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調査開始



「お、おおおおお!? これは、凄い……人間の魔法じゃないな。魔族やエルフのものでもない……神の魔法か? それが人のための、王の神殿を作ってるなんて……」



 今日は念願の遺跡の調査の日! 王の神殿を調べることができてしまう!! 俺達は王の神殿の眼の前までやってきているが、外観を見るだけで、俺はすでに震えてしまっている。



「なんてこった……これは想像以上だ。エドナイルの魔石を含んだ砂、それが神殿を形つくるだけでなく、滝のように落ちる砂魔石の衝突が複雑な魔力場を生み出し、空間を歪ませている。これによって生み出した内部空間を神殿の一部として活用しているのか。となると……空間の歪みから繋がる入口は、きっと広い空間があるんだろうな」



 神、つまりはエドナイルの主神であるレーラ神の魔法の力によるものなのだろうが、これはどう考えればいいんだろう? 自然現象を司る神の力は、基本的にそれも自然現象の延長として考えられるのだが、レーラ神の起こす、この自然現象は、あまりに人に寄り添い過ぎている。


 神殿は砂で出来ているとはいえ、見た目は完全にレンガ造り、円柱型の人工的な見た目なのだ。けれども、人工的なそれは、その殆どが人の魔術、魔法の影響を受けていない。



「え、えぇ……? マジかよ……自然現象の延長……これが? 自然現象で家の庭木から“戦闘機”が生えてくるような異質さだ。それぐらいの違和感、インパクトだ……」


「セントーキ? ジャンさん、それなんですか? 人族のじゃない言葉ですか?」


「へんな言葉ー!」



 おっと、驚きのあまりつい前世の言葉が口から漏れ出てしまった。この王の神殿を調査する条件・・として同行しているハルポンとミュシャ、彼らを困惑させてしまったな。


ついでにディアの方を見るが、特に反応はない。完全に戦闘機の意味を理解してる感じだ。やっぱり分かるのか……メロンジュースのことも分かってたみたいだしな。


そうなると、やっぱりディアは俺の前世と似た場所、日本か、日本ぽい所の知識があるんだろうな。



「まぁそんなとこ。戦うための空飛ぶ機械のペガサスみたいな意味だ。ふむ……なるほどな。こんな神殿を見れば、人々は神の存在をすぐに信じてしまうだろうな。だから王の神殿は内部の調査どころか、周辺への立ち入りも禁じられていたんだ」


「あーそっか、エドナイル王家は、お兄ちゃんの予想だと巫女を国から排除したって話だもんね。神の存在が強く認識されてしまえば、同時に巫女の存在も意識されてしまう。巫女の存在が人々に受け入れられてしまえば」


「そうだ、エドナイル王家は巫女によって真実を暴かれてしまう。それにしても驚きだな、神への信仰心が薄まっていても、レーラ神はこれだけ立派な神殿を維持してくれている。もしかして、信仰心が薄まっても、エドナイルが発展して人が大幅に増えたから……人が死んだ時に得られる魔力量も増えて、魔力自体はかなり余裕があるのか?」



 俺は思いついたことをメモする。見たこと、感じたこと、考えたこと、すべてをメモする。と言っても、実際に俺が手を動かしてメモするわけじゃない。俺は自動手記の機能がある魔導器、自動メモを持っている。


この自動メモは、虫のアンデッド達が所持者のイメージに従い、インクのついた顎をペン先代わりに、メモを書き込んでくれる。メモ帳には羽がついていて、飛行しているので持つ必要すらない。


一般人からすると、この自動メモは気色悪いようで、使うと基本的にいい顔をされない。だから普段は使わない。便利だし、本当は使いたいんだけど、仕方なく自分でメモを取る。


けど、調査が人への聞き込みでなかったり、アンデッドや虫に忌避感のない種族相手の時は問題ないので、俺はそういった時に使っている。今回は遺跡の調査なので虫のアンデッドを嫌がるやつはいない。



「ふえぇえ……! ジャンおにーちゃん、その気持ち悪いの大丈夫なの!?」


「大丈夫大丈夫、こいつらこう見えて賢くて優しいんだ。傷つけたりしなければ、ミュシャを襲ったりしないから安心しろ」



 ミュシャとハルポン、それとディアは、この自動メモくん達の見た目が苦手なようだ。だが今日は我慢してもらうぞ、俺は今日、この神殿のすべてを記録してやるつもりで来ているんだ。手書きでメモなんてしてたらそんなの絶対無理。


君等が調査対象だったら、自動メモを使うことはなかったが、今日はそうじゃない。悪いが慣れてもらう。



「さて、外観のスケッチと構造に関しての記述は終わったし、中に入ろうか。先に拡張空間と繋がっていない入口から調べる。そっちはすぐ調べ終わるだろうから」



 俺はいつの間にか走っていた。



「ジャンおにーちゃんまってー! はやいよー」



 ほんと、自分でも気が付かなかった。砂のせいで移動しづらい中、俺はかなりのスピードで走っていたらしい。気づけばミュシャやハルポンを置き去りにしてしまう、そんなことが何回もあった。



