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帝国の弟



「おーい! ロンドだー! 入れてくれ~!!」



 分厚いアダマンタイトの屋根で覆われた要塞のような屋敷の門で、ロンドが大声で門番に叫ぶ。


すると門の中から門番が出てきた。門番はロンドの顔を見て大慌てな様子、しかも問題はロンドだけでなく空より降り掛かってくる噴石の存在もあって、気が気でない感じ。



「ありがとう! よし、こいつらも俺様の同行者だ、一緒に避難させてくれ!」


「はい! では皆さんこちらに!」



 俺達は礼を言いながらデスランド領主の屋敷へとお邪魔する。



「──おや? ロンドさん? それとそちらの方々は?」



 屋敷のエントランスホールの中には沢山の人がいた。どうやら周囲の住民が避難しているようだ。


そんな人々の中心にいる、人々に寄り添うよ爽やかな青年がいた。大所帯の騒がしさの中で、その青年の声はよく聞こえた。穏やかで、大きくはない、普通の声量なのに、俺達の耳にしっかりと残る。


まるで、リザードマンの音魔法のような、不可思議さがその青年の声にはあった。



「ああ、オーブドラス! 忙しい所悪いな、そこら辺の話は落ち着いてから話そう。おいお前ら、元気だろ? 怪我した住民の手当を手伝うぞ」


「はい! じゃあ手伝いますよ~!」



 俺は正直、たどり着いたばかりのよそ者に怪我人の治療をさせるのはどうかと思ったが、これはアレだな。ロンドなりの俺達に対する信用保証だろう。治療を手伝えさせられる程度には信用できるという事だ。



 俺も薬や怪我の治療は慣れているから、かなり沢山の人を治療できた。チャウスとディア、エルも手際よく動いてくれたので、いつの間にか住民たちの俺達を見る目が好意的、というか認めてくれたように思う。


エローラは……元から怪我をしないし、人を治療する機会があまりなかったのだろう。ずっとあたふたしていただけで、ちょっとパニックになっていた。


ま、住民たちの怪我の殆どは、避難中にデコボコな地面に躓いて転んだり、壁にぶつけたりドアに挟んだりで、流石に噴石の破片が当たった人はいなかった。外にはそういった人もいるかもしれないが、今は確認のしようがない。


 そんな感じで住民たちの治療が一段落すると、俺達は領主様に客室へと招かれた。そう、例の爽やかな青年──オーブドラスだ。



「先ほどは住民の治療を手伝って頂きありがとうございます! 僕はこのデスランド開拓領の領主、オーブドラス・グロール・ダン・ナスランと言います」


「俺はジャンダルーム・アルピウス、冒険者です」


「えっ!? あ、あの、あのジャンダルームさんなんですか!?」



 あれ? なんか、この爽やか青年に俺の存在を知られている? ていうか、なんか騒がしいな……オーブドラス付きの侍女と思われる者達からの視線を、物凄く感じる……



「え? え? どうこと……?」


「そうだぞオーブドラス、なんでお前がジャンダルームを知ってるんだ。一応もこいつも最高クラスの冒険者らしいが、こっちの方じゃ活動してなかったらしいぜ? こっちじゃ知名度もないはずだ」


「あはは、ほらジャンダルームさん。本を出したでしょ? エドナイルの月っていう小説。実は今、あのエドナイルの月がデスランドではめっちゃ流行ってて。確かデスランド以外でも世界中の都市部でかなり人気あるみたいですよ?」


「え……? そうなの? 人気あるの? あれって、ひっそり楽しまれるぐらいのもんだと……」



 俺の知らない所でいつの間にか知名度が……え!? こんなことが……?



「──ひっそりだなんてもう! 無理ですよォ!! ジャンダルーム先生は! もう大先生です! 全国の乙女たちの頭をおかしくしてしまったんですよぉおおお!!」



 うわ、うるさ!? ていうか、この侍女デカっ!? 2mぐらいある? 筋肉ムキムキだし、武装もしてる……これ、護衛も兼ねてる方?



