1、終わってしまった、その後
本作品は、犯罪行為、薬物使用、暴力表現がありますが、行為を助長、推奨する意はございません。
犯罪行為だめ絶対!です。
朝日がカーテンの隙間から洩れていた。
重い身体を動かして、時計を見ると午前10時を回っており、ようやく自分が寝過ぎたことに気がつく。
ベッドから身体を起こし、右足から降りる。立てかけた姿見に映るぼさぼさ髪の痩せた女。私って、こんなだったっけ。
髪を直し、真っ黒な衣服に身を包んだ。
「あ」
ストッキングに、爪が引っかかり穴が空いた。
しばらく穴を見つめ、意図的に広げてみる。ピリピリ、という音と共に穴が大きくなり、私の血色の悪い脚が露になった。
何を馬鹿なことをしているんだろう、急がなければ。
新しい物を引き出しから引っ張り出して、さっさと履いた。
薄めの化粧だけ。
ファンデーション、あとは眉だけ整えればいい。それで良い…。
「合原さんですか?」
火葬場に移動するその時、声をかけられた。
「はい、そうですが」
「やっぱり、そうでしたか。すみません、兄がいつもお世話になってましたよね。」
茶髪を綺麗に団子状に後ろに纏めた可愛い女性が、肩を竦めた。
「……あの、そんなことはないですよ」
彼女の「兄である彼」を思い出して、言葉に詰まってしまった。
「いえいえ、お話は伺ってましたので。本当にすみません、こんな形で、兄が亡くなると思わなくて。」
彼女は目を伏せたが、パッと顔を上げた。
「あっ、私、香代と言います。」
「香代さん。お兄さんは…悪い人じゃ無かったですよ…」
「昔から…優しかったんです、兄は」
そうして香代さんは、「彼」の昔話をして笑った。目にはうっすらと涙が光っていた。
火葬が終わり、彼が出てくる。
あんなに背の高かったのに、骨になってしまうとこんなにも小さなものか。儚いものか。
すすり泣く声等は聞こえない。亡くなる前の彼を知っている人はほぼ居ない。
逆に、彼の死を泣くような人は、葬儀には来ていない…。
頭の整理が出来ないまま、葬儀は終わっていく。人が去っていく。
香代さんは、目が合うと静かに頭を下げ、私も頭を下げた。
トタ、トタ、とアスファルトに靴の音が寂しく響いた。
家に着いたのは午後2時。
やけに部屋が暗く感じる。部屋全体が、私を飲み込もうとしてるように錯覚した。
着替え始めて気がついた。また穴だ。ストッキングに、小さな穴。
指を突っ込んで、グッと力を込めたが、やめた。もう、無意味なことはやめよう、彼を思い出すのもやめよう…。
グレーの部屋着に着替えて、もう一度ベッドに入った。
彼と出会ったのは、大学の時だっけ…。
私は、目を閉じた。