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大計画



「まいったなぁ……虫人連中との諍いはあったけど、国家間戦争の最前線になるなんて想定外だったから……戦争なんてとてもできる状態じゃない……ジャン兄さんがいても、軍備が増強できるわけじゃないしなぁ……」


「ごめんなぁオーブ、役立たずな兄ちゃんで……」



 妹の一人のアルズリップが中心人物の一人である新興国家ダモス。ダモスが事実上の宣戦布告をしてから一週間、ダモスはデスランドに対して侵略行為等は行っていない。


しかし、それでも事態が進んでいないわけじゃない。ダモスを建国した二つの勢力の内の一つであるグローリー王国の反オーヴィア派はダモス建国から勢いを増し、グローリー王国の一部を軍事侵略、実効支配している、というのが現状だ。


 もう一つの中心勢力であるナスラム帝国の魔導改革派の方は大した動きを見せていない。彼らは単純な研究者集団であり、人心を掌握するのには長けていないからか、直接的にナスラムの一部を奪うなんてことはできないようだ。


意外にもナスラム帝国の不穏分子、反皇帝派は魔導改革派に同調したりはしなかった。ナスラム帝国は安定している。不穏分子さえ、良くも悪くも大変革は望んでいなかったのだ。


ナスラムの長きに渡る統治は複雑な利権構造を醸成しており、大変革が起きたなら、不穏分子達もすでにある利権を失うことになりかねない。だから彼らは過激な動きに飛びつかない。


ナスラムの不穏分子はいうなれば小悪党、己の利益の最大化、己の幸福を求めるのみで、そこに大義はない。彼らが大義を持つにはナスラムの統治はまともすぎて、不可能だった。



「ロンドアークの、お父さんが皇帝となってから民衆の生活が豊かになったというのは本当だったんだな……」



 俺の口からそんな言葉が出たのは、デスランド領のあるモノを見たからだった。


 デスランド領の中心、オーブドラスの屋敷の近くには巨大な石碑がある。その石碑は魔石由来の青緑の強い輝きに満ちていて、その光が生み出す輪の上空には巨大な大鷲のようなエネルギー体が見えた。


 デスランドの現状把握をする為に俺はオーブドラスに領地の開拓拠点を案内してもらっていたのだ。そして、コレの眼の前までやって来た。凄い目立つから、引き寄せられるように。



「これがナスラム帝国の国神、ガラムフェス……異なる小世界への神の一部、分神の移植……それによる小世界の精神的合一化。移植した神がこんなに強い光を生み出すとは……民が豊かで、国を愛する心が強ければ強いほど、移植した神の光は強くなる、か……」


「え? ジャン兄さん、この分神体ってそんなに凄いの? 分神移植って基本的に帝国系の国しかやらないんでしょ? 他だとジーネドレ帝国ぐらいしか比較対象が……」


「いや分神移植は異なる小世界の植民地化以外でも使われることがあるんだぜ? 神々ははそれぞれ異なる恩恵を持ってるが、得意不得意がある。戦関係の恩恵を主とする神がいれば逆に生活関連での方が主となる神もいる。そして人間にとって有利な恩恵を網羅的に併せ持つような神は少数派、レアケースだ」



 俺がここまで話した所で、オーブは俺が何を言いたいかが分かったようだった。ということで説明させてみる。



「恩恵の得意分野が異なる神を持つ小世界同士が、分神を移植しあって、不足分を補い合うんだね? ジャン兄さんの説明で言う戦いが得意で生活関係が苦手な神の小世界が、生活関係が得意な神の力を取り込むんだ。そして、その逆も然りだ。そうか、グローリー王国のグローリード神もナスラム帝国のガラムフェスも網羅的な恩恵を持つ神だったから、他世界の神を移植し合う必要がない……あれ? でも、異なる小世界の神々を移植し合うと言っても、それが原因で争いになったりはしないの?」


「まぁそこは神々の相性次第だよ。基本的に分神移植を行う前に、お互いの神の相性を調べるんだ。分神を憑依させた小さい魔石同士を引き合わせて神々を会話させる。神合式つってな、中小規模の小世界国家でよくやってるんだ。相性の方は、殆ど神々の性格の話だな。仲良くやれそうだったら神々の了承の元、分神移植が行われる。だから通常の分神移植で問題が起こることは稀だ」



 俺が通常の分神移植で問題が起こることは稀だと言った所で、オーブドラスが気まずそうにした。



「そう、分神移植で問題が起こるのは、一方的な移植による植民地化、帝国式の神々の相性を無視したものだ。俺は、このデスランドにそれが起きている──と、そう考えている。見た所ガラムフェスの力はかなり強い、俺が見てきたどの分神よりも大きく、強い力を放っている。これならば、強引な移植を行ったとしても、大抵の現地の神を抑えつけ、支配下に置くことができるだろうな。でも、デスランドではそうはいかないようだな」



 デスランドの現地神アグニウィルム、火の龍神だ。それも人間の世界では珍しい肉体を持った神、おそらく生物が神化することで生まれた神だ。流石に龍神のレベルまではいかないが、こうした龍がかつての人間世界には多くいたらしい。だが、今では殆どその面影がない。



