私の仕事
平和で静かな街にうっすらと日が差し込んできた。
住民がぐっすりと眠りについている中、
年老いた私の体に鞭を打って身支度を済ませ
仕事場へ向かう。
家から仕事場への道のり、
人っ子一人いない何とも言えない静けさが
私は好きだ。
しかし、そんな静けさも目的地に近づくにつれ
雰囲気が一変する。
街から少し離れた広大な敷地へ赴くと
本来であれば聞くことのできない不気味な
声が私の耳に入ってくる。
「グルォォォォォ...」
「ヒュリュゥゥゥゥゥ...」
朝飯を早くよこせと言わんばかりに
喉を震わせている。
大自然の中でこの声を聞いたら
間違いなく死を覚悟するだろう。
なんてったって、その声の主は
”魔獣”
だからだ。
普通の動物と見た目は似ているが、
彼らには明確に動物とは違う見た目が存在する。
禍々しく光っている魔力の蓄積機関、”角”の存在だ。
この世界の万物には、多かれ少なかれ魔力が宿っている。
そんな魔力を、食料を通して魔獣は角に蓄える。
そして、蓄えた魔力をエネルギー源として生きている。
野生の彼らは、
魔力を求め普通の動物たちと同じように
狩りをして、厳しい自然環境を生き抜いているんだ。
でも、ここは大自然じゃない。
街でこんな声が轟く場所なんて一つしかない。
もうお気づきだろう、
私は今、魔獣を展示している”魔獣園”に向かっている。
そして私はそんな魔獣たちの世話をする”飼育員”である。
ここは、魔法都市ヴォナバルトが運営する魔獣園”メナジェル”である。
魔獣を研究する傍ら、一般のお客様への教育機関として一般開放されている。
そんな魔獣たちの世話を、開園当初から私は行っている。
「おはようアルバス爺さん、今日も早いね」
「おつかれゼローダ、夜の飼育も慣れてきたかい?」
「まだ体力的にはしんどいですが、なんとか先輩たちについて行けてます!」
私がメナジェルに到着して業務の準備をしていると、
夜勤からの引継ぎでいつも私に声をかけてくれる。
少し小柄なこの女性は、
半年ほど前に最近夜勤飼育員として採用された。
男でもキツイ仕事なのに、本当に頑張っている。
「何か問題はなかったかな?」
「それが、ギボンテスラの給仕用おもちゃが壊れてて...」
「そうか、あいつら遊んでいる内に壊したんだな。
サルみたいな見た目をしているから、器用なんだよ...。
後で直しておくよ、報告ありがとう。」
ギボンテスラは、サルに似た魔獣だ。
木の中の昆虫を指を使って器用に摘み出して食べている。
ホースを編み込んで作るこのおもちゃは、
餌を編み込んだ隙間に入れることができる。
その餌を摘まんで食べる仕草をお客さんに見てもらえるよう
工夫をしている。
「最近はホントに色んな飼育方法が作られてますよね!
私も見てて楽しくなっちゃいます!」
「そうだね、でもほんの50年くらい前まではこんなんじゃなかったんだ」
「え、そうなんですか?てっきり昔から魔獣に寄り添った飼育をしているのかと...」
「いやいや、昔は本当にひどかったんだよ。
今日は疲れているだろう、この話はまた今度にしようか」
私はそう言って、ゼローダとの話を半ば強引に切り上げ
彼女を帰宅させた。
本当に昔は、それこそ魔獣を生き物として扱わないくらい
酷い扱い方をしていたものだ。
まるで、人間が”悪魔”に見えるほどに...
さあ、こんな暗い話はこれで終わりだ。
今日も魔獣達の為にせっせと働こうではないか。
かつて私が彼らに犯した罪を償うために。