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不安と崩壊

ディア視点での話です。




 お兄ちゃんを守れなかった。



「うにゃむにゃ」



 冒険者ギルドの宿舎のベッドで眠るお兄ちゃん。何か夢を見てるみたい、表情は楽しそうだから、悪夢ではないのかな?


 わたしは……自分の力を過信していた。暗殺者が魔力吸収の間に投げ入れた毒瓶、それを完全に迎撃することができなかった。


毒瓶が投げ入れられたスピードは、本来のわたしであれば、簡単に対処、無力化が可能なものだった。けれど、できなかった。おそらくこの世界の魔法による認識阻害か何かを使われたのだと思う。



 わたしの力は強い、おそらく戦えばこの世界でわたしに敵う存在はいない。けど……それはわたしが敵を倒せるだけ、敵が死ぬという結果を得られるだけ。


最良の結果を約束するものじゃない。敵が死ぬという結果に至る過程、その間に起こる他の事象をコントロールできるわけじゃない。わたしが敵を倒したとしても、お兄ちゃんが死んだら意味がない。お兄ちゃんが悲しむことがあっても意味がない。



 この世界の魔法は強い。それを認めなきゃいけない、かつてわたしがこの地に降り立った時よりも、魔術や魔法は複雑に発展、進化している。わたしの願いを潰すだけの可能性を秘めている。たった二万年でこの領域に辿り着くとは思わなかった。わたしの予測ではその五倍は時が必要だったから……



 お兄ちゃんが毒を受けてすぐ、お兄ちゃんの体内に入り込んだ毒は、わたしが光の操作で焼き、完全に消滅させた。毒によってできた損傷、炎症もすべて、光の操作によって細胞ごと修復した。魔力体の損傷もオードスに治して貰った。傷は残ってない、完全に元通り。


お兄ちゃんは意識を失って、そのまま寝ているだけ……ちょっとすればすぐに目を覚ます。



 分かってる、分かってる。全部、頭では決着がついて分かっているのに、心は、抑えられない。心配で、心配でどうにかなってしまいそう。



 ──パキパキッ。



「え……?」



 罅が……わたしの身体、心臓の辺りが破損した……傷を修復……ダメだ……見た目は誤魔化せても、内部のダメージは修復できない……そんな、嘘でしょ……?


このゴーレムの身体の異常……? 検証を実行──異常……なし? ゴーレムの身体に異常がないとすれば……原因は、わたしの……心……魂だっていうの?



 ここままじゃ、わたしは壊れて、消えてしまう……お兄ちゃんと、離ればなれになっちゃう……そんなの嫌……どうすれば、どうすればいいの?


 そうだ、心が原因なら、思考の制御をすれば……自己暗示プログラムを構築、適用──




 ──そんな……プログラムが一瞬で破壊された……コントロール、できない……わたしの心が、思いの強さが、思考を押し流してしまう。



「わたしを殺そうとしているのは……わたしの、心……どんなに強く進化しても……ベースはただの人間、それも……心の弱い人間。こうなるのも、自然の摂理……もっと、もっとお兄ちゃんと一緒にいたかった……でも、ダメみたい。こうしてまた再会できて、一緒に過ごせた。それ自体が奇跡だった、それでわたしは満足するべきだった」



 わたしの心は、お兄ちゃんに会えて、人間だった頃に戻ってしまった。心の弱い、ただの少女だった頃に。


 わがままでお兄ちゃんに甘えてばかりだった無力な人間。お兄ちゃんに会えて、また甘えられる、わがままを言える、そんなことを、どこかでわたしの心は期待していたみたい。


そんなの、できるわけもないのに。


 何千、何万、何億と、時を越えて、お兄ちゃんを助けて、幸せにする側として、生きようと思っていた。そんなわたしが、お兄ちゃんに甘える? 負担をかける? 認められない。



