古の覇王
「デカいな……流石にエドナイルで戦った砂の巨神ほどじゃないが。あれが怨念の集合体、レギオンとでも言えばいいのか」
怨念の集合体、こいつを俺はレギオンと呼ぶことにした。レギオンは受肉を完全に果たし、王冠をかぶった黒紫の巨人となった。大きさはテルミヌスの二倍ぐらいで、己の身の丈ほどの長さの槍を持っていた。
それにしても何故王冠を……怨念の集合体だと言うのなら、我を保てず分散し、無個性化するんじゃないのか? あの王冠と槍だけが、レギオンの中で浮いて見える。他の部分はただの人間が巨大化して、肌を黒紫に変色させただけ、そんな感じなのにな……
「にぃ様ー!」
「うわっ、ピエルレ! 無事だったのは嬉しいけど、今はちょっと!」
重症だったはずのピエルレはテルミヌスの中で治療され、すっかり元気になっていたらしい。ピエルレは俺に抱きついて、離れようとしない。
「あ! ズルいピエルレ! にぃに……」
アルズは俺に抱きつくことはなかったが、俺の服の袖を掴み、甘えたそうにしていた。やれやれ、困ったものだ。こんなの敵のレギオン達が見たらブチギレるぞ……
ま、だからといって、俺の中の優先度が変わるわけじゃないがな。
──ワシャワシャ。とピエルレとアルズの頭を撫でてやる。
「後でな。今はこれで我慢してくれ。敵も、勇者レギオンも動き出すみたいだからな──」
『感謝するぞジャンダルーム! ワレの宿願を果たしうる、最高の肉体を手に入れた! ハハ、ハハハハ! 今宵エルシャリオンはワレと共に復活を遂げる!! 我が覇道は、再び世界を塗り替える!!』
「嘘だろ……あれは、完全に一人の自我じゃないのか? 一人の人間が、何千、何万という人間の魂を支配できるのか? けど、そうか、その王冠、正体が分かったぜ。お前、俺に感謝するのは早いんじゃないのか? エルシャリオン皇帝、バルサーリオット!!」
レギオンの姿とその発言から、俺は勇者レギオンを支配する中心人格を特定する。エルシャリオン皇帝、バルサーリオットであると。バルサーリオットはかつて大世界オトマキアを汚染し、世界支配をしかけた魔導の王だ。そして、俺の妹であるジーネットリブによって野望を打ち砕かれ、その生命を絶たれた。そして、数え切れない程、大勢の、全ての純血のエルシャリオン人も、皇帝と共に死んだ。
そうか……イモートに恨みを持った怨霊、そいつらの殆どは……かつてジーネによって虐殺されたエルシャリオン人だったんだ。そして、怨霊となったエルシャリオン人達は、その中心を皇帝と考える。だから、バルサーリオットはあのレギオンを支配、掌握することができたんだ。心の中で多数決を行った結果、主導権を得た。そんな認識でいいだろう。
『ほう、この時代の者がワレの名を知るか。であれば、尚の事、その無礼な態度はいただけぬなァ。皇帝であるワレ、バルサーリオットに、この世全ての存在は頭を垂れてしかるべきなのだから。ほれ、はようせぬか。詫び、媚び、命を乞え』
「は……?」
こいつ、こんなヤツだったのか……バルサーリオット。世界を破滅一歩手前まで追い込んだ皇帝が、こんな器の小さいパワハラモラハラ野郎だったなんて……
成し遂げた事が大きいからといって、それに人格が伴っているとは限らない。わかっちゃいるが、やっぱりどこか期待してしまうもの、なんだよなぁ。
「もう喋るな。お前が喋れば喋れる程、お前が滅ぶのは当然だったと、俺の中で確信が強固なものになっていく」
『貴様ァ!! どうやら死にたいらしいな! よかろう、貴様を再び始まった我が覇道に、踏み潰される最初の土塊としてやる』
ヤバい……とんでもない小物臭さのせいで、油断しそうになる……こんなヤツでも滅茶苦茶強いはずなんだ。切り替えろジャンダルーム! 相手は化け物が勇者化した、とんでもない存在なんだ。
勇者レギオンが槍を構える。狙いは俺、テルミヌスだ。
【──お兄ちゃん!】
「ああ、分かってる! あの槍は、杖だ!」
勇者レギオンの槍──杖槍の先端から魔法のビームが放出される。しかし、ビームがテルミヌスへ届くことはない。避けるまでもなく、テルミヌスのシールドが弾くからだ。
「魔法だな。しかも慣れてる……バルサーリオットはやっぱり魔法使いだったのか。死んだ後、魔力結晶は誰かに回収されたはずだ。魔力結晶がなければ、魔法使いは魔法使いたり得ない。なのに、まだ魔法を……勇者化したから使えるのか?」
「おそらく違うわ。勇者化の影響で強くなっているのは間違いないでしょうけど」
エローラには勇者レギオン、バルサーリオットが魔法を使える理由がわかるらしい。やっぱり、魔術や魔法に関してだけは頼りになるな、こいつ。
「逆なのよ。魔力のある存在で、人間だけが魔法を使えない。人間は呪われてるのよ。つまり、人間でなくなれば、魔法は使える。受肉をしたとしても、あいつらは人間とは言えない。怨霊の継ぎ接ぎで出来た魔物。不死者のモンスターよ。あなたも冒険者なら知ってるでしょ? 元人間の魔物、放置された死体の成れの果て、スケルトンを。スケルトンは──」
「──スケルトンは魔法を使う! 生気吸収、ドレインの魔法を使ってくる。そうか、なるほどな。奴は受肉を果たしても、本質的には死者、まさしくゾンビなわけだ。だとすれば、弱点も同じ。炎と神聖魔術、浄化の力だ!」
っは、炎の力に弱いって。こいつも運がない。なんたって、アグニウィルムとかいう、炎の化身みたいなヤツの力を、俺達は借りてるわけだからな。……だが、だとすると、あいつの、あの余裕はなんだ?
