④
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
そして冒頭に戻るんだが……
あの時うっかり「婚約してないです」を言い忘れたらしい。
陛下と父は気づかず、城の謁見の場で思わず素の対応になる。
「お前何言ってんだ?婚約破棄というのは、婚約していないと出来ないんだぞ?」
「そうです。側近らも知っているでしょう。ギライヤと殿下は婚約していません。」
言われた殿下は目を見開いて、茫然としていた。
もちろん側近達も驚愕している。
やはり言い忘れているらしい。
そんな彼らを見て、陛下と父は目に一瞬焦りがチラつく。
つまり気づいたのだ、言い損なった事実を……
しかしズルい大人はそんな素振りも見せず、平然とそのまま押し通すようだ。
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その風景を大勢の貴族達は、微妙な気持ちで見つめていた。
何でこんな馬鹿げた事に、時間を取られなければならないのか?
ただでさえ卒業パーティーの遣らかしで、後日またやり直しなのだ。
おかげでムダな予算、ムダな作業にムダな時間……
つまり残業三昧の日々が待っているのだ。
”許すまじ、ソルディオス殿下。ただでさえ忙しいこの時期に……”
どの貴族も領地の収支報告作成やら、決算報告書や何やらと忙しい。
それは卒業予定だった者達も同じ事で、卒業証書を貰えず大幅に予定を狂わされた。
卒業と共に城に出仕予定の者など、おかげで先行きが不透明になった。
”どうすんだよ。城の寮へそのまま入る予定が、卒業証書がないから入れない。一体どこに住めばいいんだ。新入生だってもうすぐ来るんだぞ?!”
つまりいろんな者達の恨みを買い、恨みがましい目で見られる殿下達。
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「父う「陛下……」陛下、婚約していないとはどういう事なのでしょう?」
目を彷徨わせながら、恐る恐る聞くソルディオス殿下。
その後ろにいる側近達は今にも失神しそうな程で、ヒロインちゃんは何やらブツブツと呟いている。
”一体何言ってんだ?”
そんな彼らを見ながら、ムダな3年間の学園生活を思い返す。
何だかんだとあちらこちらへ行っていた私。
幼少の頃からホント、せっせせっせと研究三昧の日々。
だけどまだまだ生物は奥深く、終わりがないのだ。
「まさに充実した素晴らしき人生♪」
人によってはどこが?!と言うだろうが、好きな事をしているんだ。
充実と言わずしてなんと言えばいい。
身体は幼児で頼りないが、それを補ってくれるセディがいる。
それ以外にも興味を持ち研究を手伝ってくれる人達もいるのだ。
「心ときめく薔薇色の人生。ビバ異世界転生♪」
ホント今世は、いろんな意味で充実していた。
だか通過儀礼というモノが存在した様だ。
「学園?誰が?」
「君が、ギライヤ嬢が4月から学園に3年間通うんだよ。」
「何のために?意味あるの?」
「普通なら勉強と社交の為というけど、君には休息の為かな。うちの国では学園に3年間通う事は義務だからね。」
「貴族を抜ければ、行かなくてもいいだろう?」
「却下だ。お前なあ仮にも公爵家の跡取りだぞ。」
陛下が呆れ返り顔で言うと、ご自分の肩をトントンと叩く。
少しお疲れ気味の様で首をコキコキと鳴らし、ダラ~ンっとソファーに深くもたれる。
「お前はその歳で働き過ぎだ。お前はチビッ子だ。ちゃんと飯食わないから発育が悪い。生物のどうのこうの言うなら、自分をちゃんと飼育しろ。ここにいる皆の総意だ!とにかく3年間しっかり休息という勉強をし、しっかりと睡眠と食事を取って成長しろ。わかったか!!」
「そうよ、ギラちゃん。やっぱりちょっとちっさいと思うのよ。」
セディも心配そうな顔で言っているし、
「みんな心配なんですよ。寝る子は育つです、ギライヤ様。」
「ギライヤ嬢が頑張ってくれるのはありがてぇーが、やっぱり成長は大切だ。」
皆に私の目を見て説得され、仕方なく学園に行く事になったのだ。
だからとりあえず、仮の婚約者殿に挨拶に向かえば…………
「まぁ成長といやぁ成長か?人族は元気だよな?万年発情期♪」
私が愉しそうにそう言って、陛下をニヤニヤと見る。
「お前は若いのに枯れている。それはそれでいろいろと問題だよな。」
遠い目をして陛下は、ため息をついた。
「わが公爵家の存亡の危機です。ギライヤ、身近な存続の危機も考えろよ。わが家はお前一人なのだから……」
そんな父に私は声援を送る事にする。もう一人子供を作ればいいのだ。
年齢的にもまだ大丈夫♪
「今からでも大丈夫だ。がんばれ♪」
「イヤ……日々のストレスで無理だ。」
「ギライヤ嬢…… お前次第だ。がんばれ。」
なんか回り回って自分に還って来たな。
つまり両親にストレスをかけるなという。
どうやら平穏平和で学園生活を送る様に頑張る事になりそうだ。
なので学園生活では公爵令嬢らしく、ホホホ…に擬態した。
立てば芍薬座れば牡丹だ。ビバ公爵令嬢♪
私なりに、見事な擬態を施している。
だがどういう訳か、変な女に絡まれる。何なんだろうな?
