上級冒険者と夢
「ちょっとアルピウスさん……エドナイルの使者さんと兵隊さん達が来て、アルピウスさんを呼んでるんですが……うぅ、どうすれば……その、王城に来てほしいと」
朝、俺や暗殺未遂に関する噂がどれほど広まったかを確かめるため、俺とディアは街の様子を見に行った。それから少し経ち、昼食を冒険者ギルドの宿舎で取りに戻っていた所、冒険者ギルドの受付嬢が俺達の所へやってきた。
「来たか、まぁ狙い通りだな。今の俺は冒険者ギルドに保護されている状態、冒険者ギルドのエドナイル支部で一番偉いのは、今はギルドマスターのオードスだろ? オードス次第だ、オードスは今どこに?」
「え? オードス様なら屋上でお酒を呑んでたはずです。市場でお酒とつまみの乾燥肉サボテンを買って来たって、ニコニコでした」
「なんだいるのか……じゃあ昼寝でもしてて、兵士に気づかなかったか?」
オードスは留守ってわけじゃないのか。昼から酒を呑むのは構わないが、業務に支障がでないレベルにしてほしい所だ。
「──う、うぅ……や、やりすぎた……酔い覚ましの魔術、反動が……」
今にも死にそうな、か細い声が微かに聞こえた。
「お、オードス。大丈夫か? フラフラじゃないか」
「酔いは完全に覚めてる。身体への負担も治した。でも精神への反動はどうしようもないんだなァこれが……酒で長時間をかけて体感するはずの不快感が一気に襲ってくるから、酔い覚ましの魔術は……普段オレは使わないんだけど、ジャンダルームくんの大事だから」
オードスには酒を控えるという選択肢はなかったらしい。彼女は半分酒を呑むために生きているらしく、そういう生態だと、周囲の人間は納得するしかない。
「酔い覚ましの魔術まで使ってもらって悪いが、そこまで体調が良くないなら、俺とディアだけで呼び出しに応じてもいいと思うんだけど。ダメかな?」
「ダメダメダメダメ! そもそも、世界中に広がる冒険者ギルドという巨大組織、そのギルドマスターという肩書を持つオレがいるからこそ、ジャンダルームくんを強引に保護できたんだ。オレがいなければ、エドナイル政府と交渉などできない。いくら巨大組織といえど、国と、王との交渉となると、ギルドマスターレベルが出向かなければ不誠実だよ。お互いの品位や権威を下げることになるのはよろしくない」
それもそうか……なんだかんだしっかりしてる所はしてるオードス。俺は別に権威なんてないしなぁ。バックがいないとどうしようもないか。
「わかった。じゃあ一緒に王城に来てくれオードス。俺だけではエドナイルを納得させる交渉ができない」
「おいおい、そんな謙遜するなよな。そもそも君は数の少ない上級冒険者だよ? 立場で言えば普通に一般貴族クラス、しかも未踏破のダンジョン、遺跡の複数攻略なんて、異常な成果を出してる。君は自分が思ってるよりも凄いヤツなんだ。だからこそ、オレもここまで君のために動けるんだ。ただの友達を助けるために、国と揉めるなんてできないよ、流石にね」
「え? 上級冒険者ってそんな、貴族レベルの身分保障なの?」
「えぇ……? そんなことも知らないで、アルピウスさん上級冒険者に? 上級冒険者ってエリート中のエリートで、冒険者5000人に対し一人もいれば良い方だって。エドナイル支部ではアルピウスさん以外だと一人しか上級冒険者はいません」
受付嬢が信じられないといった表情で俺を見る。お、俺って……結構ズレてんのかな……しかしそうか、エドナイルには俺以外にも一人いるんだな、上級冒険者。
「そ、そうだったんだ。俺あんまし、そういうのは興味なくて……確かに上級冒険者だって言うと、遺跡調査の許可があっさり出たりとかあったなぁ。そういうことだったんだ。あれ……? ねぇオードス、上級冒険者って今何人ぐらいいるの? その、冒険者ギルド全体で」
未踏破ダンジョンを攻略したらあっさりなれたから、上級冒険者にそれ程の価値があるものだと認識できていなかった。一応上級冒険者になるための試験があったけど、簡単なペーパーテストと、対魔物の実技試験で、どっちもそれほど難しくなかった。試験監も、試験を受けられる時点で、ほぼほぼ受かるものだから安心していいと言っていた。
