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歴史に見つかってしまったなら



 オーブドラスの屋敷の客室で、男が三人、向き合って話す。重苦しい空気が流れる中、オーブドラスが口を開く。



「先ほどジャンさんが言ったように、僕はグローリー王国の王位継承者です。グローリー王国は男でも女でも、王の子であれば王位継承者です。そして現グローリー王国の当主、国王は僕の母、オーヴィアです。つまり母は先代の王の子、だったわけです。そして……僕はずっと彼女の王配である、フルードの子として育てられ、第一王子として生きてきました」



 もう、なんか、辛くなってきたな。オーブドラスの話……



「でも、僕はフルードの子ではなかった。ナスラム帝国の皇子、ロンドアークの子だったんです。母がまだ若い頃、当時、病弱だった母は別荘で療養中で、そんな時、武者修行で世界を旅していた父と出会ったそうです。母はその時すでにフルードと婚約していたのに、肉体関係を持ってしまったそうです」


「マジか……で、お父さんは相手が王族だってことは知ってたのかな?」


「いやぁ、身なりがいいから貴族か豪商の娘かなとは思ってたよ? えぇ、でも、あんな警備が少ないんじゃ王族だなんて思うわけないだろ」


「騙されないでくださいジャンさん! この人は自分が悪くないみたいに言ってますが、バレなきゃ大丈夫とか言って母を誘ったそうです!」


「流れがあんだよ! 流れが! あるだろ? そういう流れ! もうハートは止まれない形をしてたんだよォ!! 互いが求めあってるのが本能で分かるんだよ! しかも、しかもたった数回で妊娠するとは思わないじゃん! もうしょうがないんだよこれはァ!」



 全然弁明にならなくて草。



「母は病弱で大人になるまで持たないと思われてたみたいで、それで警備が少なかったみたいです。でもそんな母は父と関係を持った後、なぜだかすっかり元気になっちゃったみたいで……しかも、他の王位継承者がイノシシ狩りで死んだり、病気で死んだりで、母が女王になってしまった」


「マジかよ……けどオーヴィアはどうやってフルードを誤魔化したんだ? だって、ロンドの子を、オーブドラスをすぐに宿したわけだろ? 妊娠期間の計算はうまく誤魔化せるもんなのか?」


「どうやら結婚前に、母がフルードに媚薬を盛って襲わせたようですよ。どうしたら僕にそんな話を楽しそうに話せるのか……母はロンドアークに続く道へと立ちふさがる壁、障害を乗り越えることを良いことだと思っているみたいで……頭が痛くなる。父さんのことさえ絡まなければまともなのに……」


「わ、悪かったよオーブドラス、泣くなよ……」



 もうこれ、多分、オーブドラスがフルードじゃなくナスラム皇帝ロンドアークの子だってこと、グローリー王国にバレてるってことだよな?



「そして運命の日が来たんです。僕が第一王子として、建国祭のスピーチをした、あの日です。建国祭で行われるスピーチは基本的に王が行うもので、それを王子が行うというのは、この者が次世代の王であると、概ね決まったという事を、民に知らしめる目的があるんです。だからもう、僕は次の王に絶対になる、そんな所までいっていたんです。けれど、その建国祭に、ナスラム皇帝ロンドアークが賓客として招かれていた。そして……母は、オーヴィアは父に気がついた。何者か分からないまま、ずっと会えないまま父を思い続けていた母は、ロンドが何者であるかを知ってしまったんです」


「俺様もすぐに気がついた。印象深い良い女だったからな。だが俺様だけを見つめ続けるオーヴィアの目にぞわりときたぜ、流石にな。絶対に逃さないという覚悟が、見えてしまったからな。俺様を見て笑っていた、狂気的な笑顔、相変わらず美しかったが、恐ろしかった」



 運命のいたずらか……コレも俺の兄弟の話じゃなかったら面白がることもできたんだが……他人として楽しみたかった話だよ、ホント……この話の中心人物が俺の父親なわけだからな。