「この気持ちだって、わたしの本当の気持ちでしょ? だから、もうちょっと、頑張ろう……? お兄ちゃんの眼の前で死ぬわけにはいかない。悲しませたくないでしょ?」



 わたしはそう言って、自分の心臓を、胸を撫でる。落ち着かせるように。


 ……止まった。崩壊が止まった……こんな自分を脅すような真似をしないと、自分を制御できないなんて……



「──ディーアーム、君、その身体……死にかけてるのかい?」


「オードス……? そっか見られちゃったか……オードスがいるのにも気付けないぐらい余裕なかったんだ……さぁ、わたしも初めての事だから、よくわからない。わたしと同じ存在もいないから、前例もない。それよりオードス、来てくれたんだ? 連絡は入れたけど、まさか本人が来てくれるとは思ってなかったよ。治療も使い魔の遠隔操作でしてくれたから」



 わたしはお兄ちゃんが暗殺未遂にあった事を冒険者ギルドとそのトップであるオードスに伝えた。オードスはめんどくさがり屋で自分から動くことは殆ない、だから指示を出すだけで、本人がやってくるとは思っていなかった。



「オレも、自分でも驚いた。ビックリだネ……ジャンダルームくんとは友達だし、まぁそれなりに大事だと思ってた。だけど、彼が暗殺されかけて倒れたって聞いた瞬間、心臓の鼓動が馬鹿みたいに早くなって、他のことが考えられなくなった。ギャンブルは勿論、お酒だって楽しめなくなった。自分が思っていたよりも、オレはジャンダルームくんの事をかなり気に入ってたことに、ホント、今さっき気がついた」


「ふふ、そうだよね。わたしもオードスと似たような感じかな。わたしも困ってた、自分の心の、強い感情に抗えなくて。自分が自分でないみたい」


「はは、ククク、そうだよ。全くオレや君をこんなに心配させてる癖に、当の本人は気持ちよさそうに寝ちゃってさァ。やれやれだぜ……ま、身体は問題ないみたいだし、安心はしたけど」



 やっぱりオードスは只者じゃない。お兄ちゃんの状態を一瞬で分析した。おそらく魔法の一種。


オードスはさっき、わたしに死にかけてるのかと言った。きっとそれも、オードスが魔法でわたしの身体を分析した結果、そう判断したんだ。



「ねぇオードス、認識阻害の魔術、あるいは魔法によってわたしを欺ける? できるとしたら、それはどうして可能なの?」


「え? ああ、可能だと思うよ。ほれ!」



 パチン、とオードスが指を鳴らす。すると、オードスが老婆の姿になった。あれ? オードスだけじゃない、お兄ちゃんやわたしまで老化した姿に見える。


 パチン、もう一度オードスが指を鳴らすと、皆、元の姿に戻っていた。



「今やった認識阻害は魔術によるものだけど、正確に言うと、暗示をかける魔術だね。自己催眠状態になるって言うか。そもそもなんだけど、ディーアームくんに対して魔力の力でどうこうっていうのは無理なんだ。君自体が強い魔力? を纏っているから、敵対的な力は簡単に弾かれてしまう」


「暗示? わたしに普通の魔法や魔術が効かないのは分かってたけど、暗示なら耐性を貫通するってこと?」


「別に耐性は貫通してないよ。暗示っていうのは、そもそも自分が自分の思い込みによってかかるものだからね。耐性も何も、自分が自分に攻撃するなんてことを普通は想定しないから、その対策ができていないんだよね。それに、君等は魔力吸収の間で暗殺未遂にあったんだろ? 魔力が通じない空間の外から君等に直接認識阻害をかけるなんて無理、魔力が無効化されちゃうから」


