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不思議な女

 三歳になり、ハルクが木剣で剣の稽古をつけ始めた。


「いいか、お前たち。いざというとき頼れるのは自分の腕のみだ。だからこそ、剣の腕を上げて悪いことは無い」

 

 言い分はもっともだが、三歳に教えることではないだろう。実際、俺たちは剣の重さでいっぱいいっぱいだ。稽古とは名ばかりの遊びを三十分ほど続けると、


「ご飯だぞ~。」母親とは違う声で呼ばれた。


 振り返ると、この家の五人目の住人の不思議な女だった。はらりと垂れる長い赤髪に、ルビーのように鮮やかな瞳、体はスラッとしていて、おしりが大きな安産型だ。


「はーい」とフェルスと返事をし、勝手口に向かう途中、


「なぁ、ルーク。あの人って誰なんだろうな?」


「そういえば、全然気にしてなかったけど、誰なんだろうね?」


「調べてみるか」


 久々にいたずら心のある笑顔を見せて尋ねてくる。

答えはもちろん決まっている。


「うん」



 朝の稽古後の食事をガーッと掻き込み、ごちそうさまと声を揃え、フェルスと足早に部屋へと戻る。


「いいかルーク、この調査はバレたら駄目だ。足音や顔の出しすぎには注意するんだぞ」


「分かってるよ、兄さん。兄さんも気をつけてね」


「大丈夫だ。僕がお前よりもヒドイへまをすることは無い」


 カチンとくる言い草だが、事実だからしょうがない。実際、俺がフェルスに勝ってる部分などほとんど無いだろう。強いて挙げるなら、俺の方が人生の遊び方を知っているぐらいだ。


 部屋を出て階段の中腹まで下り、食事をとっているだろうリビングからあの女が出てくるのを待つ。

 

 三十分後、父親が出てきた。鼻歌を歌いながら自室へと戻っていく。


 一時間後、母親が出てきた。食器を洗い終わったのだろう、少し汚れている大きめの布で手を拭いている。


 二時間、三時間と待つが、一向に出てくる気配は無い。気になったので階段を下り、リビングの扉を少し開く。


「いない」二人で顔を見合せ中へと入る。隅から隅まで探すも見つからない。部屋に入ってきたエルスに聞くと、

「シーファなら買い物に行ってるわ」


 なるほど、彼女の名前はシーファと言うらしい。新たな情報を一つ得て、今日は終わった。


 目を覚まし、いつも通り朝の稽古を終えた後、朝ごはんへと向かう。


 今日の俺たちには作戦がある。フェルスと交代でシーファの近くにいて、常に目を離さないでおく。名付けて、【どこまでも逃がさない、徹底ストーカー作戦】名付け親はフェルスということにしておこう。

 

 まずは俺からだ。朝ごはんを食べたシーファが自室に戻っていくのを本を読みながらついていく。


 部屋に入って数分で出てきた。手には本が一冊。小説だろうか?


 玄関から外に出たシーファは、庭にある大木の日陰の中で読書を始めた。髪を耳に掛ける仕草や本の内容に笑う姿はとても絵になる。


 フェルスよ、すまんな。今は俺の時間だ。と至福の時を堪能し、予定より三十分遅くフェルスと交代する。


「たくっ、何やってたんだ?」

 

 ルークから聞いた情報では、シーファは今、部屋に籠っているらしい。

 

 廊下からは状況が分からないので、屋根裏から空けた穴で覗く。


「ん!!」


 思わず声が出た。裸で酒を飲んでいるではないか。


 「大人の女性は寒くないのかな?」僕は服を着てご飯を食べるが、大人になったら服を脱ぐのだろうか?


 結局、ルークとの交代の時間まで酔っ払って歌ったり、踊ったり良く分からないことばっかりシーファはしていた。


「どうだった?」


 ルークが報告を聞いてきたので、


「裸で酒飲んで、遊んでた」


 そう言うと、


「まじか!?見たのか!?なぁ、見たのか!?」


 魔法を覚えるときよりも必死な形相で迫ってくる。

そんなに見たかったのだろうか?いつもお風呂で母様の裸を見ているのに。


「くそっ、次は俺の番だな。絶対裸見てやる!!」


「まぁ、頑張れ」


 適当に言葉を返す。ルークを見送った後、暇になったので本を読む。


 あいつは攻撃魔法ばかり覚えたがるが、僕は生活で使える魔法や治癒魔法の方が興味があるのでそっち方面の教本だ。


 書き込みで読みにくくなったページをめくり、また気づいたことを書き込む。


 それを繰り返していると、扉がノックされた。


「どうぞ」本から眼を離さずに答え、扉が開く音を聞く。


「兄さん、ごめん」


 ルークの声に振り返ると、シーファに首根っこ掴まれたルークが両手を合わせ謝ってくる。


「あなたたち、なにが目的?」優しい口調で聞いてくるので、ごまかさず正直に答える。


「シーファさんが何者なのかを知りたいんです」


 シーファさんはハッハッハと笑いながら、


「そうか、そうか。エルスたちから聞いてないのか。

私はエルスの姉だよ」


「お姉ちゃん!?だって、髪の色が違うよ!!」


「私とエルスは腹違いだからな。複雑なんだよ」


 シーファさんが何者なのか知ることは出来た。


 すでに手から離れているルークとおでこを合わせて笑う。 


 二人で行動して成功したらする儀式。どちらからでも無く自然とするようになっていた。


 疑問が解けたので、一つ気になっていたことをシーファさんに伝えた。


「シーファさんはお姉さんなのに母様より胸が小さいのですね」

 

 ぶっ飛ばされた。どうやら大人の女性に胸の話は禁句らしい。


 その日の夜、日々頭が良くなる幸せを噛みしめ床に入る。


 明日もルークをからかおう。そう考え、そっと眼を閉じた。

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