友と悪い魔法使い
「──っ……ん、あれ? 俺は……」
「よかった……お兄ちゃんおはよう!」
俺は、寝てたのか……? 何がどうなってたんだっけ……確かディアと一緒にエドナイルの王族の歴史について街で調査をしてて……そしたら憲兵に、あ! そうか。
「牢の中に毒薬が投げ込まれて……俺は意識を失ったのか。あれ? この部屋、なんだ? 妙に豪華な部屋だ。少なくとも牢、じゃないな」
「エドナの冒険者ギルドの宿舎を貸してもらってるの。毒瓶を投げ入れた犯人を見つけることができなかったから、とりあえず冒険者ギルドを頼ることにしたの。あれはお兄ちゃんとわたしを狙った明確な暗殺行為、暗殺者がどの勢力の者か分からないし、あの状況ではエドナイルの誰かが送り込んだ可能性が高いでしょ? その疑いを否定できない限り、エドナイルはお兄ちゃんを拘束する正当性を持てない」
「あーっと? ああ、俺とディアが冒険者で冒険者ギルドの管理下に置かれてるから、元々エドナイルが勝手に俺達を処分しちゃダメだもんな。冒険者ギルドにお伺いを立てて、俺達を無力化すると言っても、ギルドがあっさり認めるとも思えない。それで面倒だから暗殺……そういう流れなのか? ギルドを無視して強引な手段を取ろうとした疑いを晴らすまでは……俺達の身を守るために、なるほどな」
ディアがそうなるように動いてくれたってことか、けど……ちょっと面倒だな。冒険者ギルドに借りを作るのはあんまし好きじゃないんだよなぁ。
まぁ仕方がないか……そもそも俺が油断したのが悪い、ディアが居なければ俺は確実に死んでいた。
──コンコン。
『おーい、目が覚めたんだろ~? 入っていいか~?』
ノックと共に気だるそうな女の声が部屋の扉越しに響く。はぁ……厄介な、あいつまで関わる大事になっちまったか……
「どうぞ……」
「はいはい~! いやぁ~ジャンダルームくん、毒で死にかけるとは情けないなぁ。あと一呼吸程でも毒を吸っていたら、君は死んでた。妹ちゃんに感謝するんだね、それとオレにも、なんてたって、厄介な毒を解毒してやったのはオレなんだからねぇ~」
「部屋に入ってくるなり浮かびながら見下してくるのやめてもらっていいですか? ギルドマスター殿」
そう、このねちゃっとした感じの性格をした女、彼女こそが世界的な冒険者組織、冒険者ギルドのトップ、ギルドマスター、オードス・カギュー。人間で、若く美しい姿をしているが、この女はもう何百年、下手すると何千年も生きている。彼女は数少ない、人間の魔法使いだからだ。
緑色の髪は寝癖でぴょこぴょこと跳ねていて、服もヨレヨレ、身なりに興味がない。酒臭いし、ギャンブル好きで、いつも気だるそうだが、人の粗を見つけると急に元気になって、人をからかって遊ぶ。こいつは力が強いから存在を許されているだけで、結構カスな所もある。
といっても悪党ではない、シンプルに性格が悪いだけで、優秀だ。仕事をサボるのが日課だが、重要な案件は確実にこなす。要領がいいんだろうな。
「はぁ、オレがギルドでいちばーん偉いんだから、別にいいだろーん? それにさーあ、オレが面倒を見てやるって言ったのに断った癖にさぁ、こうやって結局オレの力を借りるしょうがない子は、オレに見下されて当然なんじゃないの~?」
う、うざい……ディアの方を見る。意外にもディアはオードスには苛ついていない。え……? ディア的にはこいつの態度はセーフなの!?