だからホント、楽に上級冒険者になれてしまっていたから。驚きだ、こんなに価値があるモノだったなんて……
「今は51人だ。実力的には上級クラスだというのなら何千といるが、大抵は人格的な問題で上級冒険者の試験を受けられないんだよ。まぁ雑に言えば、悪いヤツは上級冒険者になれない。荒くれ者でも実力があれば出世ができるとか、そういう考えで冒険者になるものが多いけど、それでは上級にはなれない。悪いヤツに権威を与えたらメチャクチャになってしまうからね」
「へぇ~~~。でもさ、その悪いヤツかどうかってどうやって判断してるの?」
「魔法による判定だね。精神の動きを監視する魔法、それとイメージを見せる魔法を組み合わせて行っているんだ。対象者に夢を見せ、対象者が夢の中でどういった行動を、どういった意思の元に行っているか? それを見るんだ。上級冒険者候補に挙げられた者は、これによって寝ている間に、本人が知らぬ間に判断される」
「えっ!? でも、その判断って、高度そうな魔法だし、オードスがやってるってことだよな? じゃあ、オードス、俺に勝手に夢を……」
オードスがニヤリと笑う。なんてこった……つまりオードスは夢を操れる、好きな夢を人に見せられる。これは凄いな……使い方によってはヤバそうだ。
悪夢を見せて精神的に追い詰めるとか、オードスなら簡単にできてしまうだろうな。
「勝手じゃないよぉ、だって君も冒険者になる時に契約書にサインしたはずだからねぇ。ちゃんと項目があった、生活態度も評価項目であり、改善、評価のために冒険者ギルドが干渉することがありますって」
えぇ……いや、そんな書き方で流石にそこまで想定できないでしょ……粗暴な冒険者がやりすぎてしまった時とか、そういう対策かと……
「あ、この事は秘密だからね。オレの許可なく言ったら、一生悪夢を見せるから。ちなみにオレにはそれが可能だから、嘘かどうかは試さない方が身のためだよ?」
こわ……やっぱできるんだ。巻き込まれる形で聞いてしまった受付嬢は青ざめている。可哀想……オードスは何百年も生きてるって話だし、そりゃできるか。オードスは人に嫌がらせするのも好きだし、自分の心が傷まない程度の、地味に嫌な感じの悪夢を一生見ることになるんだろうなぁ……
「ま、まさか……時々俺が見る地味な悪夢……腕毛が踊りだしたり、下半身がお酢まみれになる夢は、オードスが見せてたってコト!?」
「え、えぇ? な、なんのことかな? やめてくれよ~。夢を見せられると言ってもさ、なんでもかんでも悪夢をオレのせいにするのはさァ~、困るよ、はははは」
めっちゃ目が泳いでるぞオードスッ!! さてはやったな!?
「今後は控えるようにな。お前が夢で勝負するなら、俺は現実でオードスに対抗するからな。お前が見せた悪夢を、現実で俺がそのまま返すからな。腕毛を踊らせる魔術を会得して、お前にかけてやる!!」
「はは、無理だよーん! だってオレ腕毛なんて生えてないしぃ~」
「じゃあ生やす!! お前の腕毛を濃く長く、ワシャワシャにしてやる。そういう魔術なり魔法を、意地でも会得してやるからな!! だからもう、悪夢は見せないでくれ!」
「ぷ、ははは、お兄ちゃんなに言ってるの~? わたし腕毛が森になってるオードス想像しちゃった。ふふ、ねぇオードス、夢っていい夢も見せられるんでしょ? だったら見たい夢があるんだけど」
「いやディーアームくん、できるけど嫌だよ。大体、どんな夢みたいのか想像つくし……」
ディアから距離をとるオードス。ディアはそんなこと言わずに~と、オードスににじり寄っている。なんか圧があるな……そんなに見たい夢があるのか。一体どんな夢を見たいのやら。
「って、そういやこんな話をしてる場合じゃなかったな。エドナイルの使者と兵隊さんを待たせてるんだった。話してる間にオードスも体調戻ったみたいだし、王城に行こうぜ?」
そんなこんなで、いざ王城へ。
少しでも「良かった!」「続きが気になる!」という所があれば
↓↓↓の方から評価、ブクマお願いします! 連載の励みになります!
感想などもあれば気軽にお願いします! 滅茶苦茶喜びます!




