ブラザーコンプレックス・ビッグバン
バルサーリオットは俺だけを狙う。それは変わらない、だが攻撃の度、工夫をして、俺を捉えようとする。攻撃にフェイントを混ぜて、異なる角度、タイミングによる連続攻撃、毒、衝撃魔法による吹き飛ばし。
だが、どの攻撃も俺に届くことはなかった。狙いが俺一人であると分かっていれば、対処はしやすい。アグニウィルム、雷花石に閃光石、ディア、エル、エローラ、ピエルレにアルズ。皆が俺を守る為に動き、攻撃を無力化出来ている。
『──仕方がない。これを使わざるを得ないか。ジャンダルーム、貴様に敬意を払おう。アビス・プリズン!!』
「──なっ!? これって……!?」
バルサーリオットが魔法を使った。俺を、移動させた……
一瞬だった。なんの予備動作も予兆もなかった。気づけば俺はバルサーリオットの本体のいる世界にいた。
「結界魔法でワレの世界にお前を閉じ込める」
「そんなっお兄ちゃん!!」
「にぃに!」
「兄ちゃんっ!!!」
妹達の叫び声が聞こえる。姿も把握できる。だけど、手はもう、届かない。俺が今いるこの空間は、この世界は、あまりにも孤独だ。何もない空間だけが広がる、虚無。光も闇もない。だけど存在だけがある。魔力によって情報だけが流れてくる、歪な世界。
この世界では、俺はバルサーリオットの形を目で捉えることはできない。目が機能したとしても、バルサーリオットの、勇者レギオンの体が巨大すぎて全身を捉えることはできなかっただろう。
だけど……物理的に目が見えないんだ。なのに……敵のバルサーリオットの強大さだけが、はっきりと分かってしまう。魔力による感覚が、バルサーリオットの圧倒的な魔力を、力を俺に教えるからだ。
「やはり、ジャンダルーム、貴様単体では大した力はないようだな。ワレの世界に引き込んではっきりと分かった。貴様も、分かったことだろう。勝ち目がどうとか、そんなことを考えるのも馬鹿らしい、圧倒的な格の違いを。お前は、もう、この世界から出られん。死ぬこともできん。この世界に来た時点で、お前は最早、ワレの一部だ。生きたまま、取り込むつもりはなかったのだがな」
「そうか……俺は、例えるならお前の体内にある細胞の一つになっちまったってことか。どうして生きたまま取り込むのが嫌だったのか、お前の一部になった今なら分かる。お前の意思が、考えが伝わってくるからな。お前は……純血のエルシャリオン人以外の存在は……死んだ状態でなければ、魂を書き換えられないんだな」
「そうだ、貴様はワレの中で永遠に異物であり続ける。美しくない……すでに死者であったなら、時をかけて、ワレに書き換えられたものを。だが、致し方ない。厄介なお前を始末するにはこれしかなかった。単純にお前を殺せば、イモートは激昂しオトマキアごと滅ぼしかねなかった」
やはり俺とイモートの関係性をバルサーリオットは把握してるようだ。バルサーリオットはオーブに取り憑いていた時にオーブから俺達の情報を得た。
俺は勇者レギオンの一部になってしまった。こんな状態では俺もバルサーリオットもプライバシーなんてありゃしない。互いの考えが、思いが筒抜けなのだから。
それで分かったのは、バルサーリオットが純然たる善意から世界を支配しようとしている、ということだった。
心の底から、自分と、バルサーリオットと一体化することが世界を幸福にする唯一の方法だと思いこんでいる。だけど、そんな自分の野望を阻む存在に対して、こいつの悪意は止めどなく溢れている。
「ジャンダルームよ、改心せよ。ワレと共に世界を導け、さすれば、ワレはイモートには手を出さぬ。お前にとってイモートは、貴様の妹は、己の命よりも尊きものなのだろう……? それ以外の全てを犠牲にしたとしても、問題ないであろう?」
「大事だよ、何よりも。だけど、それじゃ意味ないよバルサーリオット。俺はさ、欲張りでさ。俺の可愛い妹達が、幸せになってくれなきゃ駄目なんだ。お前みたいなキモい奴と妹達だけしか存在しない、そんな歪んだ世界。マジで無理なんだわ。色んな奴がいて、色んな発見や経験がある。心ある世界で、俺の妹は幸せになって貰わないと、俺は嫌だ。あいつらが、俺さえいればいいって言っても、俺は嫌だ」
「理解できぬ……貴様のことが心底理解できぬ……貴様の望む世界には苦しみがある。愛する存在が、その苦しみに飲まれることを何故……許容できる」
「どんなに大きくなっても、凄い奴になっても、あの子は、俺の妹なんだ。俺にとっては普通の女の子なんだ。まぁ、ちょっと俺のことを好き過ぎるかもしれないけど。あの子の心は、人間なんだ。だから俺は、あの子達に人としての幸せを経験させてやりたい。それが困難なことで、あったとしても」
俺もバルサーリオットも違いすぎて、互いを理解できない。理解できないことを分かっていても、言葉は止まらない。言葉を止める心の壁はないから。