あいつはきっと、見ていたはずだ。テルミヌスがドラグライズして、炎の力を使っていたのを……
「だとしても、まずは反撃だ。ミーティア・シャワー!!」
テルミヌスの持つ銃槍が変形し、ドラゴンブレスを放出する。勇者レギオンはそれを避けようとするが、ホーミング能力を持ったミーティア・シャワーからは逃れられず、命中する。しかし──
『──クク、ハハハハ! 効かん、効かんなァ! 龍神の炎に対しても有効であるか、未検証だったが。何も問題はないようだ。やはりワレは天才、いやいや、天才などでは足りぬ。超天才ッ!! 個体の世界化は、成功しているッ!!』
「効いていない!? 嘘だろ……それに、個体の世界化? なんだよ、それ……」
思わずどういうことだと、バルサーリオットに訊いてしまった俺。そんなこと聞かれても、答えるわけないのに──
『──まぁ、愚かなゴミ共には分からぬだろう。仕方がない、教えてやろう。でなければワレの崇高さが認められず、ワレが可哀想である』
えぇ……こいつ……大昔もこんな感じで無駄に情報を敵に渡して負けたんじゃ……
『個の世界化とは、文字通りだ。一個体を一つの世界、小世界化することだ。大世界オトマキアの枠組みの外にな。かつてワレは世界全体をワレの世界に変えようとし、失敗した。世界をワレの力で侵食することはできたが、逆に忌まわしきジーネットにその特性を利用された。浄化という毒を、ワレの世界に取り込ませた。そう、世界との繋がり、それ自体が弱点となるのだ。その失敗から、ワレは考え、完成させた! 個の世界化と、魔力による間接干渉を』
「個の世界化と、魔力による間接干渉!? 一体どういうことだ……まるでわからん」
こんな感じで相槌うっておけば、多分。
『ハーッハハハ! であろうなぁ! 分からぬであろうなァ! 個の世界化、それを行っている者は元々存在しておる。そう、忌々しいイモート共だ。異なる世界の法則を内包し、世界と深く交わることなく、不可思議な力、超能力と言っていたか。超能力でオトマキアへの一方的な干渉を行っていた。力とは本来、互いに影響し合うものだ。だが、やつらはそうではなかった。超能力で世界を動かしても、その反動、影響が奴等に返ることはなかった』
そういえば、イモート達は基本、自分の影、アバターみたいなのをこの世界に飛ばして、こっちに干渉してるんだったか。超能力で出来た分身だから、やられても本体にはなんの影響もない。せいぜい、アバターを通じた観測によって精神的な影響があるかどうか。
多分……ジーネはバルサーリオットにこの仕組みのことを教えてないはずだ。自分の手の内を簡単にバラすなんて事、優秀なジーネがするはずがない。だとすれば、バルサーリオットは自分で気づいたってことだ。
個の世界化と魔力による間接干渉も、自分で完成させたと言っていた。間違いない、バルサーリオットは、こいつ自体が一流の研究者なんだ。行き過ぎた自己顕示欲を暴走させた天才って所か。
『だから、ワレは奴等イモートの技術を模範し、進化させた! 超能力ではなく、魔力のみで世界へと干渉する技術を完成させた! 隔離した個の世界は、あらゆる干渉を受けず、無敵の力をワレに齎すのだ!!』
なるほど、つまりこいつは魔力によってイモートの再現をしたわけか。肉体を受肉させた段階で己の存在を隔離、個の世界化を行った。
だがイモートと違って、こいつは分身をこの世界に飛ばしてるわけじゃない。魔力によって、一方的な干渉を行っているだけ。本体は見えるが、俺達側からは干渉できない。
まさに無敵……だが、こいつが俺達を倒すだけの火力を有していなければ、こいつは死なないだけだ。俺達を倒すことはできない。
「どうすんのジャンダルーム!? あいつの言ってることがマジなら、あいつを止めるの無理じゃないの?」
「エローラ、あいつは嘘をついてる。あらゆる干渉を受けないってのは嘘だ。少なくとも、俺達はあいつを見ているし、あいつも俺達を認識している。会話だって出来ている。視覚とは限らないが、なんらかの方法でこの世界を見ているはずだ」
「こっちを見てるからなんだって言うのよ? もしも魔力感知によって状況把握してるとしたら、魔眼だとか視覚に対しての幻影魔法も効かないのよ?」
う……とんでもないな。けど、どうにかならないもんか? イモートの技術は次元を越えた干渉が可能なはず。イモートの技術なら、自分の世界に隔離されたヤツを攻撃できるんじゃないか?
