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命の使い所




「……前よりも、強い魔力だ……急がないと!」


『おや、まさかこのタイミングで出てくるとは、予想外ですねぇ。水や食料にはまだ余裕があったはずですが』



 王の神殿の秘密の部屋、王の間での調査を終え、俺達は拡張空間の地上へと戻る。王の間にはレーラ神の作った魔導エレベーターがあった。起動用の魔法板に触れるとそれは起動し、砂でできた床が上へ上へと上昇していく仕組みだ。


そんな魔導エレベーターで、地上部に出てすぐ、俺達は例のゴーレムドラゴン、いやそれを操る者に捕捉された。



「魔力だけじゃない……羽と腕も増えている──」


「──お兄ちゃん危ない!!」



 ディアの声のすぐ後、白色のトカゲ型ゴーレムが俺の腕を狙うように襲いかかってきた。俺はそれを短刀で弾くことはせず、回避、そしてそのままステップで距離をとる。攻撃を完全にいなした後も、そのまま動き続ける。ゴーレムドラゴンのブレスで狙われたくない。



「やっぱりハルポンとミュシャを下に置いてきて正解だったな。守りながらじゃなければ、まだやりようがある。まぁ、相手も相手で、俺達への対策を練ってきたみたいだけど」



 前戦ったトカゲ型ゴーレムは黒色で、本当に泥な感じだった。体表は硬いが内部は柔らかい泥で、俺の氷の魔神の短刀で弾くことで、硬い体表を砕き、そのまま千切ることが可能だった。


でも今の、白色の体表となったトカゲ型ゴーレムはそうもいかなそうだ。俺はこの白色を知っている。大理石だ。歴史的建造物からダンジョン、遺跡、どこに行っても、見かけないことはない。見慣れた素材だ。



「──おい、お前ぇッ!!! なんてことをしやがる!! ゴーレムを強化するために、壁画を壊して、素材の大理石をっ!! ふざけるなよッ!! ずっとずっと、長い間、この国のことを記録してくれてたのに!!」



『被害者ぶるのはやめてほしいですねぇ。そもそもここで戦闘をしてしまった時点で、壁画なんて破壊されてますし、あなたが素直に死んでくれれば、あれ以上壁画が破壊されることもなかった。ははは、けれど本当に好都合でした。大理石は魔力を安定化、長持ちさせてくれますから、強化した個体を操り、維持するのに非常に役立つ』



 この世界の大理石には、クソ魔法使いが言ったように魔力を安定化、維持する特性がある。その大理石の特性は世代を超えた運用を前提とした、遺跡やダンジョンで有用な素材となる。


大理石を活用すると、無駄な魔力のロスを減らしつつ超長期の安定運用ができるだけでなく、魔導機構の劣化や故障の対策にもなる。


 今回の場合、敵はその大理石の特性を、強化したトカゲ型ゴーレムの魔力効率上昇に使ったわけだ。ゴーレムはゴーレムに込められた魔力の量で強さが変わる。そのため、強いゴーレムを使うには大量の魔力が必要となり、その魔力が膨大であれば膨大であるほど、魔力を運用する時に発生するロスも大きくなる。


この魔力ロスの軽減は、ゴーレムの燃費が良くなると言うことで、それを操る魔術師、魔法使いからすれば、実質的に自身の魔力量の底上げ、スタミナの底上げと同義だ。



「ゴーレムドラゴンは黒いまま……もしかして、ゴーレムドラゴンとこのトカゲ型で仕組みが違うのか?」


「多分そうだと思う。あのゴーレムドラゴンからトカゲ型ゴーレムに魔力が流れてる、でも敵の“魔法使いの魔力はゴーレムドラゴンまでしか通っていない”みたいだから」


「ディア、それって……え? どういうことだ?」


「トカゲ型を操ってるのはゴーレムドラゴンで、敵魔法使いは間接的にトカゲ型を操ってるってこと。私達は勘違いしてた、あのゴーレムドラゴンが、ゴーレムだからって、あれ自体が意思を持ってることを考慮できてなかった。私やイズミアゴーレムという、同質の存在があるというのに……」



 ゴーレムドラゴンに意思が……ある?



「ゴーレムは自立稼働できるように設計されるのが基本、でもそれは制作者の設定した命令、その条件通りに動くというだけで、自分の意思を持っているわけじゃない。でも……ゴーレムが意思に持つことができれば、それは生命体として、魔術、そして魔法の行使が可能になるってことなの。あらかじめゴーレムに組み込まれた魔術の発動で終わらない、ゴーレムが、戦うために“新たな魔術と魔法を生み出す”」



 ゴーレムが魔術の、魔法の創造……? 魔法、使えるの? え……? いやでもそんな……ありえない、だってこの世界で魔法を扱えるのは、人間でもごく極少数の魔法使いと、魔族、それとエルフだけ……


そんな希少で習得が困難な魔法を……ゴーレムが? 魔法使いの魔法で生み出されたゴーレムが、さらに魔法を生み出す……?



