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勇者レギオン



「──はぁあああああああ!!」


 オーブは攻撃をやめない。



「──割れろ、割れろ、割れろぉおおおおおお!!」

「──っ」



 オーブは不可視の斬撃をやめ、魔法剣を使うようになった。剣が纏う魔法の炎は、それ自体が刃の特性を持っている。無傷の庇護カラーテラル・プロテティオで弾かれた炎が大地を切り裂くのが見えた。


だが、問題はそこじゃない。炎に、別の意図を持った異質な力を感じる。あの炎から、勇者の力を。あの炎を無傷の庇護が弾く度、何かが軋むような、そんな感覚がある。



 ──ピキッ。



「──ッハ! 罅が入ったァッ! その魔法はもう終わる。砕いてやる!」

「──っ」



 罅が入った。確かにそんな感覚があった。オーブの勇者としての力、理不尽を滅する力……あれが、俺の魔法を、無傷の庇護を、魔法概念ごと、破壊しようとしているのか!?


強引過ぎる……滅茶苦茶だ。もし無傷の庇護が破壊されれば、俺はオーブの不可視の斬撃を避けられず、絶命する。タイムリミットは近い、か。



「どうした、どうした! 弱い、さっきまでの剣の鋭さはどこへ消えた! そんな剣じゃ、僕と戦いにすらならな──……え?」


「そうだな。戦いにすらならない。俺じゃ、お前には絶対に勝てない」


「……何をした、お前! なんなんだお前!! お前は、お前はなんだ!?」



 オーブが動揺し、後ずさる。



「さぁ、答えは、お前の中にあるんじゃないか?」


「……どうして、どうしてその太刀筋を、知っている! お前が、トランの剣を!!」


「知ってたけど。弱いって言われるとショックだなぁ。いつ気がつくかなって、気がついてくれてよかった。俺のことを憶えてくれてよかった。オーブ様」


「嘘だ、嘘だ……! トランは死んだんだ。もう会えない、話せない。これはジャンダルームの、罠だ……っ。僕を、惑わせようとしてる、だけ、なんだ」


「はは、あなたは、俺のことをこの人に話してないでしょ? 分かってるはずだ。ほらほら、太刀筋が鈍ってますよ。これじゃあ、俺でもあなたに勝ててしまうかも」



 トランはオーブドラスの兄だと言った。彼からは、オーブの事を想う強い心が、魂を通じて伝わってきた。


あの時を、モイナガオンの出来事を思い出す。俺はモイナガオンで死者の魂、霊と繋がって対話した。今は復活したけど、エルとその生みの親であるニモ。俺はニモの記憶が保存された魔術記憶媒体を見て、ニモとの繋がりを持ち、ニモと対話できるようになった。


まぁニモの場合は、魂が聖霊に保存されていたから。可能だったんだろう。だけど、トランの魂は冥界にあったはずだ。おそらく、俺では冥界の存在と対話することはできない。


その証拠に、俺は冥界の存在とは対話したことはないし。死者と会話した経験もエルとニモの二人だけだ。



 けれど、俺とトランは繋がりを持っていて、対話することができた。オーブの兄という共通点が繋がりを作り、ピエルレの力で死、つまりは冥界との境界が曖昧になった結果、トランは俺の所までやってこられたのはでないか? 俺はこの現象をそう推察している。


俺は直感的に、このトランならオーブを説得できるんじゃないか? そう思った。だから、俺はトランに体を貸した。戦闘能力が低下するのは理解していたが、これはそのリスクを取るに値する。そう思った。



「トラン、何をしに来た……? なぜ僕と戦う。どうして、そんなヤツの味方をする。僕の敵の味方を」


「オーブ様、この人は敵じゃありませんよ。あなたを想う、兄ですよ」


「嘘だ、嘘だ! なら、どうして、僕の味方をしない、僕を、裏切った」


「俺はこの人の戦いを見てた。どういう思いで、考えで、あなたと戦っていたかが分かる。霊になると、心の壁が透けちゃって、簡単に覗けるんです。この人はあなたの為に、懸けなくて良い、自分の命を懸けている。殺すつもりならば、あなたを簡単に殺せた。あの巨神像を見たでしょう? あれを使って、あなたを簡単に殺せた。でも、そうしなかった」


「だからなんだ。こいつらのせいで、みんな死んでしまった。お前の妹だって、モドリーだって、殺されてしまったかもしれないんだぞ!?」



 ついにオーブは剣を振るうのをやめた。トランと話したいのだろう。



「分かってます。全部見てたから、知ってますよ。この戦いだけじゃない、あの日死んでからずっと、あなたのことを、オーブの事を、俺は見守っていた。あっちの世界で」

「──っ……」


「心配で心配で、だから、あなたがいつか幸せになるのを願っていた。俺との約束、まぁ俺が一方的に言った事だけど、憶えてますか?」


「……お前は理想を追え、お前の心が理想を求めるなら、それは……きっと、正しい。忘れるわけが、ない」

「今、あなたは理想を追えていますか? 自分が正しいと、思えますか? 心の底から」

「──っ……だって、もう理想なんて追えない! 理想を求める理由は、消えてしまった。今の僕の心にあるのは、怒りと憎しみ、醜い感情だけだっ!」


「涙を流す程、悲しいのは、あなたに優しい心があるからでしょう? まだ消え去ってはいない。醜い心だけじゃないはず。俺は、あなたに優しさを捨てて欲しかった。こんな風に、いつか悲しみに溺れてしまうと思ったから。でも、これが、あなたなんです。人に寄り添い、痛みを分かろうとしてしまう」