別にどうでもいいけど、周りの令嬢も不可解な顔をしている。
「あの男爵令嬢は、一体何がしたいんだ?」
「わかりません。ただ相手にするのも面倒ですわ。」
「確かに…… でも目障りですわね。」
皆とサロンへ向かっていると、私にぶつかる様に走って来る。
だから私は壁に避け立ち止まり、騎士がバリケードになる。
そしてその横で、彼女は自分勝手にコケるのだ。
私達はそのまま無視して、サロンへ向かった。
「ヒドイです。足を引っかけるなんて、私が何をしたと言うのですか?」
とか言って騒いでいるけど、誰に言ってんだろうな?
相手にするのも面倒なので、そのまま無視して私達はサロンへ向かった。
だって私達関係ない。行儀悪く廊下を走りコケたのだから。
私の横について盾になった騎士に聞く。
「単なる難癖でしょう。ちゃんと自分で怪我をしない様に、コケるフリしていましたよ。」
という事、だけど凄く怪しい。
「なんか嫌な予感するから、彼女の動向を監視してくれる?」
「了解しました。その様に指示を出します。」
「せっかくなら、この前完成した魔道具を試運転してみようか?」
「確かにちょうどいいですね。わかりました。直ぐ連絡します。」
「ウン、よろしくね。ハハ、なんか学園生活も楽しくなって来たな。」
「そうですね。ぬるま湯かと思えば、意外に刺激的な日々になりそうですね。」
廊下の角を曲がり、立ち止まって話し始めた私と騎士。
その間連れ合いの令嬢たちは、コケた女のその後を観察していた。
サロンにつけば、その後の状況を話してくれる。
ついでに騎士が持っている魔道具で、彼女が勝手にコケている映像を見せると……
「面倒な事になりそうですわね。彼女の周辺調査をする様に致しますわ。」
「そうですわね。騎士も一名ではなく2名体制にした方がいいでしょう。」
令嬢の彼女達も、ある意味私と同じワーカホリックな者達だった。
家門の関係で、幼少の頃から仕事をしている者達。
暗部所属のレイラ嬢と騎士団所属のカリナ嬢。
「出来れば魔術師を一人と、暗部で一人。女性がいいかと……」
騎士の者がそう答えると、
「暗部なら私がやりますわ。」
「魔術師ならちょうど教師がおります。それともメイドがいいでしょうか?」
「何だか厳戒態勢ね?」
そう言って私は目を細めて微笑んだ。
ホント…… ボへ~と過ごすのかと思えば、楽しい事になりそうだ。
もちろんそう思っているのは、私だけじゃなかった。
それから早急に体制を見直して、魔道具も試運転を開始する。
そして何故かセディが、女装姿で私の後ろにいる。
「私はメイドと言ったんだけど……」
「ウフフ、メイドよ。術もなかなかのもんでしょ?」
自分の美意識をとことんまで追求するセディ。
長年の研究結果を、今お披露目の真っ最中であった。
「スゴイです!目の色から髪の色まで、何より体型が変わっている!!」
「もしかして、細身でも術で筋肉マッチョになるの?!」
レイラ嬢とカリナ嬢は、その術の素晴らしさに感激していた。
護衛騎士でいつもそばにいるグラードは、スンとした顔をしていた。
いつもセディに振りまわされる彼は、いろいろと魔術耐性が身についている。
「どうやらグラードには効いてない様だね。」
「セディア様がメイド服を着て、気持ちが悪いだけです。」
不機嫌な顔でそう言って、ウゲッという様な仕草をした。
「という事は幻影を素に、構築されているのですか?」
「そうだよ。幻影なら姿形が自由自在で、複数を同時に騙せるからね。」
「でもグラード様には効きませんね。」
「ああ、グラードは私が嫌いだからね。だから幻影とは別の術が作用しないんだ。」
「なるほど……多重陣ですね。という事は無理ですわ。魔力が足りません。」
「単純に変装が楽だと思うよ。経費もかからない。」
「ですわね。お金は余りかけれませんわ。」
そう言って話は終わったけれど、セディはそのままメイドとして逗留する。
その間彼女はメイドとして、しっかりいろいろと仕事をやってのけるのだ。
それにセディは瞬間移動が出来る為、惑明の仕事もしっかり熟すやり手だ。
オネェだけど、仕事はすこぶる出来る人なのである。
「彼女を調査したら、不可思議な事がいくつかありました。」
彼女は辺境出身で道に倒れた貴族を助け、そのまま養女になった。
そして今現在、その貴族の養女として学園に通っている。
「よく学園に入れましたね?」
「なんでも教会の推薦らしいです。彼女は辺境の教会では聖女扱いのようです。」
といっても治癒魔法があるとかではなく、ただ周りを明るい雰囲気にするのだとか。
「それでなぜ聖女扱いになるんだ?」
「飢饉があった時、暴動が起こらなかったそうです。彼女が歌い踊ったりして場を和ませたからだとか、おかげで前向きになれたと、皆が感謝しているそうです。」
「ですが同時に飢饉で皆がガリガリな時でも、彼女だけはなぜかふっくらしていたそうです。なので不審に思った者達も一部ではいました。」
その一部の者達は現在、村に居づらくなり村を離れて行ったらしい。
なんかいろいろときな臭いヤツだな……
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)
次回は6時になります。