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ドラグライズ



「なんだよ……これ……なんだったんだよ……今まで、ダモスが攻めてくるからって、準備してきた、対策してきたのに……なんの、意味も、ないじゃ、ないか……」



 ダモスの改造船の砲撃によって破壊され、廃墟となった街を、オーブドラスは見ていた。一人、呆然と、立ち尽くす。


オーブドラスは改造船の砲撃を受けたが、砲撃は人を超えた頑強さを持つ彼を殺すには至らなかった。


だからこそ、オーブドラスには、はっきりと見えてしまった。己が護るべき街が、人々が消し炭になっていく様を。



「あんなものがあるなら……どうしてこんな木偶共を使った……! 僕らに抗えるかもと、錯覚させる為か? 希望を見せた後で蹂躙する為かッ!!」



 木偶──ダモスの兵隊は無傷だった。ダモスの改造船の砲撃の影響を受けていなかった。サイキックによるあの砲撃は敵のみに打撃を与える仕組みを持っていた。しかし、建物の崩落による事故の影響までは無効化できていないらしく、物理的な死を迎えたダモス兵達も存在した。


だが、建物の崩落による事故死、圧死したのはダモス兵だけではない。むしろデスランドの住民達の方が多く、崩落によって絶命していた。



 そんな状況が許せないオーブは八つ当たりでもするかのようにダモス兵達を切り捨てていく。



「僕は……どうすればよかったんだ……!!」



「──甘えるなッ!! オーブ! まだ全ての民が死したわけではないのだろう!? お主には、まだ、できることがあるのではないのかぁッ!!」



 絶望に浸るオーブを叱咤する者がいた。閃光石、インレーダ族のはぐれ者だった。



「閃光石……お前は無事だったのか」


「某は元インレーダ族だが……インレーダ族にはサイキックの力……イモートの兵器への耐性があるのだ。とは言え、某はイモートとは戦えぬ……本能に刻まれた宿命の檻に、閉じ込められている。これではただの石像か銅像と変わらぬ、動きたくても動けぬ……だと言うのに、貴様は! 貴様にはまだ動く体があるにも関わらず!! なよなよと! 仲間を殺されたならば、その敵を打ち取り、まだ生きている者達を護るだけのこと。感傷に浸る時など、貴様には許されておらぬのだ! それは、犠牲になった者達への侮辱だ! お主は、同胞の死に、意味をもたせることができる! それが分からぬのならば! 今すぐにここで死んでおけぃッ!!!」



 弱ったオーブに対し畳み掛ける閃光石、その鋭い言葉は、オーブの心に突き刺さっていく。血の滲むような、現実感を伴う、心の痛み。目を逸らしてはいかないという自覚が、オーブを現実の世界へと帰す。



「そうだな。お前の言う通りだ、閃光石。ここで腐っていたら、僕の民に顔向けできない。ありがとう閃光石、お前のおかげで、僕は、まだ動ける」


「礼などいらぬ。しかしあの巨神像……某は古い文献でしか知らぬが、確か名はテルミヌスといったか? 似ているな」


「似ている? あの巨人に似たものを知っているのか?」


「ああ、インレーダ族に伝わる武装開放術、ギガントレイヤーに似ておるのだ。おそらく同じか、似たような技術なのだろう。だとすれば弱点も同じやもしれぬ」


「なんだって……? なら、あれを倒すことができるかもしれないのか? にわかには信じ難いけど……」


「あれはサイキック……術者の精神力に依存した力。魔力も精神の干渉を受けるが、サイキックは術者の精神力そのものだ。故に、空間を超え、直接術者の精神に打撃を与えれば、動作不良を起こすだろう」


「空間を超えて、精神に打撃を? そんなのどうすれば……精神的なショックを与えればいいのか?」


「そんな程度の低い話ではないわ。サイキックはあらゆる感情を力とすることができる。絶望や怒り、悲しみさえも力に変える。故に、精神的なショックを受けても、それがまた力の呼び水となる。某の言う打撃とは、精神エネルギーを削り落とし、その総量を減らすという意味だ。これを行うには、空間を超え、術者の精神空間に干渉する他ない」


「文字通り、心の世界に直接……でもどうやれば、そんなことできるんだ……」


「……そうか、っふ、クククク、ハッハッハッハッハッハ! なんだ、動けと、何も出来ぬと、甘えていたのは某の方ではないか。オーブよ、頼みがある。某をお主のアダマスタブレスで強化してくれ」


「いいのか? それは僕と、人間達との繋がりができるってことだ。閃光石がアグニウィルムを裏切ることがないのは分かってる。でも……」


「お主の配下になるようなものだから、某が気に入らぬのではないか。そう思うわけか、だとすれば愚かなりオーブ。某が貴様ら人間を見張るのだ。お前達が愚かな行いをすればその生命を断ち切るが人の為よ。貴様らに歯向かうことは禁じられておらぬからな」


「わかった。閃光石、君を僕のアダマスタブレスで強化する。それで状況が変わるのならば、他に選択肢はない!」




◆◆◆




 アルズ達の世界汚染は、俺達の想定するよりもずっと早く進んでいった。エーレックスフレンテの能力は改造と混濁、おそらくこの改造の力により世界の汚染スピードが上がっているんだろう。しかも……



「ねぇ……なんかさっきまでバラバラに変色してた色が……一色になってきてない?」


「ああ、エローラの言う通りだな。灰色か、黒か……くすんだ一色に」


【エーレックスの混濁の力で、あの三人の力が統合された形で汚染が始まってるんだと思う】


「っく……あいつら逃げるばかりで戦おうとしない……世界汚染が完了するまで戦わない方が確実だってことか……アルズの力、戦闘用じゃないんじゃなかったのか? メチャクチャ厄介だぞ?」



 アルズの力は情報錯乱と工作。アルズは世界を汚染することで完璧な幻影を生み出すことが可能になったらしい。


アルズはダモスの三女神のテルミヌスのダミーを大量に生み出し、俺達を翻弄している。サイキックレーダーもアルズの力で動作不良を起こしているので、本当に本物と偽物の見分けがつかない。手当たり次第に攻撃をしかけても、幻影を一つ壊す頃には新たな幻影が百は増える。



「攻撃が当たれば、こっちの出力的に大打撃を与えられるはずなのに──」



 ──ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!