「そこからはもう滅茶苦茶ですよ。母は僕が実はナスラム皇帝ロンドアークの子だと公式に発表し、グローリー王国はナスラム帝国と一つになるべきだとか言い出して。グローリー王国はナスラム帝国へ属すべきだという、オーヴィア派と、ナスラム帝国には属すべきではなく、オーヴィアは国王に相応しくないと言っている反オーヴィア派、国内はこの二つの勢力に分断されてしまったのです。内戦や暗殺、陰謀が渦巻く魔窟となってしまった」


「んで当然問題の中心人物であるオーブドラスは反オーヴィアにとっては最大の敵の一人で、最大の暗殺対象の一人。あまりにグローリー国内が危険だってんで、警備の負担を減らし、生き残りの確率を上げる為にオーブドラスはこのナスラム帝国に避難してきたってわけだ。この話の何がたちが悪いって、オーヴィアが女王でオーブドラスがその長子であるという事実は、父親が違っても変わらねぇってことだ。だからオーブドラスが次のグローリー国王となることには正当性があんだよ」



 この弟、可哀想過ぎるっ……! こいつはなにも悪くないのに……だって、住民の怪我を自ら治療しようとしたり、屋敷を住民の避難の為に快く解放するような良い奴なんだよ?


それが……こんな……



「あれ、でも待ってくれ、オーブドラスが避難して来るにはこのデスランドはあまりにも物騒じゃないか……? もっと安全な所があったんじゃ?」


「その、母は、オーヴィアはグローリー王国がナスラム帝国と一つになるべきだって思想でしょう? この考えって実はナスラム帝国側からも良く思われていないんですよ。グローリー王国は大国ですから、もしグローリー王国が帝国の属領化した場合、ナスラム帝国内でグローリー王国が最も巨大な勢力となってしまうんです。それを帝国内の権力者達は嫌っている。だから危険だけど、しがらみの少ないこのデスランド開拓領はある意味安全なんですよ」


「なるほど、デスランドの危険さが敵の攻撃を防ぐ盾にもなるし、一石二鳥ってわけだ」


「いいや、一石三鳥だぜ、このデスランドで生きればアダマスタブレスによって強く成長できるからな。元々オーブドラスは武術において天賦の才があってな、それがさらに強化されてる。最早、俺様にも、世界中の誰もこいつを暗殺できねぇ。俺様も安心ってわけだなァ! ははははは」



 えっ、誰も? それってロンドにもできないってこと? あの自分に絶対の自信がある俺様なロンドが、オーブドラスを殺れないっていうのか? そんな、強いの? ヤバくないか……?



「まぁ、大体そういう感じです。ジャンさ──」


「──お兄ちゃん」


「え?」


「俺はもうお前の味方だからな、オーブドラス。俺はもうお前の、お兄ちゃんだ」


「え? で、でも……その、まだ、会ったばかりで、そんな実感──」


「今はそれでいい。俺はお前を守るように動く、その覚悟を言ったまでだ。もちろん力の強さでは大した力にはなれないかもしれない。だけど、俺にできることはやる。グローリーだけでなくナスラムの王位継承もあるなんて大変だからな」


「いやでも、その僕はナスラム帝国の皇位継承争いには関わらないつもりですから。そんな気を回して頂かなくても……グローリーの方は放棄すると母の勢力が弱体化して、母が殺されてしまうので放棄はできないですが……もう本音ではこういうのはこりごりなんです。関わりたくないんです」



 オーブドラスは泣きそうだ。結構追い詰められてるな……



「でもなぁ、オーブ」


「お、オーブ?」


「オーブはもう歴史に見つかっちゃったからなぁ」


「え? あ、あの……ジャンさん、それってどういう意味──」


「歴史ってさ、流れがあるんだよな。その中でも目まぐるしく、人々をかき乱す流れがある。人の心っていうんだけどさ。お前はもう、歴史に見つかってしまった。お前が歴史に関わりたくなくても、もう手遅れだと思う。俺の直感がそう告げている。お前は平穏には生きられない。残酷な話だがな」


