はわたしがやるからそんなに難しいことじゃないよ」
テルミヌス・アルプスの内部はかなり広くて、余裕がある。ロボットアニメでよく見るコックピットってより、基地とかそういったモノの司令室に見える。
俺がディアに座らされたシートには操縦桿があるが、それ以外は特になにもない。
俺はとりあえず操縦桿を握ってみる──って、うおっ!? な、なんだこれ、意識が……体が、感覚がテルミヌスと同化してる? いや、俺がこれに憑依してるような感じだ。
テルミヌスの方を俺の体として認識して、元の身体の感覚がなくなった。認識はできるんだが、感覚はない。俺は今、自分の身体がテルミヌス・アルプスになっているんだ。
確かにこれなら、難しいことなんて何もないな。全部俺の思い通りに動かせる。
『さて、魔法使い。今までよくもやりたい放題やってくれたな。今度は俺達の番だ』
俺の声がテルミヌス・アルプスの声となって、空間に響き渡る。
それにしても不思議な感じだ。確かにこのテルミヌス・アルプスは俺の体だが、俺だけの体ではないというのが感覚的に理解できる。
このテルミヌス・アルプスは俺の体であると同時にディアの体でもあるのだ。
【お兄ちゃん、一気に決めちゃおう】
こうして、ディアの言葉が頭に直接響く。それはただの言葉ではなく、意思も同時に俺へと伝える。心の会話とでも言えばいいのか。言葉の意味が、意図が、気持ちが正確に伝わる。
ディアが今まで抱えていた不安や恐怖が消えていくのが、俺にも伝わっていくる。
『──ああ、一撃で消滅させる! ──アーク・スプリット!!』
【アーク・スプリット発動!!】
俺はディアが俺に心を通して伝えてくれた、テルミヌスの技、アーク・スプリットを発動する。
それは捕捉した対象を構成する存在の全てを引き裂く超能力、サイキックであり、例えるなら人間の全てを細胞クラスで一粒一粒バラバラにしてしまうような力。
──パキィィィイイイン!!
ゴーレムドラゴンは光り、一瞬で消滅した。砂粒よりも小さい、塵となって消滅した。ゴーレムドラゴンを操る魔法使いが言葉を発する隙間もなかった。
『や、ヤバすぎるだろ……とんでもないなこの力。こういう力が、ディア達の旅には必要だったってことか』
【うん、まぁでもこれは相手がサイキックに耐性がなかったからこうなっただけで。耐性持ちには効かないよ】
『ふーん、そうなのか。それより体は大丈夫か? というかさっさと降りないと。これ、お前の体に負担がありそうだし』
【そうだね、じゃあテルミヌスから出たらこの子はイズミア遺跡に送っとくね。別次元にある輸送機に戻すのも一苦労だし】
別次元の輸送機? まぁいいや、こういうの気にしだすとキリがなさそうだ。
その後、俺とディアはテルミヌスから降り、テルミヌスが光って別の場所へとワープしていったのを見届けると、王の間に待機させているハルポンとミュシャの回収をするのだった。
少しでも「良かった!」「続きが気になる!」という所があれば
↓↓↓の方から評価、ブクマお願いします! 連載の励みになります!
感想などもあれば気軽にお願いします! 滅茶苦茶喜びます!