「──な、なんだ?」



 全身に響くような咆哮が空を大地を揺らした。そして空が、破裂した。とんでもない数あったダモスのテルミヌスのダミーが一瞬にして数を減らしていく。



『──アグニウィルム! 来てくれたのか!!』


「このままではデスランドそのものが消えてしまう。そうなれば、我も動かぬわけにはいかん。どうやら本体にも当たったらしいが、やはり頑強だな。異界の女神達は」



 アグニウィルムの言う通り、ダモスのテルミヌス達はところどころ焼け焦げているものの、問題なく稼働可能なようだった。かすり傷、という表現が正確だろう。


けど、やっぱりアグニウィルムは強いな。英雄殺しは伊達じゃない。魔法の力で何もない場所から熱を生み出して、空間を爆破する……しかも、空一面の超広範囲を。


オーブはアグニウィルムと戦わずに済んで幸運だったな。戦えば確実に死んでいた。



「あ、また偽物が沢山なのです! しかもちゃんと焦げ跡まで再現してるのです!」


「キリが無いな……でもアグニウィルムがいるなら活路はあるか」


『──アグニウィルム! 俺達と力を繋げてくれ! それでどうにかなるかもしれない』


「よかろう、デスランドの未来、ジャンダルーム、お前に預けよう」



 俺はテルミヌスの手でアグニウィルムに触れ、アグニウィルムとテルミヌスとの力のパスを繋げる。


【──アクティベート、アグニウィルム】


「──テルミヌス・アルプス・シエラアウローラ・ドラグライズ!」



 力が、力が溢れるッ……! なんて力強いエネルギーなんだ……! 荒々しく、制御が難しい。まるでじゃじゃ馬だ。


テルミヌスがアグニウィルムの力を受けて変形する。龍の尾と、龍の息吹を宿した銃槍を顕現させる。



『──ミーティア・シャワー!』



 テルミヌス・アルプスの銃槍を構え、槍の先端に仕込まれた砲身が銃槍の変形によって解放される。そして、銃槍は龍の息吹を空に吐く。


何千、何万という数に拡散された龍の炎が、ダモスのテルミヌスのダミー達を喰らっていく。そして──



『っぐ、あつい、熱いよ、にぃに!』



 ダモスのテルミヌスの本体へと届いた。ダミーを喰らった龍を象った炎は、消えることなく、本体へと襲いかかっていく。何万もの炎の龍が、三体のテルミヌスに噛みついていく。


テルミヌス・アルプスによって無限のエネルギーを供給された炎は、理論上永続的に維持することが可能だ。こちらが解除しない限り、消えることはない。


エローラの魔法の理解力がなければ、この荒ぶる龍の力を制御することは不可能だった。



【お兄ちゃん! 駄目、ここでアルズに同情しちゃ、ここでテルミヌスを解除させなきゃ、汚染を止められない!】



 地獄だった。妹達を止める為に放った、俺が放った龍の力は、妹達が焼かれ、苦しむ声を、俺に聞かせた。


耐えられない……やめろ。やめてくれ! 俺を見るな……助けを求めるような目で、俺を、見ないでくれ……手を、伸ばさないでくれ……!


今すぐに魔法を、龍の炎を消してしまいたい……でも、これが俺への罰だというのなら、俺は……止まるわけにはいかない。わかってる、わかってるけど……っ!



『痛い、痛い痛い痛い痛い……ッ! ひどいよ兄ちゃん、ずっと苦しくて、耐えてきた。兄ちゃんに会いたくて、やっと会えたのに、ボク達を、苦しめるんだ……?』



 ──お、俺は……何を……何をしてるんだ。手が震え──



【お兄ちゃん!! 駄目!! エーレックスの言葉に耳を貸さないで──】



『──うわああああああああああああああああああっ!!!!!!』



 何が起こったのかは分からない。気づけば俺は、龍の炎を、ミーティア・シャワーを解除していた。


魔法の力はエローラの助けがあって、完全に制御できていた。


でも、俺は……俺自身はアグニウィルムの力に、荒ぶる力に耐えられなかった。俺は心を、精神を暴走させてしまったんだろう。


アグニウィルムの力は精神にも作用した。


兄としての自覚、兄として振る舞おうとする俺の心は、俺自身の心を焼いた。兄として、妹を傷つける者を許せるわけがなかったのだ。それが例え、自分自身だったとしても。自分自身、だからこそ、強く、強く、怒りの炎は、俺を焼いた。



『──今だ、今しかないアルズ!! やるんだ!!』


『わかったエーレックス! ──混線境界!』



 現実と妄想も区別もつかない状態で、俺はアルズのテルミヌスが何かを放出したのを見た。とても、とても強い膨大なエネルギーが、俺達のテルミヌスを包んだ。





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