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虎穴と演技




「……わからない男だ……」



 ダガーラン宰相はそう言って俺から目を逸らす。



「アルピウス上級冒険者、貴殿の望みはなんだ。この国で何をしようと言うのだ」


「この国では歴史を深く知る行為が許されていない。具体的に言えば、遺跡の調査や図書館への立ち入りが許されていないことだ。長い歴史と、偉大な遺跡、歴史的遺物を持つにも関わらずだ。なんとも勿体ない、この国の素晴らしさを、それらだけでもかなり表現できるはずだ。まぁ、でも有効利用するしないはあなた方エドナイル人の自由だ、俺の口出しすることじゃない」


「口出しすることじゃない? そんな考えを持てるのなら、憲兵隊長の件で世間を惑わすのはやめてほしいものですな。で、結局何が望みなのですか?」



 俺が中々本題に入らないせいかダガーラン宰相が露骨に苛ついてる。ご、ごめんて……



「え、えっと、俺はその、遺跡を調査したり、図書館に入る許可が欲しかっただけなんだ。この国に来て、ノリと流れ、勢いで色々やってしまったけど、俺本来の目的としては、そのふたつだけだ。申請書を出したから、それはそちらも把握しているんじゃ?」


「は、はぁ……? 遺跡調査と図書館の利用許可……それが欲しくて、なぜ罪人との接触や、風評の流布を助けるような真似を……理解に苦しむ……しかし、嘘を言っているようにも見えん……そんなことがありえるのか?」


「だ、だからこんなことになるなんて、俺も想定外だ。けどそうだな、無実の憲兵隊長を処刑するのはよしてくれ。こちらとしても、もうあの件で、どうこう言う気はない。彼を解放してやってくれ、それで区切りとしよう」


「わかった。ダガーラン宰相もそれでよいな? 遺跡の調査は──」


「──遺跡の調査は許可する。図書館も一部、閲覧を許可する」



 王の言葉を遮るようにして、ダガーラン宰相が話す。意外にも、ダガーラン宰相はあっさりと許可を出した。遺跡の調査と、図書館の利用許可、やったぜ!



「──だが条件がある」



 で、ですよね~……なんでもこっちの思い通りとはいかないでしょうよ。



「条件? それはどういった?」


「遺跡でも調査の許可を出せるのは“王の神殿”のみ、そして王の神殿の調査には、オードスギルドマスターが関わらないこと、調査にはこちらの指定した者達を同行させる事」


「同行者の指定……? 誰ですか?」


「こちらが指定するのは罪人ミュシャ、そしてその看守の者だ」


「え……?」



 ミュシャと看守、ハルポンを遺跡の調査に同行させる? な、なんで?



「アルピウス殿は、かの罪人を巫女であると、そう言ったそうだな? もし仮に、あの者が巫女であるならば、遺跡調査の役に立つはず。実際にアルピウス殿が王の神殿を調査すれば、あの者の言うことが真実であるかの判断もできよう」


「俺が、ミュシャの言が事実であるかどうかの判定をしろ、そう言ってるんですか?」


「その通りだ。あなたが騒ぎを大きくしたのだ、その始末をご自身にやってもらいたい。貴殿はエドナイルの発展に期待しているのだろう? どうするのが最善か、賢い選択をしてもらいたいものですな」



 これは……罠だ。どう考えても罠だ、多分俺とディア、ミュシャとハルポンをみんな、一度に始末してしまおう、そんな罠だ。


こんな露骨な罠、バカしか引っかからないぞ……ふざけやがって……



「──わかった。ミュシャとハルポンを同行させる。オードスギルドマスターは遺跡の調査に関わらせない」



 ──そう、俺のようなバカにしか有効じゃない。



「お、お兄ちゃん!?」


 ディアが信じられないと言った目で俺を見る。オードスは呆れている。だがこれは高度な罠なんだ……俺にこの大チャンスを逃す選択肢なんてないんだ……! わかってくれ……!!