「ほら落ち着いてモドリー、情熱を抑えられないのは分かるけど、ジャン先生が困っているだろう?」


「す、すみません! で、でもォ!! マドとセドって絶対エッチしてるじゃないですかぁ!!」


「え……? マドとセドが……エッチ? え?」



 なんか雲行きが怪しくなってきたな……



「アレは完全にやってます!! やってなきゃおかしいんで! あそこまでお互いを思い合って、二人の絆には妻や子供でも寄りつけない、もう、ね!? やってるでしょ!?」


「そ、そうかなぁ……? 絆があっても、そういったことがあるとは限らないんじゃ……二人は妻子のいる男性だし──」


「──あるんです!! 確定です! 知ってます、ちゃんと分かってますよ先生! 公序良俗を考えて、抑えてあるんですよね! やっぱり二人で夜空を見上げてそのままフェードアウトしてるシーンとか、描写してないだけで、そういうことですもんね! どう見ても」


「えぇ……? まぁ読者がどう楽しむかは、もう任せるしかないもんなぁ。じゃあその、モドリーさんでしたっけ? エドナイルの月はそういう感じで巷では楽しまれてるんですか?」


「そうですね! 一般の方にも普通に読み物として人気ですけど、女子では、はい!」


「そ、そうなの……?」



 ごめんマダルガ、セトルド……お前たちを元ネタにした史実に基づいた小説、なんかそういう感じになっちゃったらしい……二人の絆をしっかり描写しようと意気込み過ぎたか……?



「ま、いっか。誰にも読まれないより沢山の人に見られた方が。エドナイルの月を楽しんでくれてありがとう。エドナイルの月には色んな願いが込められているから、それを探してもらえたら嬉しいよ」


「そんな! ありがとうはこっちのセリフですよォい!! うわあああ!! 先生、ダッシュでエドナイルの月持ってくるんで、サインいただいても!?」


「え? う、うんいいよ」



 ちなみに、侍女連中だけじゃなく地域のエドナイルの月、略してエド月のファン達がみんなサインも求めてきたのでサイン会のようになってしまって、それが終わるにはすっかり日が暮れていた。



「ありがとうございます。すみませんジャンさん、民達の為に」


「いえいえ、それにしてもオーブドラスさん、このデスランドはかなり文化、教育的水準が高いみたいですね。見た所、見かけた人の殆どが読み書きができるようでしたし、金属製の日用品を沢山見かけたけど、個人制作したものも多いみたいで、金属加工まで個人で出来ちゃうレベルなんですね」


「ははは、デスランドの民達は自分で作るのが好きだし、なんでもやろうと思えば自分できると思ってますからね。タフじゃないと生きていけないから、っていうのはあるんでしょうけど。まぁ僕も最近ここの領主になったんですが、彼らの元気にはいつも助けられてますよ」


「オーブドラスさんは最近ここの領主に……? あれ? そういえば、オーブドラス・グロール・ダン・ナスラン……グロール姓って確か……あれ? グローリー王国の王位継承者しか名乗れない姓じゃ……」



 俺がグロール姓を指摘するとオーブドラスとロンドが気まずそうに苦笑いする。グローリー王国は帝国クラスまではいかないけどかなりの大国だ。だから俺でも知っている……グローリー王国の王位継承者はグロールを名乗り、王となるとグローリーへと変わる。そして王位継承権を破棄すればグロールからグロードに変わる。


そして問題はグロールからその先、ダン・ナスラン。これはナスランの王位継承者という意味だ。つまり、オーブドラスは二つの大国の王位継承者を同時に有している。そして、この世代の王位継承者であり、ロンドと親しげであることを考えると。



「俺とオーブドラスさんは兄弟ってことか。そしてオーブドラスさんはかなり複雑な立場にある」


「ああ、やっぱりジャンさんは父の子、僕の兄弟だったんですね。まぁ顔の造形を見て、なんとなくは察してましたよ」


「お前、ジャン! 今までは偉大なる無名の方扱いしてくれてたのによぉ、俺様から言うまでは分かっても言わないのが粋ってもんだろうが、違うか?」



 ロンドは否定しない。肯定している。オーブドラスは見た感じ俺より若い、となればおそらくは弟、ということになるんだろう。



「すいませんねお父さん。こういう複雑な立場の人がいると気になって、深い話が聞きたくなるもんで、その為には身を明かす必要がある」


「えええええええええええええええええええ!? ちょ、ジャンダルームあんた、ナスラム帝国の王子様だったの!? え!? じゃ、じゃあこのおっさんは皇帝ってこと!?」



 エローラが滅茶苦茶驚いてる……こいつさては俺とロンドの話適当に聞いてたな? エルとディアは全然驚いてないぞ?



「そういうことだ、無礼なエルフめ! まぁ今は偉大なる無名の方、ただのロンドとして動いている。だから適当な冒険者ぐらいに扱ってくれりゃいい」


「では深い話、しましょうか。父さんがあなたをここに連れてきたというのは、単にここが通り道だったからってわけじゃなさそうです。すみません同行者の方々、僕と父、ジャンさんだけで話させてもらいますね?」



 ディア達は侍女達に案内されて、客室は俺、ロンド、オーブドラスの三人だけになる。





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