ダモスの女神
グローリー王国北部州の都市ナタン、その都市には一切の破壊の痕跡もなく、ダモスによって占領された。しかし都市の中央にあったグローリー王国の建国の王、その像だけは破壊され、代わりにジャンダルームと妹達をモチーフとする巨大な像が作られた。
住民達も、この地を守っていた兵士達も、この地を占領するダモスに抗うことはない。彼らはすでに絶望している。ダモスの女神の一柱、アルズリップはナタン領の上層部、そして軍に偽の情報を与え、都市の中央に集結させたところで、異界からの“砲撃”を行った。次元の狭間にあるアルズリップがイモート達から奪った隔離艦獄の砲撃は、対象を殺すのではなく無力化する為のもの。本来、艦獄に収容された封印妹を抑えつける為に使われるその砲撃も、妹でなくただの人間に使用すれば、その精神、魂を崩壊へと導くのに十分な威力を持っていた。
砲撃は人間の精神、魂だけを破壊し、虚ろな肉人形へと変えた。そうして空っぽになった肉体を、ダモスの女神の一人、死と喜びの権能を持つピエルレトゥースが操った。生きた屍を操ったピエルレトゥースはナタンの領主に宣言を行わせた。
「我々ナタンの民はこれよりダモスの傘下となる。ダモスに従わぬ者は、我のように魂を失い、ダモスの永遠の奴隷となるであろう。死をも超える恐怖に屈さぬものだけが、ダモスの敵となることを許そう。逆に我らに付き従う者は、永遠の幸福を手にするだろう」
自分たちが頼りにしていた、守ってくれる、強き存在。貴族も兵士も、全て、一瞬にしてダモスの奴隷となった。ナタンの民の常識は一瞬にして崩れ去り、恐怖は彼らの思考を奪った。
この女神達に抗う術はないのだからと。自ら彼女達の奴隷となることを選べば、自分達の心を、魂を守れると思った。ナタンの民は自分の意思で、グローリーの周辺州を襲い、ダモスの一部としていった。
ダモスが、アルズリップとピエルレトゥースが行使した力は彼女達のほんの一部、なんの労力も掛かっていないと言えるレベル。思いつきですぐに実行すれば、それが成功してしまうようなもの。しかし──
「ねーえー、アルズ、どうするのー? にぃ様はディアと一緒になって、ピエルレ達に対抗するつもりなんでしょー? ディアがいたら隔離鑑獄の砲撃は無効化されちゃうよー?」
「う……問題ないわよ。ウチ達は本体でこっちに来た、だから出力で言えばディアと対等なんだから! 不安にするようなこといわないでよピエルレ!」
「でーもー、ディアは戦闘特化型の妹と同じぐらいの強さでしょー? 封印妹のそっち方面が得意な子は、ダモスから抜けちゃったからー、ディアには勝てないんじゃないのー?」
アルズリップがピエルレトゥースの言葉に涙目になる。アルズリップは人間から見れば圧倒的な力を持っている。しかし、ディーアームからすればアルズリップ達は所詮非戦闘要員。頭脳労働者が軍人に挑むような無謀さだ。
「なんで、あいつら、ウチがせっかく脱獄させてあげたのに! なんでウチのことを手伝ってくれないの! ピエルレとエーレックスだけしか手伝ってくれないなんて、そんなのおかしい! なんで10人もいるのに二人しか手伝ってくれないのよぉ!!」
涙を流し、項垂れるアルズリップ。そんなアルズリップの頭をピエルレはよしよしと撫でる。虹色に輝くピエルレの垂れ下がった白髪の僅かな隙間から、同情の眼差しがアルズリップへと向けられた。
アルズリップがディアを倒す為に頼った封印妹、10人の封印妹のうちの二人しかアルズリップに協力しなかったのだ。戦闘“も”できる封印妹はいても、戦闘に特化した妹はアルズの元に残ってくれなかった。
「しょーがないよー。だって封印妹は我が儘だったり、頭がおかしいせいで封印された子なんだからー。封印されるのはーそれだけの理由がーあるんだよー?」
「でも……ウチ達は本体で来たから、失敗したら、死んだら、本当に死んじゃうんだよ……?」
「だいじょーぶー、アルズが死んだらピエルレがアルズの体をゾンビにしてあげるからー」
「もう! ピエルレのフォローはおかしいのよ!! でも、ありがとう。変だけど、ピエルレの優しさだけが、いまのウチの希望だよ……」
「あー、そういえばー。エーレックスが言ってたよー? 本体を無理やりこっちの世界に持ってきたからー、ピエルレ達が存在してるだけでー、この世界が汚染されてー、おかしくなってるってー。世界がピエルレ達の影響を受けてー、ピエルレ達に都合よくなっていくってー」
「そっか……なら、まだ。ウチ達にも、勝ち目はあるのかも……にぃにとディア、その仲間の情報を集めて、ウチ達が勝てる可能性を模索する。よし、ピエルレ! エーレックスを呼んできて! 会議よ会議!」
「むりー。エーレックスは魚釣りに行っちゃったー。しばらく戻って来ないってー」
「なんでよッ!? もーもーもーもー!! なんでよーーーーっ!!! あいつマイペース過ぎでしょ!!」
ダモスの三柱の女神達、その中でまともに動けるのは内二人のみ、その結果ダモスの組織運営は女神ではなく女神に協力する人間達を中心に行われることになる。
ダモスに加わったグローリーの反オーヴィア派が組織運営の中核となり、ナスラムの魔導改革派のシンパが諜報活動を行った。しかし、反オーヴィア派が組織の中心となった結果、ダモスの指針にブレを生じさせた。
反オーヴィア派とは、グローリー王国を混沌の時代に陥れた女王にしてオーブドラスの母、オーヴィアを嫌う者の集団である。しかし、この反オーヴィア派においてもさらに派閥構造が存在した。それは王政を廃し民衆による商業国化を望む王政廃止派と、オーヴィア以外の王の血脈である公爵を新たな王とする新王政派。
この二つの派閥は互いを牽制し合うところがあり、反オーヴィア派をまとめきることのできない原因となっていた。そして、どちらの勢力にせよ、ダモスの女神達を利用することしか考えていない。そこに忠誠はなく、ダモスの女神達にできることは、烏合の衆を圧倒的な力の恐怖によって縛りあげる事、それのみだった。
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