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都合の良い神




「──や、やめろ!! ディア! 死ぬな! 俺はお前に、死んで欲しくない!」


「──……るさい、うるさい!! お兄ちゃんはまたわたしを置き去りに、一人にするっていうのっ!?」



 置き去りにした? 俺が? ディアを……俺にそんな記憶はない……でも、なんでだ、体が、冷たくなる。罪悪感なのか? どうして俺が……



『──っぐ、命を使っての短期決戦ですか。愚かな、それならばこちらは時間を稼げばいいだけのこと。勝手に死ねばいい──守るべき存在がいるというのは、大変ですね?』



 魔法使いの声と共にゴーレムドラゴンの口からブレスが放たれる。狙いはディアではなく俺だ。足を焼かれ、まともに動けない、足手まといな俺を狙った。



この攻撃は直撃する──



ああ、この先がわかってしまう。



ディアは俺を、俺を……庇ってしまう。



本当は、ディアは敵の魔法使いを倒せた。敗北することはない。


けどそれは、無理なんだ。



 ディアも当然わかっている。俺を庇えば、残された唯一の勝ち筋を自ら手放すことを。けれども、愚かな選択だとしても、それを選んでしまう。



 俺は……なんだ? 自分の欲望のまま、関わらなくて良い事に首を突っ込んで、俺のことを誰よりも思ってくれた人を、俺の選択によって……殺してしまう。


無力感が現実感を伴った時、早くなっているはずの俺の心音が、まるで無音かのように感じられた。一瞬がどこまでも引き伸ばされて、瞬きの間に、今までの俺の人生が、頭を駆け巡る。


これが走馬灯ってヤツか、前世で死んだ時、これは体験しなかったな。不思議だな、自分が死ぬっていうのに、思ったより俺……怖くないんだな、死ぬの。



 思い返せば今回の人生、俺はやりたい放題だった。村から逃げるように旅を始めて、心の赴くままに、歩いて、走って、人と話して、遺跡や迷宮に挑んで、遊んだ。実際に体験した歴史の遺物は、まるで俺の体に馴染むかのように、その全てを記憶できた。


考古学者になりたかった俺は、かつての俺がやりたかった事をすでに、満喫していたんだな。でも、でももっと、欲しいなぁ。これじゃあ、まだまだ、足りない。


だって、ディアと一緒に旅したこの三ヶ月が、今が一番楽しかったんだから。



「ディア、お前と旅をするようになってからが、俺は一番楽しかったんだ。だから嫌だな、死ぬの。起きないかな、奇跡。いないかな、これをどうにかしてくれる、神様──」



 ──終わりを迎えるその時に、俺が最後にやったこと。それは祈ることだった。もっと旅を続けたい、ディアと一緒に世界中を楽しんで、楽しみ尽くす。


この世界に神はいる。けれど“都合のいい神はいない”頭ではそう思いつつも、願い、祈らずにはいられなかった。



 ──ガオオオオオオオオン!



 耳を劈くような轟音が響いた。



「──やれやれ、あの馬鹿は無茶をする。兄様も兄様だ、なぜそこまで愚かな選択ができるのか、理解しかねる」


「え……?」



 誰だ、この子……? 俺の眼の前に、見知らぬ少女がいた。赤黒の髪をした、赤い目の少女。まるで西洋人形のようなドレスを着たその少女は、俺を兄様と呼んだ。


よく見れば、この少女の前方にはバリアーのような魔法障壁が展開されている。じゃあブレスが俺に命中しなかったのは、この子が俺を守ったってことなのか?



「おい、お前はジーネドレの魔法使いだろう? 行動を停止せよ、これ以上の戦闘を禁ずる」


『はぁ? なぜワタクシがあなたの言う事を聞かねばならないのです? どこの誰だか知りませんが、ただの魔術師が、魔法使いであるワタクシに歯向かおうとは……実に愚かだ』


「なるほど? お前達は噂通り、随分と思い上がっているようだね。まぁいい、計画に変更はない。全て、問題なく機能している」


「ジーネ……そっか、わたしは……お兄ちゃんを……」



 ジーネ? ディアがドレスの女の子のことを見てそう言った。この子の名前ってことだよな?



「ディーアーム、お前にもこれでわかっただろう? お前も私の計画に加われ。身の程をわきまえろ、私がここに来るのが間に合わなければ、お前は兄様を死なせていた。お前が復活してすぐ、私を呼んでいれば、こうはならなかったはずだ」


「……っ、ジーネ……だとしてもわたしは賛同できない。あなたの考えは間違ってる」



 ん? なんか雰囲気悪いな。喧嘩中だったのか? このジーネって子とディアは。



「元々死にかけだった癖に意地を張って、自殺のような真似をして、兄様を悲しませようとするお前に、なんの正解がわかると言うんだ? 死にかけの病人は病人らしく、大人しくしていればいい」


「ま、待ってくれ! 死にかけ? どういうことだよ。ディアが死にかけ、なんで?」



 俺はジーネに問う、するとジーネは俺をじーっと見てから、口を開いた。



「私達は……私もディアも本来であれば永遠を生きる存在、ディアは兄様に再会することを願っていたが、同時に恐れてもいた」


「永遠を生きる……そ、そんな……まるで神様じゃないか。でも俺に再会するのを恐れていたってどういうこと?」


「ディアは永遠を生きるが、兄様はそうではない。この世界の人間は、魔法使いでなければ百年、長くて二百年の命、永遠の命からすれば瞬きにも満たない。私達は長い長い旅をしてきた……兄様にまた会うために。それこそ人として正気を保つことができない程に長い時をね。会いたくて仕方がなかった、そんな会いたい気持ちと同じくらい、また失うのが怖かった」


