苦境と助け
エルの青き炎の力をメインに戦うことで、テルミヌスの燃費問題は解消され、俺達は勇者レギオン、バルサーリオットに対し有利な状況となった。
だが、依然として俺達はバルサーリオットに対して打撃を与えられていない。ダメージを与える手段がない……
あちらも俺達に対する有効な攻撃手段は持たないが、敵がいつまでも同じ行動をしてくるとは思えない。バルサーリオットも俺達を攻略する為に、頭を働かせている事だろう。そして、俺のそんな嫌な予測は的中してしまう──
『分析は終わった。世界への思念体ビームの投射によって物質化を引き起こし、その巨神像を顕現させているようだな。幻影の魔術の発展版といった所か、世界を洗脳し、世界に巨神像を作らせる。なんとも凄まじい技術よ。だが仕組みが分かれば対処は不可能ではない。こうやって──パチン』
勇者レギオンがその大きな指を弾く。すると──ガガガガガ!!!
「なんだ、この振動は……っ!?」
【お兄ちゃん!! テルミヌスの出力が低下、違う、出力じゃない……このままじゃテルミヌスの顕現が維持できない! この世界とテルミヌスの繋がりが、絶たれようとしてる……!】
『──思念波によって生み出されるのならば、同じ思念波によって妨害が可能だ。貴様らイモートの言語の全てとはいかずとも、一部はワレが解析済みだ。同じ言葉であれば、妨害は可能だ』
っく、テルミヌスが透けてきた……嘘だろ? テルミヌスがないと、俺達は、あんなデカい化け物、勇者レギオンなんて倒せないぞ!?
──バシュン。
「う、うわああああああああああああああ!!」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
「ヤバヤバなのですーーーー!!! こうなったら鳥さんモードなのです!」
テルミヌスがついに消えてしまった。召喚が解かれ、内部にいた俺達は外に放り出された。エルがカラスに変身して俺達を助けようとするが、いかんせん重すぎる。焼け石に水だ。
「みんなー! ピエルレ達を助けてー」
ピエルレがゾンビ達を操作し、俺達をキャッチさせることで、なんとか落下死は免れる。あ、危なかった……
「ありがとうピエルレ。お前がいなきゃ誰か死んでたな……って、死ぬ可能性あるのは俺とオーブぐらいか」
『ククク、最早勝敗は決したなァ? どうだ? これからワレに吸収される気分は? 負けても幸福になれるとは、幸運だなぁ? お前達は』
驚きだ……本当に。俺、いい気になってた。テルミヌスがあるからって、安心しすぎてた。俺自体には大した力もないのに。
ただの人として見上げた勇者レギオンは、あまりにも大きかった。奴からすれば、俺達はちょっと大きいアリぐらいに見えることだろう。
賢い敵っていうのは、こんなにも厄介なのか……魔族領で対峙した神化したマニュールも賢かったけど、バルサーリオットとは質が違う。
バルサーリオットは邪悪だ。悪意を追求することに躊躇いがない。マニュールには人の心があったから説得ができた。だけど、バルサーリオットの説得は無理だ。
説得が可能であったなら、ジーネがやっていたし。今頃こうやってバルサーリオットと戦うこともなかった。
『では、祝福を授けてやろうではないか』
バルサーリオットが触手を広げ、その先端から魔力ビームを放つ。油断はないらしく、ご丁寧に何百本というビームが、俺達を狙った。おそらく、妹達が俺を守るだろう。エローラも死なない。
だけど、エルとオーブは、死んでしまうだろう。俺が、嫌だと思っても、止めようがない。覚悟を決めることしかできない。二人を失うことを。
──パキィイイイイン!