「ジャンダルーム、貴様には夢があったはずだ。お前は考古学者になりたかったはずだ。お前はワレに従えば、その夢も、妹達の平穏も手に入るのだ。貴様の記憶を見た。考古学者になりたい、その一心で、故郷を捨て、死にものぐるいで未来を切り開いたのだ。ここで、ここで貴様の夢を、終わらせてしまって良いのか?」
「そうだな。俺はこの世界に生まれて、今度こそは考古学者になってやるって思った。誰に何を言われようとも夢を諦めないって、俺はこの今世を、考古学者になる為に生まれてきたんだって思った。今でもその熱は、ちっとも冷めちゃいない。だけど、その夢も、俺だけのものじゃ、なかったんだよ」
「な、に……?」
「考古学者は、妹が、ミヤコが、見つけてくれた、俺の夢なんだ。百回の生まれ変わりの全てで俺はこの夢を追った。でもそれは、ただ俺が考古学が好きだったからじゃ、なかったんだ……俺にとって、考古学は、魂があの子を思い出す為の、絆だったんだ。ずっと、寂しかった、後悔してた。だけど、夢を追っている間俺は、あの子が、ミヤコが、俺の、傍にいるような感じがしたんだ。魂の奥底の痛み、孤独という冷気から、俺を、温めてくれた」
これが俺の、本心、バルサーリオットの心の中で、隠すことができなくなった。俺の本心。
「俺の夢は考古学者になりたい、“だけじゃなかった”俺は──
──俺はッ! 愛するあの子達を抱きしめる為、精一杯可愛がってやる為に、俺は!! この世界に生まれてきたんだッ!!」
「──ッッッ!!!? にぃに! にぃに駄目だよ! そんなこと言ったら! 駄目だよ……! みんな、みんなが見てるのに、そんなこと言ったら!! ッッッ──」
え? アルズの叫び声……待て、俺の言ったこと、みんなに見られてるの? そっか、バルサーリオットもデスランドにいた俺達に話しかけてたし、俺がこっちで話せば、同じか。まぁ恥ずかしいかもだけど、そんな駄目って怒られる程のことじゃ……ん?
──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!! ガガガガガガガガガ!!!
「な、なんだ……? 世界が、揺れてる……!?」
「何なのだ!? 何が起きている!? 何をした! ジャンダルーム!!」
◆◆◆
『──俺はッ! 愛するあの子達を抱きしめる為、精一杯可愛がってやる為に、俺はこの世界に生まれてきたんだッ!!』
「──!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ジャンダルームのその魂の叫びは“みんな”に見られていた。一連の戦いは当初、アルズリップの隠蔽工作によって、他の妹達が観測できないようにされていた。
しかし、アルズが改心した結果その隠蔽は解除されていた。それからは、超次元艦隊の全ての妹達が、デスランドの戦いを見守っていた。
ジャンダルームがモイナガオンで妹達の未来予測を超えた時のこともあって、妹達はギリギリまでジャンダルームのやりたいようにさせることにした。その方が世界にとって良い結果を齎す可能性があると思ったからだ。勿論、兄の機嫌を損ねたくないという思惑も大いにあったが。
なので妹達は限界ギリギリまで見守り、いざとなれば助けようと考えていた。だが、妹達にとっても兄の存在はイレギュラーだった。
「うわああああっ!? お、おおおおお前達!! 落ち着け! 落ち着くんだ!! 今すぐサイキックエナジーの増大を止めろぉぉっ!!」
次元の狭間、超次元空母ジュピトゥールにジーネットリブの叫び声が響く。ジーネは心臓を抑え、呼吸を荒くして、大量の汗を掻いている。
「そんなのっ、無理ですよ!! そもそもジーネだって落ち着いてないじゃないですか!」
「ぐ、ぐわぁぁ、お、終わったぁ……っ! 妹達で一番冷静なはずのエスフィアがこれではっ……もう、止められない。兄様、兄様!! なんてことを言うんだ。そんなことを言われたら、私達は、溢れてしまう。兄様への愛が、思いが、止められなくなってしまう……!!」
ビー! ビー! ビー! ビー!
【警告、警告、超次元艦隊全てに異常なサイキックエネジーの増大を確認。制御限界値到達まで10、9、8、7──】
超次元艦隊の制御システムが警告音を鳴らしても、妹達は誰一人、冷静さを取り戻さない。兄が好き過ぎる、その思いで、まるで茹でダコのように真っ赤になって、死にそうになっていた。
「っく、このままでは、爆発する……っ! もう、兄様ぁ! 大好き! 大好き! 愛していますっ……!」
妹達の超次元艦隊から超高密超膨大なサイキックエナジーが解き放たれ、大爆発が引き起こされる。それは妹達が想定していなかった、初めての暴走だった。誰も、それによって引き起こされる現象を、予測できない。
未来は制御不能な領域に突入する。
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