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妹の過去①



 ある世界の、ある時代の、ある場所に、仲良しな兄妹がいました。優しい兄のことが大好きだった妹は──わたしは、いつも兄の後を付いて回り、いつも一緒でした。


でも──


「やだ! やだやだやだ! おにいちゃんといっしょがいい! おかあさんなんかきらい……! おとうさんも、おとうさんもだいきらい!!」


「ミヤコ……大丈夫だよ。ずっと会えないわけじゃない、ほら! 毎日電話で話そう。そうすれば寂しくないだろ?」


「おにいちゃん……ぜったいだよ? まいにちだからね?」


「うん、もちろんだ。俺だってさみしいのはミヤコと一緒だから」



 わたしが10歳の時、両親が離婚した。わたし達の両親は研究者で、同じ研究をしていた。でも、その研究利用の方法で意見が割れた。お互い意見を譲る気なんてなくて、それからは毎日喧嘩。仕事から始まった不和は、家にまで波及して、一つの家庭は終わりを迎えた。



 お兄ちゃんはお父さんと、わたしはお母さんの所で、別々に暮らすことになった。わたしは地方にあるお母さんの実家で暮らすことになり、不満しかなかった。


お兄ちゃんから離れるだけでなく、祖父母しか知り合いのいない場所、友達だって当然いない。だからといって、友達を作る気にもなれなかった。


 わたしは人という存在が、信用できなくなっていた。両親は、離婚原因の喧嘩を始めるまでは凄く仲が良かった。見てるこっちが辟易するぐらいラブラブだったのに、それがあっさりと離婚してしまった。それを見て、人というモノを信じられなくなった。


人が人を好きだとか、愛してるだとか、そんな言葉の、表面上の綺麗事がすべて、許せなくなった。



「──でね~今日は友達と一緒にお魚を取ったんだよ~? こっちは大自然て感じだから、みんな元気で、わたし全然ついていけないんだ~」


『へ~、俺も魚取りやってみようかな。近所の河で、汚いけど魚はいるはずだし』



 お兄ちゃんは嘘をつかなかった。約束通り、毎日わたしに電話をしてくれた。でもわたしはお兄ちゃんに嘘をついていた。友達なんていなかったし、毎日話すことがあるほど、わたしの日常は充実していなかった。


お兄ちゃんを心配させたくないから、そんな理由から、友達が沢山で、毎日が楽しいと、嘘をつき続けた。


 お兄ちゃんはわたしの言った嘘を、実際にやってきて、それをわたしに報告する。魚を取ったと嘘をつけば、次の日には本当に魚を取ってきて、写真を見せてくれる。


ある時、わたしは友達と一緒に誰も知らない古墳を発見したと兄に言ったことがある。勿論それは嘘、テレビニュースで見かけたことをそのまま言っただけだ。だというのに──



『──ミヤコ! お兄ちゃんも古墳見つけたぞ! 地域の古墳の分布図を見て、ありそうな所を予測したら……本当にあったんだよぉ!! あれは多分工事中に見つかってたのを黙って、工事続行したんだ。一部分でも残ってくれててよかったよ。今度新聞に載るみたいだから、掲載されたら教える。多分ウェブ版もあるからミヤコも見れるはずだ』


「え……? ほんと? お兄ちゃんすごいよ!」



 あの時はびっくりした。嘘をついた罪悪感はあったけど、それ以上にお兄ちゃんのことを凄いと、誇らしく思った。凄いのはお兄ちゃんで、自分はただの嘘つきだったのに。


けどこの事が、きっかけになった。お兄ちゃんはこの時のことがきっかけで、歴史や古代の遺物に興味を持つようになった。


わたしが嘘をつかなくとも、お兄ちゃんから話すことが増えた。お兄ちゃんは好きなことを見つけて、いくらでも話すことがあったから。



 わたしはそれが嫌だった。歴史や古代の話が面白くないからとか、そんな理由じゃない。ただ単に、わたしはお兄ちゃんにわたしのことを考えて欲しかった。お兄ちゃんを歴史にとられたような気持ちだった。



『え? ミヤコ、高校、こっちの学校に来るのか?』


「うん、学力なら問題ないよ。余裕、余裕、わたし勉強ばっかりしてたから学力だけは自信があるの。高校生なら家を離れて暮らしても問題ないでしょ? 寮に入ればいいし」


『え? ミヤコが勉強ばっかりしてた……? お前結構、冒険したり、自警団の活動で忙しかったんじゃ? 中二の時はヤクザを潰してたじゃん……なんてこった……それと並行して進学校に余裕で入れるぐらいの学力を……末恐ろしい傑物だな、ミヤコは……』



