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戦国民の朝は早い。



「もう既に城を守る兵士と大工は出立しました、私達も急ぎましょう、晴幸様」

「そ、そうですねっ! でも出来ればもっと速度を落としてくれませんかぁっ!?」


 馬脚の振動で揺れる肩、背中には千代女さんの柔らかな感触と温もり。そう、俺は千代女さんの操る馬に乗り、築城予定地を目指して暗闇の中を駆けていた。


 所謂、女の子との二人乗り。

 普段の俺なら泣いて喜ぶ状況だが、そんな余裕も疾風と共に掻き消される。なんたってガタガタ揺れまくるロードバイクに乗ってる気分だからなっ!!


「何か言いましたか? 晴幸様??」

「す、少しだけ休憩しましょう! もしくは速度を落としてください!!」

「そうですね、少しだけ休憩しましょう」


 千代女さんが見事な手綱捌きでゆっくりと馬を止め、俺は崩れるように地面に落ちた。


「ぜぇ……ぜぇ……し、死ぬかと思った……」


 朧気とした視界で上空を見渡すと、寝る前に見た時と同様の星空が燦々(さんさん)と輝いていた。正確な時間は分からないが多分夜中の三時~四時くらいだと思われる。


 今、俺は無性に叫びたい、



『朝早すぎだろっっっっっつつつ!!!!!!』

 


 と。


「まだ鶏すら鳴いてないじゃないですか……もう少し寝させてくれても良かったのに!」


 戦国期、というより電灯が普及する前は日が落ちたら速攻で寝て、日が昇る遙か前に起床するのが普通だった。とか聞いたことあるけど、こんな深夜に館を出なくても良いだろ……。

 というか、兵士達は先に現地へ向かったって言ったけど、俺よりも早起きて出発したってのか? もはや早起きじゃなくて昼夜逆転してね?


「晴幸様が居なくては城造りが始まりませんよ? どんなに遅くても、晴幸様には日の出までに現地にいて貰わないと困ります」

「それもそうなんですけど……いかんせん寝てなもので」

「夜通し紙に何かを書いていましたね、それが不眠の原因なのでは?」

 

 千代女さんの仰る通りなんですが、そうなった原因は隣で愛らしい寝顔を晒してた貴女のせいなんですからね! お布団並べて一緒に寝てる相手が女の子ってだけでも心臓ばくばくなのに、あんな可愛い寝顔を向けられたらオッサンの理性崩壊まった無しですよっ!!


 てな訳で、身に宿る獣を抑えるべく高校以来の習字に没頭しておりました。


「まさか……晴幸様?」


 なに? その全部を悟ってしまったかのようなジト目は……? べ、別に俺はわるくねぇ! 悪いのは俺の中に潜む野獣であり、俺は必死でその野獣と格闘してたんだからむしろ褒められるべきだ!!


「まさか、城の縄張り図を徹夜してまで書いていたんですか? 初仕事だからと気を張って、作業に支障が出たなら本末転倒ですよ」


 あぁ、なんだ俺を気遣ってくれたのか。ほんと、千代女さんマジ女神、愛してます、抱いてください。


「因みになんですけど、後どれくらいで着くんですかね?」


 単純な疑問。

 かれこれ一時間近く馬を走らせてるが、辺り一面真っ暗闇で目的地に近付いてる気配がまったくしない。あとどれくらいで着くのかくらい教えてほしいんだけども……。


「そうですね、少しお待ちください」

 

 そういうと、千代女さんは道端の石碑に眼を凝らし、書かれている文字を読み取った。その石碑、さっきも通りすがりに同じような石を見た気がするが……?

 

「この石碑は現在地を示す物です、我が武田領には同じような石が至るところに設置してありますから、道に迷ったら探してみてください」


 俺の考えてた事をズバリ言い当てるだと……っ!? さ、流石くのいち、見た目によらず侮れんな。


「どうやら、ここは松風村近くのようですね」

「えーと、どれぐらいで着きそうですか?」

「安心してください、賊やら獣が現れない限り、もう少し馬を走らせれば築城場所の『千龍(せんたつ)山』に着きますよ」


 なんだ、千代女さんの物言い的に別段遠い場所でも無さそうだ。

 よーし! ならばさっさとそのセンタツ山? に着いて二度寝してやろう。


「んじゃ、そろそろ行こうか、千代女さん!」

「もう、出立なさるのですか?」

「あぁ! 俺達には時間もないし、早く着いた分だけ作業も進むからな!」

「ふふ、遂にやる気を出してくださいましたか。それでこそ、我が主です」


 颯爽と馬に乗せてもらう。心なしか、さっきより恐怖感は無い。


「よぉおおし待ってろ! ……えと、なんて名前だっけ?」

千龍(せんたつ)山ですよ、晴幸様」

「おーけー! 待ってろぉお!! センタツやまぁあ!!!」


 俺達は一陣の風となって闇を切り裂き、千龍山への道程を突き進んでいった。


 ちなみに後から知ったことだが、ここから千龍山まで約10里(40km)近くあり、俺達が現場に到着したのは休憩終了から約二時間後であった。


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