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連行される兄妹



 ミュシャの語る事、つまりエドナイル王家が偽物であるということを調査する為、俺とディアはエドナの街で聞き込みを開始した。


 エドナの街は広いので、範囲を絞って調査をする。エドナに滞在しながら、地区の特性なんかを調べ、大雑把な地理は把握している。今回は調査したことのない、エドナの世帯収入で言うと中の上ぐらいの、中流階級の人達が住む地区を調査した。


建築物の構造は上流も中流も、なんなら下流も殆ど変わらない。レンガ建築の家で、収入が増えるごとにキレイな塗装をしたり、飾り等が増える。



「昔のことを知ってそうな老人を中心に聞いてるけど、記憶が不確かな人が多いな。若い世代はエドナイルの歴史のことを殆ど知らないし……どうしたもんか」


「多分若者が歴史を知らないのは、教えられていないからだよね? 有名な王様の名前ぐらいは知ってるけど、何をしたかまでは分からない感じ」



 まぁ生活する上で、歴史を学ぶ必要がなければ、歴史って結構すぐ忘れられてしまうものだよな。悲しいことだけど。



「俺がエドナイルに来るのが10年ぐらい早かったら、ちゃんと話を聞けたかもな。だけど、得られた情報もある。エドナイルの歴代の王の中で、有名な王、おそらく評価が変わった王がいる。評価が変わったのは征服王オルダン、エドナイル周辺国を侵略しそれを征服、エドナイルの国力を実質的に帝国レベルに引き上げた王。とんでもない偉業を成し遂げているのにも関わらず、知名度が低かった」


「侵略のイメージが悪いから人気がないんじゃない? って現地の人たちは言ってたけど、ちょっと腑に落ちないよね。歴史上の偉人て、仮に悪人だったとしてもやってることが凄いなら人気だったり、知名度はあるのが普通だし」


「逆にオルダンの二世代後、黄金王アダルガは異常な人気と知名度だ。やったことは交易路を開拓し、エドナイルを豊かにした事。統治時代は戦争もなく、病による死者も大幅も減ったことから賢王とも呼ばれた。政治特化の王だな、もしかするとこの王は民衆感情をコントールすることにも長けていたのかもな」


「じゃあ、もしかしてお兄ちゃんはアダルガの時代が怪しいと思ってるの? この時代からエドナイルと王家に変化があったって」


「いや、俺が怪しいと思っているのはオルダンでもアダルガでもない。その間の世代、節制王ウダルスだ。オルダンは不自然に知名度が低かったけど、このウダルスはそれ以上に知名度がない。何をやっていたのか、殆ど知られていない。ちらっと聞いたのは、ケチで人気がなかったとか、妃が美しかったとかそれぐらい」


「え? ウダルスが怪しいの? どうしてそれで怪しくなるの?」


「明確に時代が切り替わったのは黄金王アダルガの時代だろ? だけどディア、大衆食堂でミュシャに文句を言った老人の言葉を憶えているか? 巫女は何百年はいないという言葉だ」


「確かに聞き取りをした他のおじいちゃんおばあちゃん達も、その認識は共通してた。確か聞き取りをした結果を纏めると、巫女がいなくなった時代は今から300年ぐらい前だって話が一番多かったかな?」


「もし300年前、もしくはその前後に巫女がいなくなったとするなら、黄金王アダルガは時代に合わない。アダルガは現王マダルガの8世代前、270年程前の王。そして丁度300年前を統治していた王、それこそがアダルガの父に当たる者、節制王ウダルスだ」



 あやふやな返答が多かった老人達への聞き取りだが、それでもある程度年代を絞ることができた。それが具体的に何年前ぐらいか分からなくとも、その時代を統治していた王の名前は分かったりした。今回で言えば、アダルガの先王という言い方が多かったな。



「なるほど……でも、時代が変わったのはアダルガの時代なんでしょ? それなのに巫女のことを基準に考えるの?」


「ディア、王朝が変わるってどういうことか分かるか? 王朝が変わるというのは、例えば男の王が代々統治するのであれば、常に男の子供が跡継ぎ、世襲を行う。この時、男の世継ぎが居らず、王の女の子供が外の男を迎え入れ、王とした場合、その時は王朝が変わると言うんだ。これは男の系統を王の中心として考えた場合の話だが、エドナイルは男の系統による世襲制度を用いているからな。もし王家が偽物、つまり王朝が切り替わるとすれば、それはどこかで王家の男の血筋が絶えているということだ」