【お兄ちゃん、確かにあいつに有効な超次元攻撃は可能だよ。でも……威力が高すぎて使えないと思う。一歩間違えば世界が滅ぶ威力になる。バルサーリオットが抵抗して攻撃の座標がズレた場合……この小世界が滅ばなくとも、隣接した大量の小世界が消滅するから】
「は……!? 駄目駄目駄目!! 超次元攻撃は禁止な! クソ……何か、何か手段はないのか? イモートの技術を模範されると、ここまで厄介なのか……」
『やれやれ、これだから無知蒙昧な賤民は困る。貴様らの話す言葉は全てワレに聞かれておるとも知らずに。最早神に等しいワレに隠し事はできん。ククク、どうやら対処法がないらしい。誰も、ワレを止められんということだ! そうイモートさえもだ!』
マジか……作戦会議はバルサーリオットに聞かれないようにしてたのに、会話を把握されてる? ハッタリの可能性もあるが……
もし、仮に高度な魔力感知、魔力によるソナーで状況を把握されていた場合……俺達の動きや声はヤツに完全に把握される。だったら……
『みんな、テルミヌスのテレパシー機能を使うぞ。おそらく超能力由来の能力はヤツも認識できないはず。あいつの認識能力は、今まで戦ったどんなヤツよりも優れている。とりあえず、ヤツへの有効打が思いつくまで、俺達は防御に徹する。ヤツに干渉できなくとも、ヤツの攻撃自体は止められる。これ以上、デスランドを破壊させちゃ駄目だ』
エローラとエル、ピエルレとアルズも頷く。ピエルレとアルズもこのテルミヌスとパスを繋げたんだな。
『クク、静かになったなぁ? 会話を聞かれまいと必死に足掻いておるわ。よい、好きにせよ。どちらにせよ、この世界は新たな神たるワレの玩具に成り下がるのだからなァ!!』
勇者レギオンが全身からイソギンチャクのような触手を出し、その先端から魔力ビームの乱射を始めた。
『っく、あいつも俺達を倒せないって分かってるから。俺達以外を攻撃して、疲弊させようってか。クソ、小賢しいな。バカだか賢いんだか!』
俺もテルミヌスのミーティア・シャワーを発射、拡散させ、敵の魔力ビームを相殺していく。ミーティア・シャワーでないと無効化できない弾速、弾数の攻撃……相殺用に威力は絞っているが、消耗が激しい。
龍装化したテルミヌスの火力は凄まじいが、燃費が悪いっぽいな。ミーティア・シャワーだけなら無限に撃てるが、それ以外に使うリソースに余裕がない。
多分、こっちに余裕がないことも、直にバレてしまうだろう。バルサーリオットは傲慢故の愚かさを持っているが、ヤツは世界を支配寸前までいった男だ。分析力、魔術、魔法、戦術、全てをハイレベルで熟せると見て間違いない。
「はぁ……また、世界の危機か……ここでお前を止めなきゃ。世界は混沌の時代に逆行してしまう。妹達に任せたら、小世界が何個か犠牲になるんだろうな」
『なんだ? “また”というのは? 世界の危機がワレ以外に存在したというのか?』
あえて口に出した言葉、テルミヌスの内部で止まるはずの声は、やはり勇者レギオン、バルサーリオットに届いていた。これで、確定だ。神のごとき耳と目を、ヤツは持っている。
「お前は気に入らないかもしれないが。最近多いんだよ、世界の危機ってのは。黄金郷にエドナイル、モイナガオン、そしてお前。俺はこれで四度目の世界の危機の当事者だ」
『何を、言っている? ハッタリを、だとすれば、何故、貴様は生きている? 偶然が許す回数ではない』
「ハハハ、二度なら偶然で済ませたかもな、お前も。でも三回ってなると、お前も気になるわけだ。研究者として、数字は大事にしてるんだろう。だったら教えてやる。俺は運が良かった、そして諦めなかった。ただそれだけだ!!」
『聞くだけ無駄だったようだ。諦めないだけで、全ての危機を乗り越えなれるなら、全ての人類は幸福の中にある! そして幸運は、永遠に続かぬものと知れぃッッ!!』
バルサーリオットが魔力ビームによる攻撃をさらに激化させる。どうやら俺の返しが相当気に入らなかったらしい。
こいつは、人間だ。勇者の力を得ようとも、神の如き力を得ようとも。激昂するバルサーリオットを見て、俺はそう思うことができた。
人が相手なら、倒せる。勝てるはずだ。そう自分に言い聞かせる。もう不安に揺り動かされることはない。もう、そこは過ぎ去った後だ。
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