「ご、ごめーん! ちょっと夢中になりすぎちゃうなこれ……そうだよ、子供がいるんだから、そのことも考えなきゃ──ってあああああああ!? あれは、ただの共通語だ! もしかして落書きか……? あんな見えづらい所に、なんて書いてあるか確認しないと!」



 俺が反省する次の瞬間には新たな発見の連続で、俺のミュシャ達への謝罪の言葉は、本当に言葉だけで、不誠実だった。


 本命の神殿の拡張空間へと挑む、そんな頃にはミュシャとハルポンはバテバテで、肩で息をしていた。



「ぜぇ、はぁ……ちょっと、ジャンさん、元気過ぎませんか? こ、これが、上級冒険者の体力……なのか? 世界は……ひろい……な」


「はぁ、はぁ……ジャンおにーちゃんきらーい! 全然待ってくれない! やさしくなーい!」


「ごめんなぁ……体が勝手に動いちゃうんだ……やれやれ、そんなの理由にならないよな。もし興味の対象が対象なら俺は犯罪者だ」


「……お兄ちゃん、本当に今からあそこに入るの? ミュシャとハルポンを休ませてからじゃないと危ないかもしれないよ?」



 ディアが真剣な顔で俺に詰め寄ってきた。ディアは少し怒ってる、苛ついてる? みたいだ。まぁそうだよな、自分が興味がない場所を引きずり回されるのって辛いよな。


──って、そんな事だけで、ディアがこんな顔をしたりはしないか。



「そうだな、休もう。罠があるとすればあの先、流石に俺でも、無理を通そうとは思わないよ。できるだけ危険度を減らす努力をしてから行くべきだ。ちゃんと分かってる」



 ダガーラン宰相は俺とディア、そしてミュシャとハルポンをこの神殿の内部、外界とは隔絶された拡張空間の内部で、俺達を始末──殺すつもりだろう。


 そして俺達を殺そうとする者は、あの時、俺とディアに暗示をかけ、毒薬を投げ込んだ魔術師、あるいは魔法使いだ。俺は死ななかったが、死ななかっただけだ。


俺達は暗殺者の術中に嵌っていた。ディアという存在があまりにイレギュラーで、ディアの力で強引に生き残れただけ。


だというのに、俺はダガーラン宰相の罠があると知った上で、ここに来てしまった。分かりやすい毒餌にまんまと引っかかる愚か者だ。考えれば考えるほど、なんて馬鹿なんだ俺は、と思う。



「ごめんな、ディア……俺、ディアに助けてもらっただけなのに。こんな馬鹿な事に付き合わせて……俺はダメだ……俺、お前のお兄ちゃんにふさわしくないのかもな」



 神殿の近くにあった大きなサボテンを影を木陰代わりに、皆で休んでいた時だった。俺の口からするりと、零れた言葉。反省というか、自己嫌悪に近いそんな言葉は──



「──どうしてそんなこと言うの……?」



 ディアの表情は怒ったような、悲しいような、いやそうじゃない……これは──寂しいだ。前世の記憶にある、弟の表情を思い出した。家に連絡せずに友達と遊んで、帰りが遅くなって、弟は一人だった。


弟は俺に蔑ろにされたと思ったんだろう、謝ったけど中々許してくれなかった。完全に拗ねてしまった。


それで俺は初めて気づいた。俺は……弟にここまで頼られていたのかって。単純に世話を焼くってだけじゃない、俺は気づいちゃいなかったけど、俺は弟の心も支えていた。


人が動く時、動くのは体だけじゃない、結果だけじゃない。行動には心が、感情が乗っている。ディアは、どういう思いで俺についてきた? それを考えないと。



「ごめんなディア、お前の気持ちも考えずに。俺は馬鹿だ、お前はそれでも馬鹿な俺に着いてきてくれた。なんか、色々謎が解けたよ。単純で当たり前の話過ぎて、盲点だった。お前は俺の妹で、一緒にいたかった。離れてると寂しい感じがして、不安になるから。それだけの話だったんだ。俺が馬鹿でも、俺はお前の兄貴だもんな」



 ディアの頭を撫でる。するとディアは黙ったまま、俺に寄りかかって来た。真っ直ぐに俺の顔を見る。もっと撫でてくれと体を寄せる。


俺はそれに従ってさらに頭を撫でる。けれど、もっと撫でろとせがんだ本人は、恥ずかしくなったのか、ぷいっと俺から顔を逸らした。けれどディアの後頭部は相変わらず、ずいずいと俺に撫でるように俺の胸元へと当ててくる。



「あー!! ハルポンおにいちゃん! ジャンおにーちゃんとディアおねーちゃんがエッチなことしてるよ!」


「──っ!? あっ、いやエッチなことしてないよ!? 勘違いしちゃダメだよミュシャ」


「そ、そうだよ! エッチなことなんてしてないよミュシャちゃん!!」



 そういえば、隣にはミュシャとハルポンがいたんだった……完全に頭から抜け落ちていた……は、恥ずかしぃ……ディアも顔が真っ赤になっている。はは、器用なゴーレムだ。


でも、不器用な人間らしさが見えて、だからこそ、この子は俺の妹なんだって、強く思った。





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