表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生活保護区  作者: 蝸牛
1/3

1、終わってしまった、その後


本作品は、犯罪行為、薬物使用、暴力表現がありますが、行為を助長、推奨する意はございません。


犯罪行為だめ絶対!です。





朝日がカーテンの隙間から洩れていた。


重い身体を動かして、時計を見ると午前10時を回っており、ようやく自分が寝過ぎたことに気がつく。

ベッドから身体を起こし、右足から降りる。立てかけた姿見に映るぼさぼさ髪の痩せた女。私って、こんなだったっけ。



髪を直し、真っ黒な衣服に身を包んだ。

「あ」

ストッキングに、爪が引っかかり穴が空いた。

しばらく穴を見つめ、意図的に広げてみる。ピリピリ、という音と共に穴が大きくなり、私の血色の悪い脚が露になった。

何を馬鹿なことをしているんだろう、急がなければ。

新しい物を引き出しから引っ張り出して、さっさと履いた。

薄めの化粧だけ。

ファンデーション、あとは眉だけ整えればいい。それで良い…。




「合原さんですか?」

火葬場に移動するその時、声をかけられた。

「はい、そうですが」

「やっぱり、そうでしたか。すみません、兄がいつもお世話になってましたよね。」

茶髪を綺麗に団子状に後ろに纏めた可愛い女性が、肩を竦めた。

「……あの、そんなことはないですよ」

彼女の「兄である彼」を思い出して、言葉に詰まってしまった。

「いえいえ、お話は伺ってましたので。本当にすみません、こんな形で、兄が亡くなると思わなくて。」

彼女は目を伏せたが、パッと顔を上げた。

「あっ、私、香代と言います。」

「香代さん。お兄さんは…悪い人じゃ無かったですよ…」

「昔から…優しかったんです、兄は」

そうして香代さんは、「彼」の昔話をして笑った。目にはうっすらと涙が光っていた。


火葬が終わり、彼が出てくる。

あんなに背の高かったのに、骨になってしまうとこんなにも小さなものか。儚いものか。

すすり泣く声等は聞こえない。亡くなる前の彼を知っている人はほぼ居ない。

逆に、彼の死を泣くような人は、葬儀には来ていない…。

頭の整理が出来ないまま、葬儀は終わっていく。人が去っていく。

香代さんは、目が合うと静かに頭を下げ、私も頭を下げた。

トタ、トタ、とアスファルトに靴の音が寂しく響いた。




家に着いたのは午後2時。

やけに部屋が暗く感じる。部屋全体が、私を飲み込もうとしてるように錯覚した。

着替え始めて気がついた。また穴だ。ストッキングに、小さな穴。

指を突っ込んで、グッと力を込めたが、やめた。もう、無意味なことはやめよう、彼を思い出すのもやめよう…。

グレーの部屋着に着替えて、もう一度ベッドに入った。

彼と出会ったのは、大学の時だっけ…。

私は、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