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掌編「メシアの飯屋」

作者: ななふし
掲載日:2022/10/27

 「いらっしゃい!」


 のれんをくぐり、引き戸を開ける。


 白い前掛けと頭巾を被った店主が、気持ちの良い挨拶で出迎えた。


 軽快な油の跳ねる音、食材をかき混ぜ炒めるたびに広がる(かお)り。


 訪れた客の、空腹で縮んだ胃を心地よく刺激する。


 「大将、おつかれ〜」


 「おや、隊長殿。今日は2人ですか?」


 「そそ、こいつ俺の後輩。最近こっち来たからさ」


 「初めまして!先輩からここ凄く美味いって聞いて、楽しみにしてました!」


 「おいおい、あんまりハードル上げんなよー」


 「こりゃあ下手なもんは出せませんなぁ!」


 店主と軽く談笑をしつつ、甲冑を着込んだ男2人は席に着く。


 店の雰囲気は東洋の「食堂」と呼ばれる形を取っている。


 2人は低い壁を挟んで、店主に向かい合う席へ並んで座った。


 「川化けガニの焼き飯お待ち!」


 2人の男達とは別に、間を空けて隣に座る巨人に店主が料理を手渡す。


 大きなカニが添えられた、山盛りの色鮮やかな焼き飯。


 巨人はそれをかき込むように食べ始めた。


 「凄いっすね。ていうかあの人…」


 「南の守護番様だな。仕事の合間によく来てるよ」


 巨人が料理を食べる手を止める。


 一息入れた巨人は店主に向かって、古い言語を使い話し始めた。

 

 店主も時折笑いを挟みながら、(なご)やかな様子で対応する。


 「俺、守護番様が笑ってるの初めて見ましたよ」


 「だよなー」


 店主と一通り話し終えた巨人は食事へと戻る。


 そして店主が2人の男の前まで駆け足でやって来る。


 「すみません、つい話し込んでしまって」


 「大丈夫大丈夫、こいつ飲まず食わずで5日戦ったことあるから」


 「いや、こんなに美味そうな匂い嗅いでたら1時間も待てないっすよ」


 「はははっ。それじゃあ早速作るとしましょう。今日は何にしますか?」


 「東洋風ひき肉の包み焼きと、糸小麦のスープ漬け2人分、よろしく」


 「はい!少々お待ちを!」


 注文を受けた店主は、慣れた手つきで料理を作り始める。


 薄く伸ばした皮生地に肉団子を詰め、熱した鉄板の上で焼き上げる。


 次に細く切った小麦生地を、コトコトと音を立てて煮えている鍋の湯に入れてゆく。


 「ひゃー…初めて見る料理だ」


 「俺たちの国には無かったからな、こういうの」


 男達が魅入(みい)っていると、あっという間に料理が出来上がった。


 「お待ちどうさま!」


 店主から差し出された質素な皿と器。

 

 そこには、止めどなく溢れる(かお)りと熱を送り続ける、魅力的な料理がよそわれていた。


 男2人は息を飲み、スープに浸かった糸小麦を一口食べる。



 「「美 味 い ! ! ! !」」



 歯切れの良い細い生地に絡み合う、濃厚な旨味のスープ。

 

 続けて食べた肉詰め。


 口に入れた瞬間、熱々の肉汁が(せき)を切ったように溢れ出す。


 「やっぱりうんめぇなぁ!」


 「肉詰めもめちゃくちゃ美味いっすよ!」


 自然と笑みを(こぼ)しながら、どこが美味い、ここが良いと料理を食べながら話し合う2人。


 そんな彼らを見て、食事を終えた巨人が頃合いとばかりに手で合図を店主に送る。


 気づいた店主も静かに出入り口へと向かう。


 すると、新たに扉が開く。


 そしてまた、いつものように店主は元気よく挨拶をする。


 「いらっしゃい!」


 ここは天界に看板を(かか)げる「ヴァルハラ食堂」。


 役目を終えた救世主が(いとな)む、英雄達の(いこ)いの場。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 料理がとても美味しそうでした。 深夜に読んだので夜食を食べたくなりました(笑)
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