「王家の男の血筋が絶える? え? でもエドナイル王家はずっと続いてるんじゃないの……?」


「ああ、だから王朝がいつの間にか、実は終わってましたってパターンなのさ。妃の不倫によって、王家でない男との子が生まれ、その子が王となれば、それは王朝が変わったということになる。別に珍しい話じゃない、よくある話だ」


「えっ!? 不倫!? じゃ、じゃあウダルス王の妃が、フェリテ王妃が、誰か他の男の人の子を、ウダルス王の子だと偽って、王位を継承させたってこと?」



 不倫だの浮気だの、ドロドロしたことが戦争の引き金になることも多いのが歴史だ。絶世の美女がいるからというだけで国を攻めるような性欲異常者が王のパターンだって普通にある。


 強い力を持つからこそ、その欲望を強引に叶えようとする。それができると思いこんでしまう。そうして行われた強引な手段による結果が敵を作り、世代が巡って革命が起こる。



「まぁあくまで可能性、実際の所は分からない。だけど、フェリテ王妃の不倫で出来た子がアダルガなら、アダルガの本当の父親が、ウダルスの時代からエドナイルに影響を与えている可能性が高い。王妃に近づくことのできる人物は限られる。それは王妃の護衛か、国の宰相か大臣か……しかし、アダルガが黄金王として政治力を発揮していたとすれば、その父もまた政治に関わる者で、アダルガの時代に、自分の子と共に国を治めたんじゃないか? まぁ別に父親がただの護衛で、アダルガが純粋に政治の天才だった可能性もあるけどな」


「でも確かに父親が宰相とか大臣で、王である自分の子が一緒の考えを共有していたなら、政治もスムーズにできそうだよね。ウダルスの時代では王が反対してできなかったこととかも、通りやすくなる」


「まぁ証拠はなにもないから、現状は難癖でしかないけどな。仮に王朝が変わっていたとしても、今の統治が上手くいってるなら特に問題もないし。ただ……エドナイルではそれが問題になるかもしれないんだよな」


「そっか、そういえばミュシャちゃん言ってたもんね。王様はレーラ神に魚をあげる人だって。そしてそのレーラ神は王との契約によって、エドナイルに恩恵を与えている。もし王家の血筋が絶えて、ちゃんと儀式ができなかったら、エドナイルはレーラ神に見捨てられて、恩寵を受けられなくなるかもしれない……」




「──止まれ! お前がジャンダルーム・アルピウスだな? お前達を連行する」



 えっ? 急に、なんだ? いつの間にか囲まれてる? 見た感じエドナイルの兵士達か……?



「え? まぁ、はい。俺がジャンダルーム・アルピウスだけど……連行ってどういう」



 ディアの方を見る。ディアはケロっとている、兵士など何の問題にもならないって感じの表情だ。この感じだと、ディアは兵士に囲まれてること、もっと前から気づいてそうだ。



「お兄ちゃん、どうするの?」



 ディアが手を握りしめる。するとバチバチという音と共に、白い光がディアの腕の周りに発生した。よく観察してみると、この光は砂埃がディアの身体から出ているエネルギーで爆ぜて光っているようだった。


え? もしかしてディアは殺る気満々なのか……? だって、このバチバチ、当たったら簡単に人が死ぬような気が……俺の返答によっては、兵士が砂埃と同じ運命を辿るということ……?



「お、落ち着けよディア。そういうのは本当にいざという時でいい。連行されてからでも遅くないさ」


「まぁお兄ちゃんがそう言うなら。でも、お兄ちゃんが危なくなったら、わたしはお兄ちゃんが止めても、言う事聞かないからね」



 ディアのバチバチが止まる。俺とディアは大人しく兵士達に連行されることとなった。連行されながら、兵士達の顔を兜の隙間から見ることができた。兵士たちは誰も俺を見ていない。ディアのことを見ている。汗を掻いて、呼吸も乱れている。


怖いよなぁ、あんなバチバチ見せられたら。分かる分かる。





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