再会と自由
「──ん……?」
「──目覚めたか。久しぶりだねシャン、また会えてよかった」
目覚めると、いつの間にか俺はベッドで横になっていた。けど、そんなことはどうでもいい、懐かしい声が、聞こえたからだ。
「ね、ネルタタ……? ね、ネルタタ……そんな、なんで……ここに、俺、俺は……」
ネルタタの顔を見られるだなんて思っていなかった、不意打ちな再会で、俺は感情が、溢れてしまう。涙が、勝手に出てきてしまう。
旅を始めてからの間、感じることができなかったものが──安心が、俺の心の中の強がりを、溶かしていく。
「だ、ダーリン……わたし……ごめん、ごめんなさい……!」
部屋の隅の方から声が聞こえた。グラミューズだった、涙目で、俯き、俺と目を合わせてくれない。グラミューズは自分のことを責めているのか? 俺に合わせる顔がない、とでも言うように、彼女は部屋から出ていこうとする。
「待て、魔王よ。逃げるな、責任を感じているのなら、逃げてはいけないよ」
ネルタタが引き止めると、グラミューズはピタリと足を止めた。
「シャン、自分が倒れたことは自覚しているのかい?」
「え……? うん、まぁ、なんとなく」
「お前は極度のストレスが原因で、体内魔力を暴走させた。その結果、本来は体を温めるはずの血が、逆に熱を奪うようになってしまったんだ。私がお前の所にやってきた時、お前は冷たくて、このまま冬眠でもしそうな程だった。処置が遅れれば、死んでいたかもしれない」
「え……死、そんな、そこまで? 大げさな話じゃ……」
「大げさでもなんでもない、本当の話だよ。お前は自分が思っていたよりも、傷ついていたんだよ……魔王グラミューズが人を治せる者を探して、最終的に私に助けを求めた。私はお前も知っての通り、魔族だけでなく人間たちとも交流がある。だから人間の治し方もそれなりに知っているからね」
俺が死ぬ……? ストレスが原因で死にそうだった? 自殺でもないのにそんなことが……? 実感がまるでない……
「シャン、お前の心は強い。本来であれば、魔力暴走に至ることなどありえないんだよ。でもね、それはお前の心の強さの根源が、お前を支えているからなんだ」
「心の強さの根源……? それっていったい……」
「──夢さ。お前は夢の為なら、どこまでも頑張れる。好奇心がお前に無限の力をくれる。シャン、お前が倒れたということは、お前、夢を諦めたんじゃないのかい?」
「──っ……諦めた、訳じゃない……ただ、一旦忘れようと思っただけなんだ」
ネルタタの問いに言葉が、スムーズに出なかった。喉の奥、胸に引っかかってしまう。
「ふむ、嘘はついていない。けど、そうかお前は……サキュバス達の為に頑張ろうと思ったんだね。それで夢を少しの間、忘れようとした。けれど、夢を忘れたお前は、その瞬間に心の支えを失っていた。魔王グラミューズ、長老ですらない、私が意見などすべき存在ではないのは重々承知で言わせてもらうよ」
ネルタタがグラミューズと向き合い、怒りの眼差しを彼女に向ける。
「シャンカールを解放しろ。この子は檻に閉じ込めたら、死んでしまう。羽ばたく自由がなければ、シャンカールは、シャンカールでなくなってしまうッ! この子を愛しているのだろう? あなたが出会った、愛したシャンカールは、自由なシャンカールではないのか? 夢を失った抜け殻は、シャンカールじゃない。この子は本当に馬鹿なんだ、言うことを聞かない、夢の為なら、そうなってしまう子なんだ」
「──っ……! あ、あ、うぅ……わ、わたし、ごめん、なさい……」
グラミューズは力なく床に倒れ込む。弱りきった、こんな彼女を見たのは初めてで、どうにかしないと、そんな風に、俺は焦燥感を抱いた。
俺がグラミューズに言葉をかけようとした所で、ネルタタが手で、俺を制した。
「ここで、約束してもらう。シャンカールを解放してもらう!」
「……約束、する。ダーリンは、解放……する。魂の誓約も、取り消す……ダーリンは、もう、自由だよ……」
グラミューズが……俺の、自由を……認めた……? でも、でも……喜べない……グラミューズが、落ち込んでいる姿を見ると。
「魔力料理の領地対抗戦、それが終わったら、俺はオールランドに行くよ」
「え……?」
「俺が、黄金郷の皆と一緒に頑張ろうと思ったのは、嘘じゃない。あそこまで関わっておいて、見届けないなんて、そんなのは、俺だって嫌だ。グラミューズには悪いけど、俺、オールランドに行けるんだと思ったら、なんだか凄い元気になってきちゃった」
「おいシャン! この子は、本当に!」
「俺って本当に単純で、馬鹿なんだな。ははは、いやもう本当に元気、だから大丈夫だよ。ラミーが泣くことなんて何もない。誓約が無くても、俺はまた、黄金郷に来る。約束する、絶対だ」
ネルタタがため息をついて呆れている。
「来なくていい……ダーリンはもう、わたしと会わない方がいい」
「──えぇ!? な、なんで!? そういう感じに……?」
「ダーリンほど残酷な人を、わたしは知らないわ。わたしのモノにならないなら、わたしに優しくしないで、中途半端に可能性を見せないで」
わ、分からない……お、女心が……
「まぁでも、良しと、しましょうか。こうやって心揺さぶられるのも、生きる楽しみだと思えば、愛らしいものよね。領地対抗戦、必ず勝つ、シャンカールよ、余の元で力を振るえる事、幸運に思うがよい!」
──ポス、言葉締めと共に、グラミューズが俺の頭を軽くチョップする。きっと、これは彼女なりのユーモアで、もう大丈夫と、俺に伝えたかったんだと思う。
「やれやれ、これで一旦の区切りかな? さて、それはそうとシャン、次はこっちの話の番と行こうじゃないか」
「え? え? ネルタタ……なんか、怒ってる?」
「当たり前にだろう? 勝手に村を飛び出して、しかも危険だと教えたリザードマンの里方面のルートを通って、そこから魔神族とシャドウピクシーのいる、危険なシャドウバレーを通って、サキュバスの領地を独力で強引に通過しようとするなど……愚かも愚か! 愚か過ぎる! 説教せずにおれまいか! 私はお前を安全に導く為に色々と準備をしていたのに、全部無駄にした挙げ句、旅の道中、何度も死にかけたらしいねっ! いいかい、私はお前の師匠でもあるんだ──」
この後ネルタタに滅茶苦茶説教された。でも、俺の為に本気で怒ってくれるネルタタの存在が、とてもありがたく感じられた。
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