 トランの語りは穏やかで、弟を優しく諭すかのようだった。俺は、二人の関係性を知らない。なのに……なんだか、泣いてしまいそうだ。



「戦いをやめてください。まだ生き残った者もいる。この人は敵じゃない。世界は続いていく、あなたの人生も。ここで終わりじゃない」


「嫌だ、もう嫌だ。ここで終わらせてくれトラン! 僕は、もう、疲れたんだ!」


「分かってます。でも、だとしても、俺は、あなたに、生きていてほしい。ここで終わって欲しくない。良い日は、きっと来る」


「気休めだ。なんの、根拠もない……僕を置いて、死んでいった癖に。僕は、兄さんと、ずっと一緒に、国を良くするんだって、思ってたのに」


「兄さん、俺をそう呼んでくれるんですね」


「あんたを兄さんだって、思ってたさ。そう呼ぶこともなく、あんたは死んでしまった。兄さんと呼びたかった、でも、できなくて……僕は、僕は……馬鹿だ。言えたはずだ……後悔するぐらいなら、言っておけば良かった──」


「──今、言えたじゃないですか。ほら、悪いこともあれば、良いこともあった。今日あった悲しみとは、とても釣り合いはとれないけれど」


「っは、はは。兄さんには勝てないな……話すと、そうかもって、思ってしまう。世界は続く、まだ生き残りの仲間がいる。彼らを、見捨てるわけにはいかないよな──戦いを、やめる。ジャンダルーム、いや、ジャン兄さん。まだ、納得はし切れないけど、もうあなたとは戦わない。あなたの妹とも。僕らには、まだ未来があるから」


「──っ、本当か? やめてくれるのか? 戦いを」



 トランに体を返される。いきなり体を返されるとビックリするんだよなぁ。でも良かった、一先ず殺し合いはもう終わ──



『──駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない死ね死ね死ね死ね駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない許さない駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ許さない許さない』


「──っぐ、あ、うわああああああああああッ!?」

「なんだ? 黒い渦……?」



 数え切れないナニカの声がした瞬間、オーブが苦しみだし、オーブから黒い魔力の渦が発生し、噴き出していく。


尋常じゃない魔力……オーブの中にあった魔力だけじゃない……この魔力の感覚を、俺は知っている。


──勇者の力。人々の願い。オーブを勇者化させた憎悪の願い。


オーブが戦いをやめても、こいつらはそれを許さない。許すわけがないんだ……



 オーブを冥界の門として、イモート種族に恨みを持って死んだ魂、悪霊達が、この世界に飛び出してきた。


二万年、イモートがこの大世界オトマキアにやってきて二万年だ。その間に生まれたイモートを恨み、その破滅を願う魂は、きっと、数え切れない程に膨大だろう。



 今まで冥界で隔離され、現実世界へ影響を与えることはなかった怨霊達は、今、この世界へと顕現する。膨大な魔力が、怨霊達を憎悪と悪意の集合体として、実体化する。受肉する。



 ──ギュオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 ──バタ。



 オーブから黒い渦が噴き出すのが止まった。全ての怨霊を、冥界は吐き出し終わったのだろう。それと同時に、オーブは倒れ、気絶した。



「オーブ!! 良かった、息はある。勇者の力の感じもしない。ディア!! 俺とオーブ、アルズをテルミヌスに!!」



 俺が叫ぶとすぐにディアが乗機のテルミヌスをショートジャンプさせ、俺達をテルミヌスの内部に乗せた。



「あれはマズい。どう見ても」


「ちょっとジャンダルーム!? あんた何したの!? 魔王みたいな、ヤバいのが出たんだけど!?」


 例によってエローラがパニックを起こし切れている。



「魔王はあんな禍々しくないよ。滅茶苦茶強いけど。あれはイモートの破滅を願う怨霊の集合体だ。冥界から出てきた大量の怨霊が合体して勇者化して、肉体を持っちゃった……んだと思う」


「滅茶苦茶なのですーーー!!!」



 エルはとんでもない存在に絶望している。



【お兄ちゃん、どうやったら、こんなことになるの……?】


 ディアは呆れている。



「俺だってわけわかんないよーーーー!!! 誰が分かるんだよ! こうなるってさァ。はぁ……けど、分かりやすくていいじゃねぇか。あいつはぶっ倒すしかない。最初からフルパワーで行く。力を貸してくれ! アグニウィルム!」


「使え、我の力を、存分にな!」


 アグニウィルムが了承し、テルミヌスの出力を上げていく。



【アクティベート、アグニウィルム!】


「──テルミヌス・アルプス・シエラアウローラ・ドラグライズ!」



 テルミヌスにアグニウィルムの力を纏わせ、龍装化ドラグライズする。



「お前らに恨みはないが、俺の妹の命をくれてやるわけにはいかん! お前達を倒す!!」





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読み始めて一週間位、夢中でここまで来ちゃいました。 ファンタジーとSFの融合、初めて見る世界観。最高に楽しいです! ジャンの強烈なポジティブさに、元気を貰えてます。 続きを楽しみにしてます。
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