神様からのお願い
半年経つと、周りの人達も次第に少女の能力を理解していく
少女が生み出す食糧は無限
そして一気に創造することも、少しずつ創造することもできる
その食糧を輸送機や船で各国へと運んでいく
「冷凍したお魚の積荷終わったよ!」
「ありがとうございます!次はお米をお願いします!」
「うん!量は?」
「とりあえず1トンほどを、その後は小麦ととうもろこしをお願いします!」
「うん!分かった!ーージェネレイト」
「このままいっっぱい食べ物を作れば、きっとみんなを助けられる!もっとがんばんないと!!」
「………」
基地の中心でひたすら食糧を創造する少女を、長官の男は真剣な眼差しで見つめる
「長官、首相から電話です」
「あぁ...今行く」
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さらに数ヶ月後
少女がこの世に生まれてから1年が経った
「ラファエル様、お誕生日おめでとうございます!」
「誕生日?」
「ラファエル様が誕生してから今日でちょうど1年になります」
「そうなんだ、でも…」
「今日だけはおやすみください、ラファエル様のために盛大なパーティを用意しております!ぜひ!」
「うん、ありがとう
でもね、今も私のご飯を待ってる人がたくさんいるの
最近は結構美味しく作れるようになったんだよーー!」
少女は満面の笑みで、一瞬でりんごを創造し長官の男に差し出した
「これは!最初に頂いたりんごよりも大変美味しく出来ております!」
「やったーーー」
「我々もラファエル様には劣りますが、美味な料理をご用意しております!ぜひご賞味を!」
「うーん(食べないと失礼だよね、よし!)」
少し悩んだ後、少女は基地の職員と共に大広間へと向かった
盛大に行われた少女の生誕祭は1時間もしない内にお開きとなり、豪華な料理を堪能した少女はご機嫌にいつもの基地へワープした
「ありがとう!今日はすっごく楽しかったよ!
もう満腹〜〜〜!!大満足!!」
「はっ!(やはりこれでは時間稼ぎにならないか)」
「よし!私ももっと美味しいご飯を作るぞ!えぃ!」
「………」
長官は数日前から少女に伝えようとしていることがあった
だがそれは少女の思想とは食い違ってしまう
慎重に伝える必要があった
「えっ?供給量を少なくする?どうして!?」
「申し訳ございません、基地の在庫がいっぱいでして…
もうこれ以上は大丈夫なのです!」
「でもまだ困っている人が……」
少女が世界に生まれてから1年
人々は突然戻った大陸に驚きつつも、少しずつその土地を開拓し始めていた
それは決して容易なものではなく、もちろん食糧難が一番の課題だった
そのため、少女が始めた食糧の無限供給は最初は各国から喜ばれていたのだが……
「ラファエル様のおかげで多くの人々は救われました!」
「……それって全員??」
「いえ、、(全員助けるつもりなのか…)」
イギリスから無限に供給され続ける食糧、それはどう考えても一国で生み出せる量ではない
供給が始まった時期と世界が再生した時期も一致している
時間が経てば経つほど、各国からの不信感も強くなり、食糧を受け入れない国も出てくる、今も困っている人はたくさんいるのに……
「やっぱりみんなに直接届けた方が早いよ!」
「いえ!それはもう少し待ってください!
それよりもラファエル様、まず少し休まれては?」
「でも……(待っている間にも…)」
「長官!緊急事態です!!!!」
部下がそう叫んだ後、しばらくして遠くで爆音が鳴った
隣国が攻めてきたのだ…
「なぜだ!我々は食糧を支援しているだけだぞ!」
「向こうの言い分では、我々が悪魔に手を貸していると…」
「なっ!!ばか、ここで言うな!!
申し訳ございません、ラファエル様!無礼な人類をどうか!どうかお許しください!!」
「なんで…(間違っていたの…じゃぁどうしたら…)」
ドォォォォン
再び遠くで爆音がなり、空軍基地からも数機の戦闘機が出撃を始める
それは戦争の始まり、、、たくさんの人が死ぬ音、、、
「ううん、考えている場合じゃない!」
「ラファエル様!今すぐ地下に避難を!」
「大丈夫っ、ここは私にまかせて」
少女はゆっくりと歩き出し、そして空に手をかざす
「ラファエル様、何を!?」
その日、、
「……世界は今ここに確定する……
ーーー“コキュートス”ーーー」
全人類は不死身となった、、、
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世界を“現在”の状態で固定する大技
それを受けた全人類は銃弾を受けようとも、上空から落ちてこようとも、爆発を受けて建物の下敷きになろうとも、決して傷つくことはなく死ぬことはなくなった
人々が求め続けた永遠の命は、今世界中の人々を果てしない恐怖に陥れている
「……かいじょ」
「これで解かれたのですか?」
「うん、ごめんなさい」
「ラファエル様はとりあえず地下へ避難を!後は我々が!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…わたし……」
少女は涙を浮かべながら、そして人々を恐怖に陥れた罪悪感に打ちのめされながら地下へとワープした
「長官、、首相からお電話です、、」
「あぁ分かっている」
大人達は頭を抱えながら、、もう国民への説明からは逃れられないことを覚悟しながら、、会見へと向かった
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「この会見を見ている国民の皆さん…
いえ、全世界の皆さんにまずは謝罪致します」
イギリス首相が始めた会見に全世界が注目する
「この度の騒動の原因を話す前にまずは半年前、我々があの大災害の中心で見つけたものについてお話ししましょう」
首相は全世界に説明を始めた
半年前、ハリケーンの中心で黒い球体を見つけたこと
球体から赤ん坊が生まれてきたこと
赤ん坊は光を放ち、世界を元通りに戻したこと
イギリスに連れ帰った後、少女は食糧を創造し世界中の国々に支援し続けていたこと
、、、戦争を止めるために全人類を不死身にしたこと
最後に首相は一番の大きな声で続けた
「彼女は間違いなく神様です、彼女は人類の救世主です
以後食糧支援を希望する国には無償でご提供します!