「え、えぇ……嘘、そんな、いや、根拠ないですよ! 直感なんてそんな、不確かな……」



 直感が不確かだと指摘したいオーブの顔は自信なさげだ。多分、オーブ自身が直感の鋭い方なんだろう。自分の直感を信じるから、他人の直感を否定したくない。


そして、オーブ自身も、なんとなく直感しているのだろう。自分は普通には生きられないと。



「お父さん、このデスランドはオーブが来るまではそんな発展していなかったんじゃないのか? ここの住民の態度を見れば分かる。オーブはすでにデスランドの民達の心からの忠誠を得ている。自分で全部やる、そんな思想を持ったデスランドの民達は、生半可な領主を心から認めるなんてありえないからな。言ってしまえば、荒くれ者の冒険者を纏めてしまうようなものだ。だってそうだろ? デスランドの住民からすれば、領主なんてのは本来、自分では何もできない、他人任せばかりの大馬鹿者だからだ。そんな奴らが、懐くなんてのは、それはもう歴史的な才覚だ」



 自立心の高いタフな民は、領主のことを軽視する傾向にある。民達を怒らせれば逆に反逆されることも珍しくない。そうした者たちを味方にするには圧倒的な実力や心の力が必要になってくる。どちらが欠けても認めることはない。なぜならば、こうした過酷な世界で生きる者たちは現実主義者だからだ。



「ああ、そうだ。デスランドはオーブドラスが来てから強く、大きくなったよ。作物の品種改良から、土地の開発、画期的な建築修繕技術の開発、教育レベルの著しい上昇、そして何より、死者が減った。噴火があれば、その一回で死者が数十人あったのが、今では一桁だ」



「オーブ、お前は多分次のナスラム皇帝になる」


「なっ、何をいってるんですか!? だって、ナスラムの皇位継承権、僕は333位ですよ? こんなに他の皇位継承者がいてなれるわけが……僕もなるつもりないですし、なりたくないんです。争いは嫌なんです、もう人が死ぬを見るのは嫌なんです!」


「──なら、民を見捨てるのか?」


「え……?」


「言っただろ? お前は歴史に見つかってしまったと。お前は、お前の民に見つかったって意味なんだよ。お前を知り、お前を好きになった者達は、お前が望まなくとも、お前を担ぎ上げる。王に、皇帝にしようとする」


「そんなのありえない! ありえないですよ! だって、僕はいつも皇帝にも王にもなりたくないって言ってるんですから! みんな、みんなだってそれを分かってくれてる」



 心苦しい……こんな善良なヤツに、残酷な真実を告げたくない……だけど、ここで俺が、オーブに出会ったのはそういう、運命なんだろう。俺は、こいつに言わなきゃいけない。



「ああ、みんなお前の気持ちは分かってるとも。だがな、内心ではお前こそが皇帝に相応しい、そう思ってしまうものだ。そして、そんな人の心は、人から人へと伝わっていく。だからその心は、他の皇位継承者へと伝わって、彼らはお前の命を狙う。何故なら、外から見たお前は、じゃじゃ馬集団を纏めたカリスマ、高い武勇、知性、血筋を兼ね備えた危険人物だからだ。お前がいくら王位や皇位に興味がないと言っても、誰も信じないだろう。悲しいことだがな」


「お、おいジャン、何も今、そこまで言う必要は、それ以上は……」



 黙れロンド、これは本来お前が言わなきゃいけないことだったんだ。自分のせいだという負い目があって言いづらいんだろ? 皇帝のくせに甘えるなよ!!



