5.播磨のめっかい(5)
5.播磨のめっかい(5)
鎮守の森の一の鳥居の藁座にもたれた三郎の質問に、息を切らした渡辺は答えられなかった。
「播磨の……めっかい?」
播磨は分かる。播州は播磨国だ。
(めっかい?)
どうにも「めっかい」が分からない。
「貝の一つとか?」
「そんなものを化物が恐れるとは思えない」
「恐れる? 化け物?」
三郎が説明した。
「つまりは、その播磨のめっかいに頼めばよいと?」
二人は、およそ「めっかい」と呼ばれる人なのだろうと推論づけた。道具や機械といった物の類いではあるまい。
とはいえ、そうした御仁に心当たりはなかった。
「他に名が知られているとなると、播磨の陰陽師――芦屋道満かしら」
渡辺が助言した。
「いつの時代だ。莫迦らしい」
「三郎。芦屋道満は名跡なの」
たとえば、『東海道四谷怪談』を書いた鶴屋南北は四代目である。
「はあ?」
「つまり、芦屋道満は何人もいる。何代目かは知らないけれど、今日芦屋道満を名乗る者がいる」
「――だとしても間に合わない。江戸から上方まで飛脚で三日。会津から播磨まで、いったい何里あると思っているんだ? 四日五日で知らせを聞いたしとしても三日二日しか残されていない。陰陽師がどれほどのものかは知らないが、それでこの会津の山の中まで来られるとは考えられない。……役小角でもあるまいし」
修験道の祖である呪術者だ。伝説だ。
「芦屋道満はいなくとも、津津浦浦弟子はいる」
飛脚なら知っているやも知れぬと言いたいのだろう。
「そんな都合よく――」
「――実は知り合い」
見上げると、鳥居の笠木に鷹がいた。
渡辺が懐から光る何かを出して空に投げた。鷹がそれを飲み込むと南の空に消えた。