表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豊玉不二絵  作者: 門松一里
第1章 播磨のめっかい
9/13

9.播磨のめっかい(9)

9.播磨はりまのめっかい(9)


 芦屋道満あしやのみちみつ心得二番こころえのふたつぎさくは、渡辺藤わたなべふじあやまちにより瓦解がかいしてしまった。


 播磨はりまのめっかいは妖怪ようかい狒狒ひひの二つ――二ツ目(ふたつめ)四ツ足(よつあし)を仕留めたが、忘八ぼうはちという名の化け物は燃えた身を捨て、首一つでめっかいの胴を得て逃げてしまった。


 残るのは三郎と血海にある渡辺だけだった。


 かすかに渡辺の息があった。のどの血を押さえる。


「しっかりしろ!」


 目は開かない。


「助けろ。そこにいるんだろう? 二番にばん


 まったく気配がない。


 三郎が切った脇に傷はない。


 勢いよく燃える水を出すための仕掛しかけだ。壊れて動く。


「助けなければ、忘八改アレではなく手前テメエを先にるがイイか? 偽物ニセモンが」


「ふう……」


 草叢くさむらの奥から溜息が一つ。


「いるじゃあねえか」


「捨ておけい。天命じゃて」


 姿なく声だけが響いた。


「オレは、助けろと言った」


「死すべきときに死なねば生きぬぞえ」


手前テメエさくあやまちをおんなせきにするな。……一言いちげんあればイイだけだろうに」


 怪異かいいの女の声色こわいろ使いは常套じょうとうである。上田秋成うえだあきなりの『雨月物語うげつものがたり』の一つ「吉備津のきびつのかま」を知らぬ渡辺でもあるまいが、一言いちげんあるなしは生死に関わる。


意趣返いしゅがえしか? 品のねえことをしやがる。――ね」


 上方かみがたみ言葉だ。これこそ品がない。


 とはいえ、助けもせず物見ものみなど許せぬことであった。


 何処どこともなく気配が消えた。


 三郎がふところから気付薬きつけぐすりを取り出した。


「ぐはっ」


 のどにあった血溜ちだまりが取れたらしい。


 狒狒ひひの毒やも知れぬ。


かまうものか)


 三郎が渡辺藤わたなべふじ接吻せっぷんして、残りを吸いあげた。


 小さな緑の塊を吐いた。ひるのように動くがそれではない。


 渡辺がき込んだ。


 背中をさすってやる。


(さて薬にするか)


 薬屋が考えそうなことだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