『ディーアームと言いましたか。どうやらあなたはゴーレムについて詳しいようですね。ジャンダルーム・アルピウスくん、よく見えますよ、あなたのその表情、絶望に染まる表情が』



 空を見上げると、ゴーレムドラゴンが動くのがよく見える。飛行高度を下げたのか……ハルポンとミュシャを守る必要がないから、俺とディアは速く動けるから、近づかないと狙いが甘くなる。


実際、地上部に出てから今まで、ゴーレムドラゴンのブレスは一度も命中していない。そのブレスも隙の大きい撃ち方はできないから、威力を絞った、命中率と速度を重視した撃ち方。


けれどそれらを全て、俺達は避けてきた。だから──



 ──だからゴーレムドラゴンは“考えた”のだろう。ゴーレムドラゴンは使える魔法を思いついたらしい。


ゴーレムドラゴンが前見た時にはなかった腕を振るう、人間の腕のような繊細な動きで、印を結ぶ──身体動作による魔法陣の構築──ゴーレムドラゴンの腕から、魔力が放たれた。



「──っ!? なんでだよ!! 全然関係ないだろ!! っぐ、うあああああああ!!」



 ──ジュウウウウウウウウ。



 ゴーレムドラゴンの思いついた魔法、それは砂を溶岩、マグマに変える魔法だった。俺達がブレスを避けようとする逃げ先の砂地が、砂からマグマに変換されていく。


ゴーレムドラゴンが……逃げ場などない、そう言っているみたいだ。


火の魔力だとか、それに関連する物、素材なんてどこにもなかった。理不尽だ……おかしいだろ。あのゴーレムドラゴン自体、火の属性なんてまるで関係がないのに……ブレスに属性はなかったし、あのゴーレムドラゴンの体はどう見ても土属性だったろ。


火を操るなら、最初から火のブレスを吐けよ! それなら覚悟も持てるし、納得だってしてやる。



「熱い、あつあつあつあつ! ダメだこれ! このままだとこの空間の地面が全部、マグマにされる! ブレスに当たらなくても、死んじまう。っく、ディア、お前はもう逃げるんだ。俺はもう、ダメだ……足がもう、焼けてる……お前だけでも生き残ってくれ!」



 足が焼けたというか、もはや溶けている。ディアに逃げろって言ったけど、ディアはどうやって逃げればいいんだろう? ダメだ、ただディアに生き残ってほしいって感情だけが先行して、無茶苦茶なことを言ってる気がする。


王の神殿の入口は敵の魔法使いに封鎖されてて出られないのに……俺、俺……何言ってんの……?


俺、死ぬんだ……俺だけじゃない、ハルポンとミュシャも死ぬ。



「お兄ちゃんは死んじゃダメ」


「え……? そりゃ俺だって死にたくはないけど……」


「あいつを殺そうと思ったけど、意味ないね。それができる頃にはお兄ちゃんが死んじゃう。でも、そんなのはダメ」


「ま、まってくれディア、何を言って……」


「耐えられない。お兄ちゃんが死んで、私の前から消えてしまうことが。だから丁度いいの“お兄ちゃんが生きて、私がここで終わる”のは」



 ──パキッ、パキパキパキ。



 何かが罅割れる、そんな音がした。音は、ディアの方からした。ディアは俺が見ても、その顔を見せてはくれない。



 ディアは死ぬ気なんだ。なんとなく、それがわかった。


 ディアの体から白い稲妻が迸る。バチバチと音を立てて。それは見ているだけで怖くなるほどに、勢いをどこまでも加速させていて──何かが崩壊して、消えゆくような音だった。



 白い稲妻が、マグマの大地をトカゲ型ゴーレムごと上書きしていく。マグマが、白色の砂へと変わっていく。真っ白な砂は、なんの混じりっけもなくて、どこまでも純粋な状態で、それがとても奇妙に思えた。



「──お兄ちゃんは殺させない! 私と一緒に、滅んでもらうよ──魔法使い!!」



 ディアが跳躍し、空中でゴーレムドラゴンと激突する。ディアの纏う白い稲妻は鎧であり、剣だった。ディアの剣はゴーレムドラゴンの身体だけでなく、魔力そのものを断ち切った。ゴーレムドラゴンだけじゃない、それを操る魔法使いの魔力も。



『ぐあああああああ!? 馬鹿な、なんなんですかこれは……これが、魔法ではないのなら、なんなのだ! どうして事象から魔力を、感じられない!!』



 どこか遠くで、安全な場所から戦いを見ていたはずの魔法使いの声、悲鳴がゴーレムドラゴンから響いた。



 ディア……ディアの体が……そんな……



 確かにディアは魔法使いを殺せるのかも、でもそれはディアの命を使っての、道連れだ。


ディアはゴーレムドラゴンと魔法使いにダメージを与えたけれど、それと同時に、ディアの体が剥がれていく。皮膚が、腕が、指が、まるで陶器が欠け、割れるかのように、ボロボロとその一部が崩れていく。



「丁度いいって、なんでだよ。ディア……お前は、死にたかったっていうのか?」



 俺の言葉は届かない。


ディアはもう決めているらしい。ここで死ぬということを。





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