「え……? ビームが、弾かれて……」
「至高の方、イモート同士の戦いが終わった今、我らもこの地を守る為、戦うことができます。アグニウィルム様もいます。諦めるには、まだ早いですよ?」
「じょ、女王!! 雷花石!! 来てくれたのか! 女王だけじゃない、インレーダ族のみんなが!」
勇者レギオンのビームを弾いたのはインレーダ族達とアグニウィルムだった。インレーダ族は強い、人と同じ大きさでも、一人一人が人族の精鋭クラス。それが束になれば、勇者レギオンに対抗することは難しくない。
「雷花石……」
「閃光石、あなたは随分と偉そうになりましたね? 群れを離れ、育てたのはくだらないプライドだけですか? あなたも力を貸しなさい。あの者が、この世界にとってよくないものだというのは、あなたも分かっているでしょう?」
インレーダ族の女王、雷花石が閃光石を詰める。すると──バシャア。と大粒の汗が閃光石から落ちた。ギガントレイヤーで巨大化しても汗掻くんだ……その機能、あるんだ。
「仕方ない。あの存在は、余も放ってはおけぬしな」
「なんですか? その喋り方? そんな喋り方をすれば偉くなれるとでも思っているのですか? 浅はかにも程があるんじゃないんですか?」
「うご、ごごご! そ、そんなつもりは……進化したら、なんとなく、こう喋りたくなっただけで……ええい! もういいだろう!? 昔の喋り方にする故、これ以上言ってくれるな!! 協力もする! これでいいな! よし!」
閃光石……雷花石に弱いな、こいつ。
『お兄ちゃん! テルミヌスは消えちゃったけど、テレパシーでの会話はまだできるから。作戦を一緒に考えたりはできるよ』
『そうか、ならまだ救いがあるな。言葉を口にすると、あいつに聞こてしまうのが厄介だな、ホント』
『ですです。多分、バルサーリオットは本来よりも知能が向上してるのです。他のエルシャリオン人達を取り込んで、脳みそを大きくしちゃったと、エルは推測するのです!』
『なるほど、エルの推測は有り得そうだ。いくら分析力に優れていようと、イモートの技術を即興で妨害なんてできない。人智を越えた力……他人の頭脳を、集約してスパコンを作ったみたいなもんか。バグでも起こってくれれば楽なんだが、魂を書き換えて、そこら辺を安定させてそうなんだよな』
今のバルサーリオットは物理的にもでかい。だから実際に計算能力は高いかもな。普通なら自重で脳がおシャカになりそうだが、魔力だのなんだのが存在する世界じゃ、有り得てしまう。
ヤバい奴も、知恵を絞って、あとは根性でどうにかやってきた俺だけど。相手の方が俺よりも賢くて、無駄にモチベーションも高いんじゃ、俺に対抗できそうな要素がなさ過ぎる。
そんなこと考えたって、仕方がない。それは、分かってるけど……俺の周りにいるディアも、エルもエローラも、みんな、俺よりも凄い奴だ。俺に、俺に何が出来る? 諦めるつもりはないし、無力な自分に納得するつもりもない。
だけど、実際、どうすればいい? こんな思いを、口にすることはできない。みんな、俺が希望を見ているから、気を強く持てている。俺が弱気な発言をした瞬間に、俺達は、終わってしまうような気が、してしまう。
『お兄ちゃん……』
ディアには、伝わっちゃったか。テレパシーで聞こえないように、考えたつもりなのに。
「あんたねぇ、そんな顔してたら、アタシでも分かるわよ? 勝てるかどうか、分からない。どうしたらいいか、分かんない。そう思ってんでしょ?」
「っぐ……! エローラ、ち、違うって」
「ふふふ、ジャンさんは自分が思ってるよりも表情が豊かなのです! みんな、同じなのです。ただ、ジャンさんと違うのは、これが駄目だったら自分のせいだって、思ってないことなのです。エル達は無責任なのです!」
エルがドヤ顔で胸を張る。そんなドヤ顔で言うことじゃねぇだろうよ。
「ふ、はははは! そっか、無責任か。失敗したら、精一杯頑張ったけど駄目でした。それで納得ってか? だけど、今回の相手はそうはいかないぞ? 死んだら、あいつのバルサーリオットの一部にされる。あいつは、自分の知らない知識を得るために、必ず俺達の魂を取り込む。そんなことになったら……俺は……」
「──お兄ちゃん、お兄ちゃんと一緒なら、わたしはそれでもいいよ」
「ディア……?」
「お兄ちゃんがお兄ちゃんらしくしてたらね? わたし、一緒にいたいって思うし、ついていっちゃう。だって大好きだもん。ただ、それだけ、なんだよ? 深い理由なんてないし、誰かが納得する合理的な理由なんて、いらないの」
「そうなのです! エル達は、ジャンさんというお祭りに参加してるんです! 一緒に楽しいこと、凄いことをやってみたい、それだけなのです!」
「ま、まぁ? アタシも、に、似たようなもんよねぇ~? アタシは死なないし、あんたとはどのみち寿命の違いでいずれ、バイバイすることになるんだし。それまでは付き合ってやろうってだけよ。でも勘違いしないでよねジャンダルーム! アタシはディアと違って、全ッ然ッ! あんたのことは好きじゃないんだから!!」
「エル、エローラ……分かったよ。お前らの気持ちは。何も変わらないんだ、俺のやることは何一つ! 覚悟を決めろジャンダルーム!! 俺の命懸けの祭りに、運命の女神が来たくなるぐらい! 盛り上げてやろうじゃねぇか!!」
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