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心の行き着く場所へ




 ──パチン、マニュールが指を鳴らした。すると、俺の体は俺の意思とは無関係に動き出し、マニュールに抱きついてしまった。


あ、あああ……なんだ、これは……思考はできるのに、体が……俺は、魅了耐性を得ていたのに……体が熱くなっていくのを感じる。


 誰も俺を、マニュールを止めようとしない。それどころか、皆整列し、道を作っている。黄金郷の、魔王城へと続く、人の道。



「シャンカール、興奮してるね。でも駄目だよ、御城に着いたら、たっぷり可愛がってあげるから、それまでは我慢だよ? 君は、妾の夫となるんだからね」



 マニュールが俺の顔を、首を、胸を撫でる。ぐ……クソ……俺はそんなこと、望んでないのに……肉体は魂の牢獄、そんな言葉があるけれど、今の俺はまさしくそれだ。俺の意識は、牢獄の中にいることを、自覚した、囚人なんだ。


もう、俺は、駄目なのか? 冒険は、夢は、ここで終わってしまうのか? 何を考えてるんだ、俺は……もう、俺がどうとか、そんなレベルの話じゃない。世界すべてが、一人の魔王によって支配されるかもしれない、そんな話なのに。


ごめん、みんな、グラミューズ……俺が、俺が、俺がもっと、うまくやれてれば……心が、魂が冷えていくのを感じる。俺は、すべてを諦めようとしているんだろう。この絶望を受け入れようとしているんだ。



 ──でも、勝手に歩く自分の視界に、一人の顔が映り込んだ。グラミューズ。絶望って感じの表情だ。でも、諦めたくない、そんな顔に見える。


 ──ああ、駄目だな。



──俺は──


絶望を受け入れない、諦めるなんて、そんなの俺が、俺を許せなくなる。



 夢を失いかけた俺は、彼女を、グラミューズの夢と心を傷つけてまで、その夢を復活させたんだ。彼女は俺に自由を与えた。夢を叶えろと、俺を想ってくれたんだ。


グラミューズは不器用だ。恋に愛に憧れて、いつか出会う運命の人と添い遂げる。そんな幼い少女のような夢を、心の奥に秘めて、何百年もの長い時を、生きてきた。その為に生きてきた。なりふりなんて、構っていられない程の、激情を心の底に押し込めてきた。


馬鹿だと思う。彼女は馬鹿だ、夢見がちな、愚かな少女だ。彼女は賢いはずなのに、なぜだか、それだけは、賢くなんていられないらしい。



 でも似たような馬鹿を俺は知っている。その馬鹿は──



「──俺だ。馬鹿は俺だ!」


「なっ、嘘……なんで、妾が望んでいない言葉を、シャンカール、どうやって、洗脳魔法に抗った!」


「グラミューズ! 俺は諦めないよ! 君を傷つけてしまった。それでも進むと決めた、そんな俺が、諦めるなんて、ありえないよなァッ!」



 動かせる。俺は自分の身体を動かせる。俺達の無意識に魔法で干渉し、楔を打ち込んだ、確かマニュールはそう言った。おそらく、精神、魂の無意識の領域に、文字通り魔力による呪法、命令を刻んだんだ。マニュールの望みを叶える、マニュールに従うという命令だ。


──そして、このマニュールの望みを叶えるというのが、この魔法の突破口だ。何故ならば、魔法の影響下にある者は、マニュールの望みを知らなければ、その望みを叶えることができないのだから。


この洗脳魔法に掛かったものは、無意識がマニュールの意識、もしくは無意識と繋がりを持つのではないか? 俺はそう考えた。だから──


俺は俺の意識を体外へと伸ばした。



「──俺は今ここだぜ、マニュール!!」


「何を言って──はっ!?」



 俺の視界に映るのは、親指を自分の心臓へと向けるマニュールの姿。そう俺は今、マニュールの中にいる。マニュールと俺の間にできた繋がりを辿って、マニュールの心に侵入した。



「まずい、シャンカール、貴様ァ!! 余計なことを、させるわけには──」


「──悪いな魔王、俺の魅了耐性は意識だとか無意識だとか、もうそんな領域じゃあないぜ! 霊魂の操作!! 肉体が勝手に動いちまうのを止められなくとも、俺の意思は、魂は動かせる!! お前の心の中から、俺の体を動かさせてもらうぜ!!」