「オーブ、人が英雄となる方法を知っているか?」


「え? えと、確か強大な龍か魔法使いを打ち倒すこと、だったっけ?」


「そうだ、そしてこの近年で英雄となったのは二人だけだ。ナスラム帝国皇帝ロンドアークと、ジーネドレ帝国皇帝イーディナス。二人共ほぼ同時期に英雄となったが、大体300年ぶりに英雄が誕生したんだ。魔法使いを殺してな。同時期に二つの大帝国に英雄が生まれたもんだから、みんなこう思うのさ、ただ一つの帝国が遂に誕生するのだろうって。二人の英雄の戦いによって、長きに渡る帝国大戦の終止符が、その答えが分かるって」



 オーブが青ざめていく、オーブはやはり賢いな、すぐに俺の考えを察する。



「大昔は英雄が沢山いた。理由は至ってシンプルだ、英雄になる為に必要な強大な龍が、大昔は沢山いたから、龍を殺して英雄になれた。けれど、龍を殺しまくったせいで、人間世界の龍は殆ど消えてしまった。その行いに、大した理由はない。ただ英雄に成りたがるバカが多かった、己の力を誇示する為に龍を殺し、殺した後で龍の悪行をでっちあげる。そんな愚かしい流行が、あったのさ。だから人は、もう龍を殺せない、殺せる龍がいないから、もう魔法使いを殺すことでしか英雄になれない」



 勝った側が負けた側を貶める。事実を、歴史を捻じ曲げる。それは悲しいことだが、人間が存在すれば、必ず起きてきたことだ。己の正当性を保ちたいという、心の弱さ、心の弱さを覆い隠す為の、防衛本能だ。


「けれど、何事も例外がある。最後の龍、人間が殺すことの叶わなかった人間世界最後にして最強の龍がいる。英雄を、英雄になろうとした挑戦者を斃し、勝利し続けたその龍の名こそ──火の竜神アグニウィルムだ。俺も昨日デスランドの機密資料を見せてもらって驚いたよ。ここ3000年の間にアグニウィルムは27人の英雄を殺してたんだからな。英雄志望なんて765人だぜ? しかも、その英雄を派遣した国々はその事実を隠蔽した。ナスラム帝国も隠蔽に、口裏合わせに協力してる。ロンドアークが、お父さんがなぜこんなヤバイ事実を、俺が知るのを許可したのかが謎だ」


「隠蔽……? もしかして、密約があるのか? 確かに英雄が死んだなんてことがおおやけになったら他国に国力の低下を教えるようなもの、知られたくないよね。デスランドを支配したいナスラムは支配に邪魔なアグニウィルムを倒す為、各国に英雄や強者の派遣を要請したのか。そして帝国は討伐に失敗した場合の情報統制や英雄を失ったことによって生じた損失の補填を行った。こんな所かな? 帝国としてはお願いしてる側だものな」


「ああ、お前の予測は合ってるよ。アグニウィルムに敗北した者の死体は跡形もなく焼け消えてるからな、隠居したと言えば確認のしようがない。しかも、帝国による補填が、帝国に貢献したと、報奨が送られれば、人々は英雄達が何かしらの偉業を成し遂げ、それによって得た莫大な富があれば、隠居生活もするだろうと、人々に納得を与えられる」


「そうか、ならナスラム帝国はデスランドの為に、大量のお金を失ってるわけだね。そして、父さんはアグニウィルムに挑む気がない──僕を、龍を斃した英雄にするつもりなんだ」


「だろうな、お父さん曰く、オーブはすでにお父さんよりも強いらしいからな。自分では倒せないと思ってるアグニウィルムをお前に任せたいんだ。でも、お前の考えにはちょっと間違った部分がある。1000年前ぐらいから、アグニウィルムを討伐ではなく懐柔できないかと試した記録がある。鉄をアダマンタイトにしてしまうような、存在を強化するアダマスタブレスの有用性を活かしたいと考えたんだ。だけど、それが全くうまくいかなかった」


「そっか、確かにアグニウィルムを殺してしまったらあの龍が由来のアダマスタブレスも消える。あっ、間違ってるって、そういう」


「──龍の従属化、お父さんの、ロンドアークの狙いはアグニウィルムに首輪をつけ、ナスラムの奴隷にすることだ」



 ロンドアークは皇帝だ、食えない男だ、オーブドラスを想う親心だけであの男は動いていない。オーブを利用して、ロンドアークはデスランドの全てを手に入れるつもりなんだ。神の奴隷化なんて、恐ろしいことを考えるものだ。



「龍を従わせた英雄なんて、歴史上一人もいない。そんなことができたら、英雄を超えた大英雄だ。だけど、それが出来たら、ナスラムとジーネドレ、それぞれの帝国に一人の英雄という、均衡が崩れ去る。三人目の大英雄は、ナスラムの二人目の英雄なんだからな。実現すればナスラム帝国はジーネドレ帝国に勝利する可能性を大幅に上げるだろう」



 同時代に生まれた大帝国の二人の英雄によって生まれた世界大戦の緊張、互いを恐れ、負けない為に、力を欲し、やがて衝突する。それはきっと、未来、高い確率で起こること。


だからロンドアークは切り札を欲した。戦争をするなら、絶対に勝たなければならないから、全てを奪われない為に、オーブドラスをその切り札に。



「息子を大英雄に仕立て上げ、グローリーも手に入れて、ジーネドレに必ず勝つ。壮大な夢想とも言える計画、だが……成功すれば勝利が殆ど確定する。だとするなら、ジーネドレも動くだろうな。ここで、オーブを潰さないと負けるかもしれないし、好都合なことにダモスとかいう謎国家がナスラムを、デスランドを攻めるっていうんだからな。便乗してナスラムを叩けばいい。もう──世界大戦は始まっているのかもしれないな」





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