「──これは予言だオーブ、皇位継承者がお前の命を狙い、民はお前を守ろうとする。そして、お前を守るために、お前の愛する民は犠牲となる。お前が存在する限りどう足掻いても血は流れる運命なんだよ。お前がそんな運命から逃れる道があるとするならば、全てを捨て去り孤独に生きる他ない。だが、お前にはできない」


「あ、ああ、う、嘘だ……そんなの嘘だ……」


「優しいお前は、愛してしまった民達を、捨てることはできない。だから、戦うことになる。そして最後まで立ち続ける。守るべき者の為に……そうして気付いた頃には、皇帝になっていることだろう」



 ロンドは俺の話を否定しない。やはりロンドも内心はオーブが次期皇帝になるであろう──と、そう思っているんだろう。



「お前は逃げられん。戦うしかない、己の宿命と……このままいけば敵も味方も大勢死ぬ、これは避けようがないことだ。だがお前にもできることがある」



 こんなズルい言い方は最悪だ。俺は今からオーブの選択肢を奪う、迷いを奪う。



「できる……こと? 僕に……?」


「皇帝になる覚悟を決め、最速で次期皇帝の座を決めることだ。受け身になれば失われる命が増える。世の安寧の為の犠牲となる覚悟を決めろ。いいか俺は言ったからな? もう見て見ぬふりはできないぞ。これから出るお前の身内の死は、お前が救えた命だ」


「お、おい! 流石にそれは言いすぎだジャン!! そんなこと言ったらオーブドラスは……背負わせすぎだ! まだこいつは若いんだ」


「本当は分かってるんだろ? オーブ、お前は賢いんだ。俺が言っていることが真実だってこと、分かるだろ? お前は何千万という死を数千、数百に減らせるんだよ」


「なんでっ……なんで、こんな、初めてあったばかりの人にっ、こんなこと言われなきゃいけないんだ……っ! 僕のこと何も知らないのに! なんで……なんで……クソッ!!」



 本当にごめん、君の言う通りだ。



「想像できてしまう……あなたの、言ったことが……そうなるだろうと……理解が、できてしまう……どうして、どうしてもっと早く教えてくれなかった! もっと早く、あなたが僕と出会ってくれたなら、僕は一人、身投げするだけでよかった……それで世界は平和だったんだ……」


「俺にも逃れられない運命がある。お前とはまた違ったものだけど……避けられないことはあるんだよ。だけど、向き合い方と未来は変えられるかもしれない。前向きなものがあるとするならそれは未来だ。お前が皇帝になったなら、その後は、幸福を探せるかもな。人並みの幸福は皇帝になるまでお預けだ」



 二日後、オーブドラスは皇帝になる覚悟を決めたらしい。俺に言われたことがショックで一日中寝込んでいたみたいで、そのせいで俺がオーブを虐めたという噂が領民の間で噂になり、めっちゃ視線が痛かった。


まぁでも危なかったな……これって多分、マジで何千万も人が死ぬヤツだもんな。もちろん俺の助言のせいで被害が増えることもありえるが。そこはあまり心配していない。何故ならこれから受け身だったオーブが能動的に動くことになるからだ。


しかも現皇帝であるロンドアークはオーブを支持している。ロンドアークは自分と親しいもの達にオーブを紹介し、オーブがそのコネを活用できるようにするようだ。



「ね、ジャンお兄ちゃん! もちろん協力してくれるよネ! だって僕に皇帝になることを強制したわけだからサ! 発言の責任はとってもらわないと! もちろん、逃げたりはしないよね? だって、逃れられない運命もあるって、ジャンお兄ちゃんが言ってたことだろう?」


「お、おごごご、でも俺、旅をちょっとしたくて……」


「えぇー? なんだって? そんなことを言うなんて、ジャンお兄ちゃんも父さんと似てるね? 自分だけ好き放題やって逃げちゃうなんてサ。僕が身の上話をしてた時、ジャンお兄ちゃんがお父さんに侮蔑の眼差しを送っていたの、僕はちゃんと憶えてるからね! それって自分とお父さんは違うって言いたいんだよね? じゃあそれを証明しようよ。皇位継承の戦い、せめて一仕事して貰うよ。これは次期皇帝からのお願いだよ」



 ……こいつ、やるな! 駄目だ、全然言い返せない。賢いヤツを怒らせちゃ駄目だな……まじで逃げ場が消される……


というわけで、俺はしばらくこのデスランドで足止めされることになった。





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