「……俺が君やディアと昔出会ってた。こことは違う世界で、兄と妹として……そういうことだよな」


「兄様はその記憶がないようだね。やれやれ、ディアも、もう限界か、ディア! 降りて来い、兄様を守るのに邪魔だ」



 ジーネの言葉を聞いたディアは空中で姿勢を崩し、そのまま俺達のところへ落下した。落下によるダメージは全くないようだけど……体はボロボロだ。ディアのボロボロになった体を見ると、彼女がゴーレムであることを実感した。


欠けて剥がれた皮膚の下には、結晶や金属、未知の素材が敷き詰められていて、生物というよりも機械に見えた。



「ディア、お前を回復してやる。傷が治るまでに決めろ。私の計画に加われ、このまま死ぬつもりか? 醜態を晒し私に助けられたんだ。考え直すには十分な判断材料だろう?」


「……お兄ちゃんはそんなの望んでないよ」


「馬鹿が!! お前が死ぬことも兄様は望まない。見えないのか!? 兄様の顔を見てみろ。お前を心配して、まるで自分が死ぬみたいだ」



 ディアは俺の顔を一瞬見た後、すぐに目を逸らした。



「ディア、聞かせて貰うぞ。お前の過去を、お前は俺に過去のことを聞かれたくなかったみたいだけど。もう、知らなかったで、済ませたくないんだ」


「やだ……言いたくない」



 っく、ディアがここまで強情なのは始めてだ。でも、なんだか、嬉しい気持ちだ。強情な態度が、妹らしさを感じられて、逆に気持ちを許してくれたような気がした。



「ほら、早くしろ」



 俺はディアの頭を撫でる。ディアは一瞬笑顔になったが、すぐにまた露骨に俺から目を背ける。



「や、やだ」



 いやー真面目に早くして欲しいけどな。さっきからずっとゴーレムドラゴンのブレスが吐かれ続けてる。ブレスを防ぎ続けてるジーネちゃん? の負担も考えてほしい。俺の足も焼けて動け……



「あれ? 足が……」


「ああ、兄様の怪我は私が回復しておいたよ。ただ安心はしないで欲しい、私は魔法使いじゃない、使えるのは魔術だけ。このような傷を一瞬で治癒する高度な回復魔術は、魔術触媒を消費する。その魔術触媒も、ストックがない」



 魔法使いじゃないけど魔術は使える……ジーネは魔術師ってこと? ジーネは俺のことを何故か不満げな顔で見ている。


あーそうか、俺の怪我を治すのに貴重な魔術触媒を消費したからか!



「やれやれ……おいディア! さっさと話せ、私が話してもいいんだぞ? 全く、私よりも先に兄様に会って、その愛を独占するだけでは飽き足らず、い、今も……ぐぬぬぬぬ、我儘もいい加減にしろ!」



 ──ドスドスドス!



 ジーネが死にかけのディアの頭にチョップを連打している。チョップのダメージはまるでない、どうやらジーネの腕力は見た目通り、か弱い少女程度の力しかないようだ。



「う、うううう……ご、ごめん……わかったから、ジーネ……話すから」



 どうやらディアは話してくれる気になったみたいだ。



「お兄ちゃん、わたしね。お兄ちゃんにずっと会いたかったんだ。でも、その先のことは考えてなかったの。お兄ちゃんに再会するのがゴールで、それで終わりみたいな感覚だった。お兄ちゃんにまた出会って、お兄ちゃんがわたしよりも先に死んでしまう。そんな避けようのない運命を、未来のことを考えたくなかった。怖かったから」



 俺がディアより先に死ぬのが怖い、ジーネもさっきそう言っていた。でもなんだか、いまいちその感覚が理解できない。頭ではなんとなくの理解ができるけど、共感ができないというか……



「怖かった。怖くて、怖くて仕方がなくて、その気持ちに逃げ場なんてなくて……気づけば、わたしの心は、壊れかけてた。自分で自分の心を壊してしまった。また会わなければ、こんなに怖くなることもなかったと思う。お兄ちゃんは、どこまでも、わたしの知っているお兄ちゃんで、お兄ちゃんのことが大好きな気持ちが、止まらなくなって、だからそれがいつか失われるんだって思ったら……怖くて……馬鹿みたいだよね。でも本当のことなの、恐怖が、わたしの心を、魂を破壊して、死にかけるところまで来ちゃった」


「……う、うぅ……なんで、そんな……ああもう、死ぬなよ! どうしたら怖くなくなる……? どうしたら俺は、お前を助けられるんだ?」


「お兄ちゃん泣いちゃった。あはは、死ぬならお兄ちゃんに見守れて死ぬのがベスト、やっぱりこのまま──」


「──バカーーーー!! 俺はもっとお前と一緒にいたいんだよ! 死んだらできないだろうが!! ディア、お前は俺と一緒にいたくないのか?」


「……ぐす……冗談だよ、半分ぐらい。でもそうだね、お兄ちゃんも、こんなわたしの状況、意味不明だよね。だから昔話、するね? わたしが、わたし達が、どうやって生きてきたのかを」



 そう言ってディアは過去を語り始めた。





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