絶世(具体的にはAPP18)の美少女
※この作品は作品であり、架空のものです。 現実に関係していませんので、混同はなさらないようお気を付けください。
地方新聞の片隅に小さく載った、地方都市の怪事件の記事より。
とある地方都市では、怪事件が頻発していた。
明るい内に姿が消え、その日の出ている間に発見されて通報される者は皆、おかしくなっている。
明るい間に姿を消したその日の内でも、日が沈んでしまって以降も見つからなかった者は皆2度とその姿を見ない。
日中に通報された者は「そりゃ通報されるのならおかしくなってるだろ」と思うだろうが、そんなおかしくなり方ではないのだ。
具体的に変な部分……しかもおかしくなった者達の共通点を挙げれば、誰もが理解する。
捜査の結果、通報される者達を見たとされる現在確認できる最後の証言者達はそろって「あんな行動をする人に見えなかった」と。
揃いも揃って、そう語る。
実際に家宅捜索でも、そんな兆候を伺える状況証拠すら出てこない。
なのに、なぜか突然狂ったかの様におかしくなる。
曰く、突然叫び出し、吐血し始めても構わずにずっと叫び続けていた。
曰く、どんな人間でも近くにくると異常に怖がる。
曰く、どんなのでも文字を見るだけで怯えて、最終的には「もう文字をみたくない」からと目を自力で抉りとった。
曰く、衣服は生き物の遺骸の塊だから死者への冒涜だといきなり怒り始め、自分も服を着ていることに気付き脱ぎ捨てた。
曰く、この世の支配権を古き支配者へ返すべきだと演説を急に行い、呪文らしき謎の文言を叫び出した。
他にもあるが軒並み“発狂”と言う2文字が思い浮かぶような、そんな豹変ぶりであると言う。
夜間は言うまでもなく、突然失踪するような理由すら無いだろう者達が、急に失踪している。
共通点は無い。
……いや。 強いて言えば、他人へ声をかけるだけで事案と通報されかねないこのご時世でも、困っていそうな人へ声をかけてしまうような、そんな人物の失踪が極めて多い印象である。
だがそれ位で、やはりそんな人達が他者の迷惑になるような失踪を、自発的にするとは考えにくい。
では、誰か犯人がいるのか?
と問われても、分からない。 と返すしかないのが現状。
証拠が1つも無いからだ。
そして、その怪事件に関係あるかどうか分からないが、与太話のひとつとして、こんなのがある。
おかしくなった者や失踪者達を追える最後の目撃証言が出た近辺で、服装に統一性は無いが、絶世と呼んで間違いない美しい少女がいた話だ。
例えようもなく、ひと目見た瞬間に美しいと思ってしまう、まさにこの世の者とは思えない美貌を持った少女だったと。
いずれの証言でも、その美少女は共通してなにか困った事態になっているようで、慌てていたり、焦っていたり、何かを探していたり、蓋が空いていて立入禁止のマンホールの奥底を覗きこもうとしていたり。
困っている様子を見てしまった瞬間に思わず声をかけて、手助けしてあげたい衝動にかられる美しさだとか。
だが証言者達は、声をかけた瞬間に不審者として通報される事態を恐れて、衝動をなんとか抑え込み見て見ぬフリをしたと言い訳していた。
証言者の極一部に「アレはAPPが18は有りそうだ」と体を恐怖で震わせながら意味不明の事を言う者がいたとか。
その極一部はどうでもいいとして、とにかく警察関係者はこの絶世の美少女から何か情報が得られないかと、消息を追っている。
が、その消息を追っているはずの警察官も、少なくない割合で失踪者リストに追加で載せられてしまうらしい。
我が新聞社はこの事件の情報を求めています。
頂いた情報は警察機関との協力に使用し、事件解決の手助けになればいいと思う所です。
読者の皆様、些細なことでも良いのでどうか、ご情報をお寄せ下さるようお願い致します。
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下記、重大なネタバレ注意
APP18の美少女
APP18の単語だけで、クトゥルフTRPG界隈は正体に思い至る。
そう、正体はニャル様。
APP
みりょく とルビで書いたが、実際には見た目の美貌だけでなく、所持する資金・資産・地位・コミュニケーション能力・コネクション等等。
様々な要因でお近付きになりたいと思う影響力を言うらしい。
その分かりやすいモノとして、美貌が筆頭になる。 ただそれだけ。
ニャル様
顔のない怪物。 数え切れない姿を持ち、それぞれに自我があり、しかし全てがニャル様である。
それぞれがニャル様であり、それぞれが分身であり、それぞれが本体でもある。
年齢性別国籍人種関係無く、それぞれにニャル様は多数おり、それぞれ生活している。
もちろん人類以外にも、犬・猫・鳥・虫等ありとあらゆる動物にもニャル様は存在し、果ては本など非生物のニャル様も存在している。
もはや何でもアリな能力を持ち、あらゆる事が可能。
探索者の前に現れるニャル様は大抵がAPP18の姿だが、それの所為でベテラン探索者達に見抜かれてしまうので、最近は様々なAPPのニャル様が登場している。
ニャル様は“自分が”楽しければ何でもいい性格で、楽しむ為ならば自身の命さえ軽々しく消費する。
消費はするが、数えきれないほどにニャル様は存在するので、その内の1体が消えたところでどうにもならない。
ニャル様に限らずこう言った人外の怪物(神話生物と呼称)は人間とは違った精神構造を持っており、人間を理解しようとする【心理学】では到底理解し得ない存在であることを、忘れてはいけない。
今回の怪事件
ニャル様の“いつもの”おふざけ。
無関係で何の罪も無い、困った様子の少女を助けようと声をかけた人々を謎空間に閉じ込め、命のかかったお遊びをふっかけている。
遊びをうまくクリア出来ればその日の始めに戻し夢だったと記憶を操作し、うまくクリアできなければ被害者となる。
日の出ている内におかしくなって発見された者は、中途半端なクリアをして、中途半端に戻された結果。
探索者
あわれにも、ニャル様を始めとした異形どもに関わってしまった普通の人達の総称。
メタ的にはクトゥルフTRPGプレイヤーの呼称のひとつ。
探索者本人は記憶を操作されて覚えていなくても、プレイヤー視点では覚えているので、APP18と聞いたらすぐにニャル様かと警戒してしまうらしい。
結局
APP18ってワードでひとつ話を書きたかっただけ。