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①大京の物語 想像の詩人

この短編はこの長編のある種のイントロダクション スピンオフのドラマです まぁ ある意味 肩ひじをはらずに 気楽に読み飛ばせる作品ですが 他の短編へと ありとあらゆる伏線を張り巡らしています その意味では この短編を お楽しみいただけない方は 他の短編は もっとつまらなく 面白味のない 下らない 退屈なストーリー となってしまいます どうか この作品が皆様の興味を引きますように

①大京の物語 想像の詩人

山下あやか いつもあざやかあざやかあやか あやかはまだいい 自分ときたら最初のうちは爆笑苦笑で迎えられていたけど最近はあからさまな冷笑嘲笑を浴びせられるようになりいくら伝統とはいえ、苦しい。差配人に一生懸命に訴えかけたら、やっと見直しを検討してくれる事になった。昔、女子歌劇団として出発した当劇団も人気低迷ほか様々な事情により一旦解散となり、劇団員を姉妹劇団に分散させた後、あらたに男子歌劇団として再募集をかけ再建を図っていく事となったのだが、その際に女子名跡のキャッチフレーズを継承していく事となり、様々な悲喜劇が誕生したのだ。おまけに芸名さえも引き継ぎ、あるいは連想させやすい名を戴く形を採ったので尚更だった。ゆきちゃん!♡いきなり細こい生き物が飛びついてきた。きーちゃん!?井上雲母きららだった。もちろん♂だが人懐っこいのが良くもあり悪くもあり、嫌いではないが、ちょっと苦手なタイプだった。何かというとちょっかいを出してくるのだ。自分は暇さえあれば一人でダンスでも踊っているのが好きなのだが。あやかはと見ると入念に柔軟体操ストレッチをしている。トレーナーと一緒の時もあれば、差配人と何やら深刻な顔で相談しながらの時もあり、今は山田先輩と話をしていた。先輩と呼ぶのは同期でも飛び抜けて年上で最年長だったからだ。あやかの秘密を他言無用だぞ。と言いつつ打ち明けてくれたのも先輩だった。なんでも、あやかはクラシックバレエ界の若手のホープだったのだがアキレス腱断裂の重傷を負い泣く泣くバレエを断念。荒れた生活をしていたところを差配人に拾われたのだという。今でも無理は禁物で差配人とひそひそ声で話をした後たまに体調不良を理由にあやかの休演が発表されたりするのは、昔負った傷のせいだという。他にも劇団員は皆何かと秘密を抱えており色々と気を遣うのだという。最年長というだけでキャプテンに選ばれたわけではなさそうだ。そういえば普段はコテコテの難波弁なのに大江戸からどこぞのお偉いさんが見えはった時に流暢な坂東弁を披露したのには皆が驚いていた。昔、家庭の事情で坂東に住んでた時があったそうだ。なーる。自分はと言えば母一人子一人の母子家庭で歌が好きで風呂場で良く鼻歌を歌っていたら差配人がどこからとなく話を聞きつけて来たらしくスカウトされたのだった。本名は別にあるのだが劇団員は皆オーディション前デビュー前から芸名を付けられており、本人が言わないかぎり知る術は無かった。幸い自分は本名をよしのりと呼ぶので最近は劇団員によしくんと呼ばせており、お客様にもそれとなく知れ渡るようになってきた。おい、きらら。花嫁役の補習は完璧に済ませたか?あやかの声が飛んできた。うん。きーちゃんが返事をする。細こいきーちゃんに充てられた役だった。いやいやながらもそつなくこなしていた。最初のころなんて角隠しの事を金隠しと呼んでしまい、ちょうど舶来品の黒い炭酸飲料を飲んでいたあやかを盛大に噴き上げさせてしまったことだった。すぐ近くでダンスのレッスンをしていた自分は横目で汚ねえなぁと思いながらさりげなさを装ったものだった。きーちゃんあのね。自分はどう説明したらいいもんだか悩んだものだ。無理もないか。今は昔と違いN.A.E.スタイルが普及しているので、やまとスタイルはよほど田舎か貧乏暮らしの人間でないと見る事もなくなっている。たどたどしくも説明してあげるときーちゃんはみるみるうちに真っ赤っかに染まってしまった。おう、愛してるぜヨシくん。あやかがサラッと言いながら近づいてきた。自分は慌ててきーちゃんを振り切って、さりげなーくダンスの振り付けの練習に入ったかのように見せかける。冗談だか本気だか時々あやかのどんぐり眼に妖しげな光がさすことがあり、最近はなるたけあやかとは距離を置くように努めていた。うん。ボクもゆきちゃんのことを愛しているョ。きーちゃんがニコニコ笑いながらタイミング悪くとんでもないことを言い出した。えい、やめい、気色悪いのはあやかだけでたくさんだぁい。こころの中で叫んでいた。そういえばきーちゃんは皆にはナイショだよ。人差し指でナイショ内緒のポーズをとって、本名は恵むと書いてケイというんだ。一歩間違うとゲイになっちゃうね。ニコニコと笑いながら打ち明けてくれたものだった。ご覧のとおり自分はあやかが苦手だった。初めのころは立ち位置を間違えることがよくありあやかをイラ立たせていたが、ついにあやかを舞台の上でキレさせてしまい、この固太りがっと耳打ちされたのだった。あまりのことに自分は舞台で棒立ちになってしまった。ああぁ、あんちゃん言わんでもいいことを。おいヨシくんの動きが完全に止まっちまったぞ。どうすんだ、これ。劇団員からも嘆きの声が聞こえる。自分はただあやかのセリフがこだまのように響き、立っているのがやっとだった。舞台がはけたあと、あやかと二人山田先輩からこんこんとお説教を垂れられた。セリフを間違えようが立ち位置を間違えようが最後までやり抜くということが大事だ。間違えたったら舞台がはけたあとで、よくよく反省会でもすればいいことやなんたらかんたら。その後は緊張を孕みながらも何とかかんとか舞台をつとめてきたわけだが先月ついに2チーム制が発表され、あやかは新チームのキャプテンとして移動になり、自分は元のチームのまま止め置かれる事となった。正直ほっとしていた。新チーム発足のあとで舞台裏で真剣にダンスに打ち込むあやかの姿を見ていた自分はいつの間にか涙を流していた。美しい。あまりにも美しいダンスだった。とても敵わない。座り込んだまま涙を流している自分にいつの間にかきーちゃんが肩を抱いてそばにペタンと座って付き添ってくれていた。自分はいつまでたっても涙が途切れる事が無かった。つい先日までそんな塩梅だったのだ。このまんまではいけない。自分は二三日、いや三日四日時間をもらって旅に出ることにした。三宮の産で難波の劇団に所属するまで生まれてこのかたどこにも遠出をした事がなかった。差配人に話をすると何を言うのだコイツは?みたいな顔をしていたが幸いに山田先輩が加勢をしてくれた。可愛い子には旅をさせろですわ。ソロデビューも迫っている。ホントに新チームの初舞台までには戻って来いよ。あとあやかも地方営業で難波を留守にする。我が劇団の二大看板スターが不在になるんだ。なるたけ早めに帰るんだぞ。二大看板スターってあやかはともかく自分はそんなわけないやん。そう言いかけたが山田先輩が神妙な顔をしていたから黙っていた。


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