我々人類は今日、この日をもって皆救われたのです!!」
そして会見は終わった
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地下の研究室
「シェリーさん……迷惑かけてごめんなさい……
わたし…みんなをたすけたかっただけなのに…」
「ラファエル様、、ラファエル様は悪くありませんよ!」
「でも…でも……!ぅぅ…(謝らなきゃ…)」
「会見が終わりましたね、これで直接世界中に食糧を送ることができます!よかったですね!」
「うん!落ち込んでる場合じゃないよね」
少女は涙をぬぐい、勇気を振り絞った
そして世界中に呼びかけた
「じゃあ私、トイレ行ってきますのでラファエル様は休んでいてください!もう1年も寝てないんですから」
「うん、行ってらっしゃい!」
それは彼女と世界との初めての通信
「よし!私もみんなと話さなきゃ!」
ーーー“テレパシー”ーーー
「人間の皆さん、まずはごめんなさい!
みんなを助けたくて、守りたくて、皆さんに迷惑をかけてしまいました……ほんとにごめんなさい!!
私の名前はラファエルと言います
皆さんを…人類を救うためにきました!
まずはご飯をたくさん作ります!美味しく作ります!
どうか食べてください、食べて元気になってください!!」
(おねがい……おねがい……)
「お願いします…私のお願いを聞いてください…
私に…みんなを助けさせてください!!」
(みんなの声が聞こえる………)
彼女のテレパシーは、お互いの思考の物理的な距離を無くすことで成立する
遮断もできるが、相手の声を聞くことも可能だ
(あくまめ……)
(きもちわるい…)
(このごはんもしかして…)
(うぇぇぇ……)
(こわい…こわいよ…おかあさん…)
(ちょくせつあたまのなかに…いややめて…)
(せかいをこわしておいて…)
(じゃあ…ままをかえしてよ…)
(まずい…これならしんだほうがましよ…)
少女の脳に絶え間なく流れる人類の悪意
中には少女の願いを聞くものもいるが、まだ一歳の子供にとって、悪意の方がよりはっきりと頭に伝わってくる……
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会見から一か月
イギリスは世界から孤立していた
少女からの供給も受けようとする国はほとんどいない
誰も少女の願いに応じることはなかった
だが少女が創造した土地は次第に大国によって割譲されていく
それも少女の功績だと認識しつつ、、人類は少しずつ復興していた
「ラファエル様の様子は」
「まだ寝込んでいます…ごめんなさい、私がそばにいれば…
まさかテレパシーも使えるだなんて」
「これはもう超常現象だ、、誰の責任でもないよ」
「でもかわいそうです!あの子まだ1歳なのに!」
あの日から少女は地下の研究室でひたすら眠り続けている
イギリス本土や、支援を必要としている少数の国々への食糧の供給は続いている
しかし人々は知らない……
少女はあれから一睡もしていないことに……
「ーージェネレイト!うん、これで大丈夫だね
よし、次の人は……わぁ、冷蔵庫の中空っぽ、これは誤魔化せないかな……でもだめ!私が諦めたらみんな死んじゃう!」
少女は世界中の1人1人の願いをリサーチし、その人の願いをその人に気付かれることなく叶え続けていた
そして世界中の難民キャンプや小さな村には国にバレないように供給を続けている
「次の人は……どうしよう!もう死んじゃいそう!
すごく痩せてる、、もう直接お腹の中に入れるしかない!
少しずつ…ゆっくり…元気にな〜れ!」
(わーい!今日もお肉だ!!)
(あれ?冷蔵庫の中身が全然減ってない
これならあと一週間生きていけるかも!!)
(やったーーゲーム機!お父さんありがとう!)
(これはきっと国からの支給だな、国に感謝だぜ)
(今日は新しいお洋服ね!………あとはあの悪魔がいなくなれば全部元通りなのに)
「これでいいんだ、、みんなが幸せになっていく
みんなが笑ってる、、私の作ったものを喜んでくれてる
よし!もっと頑張らなきゃ!もっと範囲を広げて、もっとたくさんの人を、、」
(あくま…)(でてけ…)(かえれ…)(きもちわるい…)
「う……」
(かぞくをかえせ…)(おまえさえうまれてこなければ…)
「いや、、なんで、、うぅぅ」
(……………)
「ないちゃだめ、ないちゃだめ」
(たs……)
「うぅぁぁ、ママ」
(まま…)
「ママ…たすけてっ…」
(まま…たすけてっ…)
テレパシーを通じて聞こえた嘆き
それは何億もの悪意の中に聞こえた小さな願い
それは少女が出会う初めての友達
初めての奇跡だった