 調子に乗ったなマニュール! 神化してよっぽど嬉しかったんだろう。即興で検証が不完全な新魔法を使うという迂闊──らしくないことをしたな。



「──いくぜ相棒! 氷魔刀カラーテル!! 幻想否定の傷跡ファンタズマ・カラール!! うおおおおおおおおお!!!!」



 俺はマニュールの心の中から俺の肉体を操作し、氷魔刀カラーテルを構える。魔力を全力で氷魔刀に注ぐ。


俺が今やろうとしていることは、魔法の発動だ。


本来、ただの人間である俺では魔法を使うなんてことはできない。普段はできて氷魔刀を媒介にした魔術の行使に留まる。


だが、今の俺は、魂はマニュールの中にいる。だから、マニュールの力と、魔法の叡智を利用して、新たな魔法をマニュールに創造してもらう。


マニュールの膨大な知識が、俺の求める魔法の方程式を構築していく。



「う、どうして、なんで!! 妾の力が利用されているのに、どうして止められないの……!?」



 どうすればマニュールに勝てるのか、最良の未来を切り開く為に何が必要なのか、その全ての答えが、俺達の中に──俺とマニュールの心の中にある。


一人では到達できない答えを、俺達は見つけた。



「なんでって、お前、楽しいからだろ?」


「え……?」


「予想外の現象、自分だけじゃ思いつかなかった魔法、そいつを考えるのが、わくわくするんだ。だからお前は自分を止められない。俺達で生み出す魔法が見たいから!」


「妾はそれだけで夢を投げ出せる、愚か者ではないッ!!」


「ああ、知ってるよ。お前の心に飛び込んでわかった。お前は、唯一の友達を、失いたくなかったんだよな? 大丈夫、明るい未来は──今にやってくる!」



 マニュールの神の力を帯びて、銀に色を変えた氷魔刀カラーテルが、槍の形に変化する。それはマニュールが神化したことで得た銀の杖と元の氷魔刀カラーテルが合体したような形で、二人の意思で投げられた。



「いっけぇぇえええええええええええ!!!!」



 ──パシュゥウウウ……!


 氷魔槍カラーテルがマニュールの腹に突き刺さる。新たに生み出された魔法、幻想否定の傷跡ファンタズマ・カラールが発動した。



「まさか自分に向かって投げるのに、一緒にやってくれるなんてな。お前、ちょっとイカれてるよマニュール」



 洗脳状態が解かれた。もう体は自由だ。それは俺以外も同じで、あの洗脳魔法はすべて解除されたようだ。


皆、解放されても、誰もマニュールを傷つけようとはしない。マニュールは殺されたっておかしくない。それまでのことをした、でも、誰もそうはしなかった。



「それはこっちのセリフだよシャンカール? まさか、自分の意識ごと槍で貫こうとするなんて」


「まぁ死ぬわけじゃないし。これは俺のケジメなんだ。幻想否定の傷跡ファンタズマ・カラールは不完全な魔法の解除と改変を行う魔法。一度夢を否定されても、やり直せる、そしてそれは、もっと良い未来へと繋がる。そんな可能性を願う、分岐点を生み出す魔法」


「魔法が解除された? よかったぁ~ダーリーン!! もう、心配かけないでよ、わたし……マニュールにダーリンが取られると思って頭がおかしくなりそうだったんだから!」



 グラミューズが泣きながら俺に抱きついてきた。まぁしょうがないか。よく見るとグラミューズの胸、心臓のあたりがひび割れていて、そのヒビから微かに黄金の光が漏れていた。


しかしその光は、俺が一瞬、思考を巡らせる間に幻のように消えてしまった。まさか……グラミューズ、神化しかけてたのか? グラミューズだって実力的にはマニュール以上なわけで、神化したっておかしくないが……



「ちょ、グラミューズ、落ち着いてよ」


「うん、ねぇダーリン、不完全な魔法の解除と改変って具体的にはどうしたの?」



 切り替えはやッ!? まぁグラミューズは魔王として、民への影響があるかもって気になるよな。



「ほらあの洗脳魔法の無意識に刻まれた楔を、呪法をすべてマニュールの中に回収したんだ。で、それをマニュールが自分を客観視する為の魔法に改変した」


「え? 客観視する為の魔法? どど、どういうことなの?」


「無意識に打ち込まれた楔を回収する時、その楔は最初に打ち込まれた時とは違うものになってるんだ。ほら粘土玉を握ったら手の形に変形するだろ? それと似たような感じで、魔法の対象者の無意識の形の影響を受けて変形する。ある意味心の形というか、記憶を保存したような感じなんだよ。んで、握って変形した粘土玉からは、自分をそうした手の形の痕跡が残って、手を再現する型にもなるんだ」


「なるほど、読めてきたわ。つまり楔を回収する時、同時に心の型がとれる。そしてその心の型が客観視に必要な、他者の視点、思考の再現を行う助けとなる。頭でっかちで自分の心がよく分からないマニュールでも、自分の気持ちに気づくことができる」


「そういうこと、しかもこの思考パターンの再現ていうのは、使いこなせば研究、真理の探求に役立つ。自分だけだったら思いつけない、気が付かない事を能動的に探しにいけるんだ。まぁでも、人格が増えるとかそういう感じじゃない、俺の場合は、なんというか、みんなに見られているような気がする。見守られているような感じだ」



 俺のケジメ、それはみんなの心を背負うことだ。その為に、俺もマニュールの魂と共に幻想否定の傷跡を受けた。あの時、諦めようとした自分、それが許せなかった。俺はみんなに見守られているんだという気持ちがあれば、もう少しだけ、覚悟を持てる気がした。


頑張れって応援されるぐらい、俺は──夢と向き合うんだ。




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