 どう考えたって嘘な、わたしの嘘を信じてしまうお兄ちゃんもお兄ちゃんだと思ったけど。ヤクザのことに関しては運がかった。ヤクザを倒してる、というわたしの言葉を最初、兄は信じていなかったが……偶然、そのタイミングで地元で有名なヤクザが大量検挙されてしまった。


わたしもあれは嘘だったと本当のことを言おうとしてた所で、兄はわたしの嘘を信じてしまった。そのせいで……今まで話半分で聞いてくれていた、今までの突拍子のないわたしの話も、兄の中では真実になってしまった。



 兄の中で、わたしは、天才的な頭脳とエリート軍人並の技術、フィジカルを併せ持つ、ヒーローで、美少女魔術師で、神に選ばれし巫女で、自分は全然興味ないんだけどなぜかやたらとイケメン達からアプローチされてしまう、そんな存在になっていた。


流石にそれを背負って生きるのはもう辛くなっていたから、兄に会って本当のことを話そうと思っていた。お兄ちゃんは優しいから、笑って許してくれるでしょ。そう思っていたから。



「え? あれ今まで話してたの全部、嘘だったの? だってヤクザは本当に」


「だ、だからあれはたまたまで……もう殆ど病気なの。癖になってたの、お兄ちゃんに嘘を言うのが……ごめんなさい。最初はほんと、出来心だったの……心配かけたくなくて、楽しくやってるって思われたくて」


「ま、まじか……え? でも友達の話は本当、だよな……?」


「……嘘……友達いないし、イケメンに狙われてるっていうのも嘘」


「う、嘘だろ……!? ミヤコはこんなに可愛いのに、友達がいない……? こんなに可愛いのにイケメンが言い寄ってこない!? それはそれでおかしいだろ!!」



 なぜかお兄ちゃんは妙な怒り方をしたけど、わたしを責めることはなかった。



「その、わたし学校では根暗だし……勉強だけしてて、話しかけられても無視してたから……多分、嫌われてたと思う」


「え、えええ……? ど、どうして?」


「わたし、お兄ちゃんと話せればそれでよかったの。他はいらないと思ってたし、人間は嫌い」


「そんな山犬の娘みたいなこと言わないでよミヤコぉ……でもそうか、元気でよかったよ。母さんも極端だよな、俺とミヤコを会わせようとしないなんてさ」


「いやそれは……」



 母さんはわたしが兄と会うことを禁じていた。その原因はわたしにある。兄への気持ちを拗らせていたわたしは、自分の部屋の壁にプリントアウトした兄の写真を敷き詰めていたし、兄妹をテーマにした恋愛漫画──しかも結構ハードなヤツや、未成年だったけど、同じテーマでエッチなヤツも隠し持っていた。コンビニで電子マネーを買い、エッチなヤツを買っていた。


お母さんも部屋に兄の写真を敷き詰めるまでは、自分の離婚のせいだと、罪悪感からか大目に見てくれていたけれど……隠し持っていた例のものをわたしの部屋から見つけてから、お母さんは危機感を抱いたらしい。



「ちょっとミヤコ、これどういうこと!? ダメよ、兄妹でなんて絶対! それにお兄ちゃんはこんな強引なタイプじゃないでしょ? 無理よ無理無理!」


「やれやれ、現実とフィクションも混同しないで欲しいなお母さん。大体、仮にわたしがそれを望んだ所で、お兄ちゃんが許すわけないでしょ?」



 そう言って煙に巻こうとしたけど、お母さんは騙せなかった。わたしがお兄ちゃんをただの兄として見ていないことを見抜かれた。だから、中学二年の頃からお兄ちゃんには会えなくなった。毎年数回は会うことができたのが、会えなくなって、わたしはさらに拗れていった。




「え? 何か知ってるの?」


「ううん、なんでもないよ! お兄ちゃん」



 流石にそういったセンシティブな事を、本人の前で白状する勇気は、わたしにはなかった。


お兄ちゃんは、わたしに甘いし、優しい。かなりシスコンだと思う、でもそれは本当に妹として見ているだけで。わたしも流石にそれは理解していた。だから別に、わたしの中のそういった欲求を表に出す気はなかった。


なにより、高校進学のために寮に入って、お兄ちゃんに簡単に会えるようになっただけで、わたしの心は満たされていた。


 普通に学校に行って、寮の門限までお兄ちゃんと過ごす。どうでもいい事を話して、馬鹿みたいな我儘を言って、幸せだった。


でもそんな幸せは、長くは続かなかった。


──都合の悪い、非日常が、すぐにやって来たから。





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