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混沌



「──っ、あれがイモート種族。ディアさんと同じ……神々と同格の力があるって聞いてたけど……そんなレベルじゃないぞ……っく。地下通路も、これではっ!」



 ダモスの奇襲攻撃はオーブの目論見を崩した。オーブはデスランド開拓拠点の地下に魔導兵器と即応部隊を待機させていた。しかし、ダモスの船が落ちた倉庫はその地下施設の出入り口だった為、船がそのまま地下と地上を繋ぐ通路を塞いでしまった。出入り口は倉庫以外にも存在するが、倉庫のものよりも狭く、ダモスの改造船に対応するには遠かった。


その為、オーブは防衛戦力の再構築から始める必要があった。奇襲による混乱と、ダモスの女神の特殊能力で荒れる戦場は混沌の中にあり、まずは兵達にオーブの声が直接届くように戦場を整えつつ、地下の戦力を地上に合流する為に動かねばならなかった。



「モドリー! 探知の魔導器を! 僕が地上から地下への穴を強引に作る! 安全なポイントを見つけ出すんだ!」


「はっ!」



 モドリーがガーターベルトに仕込んだ魔導器を取り出し、起動させる。緑色の水晶と虫やコウモリの羽が組み合わさってできたそれは、音の力を使う魔物の力を再現するものだった。探知の魔導器は問題なく作動し、モドリーが探し当てたポイントを指さした。



「よくやった! はぁあああああああああ!!」



 オーブは跳躍し勢いづけて剣を地面に突き立てる。その衝撃で地面にはぽっかりと穴が空き、少しすると何事かと兵士達が顔を覗かせた。



「よかった! 地下はまだ無事なんだな? お前達、ここを新たな出入り口とし、防衛ラインを構築する。工作兵を集めて、陣を整えろ! モドリー! 君がここの指揮を執れ、僕は敵の戦力を削る!」


「オーブ様! それでは御身に危険がっ!」


「ダモス兵は見たところ妙な武装をしている。それに動きも一人ひとりが精鋭並だ。きっと、僕でなければまともに対応できないだろう。僕が奴らの情報を集め、戦い方を見つける。きっとそれが一番勝率を高くできる」



 護るべき主から、お前達では力不足だと言われて、兵士達は己の不甲斐なさに拳を握りしめる。しかし、その悔しさを受け入れることが主の命令であると噛み締めた。



「──聞け! 敵の女神の一柱は情報の錯乱と工作を得意とするらしい。人伝の言葉は信じるな! 直接見聞きした情報だけを信じろ。僕は! ただ勝利することに興味はない、皆が生き残らなければ! それは僕の敗北だ。僕を、勝たせてくれ! 命を、諦めるな!」



 混沌とした戦場の中で、オーブのよく通る声が響き渡る。魔法には至らぬ、魔力による身体強化が、兵士達を鼓舞し、不安に立ち向かう勇気を与えた。


まだ若い主が、必死に、自分達の命のことを考えてくれている。となれば、主の期待に全力で応えざるを得ない。出来ることを、できる限りやる。オーブがその場を去ると同時に、防衛戦力の再構築は凄まじい早さで進んでいった。




◆◆◆




「ディア! テルミヌスは!」


「まだ駄目、こっちがテルミヌスを呼べば、あっちもテルミヌスを召喚しちゃうから。テルミヌスは……妹なら誰でも使える、無限に生産可能な量産機だから」


「む、むむ、無限に生産可能!? えっ!? あんな高性能な兵器が、無限、え? 量産機!?」



 嘘だろ……テルミヌスがあれば、ダモスの妹達に対抗できるかもって思ったのに……でも、よくよく考えればそうか。同じ妹であるなら、能力以外の部分は共通しているものだろう。


バカでかくて、バカみたいに強い、あのテルミヌスも、妹達にとっては一般装備、ただの鎧のようなものだとすれば、ダモスの妹達も扱えて当然だ。


 こんなの……冷静に考えたら、この世界の住人が勝てるわけがない。妹達が本気でこの世界を取りに来たら一瞬で決着するに決まってる。



「そうか、それにテルミヌス同士の戦いになったら、巻き込まれて沢山の人が犠牲になる、……でも、相手側はきっと、この戦場で必ずテルミヌスを召喚してくるはずだ」


「エローラ! エル! わたしとお兄ちゃんから離れないで! テルミヌスを召喚したら一緒に乗ってもらうから!」


「わかった。モイナガオンの時みたいな、奇跡の力が必要ってことね。それにしても……この子は大丈夫なの?」


「──動け動け動け動け! ぐぬぬぬぬぬ! 何故だ、何故動かんんん!!」



 エローラの言うこの子とは閃光石のことだ。閃光石は唸っているものの先程から微動だにしない。しかも警告音と共に赤い光を点滅させている。まるで自爆でもしそうな感じでちょっと怖い。



「これは、エラーだね。妹、イモート種族に危害を加えようとする意思が感知されて、身体活動の自由を失ったんだと思う。やっぱりエスフィアは優しいね、身体活動のロックで済ませてるのは。原因調査の為かもだけど」



 エスフィア、閃光石の種族、インレーダ族を創造した妹だったか。彼女と連絡が取れれば、閃光石がダモスの妹達と戦う許可を得られたかもしれない。


だけど、それはできなかった。ダモスの妹の一人であるアルズリップが情報錯乱の力を使っているせいで、ディアは他の妹達と連絡が取れなかった。


 まぁディアは元から他の妹達と連絡をあまり取らなかったらしいが……それも不思議な話である。ディアとジーネは互いに思うことがあるような感じだったけど、仲が悪い感じでもなかった。


ディアは……他の妹達と意図的に距離を置いていたのか? そんなことを思ってディアの顔を見ると、ディアは気不味そうに俺から目を逸らした。テレパシーで俺の考えはディアに筒抜けな訳だが、ディアの方は秘密にしておくようだ。それはちょっとズルいんじゃないの~? ディアちゃん?



「まぁ、今はそれどころじゃないか。エローラとエルには悪いが、俺達はダモスの妹達と接触する。危険だが、まずは話し合いからだ。それだけで解決とはいかないだろうけど、なんらかの妥協点なり、戦力の分断なりは狙えるかもしれない」


「了解なのです! エルはイモートを監視する役割を持っていますから、協力するのは当然のことなのです!」


「はいはい、拒否権なんてどの道ないでしょ? だってこんな戦場で一人置いていかれたらどのみち怖い目に合うんだから。だったら友達と一緒の方がいいわ。あ、もちろん友達っていうのはディアとエルのことであって、ジャンダルームのことじゃないんだからね!」


「エルはエローラさんのことは友達だと思ってないのですよ?」


「──ぐはぁッ!!」



 エルはエローラに存在することを許してやっているだけで、エローラに対するエルの好感度は全然低いらしい。はははは、笑い事じゃないけど、はははは!



「ちょっと! 何笑ってんの!? もう! 今、ここ戦場なのよ!? 笑ってる場合じゃないでしょーがっ!」


「笑ってないって、そう怒るなエローラ。ただちょっとニヤついただけだ。そうと決まれば、移動開始だ。閃光石、悪いがお前はここに置いていく。じっとしてれば、銅像扱いされて無事に済むかもしれん。一応目立たない位置に移動させてっと、これでよし!」


「ぐ、ぐぬぅ! なんと、このような体たらく、今すぐにでも腹を切りたい、だがそれすらもできぬ……ぐ、くぅーん……」



 落ち込む閃光石を目立たなそうな木陰に移動させ、俺達は動き出す。ダモスの三女神、俺の妹達の元へと。





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