……なんということだ……俺がダガーラン宰相を観察していたように、ダガーラン宰相も俺を観察していた。


彼は優秀だ。彼は俺がこの条件を飲んでしまうような人間であることを、見抜いてしまった。



「いいのかジャンダルーム君、それで? その条件を飲むということは、オレは本当に関われないよ? これは、君がオレにする約束でもあるんだからさ」


「いいんだ。覚悟を持って望む、それだけだ」



 オードスはやれやれと言いながら、小さく笑った。わかってた、そう言ってるみたいだった。



「これで決まりですかな? では日程など、細かな調整は後日行うとして、この場はこれで──」




 こうして俺達と王、いやダガーラン宰相との謁見は終わった。二日後、俺は王家の使者から遺跡調査の正式な許可証を受け取り、そして遺跡調査の日程等が俺に伝えられた。




◆◆◆



 ジャン達が王城を去り、マダルガ王とダガーラン宰相は王の執務室で話し合いをしていた。



「セトルド、なぜ王の神殿の調査許可を出した……それもあっさりと」



 セトルド、マダルガ王はダガーラン宰相のを呼んだ。



「マドル、お前の方こそ無能のフリをいつまで続けるつもりだ。理由など分かるだろう……? 奴らを王の神殿で始末するためだ」



 ダガーランの態度はジャン達が謁見していた時とはうってかわり、柔らかで、王をマドル、と愛称で呼ぶ。そこには彼らの深い信頼関係があることが見て取れる。



「しかし、彼らが刺客を退けたら? あそこには、神殿には我々の秘密が、記されている」


「マドル、何を警戒することがある。仮に刺客が退けられたとして、奴らは神殿に記された言葉を解することはない。王族とダガーラン家にのみ伝わる暗号文字、それを奴らが理解できるはずもない。だってそうだろう? 誰も知らない言語を、限られたの調査時間で読み解けるか? 不可能だ」


「それは……どうだろうな。あのジャンダルームという男、底が知れぬ……ヤツは我らがネドレ、ジーネドレの血を引くことを見破った。それも、ごく自然に、当たり前のようにだ。力みや緊張の類は感じられなかった。探るため努力して、見破ったのなら、まだ理解できるのだが……それに……ヤツには何か特別な力があるように見えた」


「おいマドル、何を馬鹿な。特別な力だと? 一体なんのことを言っている」



 ダガーラン──セトルドはマダルガの正気を疑うかのように、マダルガの顔を覗き込む。



「なぁセトルド、なぜ我は、あの者への警戒心を解いてしまったのだろう……お前もそうだ。お前も、あのジャンダルームという男への警戒心、敵対心を解いてしまった。王である我に味方などいない、セトルド、お前以外にはな。生まれて今まで、お前以外を信用したことはない。敵ばかりの王宮、子供の頃は我の命を狙う者、利用しようとする者ばかりだった。その時の癖が、いつまで経っても抜けんのだ」


「マドル……お前はもう王だ! 恐れることはなにもない! 何かあれば、罪はすべて私が背負う、そう約束しただろう?」


「誰を見ても、怖かった。無垢な子供さえ、暗殺者に見えた。愛する我が子でさえ、そう見えてしまう時がある。王となっても……今でも、眠れば悪夢を見る。生きるため、王となるため、我らの手で謀殺した兄弟達が、我の足を掴んで、引きずり下ろそうとする。自分達のいる死の世界へと……そんな悪夢を見る。緊張は体も心も強張らせて、これが本当に自分の体なのかと疑いたくなる。そんな我が……あの時、ジャンダルームと言葉を交わした時、体が軽くなるのを感じた。最初はそれが何か理解できなかった……だが時が経った今ならばわかる。あれは……安心だ。我の恐怖心も緊張も、あの時、消えていた……これはありえぬことだ。我からすれば、それがなによりの根拠だ」


「マドル……お前は……そうか、そんなにも心を弱らせていたのか。大丈夫だ、すべてうまくやる。今までずっとそうだっただろう?」



 セトルドはマドルの言葉を真剣に受け止めることはなかった。マドルの心は限界に来ていたのだと、そう判断した。



「セトルド……違うんだセトル! 妄言や虚言などではない! 今までとは違う、あの者達と敵対するのはやめるのだ。もう終わりにしよう、ジャンダルームの言っていたことは最もだ、お前だってヤツの言葉に心躍らせていただろう? この国が、ジーネドレの後追いではなく、異なる形で、羽ばたく未来を、本当は見たいのだろう? お前だって、もう疲れたはずだ」


「マドル……私をセトルと呼ぶのは随分と久しぶりだな。ふ……ああそうだ。私もジャンダルームの言葉に、心動かされそうになった。だが現実を見ろ、今までを思い出せ、馬鹿な善人など役に立たない、私達に期待させ、無謀の末に息絶えるだけだった。世界を変えるには時が掛かる、我らの世代では、無理なのだ。いつかの未来、理想の世界にたどり着くためには、薄汚れた現実に、少しの理想を織り交ぜて、祈るように育む他ないのだ」


「……我は……お前に、理想の礎に、生贄になどなって欲しくない。心許せる、世界でただ一人の友を失ったなら、我はどう生きればいい? 無能のフリをして、何もせず、お前を失えば、我には何も残らぬ。セトル、我は……僕は……もう、お前の言う事を聞かない。僕は……お前とは違う道を選ぶ。この国と、かつての、僕らの約束の為に」



 心からの言葉を伝えるために、マドルは子供の頃の話し方で、言葉を紡ぐ。幼い頃から、兄弟のように、互いを支え合って生きてきた。そんな二人は今日、決別した。



「っ……マドルッ!! お前に何ができる! 私がお前の代わりにすべてを行ってきた。お前は無能なフリをするうち、本当の無能となったのだ! 余計なことを考えるのはやめろ……! お前が私を救おうなどと言うのは、傲慢だ! 私への侮辱だ!」


「……っ……」



 マドルはセトルに何も言い返すことができなかった。けれど、マドルの覚悟が揺らぐことはない。


拳は固く握られていた。


それは緊張からではなく、強い決意の現れからだった。





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