「め、面目ない……油断しました。まさかいきなり暗殺までしようとするとは思ってなくて」
「お兄ちゃん! わたし、すっごく心配したんだから! 気が気じゃなかった……」
「そうだぞジャンダルームくん、君が死んだら、妹ちゃんは暴走して、世界が滅んでしまったかも。まぁ、今回は仮に君が死んでしまったとしても、オレの力で蘇生できただろうけど」
「そ、蘇生魔法!? え……? 蘇生魔法って伝説的なアレじゃないの?」
「まぁ伝説といえば伝説、多分、今はオレ以外に蘇生魔法を使えるヤツはいないね。まぁオレとしてもホイホイ使えるものじゃない。オレの寿命をいくつか使うし、かなり疲れる。使わなければ思いれのある国が滅んでしまう、例えそんなことになったとしても、オレは使う気にはなれないぐらいだ」
「えっ……そんなに? ……いや当然か? 死者を蘇らせるのなら、それぐらいの代償があって……」
「まぁ代償がどうこうってよりさ、ほらあれだよ。面倒なんだよね……国なんて数百年したら勝手に滅ぶし、人もすぐ死ぬ。蘇生という行為は、オレの寿命と気分を引き換えにする程の価値がない」
オードスは物憂げに天井を見つめている。寂しいような、悲しいような、こんな表情するヤツだったんだな。
「そっか、オードスはもう人間の領域にはいないんだな。種族魔法使いとでも言うべきだろうか? でもオードスみたいなのがいると、希望が持てるよ」
「は……? なにいってんの?」
オードスは俺の言葉が予想外だったのか、戸惑っているようだ。
「だって、国が滅んで、人間達が死んでも、オードスは憶えていてくれるだろ? いつか遠い未来で、オードスが俺のことを誰かに伝えたら、その時俺はさ、まるで未来旅行をしたかのようだ。そしたらさ、俺は死んでも、ずっと旅ができる」
「なにいってんの? 君が実際に体験しなきゃ、それは嘘だろ?」
「まぁそうなんだけどさ。でもそこに、思い出はできる。人は思い出と一緒に歩いて、生きていく。言葉にするのは難しいんだけど、それってなんだか、一人じゃないって感じがするだろ? 遥か未来まで生きるオードスが憶えていてくれるなら、俺は凄くラッキーだ」
「勝手なことを言うなぁ、ジャンダルームくんは。残される側のことを考えたことあるかい……? 君がいい奴で、オレに沢山の思い出を残せば残すほど、君はオレを傷つける。いい奴は最悪だ。だってどうやっても忘れられない」
オードスは困った笑みを浮かべている。どうやら俺のことを本気で心配してくれていたみたいだ。素直じゃない人だけど、やっぱり憎めない。
「さてと、ジャンダルーム君、君が寝ていた間に変わった状況と、これからについて話していこうか」
「ああ、頼む」
俺とディアはオードスからの状況説明を受け、そのまま会議を始めた。
まず最初にエドナイルは俺とディアの暗殺未遂への関与を否定した。まぁ本当にやっていたとして認める訳が無い。
そして次に、エドナイルは俺達を捕らえた憲兵隊長を、暗殺の犯人として断定、その処刑を行おうとしているとのことだった。
けれどもオードスは憲兵隊長の処刑に異議を申し立てている。そもそも憲兵隊長が暗殺の実行犯である証拠などないし、エドナイルからの報告では憲兵隊長が独断により、勝手に暗殺を企てたと言う……が、どう考えたって嘘くさい。
憲兵隊長は俺にエドナイルを褒められて嬉しそうにしていたし、あの状況から暗殺を実行できたとは思えない。何故なら毒瓶はディアが迎撃しきれないだけの技量を持って投げ込まれたからだ。
ディアが言うには単純な身体能力だけで、あの芸当を行うのは不可能らしい。認識を操作するような魔術、あるいは魔法の力がなければ、ディアが確実に迎撃できたはずだと。しかし、憲兵隊長には魔法どころか魔術の技能もないらしい。
そういった諸々を考慮すれば、憲兵隊長が暗殺未遂の犯人だというのは無理がある。勿論、憲兵隊長が物凄い演技派で、実は世界でも指折りの魔術師、あるいは魔法使いだったという可能性もなくは……ない……いやちょっと無理があるか。
「よし、じゃあジャンダルームくん、意地悪なエドナイルの黒幕に、嫌がらせをしに行こうか?」
「え? 嫌がらせ? オードス、一体何を?」
「何っていつも通り、オレと君でギャンブルをしにいって、酒を呑んで、ちょっとした愚痴を言うだけだよ。王家の事を調べようとした冒険者が、暗殺されそうになって、憲兵隊長が暗殺の濡れ衣を着せられそうで可哀想だ。おかしいよねぇ、ちょっと王家のことを調べようとしただけなのになぁ……憲兵隊長はこれじゃあまるで、トカゲの尻尾切りだってね」
「はは、そういうことか。じゃあ早速行こう。あ、でもそうだな。ディア、頼みたいことがある」
「頼みたいこと? お兄ちゃんが、わたしに?」
俺はディアにある頼み事をして、それからオードスと共に、エドナの賭博場へと向かった。
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