「言われてみればそうだよね。魔力が使えない空間で一方的に魔術や魔法をかけられるっておかしい」


「そう、だから暗示、魔力吸収の間に君等が入る前に、暗示をかける。例えばだけど、オレなら君等が元々関心のあることに集中させる。自分のやりたいことに集中させるんだ。そうするとディーアームくんはジャンダルームくんのことをずっと見るし、ジャンダルームくんは歴史のあれやこれや、この地域の風土を考える。集中し過ぎて、他のことにあまり気を回せなくなる。そして、暗示は誘導を終え、魔力吸収の間に入ったとしても、その誘導された思考は、本人達が飽きるまで続く」


「待って……じゃあ、魔力吸収の間に入った時点で敵の魔力効果は切れてて……敵はわたし達に思考するきっかけを与えて、後は勝手にわたし達が……しかも……自分の考えたいことに集中するのって、それ自体は敵対的な魔力運用じゃない、弱体化というより強化に使えるぐらいの……」



 強力な戦術だ。相手の性格にも左右されるけど、有効な相手に対しては、かなり強力。戦闘が好きな性格の人相手なら、これを交渉の場で使えば、交渉を失敗させたり、下手にさせたりできるし、逆に戦闘に興味がないわたしやお兄ちゃんに対しては、戦闘関連への警戒心が揺らぐ。



「おそらくだけど、今回は魔法だろうね。魔術ならば魔術触媒がいる。そうだな、集中力を高める薬草や石、サファイアとかがいると思うけど、なかったんじゃないか? 触媒なしでそういったことができるとなると、それは自動的に魔法という結論になる。う~ん、なんだっけ……ああ、これ。この戦術って確か帝国、ジーネドレ帝国の魔術師や魔法使いが得意とするヤツだった気がするぞ。この戦術は使い方間違えると敵を強化するだけで終わるから、結構訓練が必要で時間がかかる。実用的なノウハウを持ってるのはジーネドレだけだ」


「ってことは、敵はジーネドレ帝国と関わりのある魔術師、もしくは魔法使いである可能性が高いってことだよね? ふふ、やっぱりオードスは頼りになるなぁ。そういえばさっきオードスがわたしにかけた暗示って、どんな暗示だったの? みんな老化しちゃったけど」


「ああ、あれ? あれは真実を考える暗示だね。ほら、オレは真実の力を持つ宝石、ガーネットを持ってるから、オレがつけてるネックレスのやつね。こいつを触媒に、本当の年齢のことをディーアームくんに考えさせたんだ。けどあれだね、オレやディーアームくんだけが老化して見えるだろうと思ったんだけど、みんな老化して見えたってのは面白いなァ。ふーん? じゃあジャンダルームくんも、本当の年齢じゃないって、ディーアームくんは考えたんだ。へぇ~? 何でだろうねぇ、気になるね」



 う……そうか、確かにわたしもオードスもかなり年を取ってるから……あんなしわくちゃのお婆ちゃんに……お兄ちゃんは中年のおじさんみたいな感じだったけど、それは……そうか、わたしがお兄ちゃんの前世の分の年齢をプレスして考えたからか。



「──う、う~~ん?」


「あ、お兄ちゃん! もしかしてもう起きるのかな?」



 お兄ちゃんが目覚めそうだ! お兄ちゃんは起きる時、いつも身体をよじり、ここはどこ? みたいな顔をして起きる。間違いない、お兄ちゃんが目覚める!!



「え!? ジャンダルームくんが起きるの!? じゃあ外に出て入り直さないと! 恩着せがましく登場して、嫌がらせをしてやるんだ」



 えぇ……どうしてそんなことをする必要が……でもオードスもお兄ちゃんが起きるって嬉しそう。よかった、さっきまで、落ち着かなかったわたしの心が、静まった。


 馬鹿みたいに、単純すぎるぐらい、あっさりと。



「……う~ん、ネギ、味噌、油揚げ、わかめ……だしおーん……んあ、あれ? 俺は……」



 なんか味噌汁の材料を詠唱してる……お兄ちゃん一体どんな夢を見てたの?



「よかった、お兄ちゃんおはよう」





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